ブログ

【ぞわぞわ…】精神科医監修パニック障害対策ブログ【そわそわ…】

タグ : , ,

2022年6月24日

最終更新日 2024年3月2日

『ぞわぞわ…そわそわ…』精神科医監修ブログ、パニック障害対策を解説します

字面のイメージからか『パニック』になる病気?と勘違いされがちですが、パニック障害におけるパニックは、所謂『頭が真っ白になってしまう』パニックではありません。パニック障害を正しく知り、適切な対処法を学びましょう。

 

株式会社サポートメンタルヘルス公式LINE ID

メンタルヘルスお役立ち情報をお送りします。友だち登録どうぞ!

 

対策1:パニック障害って何?パニック障害の原因


パニック障害は、繰り返されるパニック発作(panic attack)パニック発作による予期不安や不適応な行動上の変化を主症状とする精神疾患の一つです。日本人におけるパニック障害の生涯有病率は0.8%と言われていますから、約100人に1人が生涯において一度はパニック障害を経験するということになります。男女比は1:2で女性に多く、発症年齢中央値は20歳~24歳。つまり、若い女性に多い疾患と言えますね。ちなみにパニック発作自体は、あらゆる精神疾患にて生じ得ます。

 

歴史についても学んでおきましょう。当初パニック障害は、不安や心配の蓄積・爆発によって生じる症状の総評である神経症の一種、不安神経症・心臓神経症にカテゴライズされていました。端的に言えば、神経症とは悩みやストレスによって生じる不調です(心因性と呼んだりすることもあります)。したがって、当初は、悩みや葛藤をターゲットとした対話によるアプローチが主流でした。

関連項目:不安神経症|こころの耳(厚生労働省)

【こちらもどうぞ】

【精神科医監修】怖くて不安?恐怖症性不安障害とは?

 

神経症概念を整理したのが皆さんご存知?フロイトです

 

その後、『薬による効果が認められる』、『パニック発作自体は人工的に誘発することができる』といった研究報告を受け、『不安神経症』から『Panic Disorder』(パニック障害)へと疾患概念が整理され、パニック障害という病名が定着することになります。かつては、悩みやストレスがパニック障害の原因だと考えられていましたが、現在は複合的な要因によって生じると考えるのが一般的です。

 

対策2:パニック障害かも?パニック障害チェックリスト


アメリカ精神医学会による診断基準DSM-5を参考に、ご自身がパニック障害に該当するかチェックしてみてください。下記、A~Dの条件を満たすことが基準となっています。チェックリスト的に使用する場合大切なポイントは、Aで4つ以上、Bで少なくとも1つ1か月以上、という基準です。

 

A:繰り返される予期しないパニック発作。パニック発作とは、突然、激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時間内に、以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が起こる。
  1. 動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
  2. 発汗
  3. 身震いまたは震え
  4. 息切れ感または息苦しさ
  5. 窒息感
  6. 胸痛または胸部の不快感
  7. 嘔気または腹部の不快感
  8. めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
  9. 寒気または熱感
  10. 異常感覚(感覚麻痺または熱感)
  11. 現実感消失(現実ではない感じ)または離人感(自分自身から離脱している)
  12. 抑制力を失うまたはどうかなってしまうことに対する恐怖
  13. 死ぬことに対する恐怖
B:発作のうちの少なくとも1つは、以下に述べる1つまたは両者が1か月(またはそれ以上)続いている。
  • さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配(例:抑制力を失う、心臓発作が起こる、“どうにかなってしまう”)
  • 発作に関連した行動の意味のある不適応的変化(例:運動や不慣れな状況を回避するといった、パニック発作を避けるような行動)
C:その障害は、物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。
D:その障害は、他の精神疾患によってうまく説明されない。

引用:高橋三郎・大野祐監訳:DSM−5精神疾患の診断・統計マニュアル 医学書院 2014

 

パニック障害診断基準

 

AとBについてはチェックリスト的にご自身で確認可能な項目かと思いますが、C項目に注意が必要です。つまりは『甲状腺機能障害や心臓の疾患など体の病気ではない』という基準です。パニック発作だと思っていたものが実際は体の病気によるものだったというケースも稀ではありません。過剰な自己判断をせぬようご注意ください。

 

編集こぼれ話『ぞわぞわ…そわそわ…』パニック発作体験記

思えばその日は朝からコーヒーを飲み過ぎていました。前日夜更かししてしまったのに加え、鼻炎の薬を飲んでいたこともあって眠気が強かったんですよね。

仕事終わりギリギリまでコーヒーを口にして帰宅。夕食をとったあとリビングでテレビを見ていたところ、突如胸が…

 

ぞわぞわ…。

 

