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【精神科医監修】眠れない原因は考えない!【不眠症の医学】

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2021年8月12日

最終更新日 2021年8月23日

眠れないと原因を考えがち…それ止めましょう!

 

今回は非常にポピュラーな困りごとの一つである不眠を解説します。厚生労働省によれば5人に1人の割合で不眠の訴えがあるとのこと、実に身近な困りごとですね。

 

困りごとがあれば何故だろうと考えるのは自然なこと。身体の不調やメンタルの不調、眠れないといった困りごとや悩みごとは『○○のせいでこうなったんだ!』と因果関係で考えてしまいがちです。確かに原因と結果という対の関係はわかりやすいですよね。

 

ただし原因と結果で考え出すと思わぬ迷路にはまってしまうことも…。本ブログでは『眠れない』という困りごとをどのように考えると実践的か、精神科医監修で解説していこうと思います。

 

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『眠れない』原因は様々です!

『原因があって結果がある』という因果関係は理解しやすいシンプルなモデルではあるのですが、世の中はいつだって複雑です…。少なくともメンタルヘルス領域では、コンディション不良であれ、好調を維持できている状態であれ、様々な因子が絡み合って生じている(交絡因子と呼んだりします)と考えるのが一般的です。

 

メンタルヘルス領域という大きなくくりで考えるとイメージしづらい部分もあるかもしれないので『眠れない』という具体例で説明しましょう。

 

眠れないときの考え方 眠れたときの考え方
  • 眠れないまま朝になった…。
  • このところ抱えていた案件が思いの外ストレスなのだろうか。
  • 昼ご飯を食べたあと昼寝してしまったのが良くなかったか。
  • 眠気覚ましでコーヒーを飲み過ぎたのも良くなかったかもしれない。
  • 最近運動不足だしな。
  • さてこんなコンディションで今日の仕事どうしよう。
  • 最近はよく眠れている!
  • 抱えていた案件がひと段落したのが良かったかもしれない。
  • 夜しっかり眠れているせいか昼寝をしていない。
  • 日中眠くならないしコーヒーも飲まなくなった。
  • 陽の光を浴びながらの散歩をモーニングルーティーンにした成果か?
  • このコンディションを維持していこう。

 

ストレス、生活リズム、カフェイン、運動習慣などなど、どれもが睡眠習慣に影響を与えうるテーマです。

 

睡眠とカフェインの関係
コーヒーなどに含まれるカフェインは、脳を興奮させる神経伝達物質(ドパミンやノルアドレナリン)の放出に抑制的に働くアデノシンの働きをブロックし脳を覚醒させます。つまりカフェインをとると目が冴えるというのは気のせいではないということですね。
興奮系の神経伝達物質が抑制されない結果として、心身が交感神経優位なファイトモードになりやすくなります。事実、パニック障害/パニック症の方が一定量カフェインを摂取すると人工的にパニック発作が生じます。
ファイトモード(闘争-逃走反応)とはすなわち、天敵に襲われたときに瞬時に対応するためのモードであり、動物に備わった重要な機能です。天敵に襲われた場面を想定したモードですから、眠くなるはずがありません。逆に言えば、ここ一番の勝負時、スポーツで成果を残したい時などはプラスに働く可能性があるわけです。
【参考】

 

一見、ストレスをきっかけに眠れない、ストレス解消をきっかけに眠れている、これで説明できそうですが、ストレスが解消した結果、生活リズムが整い眠れるようになったと考えることもできそうですし、運動をした結果、ストレスが解消したとも考えられます。また、運動によって生活リズムが整い、結果的に睡眠が十分にとれているのかもしれません。

 

睡眠が充分にとれていることで日中の眠気覚ましのカフェインを控えるようになり、睡眠に好影響を与えている可能性もあります。眠れることで生活が上向き、リズムをキープしようと自身の生活習慣を見直すようになった結果、健康が維持できているのかもしれません。

 

 

 

とまあ、このようにそれぞれの因子が影響し合っていますね。これがまさに交絡因子です。

※難解な印象がおありかもしれません。『鶏が先か、卵が先か』的な側面は必ずありつつ『風吹けば桶屋が儲かる』まではいかないと言いましょうか…。

 

ご理解いただきやすいように睡眠をテーマに説明しましたが、先述のとおり、メンタルヘルスを考えるときには様々な因子が絡み合っていると考えていただくのが実践的です。

 

国際的にも『眠れない』原因探しは止めました!

