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タグ : メンタルヘルス , メンタル不調・精神疾患解説 , 籔(公認心理師・臨床心理士)
2022年10月14日
最終更新日 2023年2月28日
目次
皆さんが緊張する場面ってどんな時でしょう?発表会、試験、会社のプレゼン、苦手な人と話すとき、高い所、危ないところ、お化け屋敷、ホラー映画でビックリ場面が来る前…。これは筆者が緊張しやすい場面ですが、人によって、緊張する場面、心配になる場面はそれぞれです。また、緊張したときの反応や行動もそれぞれです。
緊張するけど、いざその場になれば大丈夫だったり、耐えきれなくて、できるだけ避けてしまったり、直前までは平気だけど、その場になると頭がまっしろになってしまったり…。緊張は、適度であれば高いパフォーマンス発揮に役立ったりしますが、過度になると生活上で様々な不具合が生じる原因になります。
今回は、そんな緊張の中でも、いわゆる人前で何かするときに緊張してしまう「あがり症」と呼ばれるものついて解説していきたいと思います。
<緊張とパフォーマンスについては、こちらもご参照ください>
【執筆】 籔(公認心理師・臨床心理士) 人前で緊張しがちな私。カメラオンのweb会議でもしっかり緊張します。カメラオフであれば無双状態です。あがり症にも色々なサブタイプがあるんです。 【参考】 金井嘉宏、佐々木晶子、岩永誠、生和 秀敏(2010).社会不安のサブタイプと生理的反応に対する認知の歪みの関係.心理学研究,80,520-526.
【監修】 本山真(精神科医師) |
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学校で先生から指名される場面を想像してみましょう。
好きだった!という人もいれば、苦手だった、なるべくさされないように気配を消していた…という人もいるでしょう。苦手な人の中には、「指名されるかもしれない」という状況そのものに対して緊張や不安を覚えたり、「もしも選ばれて、上手くできなかったらどうしよう…」「上手くできなかったら笑われる」と先にぐるぐる考えてしまったりすることもあったかもしれません。また、いざ指名された時に言葉が出てこなかったり、本当は分かっている問題なのに間違えてしまったりと、苦々しい経験になっている場合もあるかもしれません。
こうした、小さい頃の経験から自分のことを「あがり症」と感じている人もいると思います。不安や緊張と言うと誰にでもあることのように感じられますが、人によっては耐え難いくらいの不安を我慢し続けてきたのではないでしょうか。
そんな「あがり症」ですが、精神科的には「社交不安障害(SAD:Social Anxiety Disorder)」という診断名がついています。この社交不安障害について、アメリカ精神医学会で定めた診断基準であるDSM-5には、以下のように書かれています。
A. 他者の注目を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安。例として、社交的なやりとり(例:雑談すること、よく知らない人と会うこと)、見られること(例:食べたり、飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる。 注:子どもの場合、その不安は成人との交流だけでなく、仲間達との状況でも起きるものでなければならない。 B. その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている(すなわち、恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう、拒絶されたり、他者の迷惑になるだろう)。
C. その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する。 注:子どもの場合、泣く、かんしゃく、凍りつく、まといつく、縮みあがる、または、社交的状況で話せないという形で、その恐怖または不安が表現されることがある。
D. その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら堪え忍ばれている。
E. その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない。
F. その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6ヵ月以上続く。
G. その恐怖、不安、または回避は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こす。
H. その恐怖、不安、または回避は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
I. その恐怖、不安、または回避は、パニック症、醜形恐怖症、自閉スペクトラム症といった他の精神疾患の症状では、うまく説明されない。
J. 他の医学的疾患(例:パーキンソン病、肥満、熱湯や負傷による醜形)が存在している場合、その恐怖、不安、または回避は、明らかに医学的疾患とは無関係または過剰である。
引用:高橋三郎・大野祐監訳:DSM−5精神疾患の診断・統計マニュアル 医学書院 2014
※精神疾患全般に言えることですが、体の不調によって不安な気持ちが起こることもあります。ご自分の体の状態を知っておくことが、適切な対処に繋がります。
社交不安障害の生涯有病率(一生のうちに一度でもこの疾患になる確率)は13%と、比較的多くの人がなりうる疾患です。10人に一人以上は診断されているということになりますね。
では、社交場面ってどういう場面のことでしょうか?以下は、社交場面の例です。
などなど… |
もちろんこれだけではなく、他者が介在する場面(接触があるかは別)の全てが社交場面です。