あれ何だろうと思ったのもつかの間、あれよあれよという内に気持ちが…

 

そわそわ…。

 

気を紛らわせようとスマートフォンをいじったりしてみますが全く集中できません。圧迫されるような息苦しさが生じ窓とカーテンを全開に。その内、椅子に座っていられないほど落ち着かなくなり、とにかくリビングをグルグル何周も歩き回りました。

 

『おや?まさかこれパニック発作?』

 

“パニック発作は人工的に発生させることができる”と、知識としては理解していましたが、知らないうちに条件を満たしていたとは…。

 

呼吸法や自律訓練法といったリラクゼーション法を施してみるも、普段から練習していたわけではないので付け焼き刃感は否めず(怠惰な自分を責めました笑)。

 

理屈がわかっているからといってパニック発作がおさまるわけではありませんが(教科書通り、30分を経過した頃自然とおさまっていきました)、理屈がわかっていなければパニック発作に翻弄されていたことでしょう。

 

あのままパニック発作がひどくなっていたり、パニック発作だと同定できていなかったりすれば救急車を呼んでいたかもしれません。パニック発作対策は運否天賦じゃないです。

【カフェインについてはこちら】

カフェインの科学【作用と効果と副作用】精神科医監修ライフハック心理学#4

by編集スタッフ

 

対策3:パニック障害のメカニズムとは?パニック障害の心理教育


編集スタッフが言っていました。『実際に発作が起きてしまうと何ともコントロールが難しいと実感しました。平時に行なう避難訓練って大切ですよね』と。この避難訓練の発想がパニック障害対策の一つ認知行動療法の基本コンセプトだと言えます。突如訪れる災害を前に冷静な対処方法を選択するのは困難です。いざという時、適切な対処方法を取ることができるように避難訓練をしておくわけです。

 

まずは『パニック発作という緊急事態が何故生じるのか』について理屈を把握しておきましょう。例えるなら『大雨が降ると洪水が起きる』ということを知っているだけで『雨が続いていたら川には近づかない』という対処行動が取れるからです。突如洪水に遭遇すると(パニック障害のパニックではない方の)パニックになり、冷静な対処行動を取れなくなってしまうかもしれません。大雨が続いているから洪水が起きるかもしれない。知識があるだけで気持ちのうえでも構えができるでしょう。

 

対処を考えるうえで理屈を知っておくことのメリットは計り知れません。理屈を知るというアプローチを心理教育(Psycho education)と言います。

 

パニック障害の心理教育において特に大切なポイントをまとめておきましょう。

 

  1. パニック発作は扁桃体による誤った警告によって生じます。
  2. パニック発作自体は闘争-逃走反応(fight-flight)であり生き物に必須です。
  3. 不適応行動は場所と恐怖体験とが結合することで生じます。

 

パニック発作は、生物に備わっているアラートのエラーにより生じると考えられています。具体的には、扁桃体と呼ばれる脳の原始的な部位の誤反応が想定されています。これをフォルスアラーム仮説(False Alarm)と呼びます。

 

扁桃体は種々の感覚情報を取りまとめている『視床』と呼ばれる脳部位より情報を受け取っており、生体にとって危険な情報を察知するとアラートを発出します。生体にとって危険な状況なのであれば、スピーディーに何らかのアクションを起こす必要があります。扁桃体のアラートをきっかけに体と心は、スピーディーに逃走モードに切り替わるわけです。危険な状態をいち早く察知し、その場から離れる準備をスピーディーに行う。この一連の流れは、あらゆる生き物に備わっているシステムです。つまり、パニック発作とは生き物が野生を生き抜くために必須な反応だと言えるわけです。

 

逃走というアクションを瞬時に起こすため、心臓の鼓動は高まり、血圧・心拍数は急上昇します。脳の原始的な部位は逃げる準備をスピーディーに整えるわけですが、思考したり判断したりする脳の新しい部位はそのスピードについていけません。感覚としては『突然心臓がバクバクし出した』となるわけですね。生き物にとって必須な反応ではあるものの、思考レベルでは脅威でしかないわけです。

 

加えて、敏感になった扁桃体のエラーにより、そこまで危険な局面でもない(場合によってはまったく危険ではない場所)にも関わらずアラートが発動されたりするわけですから、何が何やらわからなくなります。電車に乗っているときアラートが発動されパニック発作が起きれば『電車に乗ったらまた発作が起きるのでは』と不安にもなります。意識下で電車イコール脅威という結合が成立してしまうこともあります。これが予期不安や不適応行動のメカニズムです。

 

対策4:パニック障害の治療法と対処法を解説


パニック障害治療はどのように行なわれるのでしょうか。チェックリストでも触れたとおり、パニック障害の主症状はパニック発作とパニック発作による不安・不適応行動です。それぞれの症状への対策が治療のターゲットとなります。

 

パニック発作が扁桃体のエラーで生じることは先ほど説明した通りです。まずは、エラーアラートを発動しやすくなっている敏感になった扁桃体を鎮めることが必要です。パニック障害にて処方されることのある選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、扁桃体を鎮める効果が想定されています(諸説あります)。扁桃体が鎮まることでエラーアラートが減少し、パニック発作や不安・恐怖感が軽減されるというわけです。

 

パニック障害薬物療法

 

ところがこのSSRI、効果の発現までに少々時間がかかります。効果が発現するまでの間もエラーアラートは続くわけで、その都度パニック発作や不安・恐怖感に翻弄されるわけです。パニック発作、不安・恐怖感にあまりに翻弄され生活に支障がある際は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬という脳の興奮を鎮めるお薬が処方される場合もあります。

 

ひと昔前の教科書では『パニック障害治療にはベンゾジアゼピン系抗不安薬を第一選択として用いる』と記載されていましたが、近年は依存を考慮し慎重投与を選択する立場が一般的かもしれません(とは言え、どのようなお薬をどんなタイミングで使用するかは治療戦略に基づくものであり、特定のお薬の良し悪しだけを考えても仕様がありません)。いずれにせよお薬については主治医の先生とよくご相談ください。

 

パニック発作に対しては、リラクゼーショントレーニングというアプローチもあります。パニック発作は、闘争-逃走反応そのものが感覚刺激として扁桃体に再入力され、発作・不安ともに雪だるま式に増幅するという厄介さを持ち合わせています。パニック発作が生じないように、生じたとしても最低限で鎮められるように拮抗した反応をぶつける、これがリラクゼーショントレーニングのコンセプトです。画像は自律訓練法の解説ですが、呼吸法や漸進的筋弛緩法、近年ですと『意識を今ここに固定する』マインドフルネスといった手法がポピュラーです。

関連項目:【精神科医師監修】マインドフルネスとは③効果、副作用を解説!

 

リラクゼーショントレーニングこそ避難訓練の発想が重要です。発作が起きているときは普段よりも冷静な対応が取りづらい状態です。溺れてしまった状態に近いでしょうか。溺れた時を想定して泳ぐ練習をしている方は少ないでしょうが、日頃から泳ぐ習慣があれば、溺れて慌てているシチュエーションにおいてその場を乗り切れる可能性が高いでしょう。リラクゼーショントレーニングも同様、平時に体をリラクゼーション状態(緊張していない状態)に切り替える練習をしておけば、パニック発作に翻弄されることなく身体反応をコントロール下に置ける可能性が高まります。

 

生活における最大の支障は、場面・場所と不安や脅威が結合し外出が困難になることと言えるかもしれません。パブロフの犬と同じ仕組みで、場面・場所と不安・脅威が意識下で結びついてしまうんですよね。

 

 

パブロフの犬って聞いたことありませんか?犬に餌をあげるときにベルを鳴らすと、ベルを聞いただけでよだれが出るようになる、というあれです。ベルイコールよだれ、という学習がなされているわけですね。これがまさにレスポンデント条件づけと呼ばれる学習方略です(パブロフ条件づけとも呼ばれます)。

【引用】【精神科医監修】眠れない原因は考えない!【不眠症の医学】

 

 

対策として、意識下で結びついてしまった場所・場面と脅威と感じる意識を丁寧に剥がしていく(ような)手法を用います。簡略化して説明すれば、段階的に『大丈夫じゃん』という実感を積み重ねるという方略です(専門的な話をすると作用機序については立場によって考え方に相違があります。場所・場面と安全という意識を結合させるという考え方もできます)。

 

パニック障害における段階的エクスポージャー

 

こちらのチャレンジにおいてもリラクゼーション技法を用いることがあります。パニック障害で生活に制限が生じている方、一見途方もないように感じられるかもしれませんが、自分に合ったリラクゼーション技法のトレーニングに取り組むことは大きな一歩ですよ。

 

参考資料


 

【執筆】

久野(公認心理師・臨床心理士)

編集スタッフさん大変だったみたいですね…。その後彼は、睡眠不足を防ぐ、カフェイン摂取量を意識する、といった対策を施したようで、再度のパニック発作は経験していないようです。メンタルの不調となるとストレスばかりに目がいきがちですが、日頃の生活習慣も大切なんですよね。いずれにせよ、発作に圧倒されることなく対処方法を施すガッツ、素晴らしい。『信じるべきは、オレの力‥‥‥!』でございます。

久野ブログ一覧

 

【監修】

本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医)

本山ブログ一覧

 

関連記事