また、不安や恐怖を感じること以外に、実際に生じる身体の反応には以下のようなものがあります。
動悸がする、息苦しくなる 顔が赤くなる ドキドキする 手足や声が震える 汗をかく(暑くなくても) 腹痛、下痢 頭がまっしろになる |
こういった反応が始まるタイミングも人それぞれありますが、中には「1か月後のプレゼンが決まった」その時からドキドキして他の仕事が手につかなくて困った…というケースもあったりします。
また、社交不安障害の方は「社交場面で上手くいかず、自分が恥をかいてしまうのではないか」「上手くいかないと、大変なことになってしまうのではないか」といった不安を抱えています。こうした不安を避けるために、自分が不安に感じる社交場面を回避するようになり、社会生活が難しくなってしまうこともあるようです。
精神科医本山の豆知識|不安のメカニズム今回のブログはあがり症(社交不安障害)です。社交不安障害はsocial anxiety disorderの日本語表記であり、2008年までは社会不安障害という表記が採用されていました。疾患概念が成立するまでの歴史は紆余曲折あるのですが、源流をたどると『対人恐怖』に行き着きます。対人恐怖は日本における『恥の文化』と密接な困りごとであり、海外でもそのままTaijin-kyofuと呼ばれています。対人恐怖のように文化に根付いたメンタル不調を文化依存症候群と呼んだりしますが、精神医学の(良い意味での)ファジーさを象徴する発想ですね。
さてさて不安のメカニズムについて解説しておきましょう。不安とは、本来的には危険なシチュエーションにおける人体の緊急防衛反応であり、私たちが危険を回避し安全に生きていくうえで必要不可欠なシステムです。古くから人間に備わっている機構で、外敵から自分の身を守るために機能しています。
「不安=危険」という判断は、脳の中でも原始的な部分の働きであり、複雑な機構を経由しないため、素早い反応を可能にしています。緊急事態に「考えるより先に体が動く」のは、こういった脳の原始的な仕組みによるものだと言えます。
人間を含む生物が生存していくために欠くことのできない『不安システム』ではありますが、その反応があまりに過剰であったり、エラー反応が生じてしまったりすると、システム反応が困りごととなってしまうわけです。あがり症(社交不安障害)においては、社交場面で扁桃体が過剰に反応してしまい、結果として現実の状況とは不釣り合いな不安や恐怖が生じているんですね。
不安については、下記のブログでも解説しています。ご参照くださいませ。 |
あがり症(社交不安障害)は、どのように対処したら良いのでしょうか。一般的には、①薬物療法と②心理療法(精神療法)の二つがあります。
薬物療法は、先に書いた脳の過剰反応を落ち着けるために有効な方法です。そもそも、不安の回路は脳の原始的な働きによるもので、意識にのぼる前のことだったりするため、自力でどうにかするのが難しい状況であることも少なくありません。
選択されるお薬は、症状の頻度や生活環境によって様々ですが、主にこの2種類です。
1)抗不安薬
2)選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
すぐ効果があらわれる抗不安薬と、効果があらわれるまでには時間がかかるが根本的な治療を目指すSSRI、といったように症状の頻度や重さ、生活環境などによって選択されるお薬は変わってきます。
心理療法(精神療法)は、薬物療法と並行して実施されることが多く、不安を感じたり、不安を増強させてしまう自分の考え方の癖や現実の受け止め方を変えていくといった、認知行動療法が用いられることが多くあります。
一例ですが、認知行動療法では、自分の状態や考え方・捉え方の特徴や偏りに自覚的になったり、「現実的な考え方・感じ方」を考えてみたり、「不安に思っていることは本当に起こるのか?」といったことを実際試して振り返ってみたり、といったことをその方が不安に感じる場面に応じて実施していったりします。認知=考えと行動=実践を両立させていくわけですね。
関連項目:認知行動療法とは?認知再構成法と行動活性化【精神科医監修✕公認心理師解説】
また、先述のとおり、「上手くいかなかったら馬鹿にされる」といった不安は「今ではない未来のこと」に意識が向いているため生じています。そのため、マインドフルネスを用いて「今ここ」に意識を向ける習慣を作っていくことも、有効な方法と言われています。
関連項目:【精神科医監修】マインドフルネスとは②仕組みとやり方
社交場面の種類や頻度はライフスタイルによって異なります。ご自身の状況・状態に合った対処を専門機関で相談されるのが、解決への近道になるでしょう。
あがり症(社交不安障害)の診断基準を満たす方でも「気が小さいだけ」「小さい頃からの性格だから治療しても…」といった考えを持っていて、適切な対処に出会えないというケースが少なくないように思います。周囲からも「ビビり」とか「意気地がない」“性格”という(心無い)評価を受けたりして、そもそも治療の対象になるようなことが起きているという意識自体が薄くなってしまいがちです。
あがり症(社交不安障害)は、慢性化したり、対処せずに上手くいかない状況が続くことによってうつ病や他の不安障害等の精神疾患を併発してしまうこともあります。
困りごとが性格なのか疾患なのかというのは難しい話ですが、「自分が困っているか、それによってしんどい思いをしているか」というシンプルな視点で、一度ご自分の大変さを振り返ってみましょう。あがり症に限らず、自分の大変さをディスカウントし過ぎないことは生活の質を高める上で重要なことだと思います。
社交場面でストレスが多い、どうしても苦手、という方は「性格だと思ってたけど、脳がめっちゃ過剰反応してるのかもしれないな」「耐えられるくらいの不安になってくれたらいいな」と思って、一度専門機関への相談をしてみてください。
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