眠れないという困りごとは全世界共通。眠れない困りごとを国際的にまとめましょうというコンセプトに基づき作成されたものを『睡眠障害国際分類(ICSD)』と呼びます。現在は2014年に刊行された第3版=ICSD-3が最新版です。

 

第2版にあたるICSD-2では不眠症の項目に11個(!)の分類が並んでいました。ストレスがきっかけである“適応障害性不眠症”、精神疾患を原因とした“精神疾患による不眠症”、カフェイン摂取や生活リズムを原因とした“不適切な睡眠衛生”など、不眠症の原因となっている事柄に合わせた分類をしているのが特徴です。

 

2014年に刊行されたICSD-3にてこの分類いくつになったと思いますか?(ブログには向かないクイズ笑)

 

実は急性の不眠慢性的な不眠か、たった2つなんです!(“その他の不眠症”という整理ボックスはありますが)。この手の分類が改定される際には、治療をスムーズに進めることを目的に最新の知見が反映されます。

 

 

先にもまとめた通り、眠れないという困りごとは、いくつもの因子が関与し合って維持されていることがほとんどです。つまり、眠れない原因探しが治療において有効かと言うと必ずしもそうではないと国際的に判断したわけです。

 

ICSD-3とDSM-5を参考に考えれば、急性の不眠と慢性の不眠を分けるものは3か月という期間だけです。原因は問わず、眠れない状態が3か月以上続けば慢性不眠と考えます。非常にシンプルですね。

 

不眠症と睡眠障害の関係
不眠症と睡眠障害、どちらも睡眠に関する困りごとではありますが、実はイコールの関係ではありません。睡眠障害の一種としての不眠症という関係性が正しい理解です。
ICSD-3によれば、睡眠障害は6つに分類されています。
  1. 不眠症
  2. 睡眠関連呼吸障害群
  3. 中枢性過眠症群
  4. 概日リズム睡眠・覚醒障害群
  5. 睡眠時随伴症群
  6. 睡眠関連運動障害群
例えば『足がむずむずして眠れない』タイプの睡眠障害は睡眠関連運動障害群に分類されます。『眠れない』困りごとイコール不眠症ではないこと、病院やクリニックといった医療機関での治療が有効なタイプ/必要なタイプがあることをお忘れなく!

 

眠れない困りごとで意識すべき3つのポイント

世界のトレンドは、11つの原因で考えていたモデルから、眠れない状態に陥り(急性不眠)、眠れない状態が続く(慢性不眠)、ここに眠れなくなりやすい素因を加えた3つのポイントで整理するモデルへと移行しており、Spielmanの3Pとしてよく知られています。

 

ちなみに11つの原因モデル時代は5つのポイント(5P)で理解を試みる考え方が主流でした。後述しますが、3Pに照らし合わせれば、5Pは不眠を起こす因子に集約される発想になります。

 

Physical(身体的)

腰痛で眠れない、かゆくて眠れない、咳が出て眠れない、花粉症の鼻水で眠れない、トイレが近くて眠れない、といった身体的な苦痛によって眠れないタイプです。

Physiological(生理的)

音が気になって眠れない、暑くて眠れない、夜更かししがちで眠れない、時差で眠れないといった環境の影響や生活リズムによって眠れないタイプです。

Psychologic(心理的)

不安なことがあったり、ショックな出来事があったり、ストレスによって眠れなくなるタイプです。

Psychiatric(精神疾患関連)

あらゆる精神疾患(心の不調)に不眠は伴いがちです。精神疾患によって眠れないタイプはこちらです。

Pharmacologic(薬剤性)

お薬によって眠れないタイプがこちらです。お薬のなかにはそもそもの作用が睡眠にマイナスに働くものもあります。また副作用として眠りづらくなるお薬、急にお薬を中断すると眠れなくなるお薬(反跳性不眠と呼ばれます)もあります。カフェインやアルコールによる不眠はこちらに含まれます。

 

Predisposing factor=不眠になりやすい素因

例えば、ショッキングな出来事があったとして、眠れなくなる人もいれば、睡眠には支障が出ない人もいます。この場合、【ショッキングな出来事】は後述する不眠を起こす因子に該当しますが、人によって不眠が起きたり起きなかったりする、この個体差が『不眠になりやすい素因』です。

 

ショッキングな出来事をストレスと評価するキャラクターはその後のストレス反応としての不眠を起こす可能性を高めます。女性はホルモンの関係で不眠になりやすいことが明らかになっています。また、年齢を重ねることで睡眠時間は減少するものです。

 

【参考】

女性の睡眠障害(厚生労働省)

高齢者の睡眠障害(厚生労働省)

 

Precipitating factor=不眠を起こす因子

不眠になりやすい素因を持った人に不眠を起こす因子が伴うことで不眠が出現します。不眠を起こす因子は、先述の通り5Pに集約されます。ICSD-3に基づけば、不眠を起こす因子によって出現した不眠は急性不眠に分類されます。

 

『遠足の前の日、楽しみで眠れない』。ご経験のある方もいらっしゃると思いますが、定義上、これは急性不眠です。つまり、急性不眠自体はポピュラーで日常的な事柄だと言えます。事実、急性不眠の段階で適切な睡眠習慣を導入すれば、多くは一過性で改善するということがわかっています。

 

Perpetuating factor=不眠を維持する因子

急性不眠の期間を引き延ばすことに関与する因子、つまり急性不眠を慢性不眠に至らしめる因子、それがPerpetuating factor不眠を維持する因子)です。不眠を維持する因子とは、眠れない日々を通じて学習された考え方や睡眠習慣、睡眠薬の不適切使用による影響を指します。

 

『昨日もおとといも眠れなかった。果たして今日は眠れるだろうか』。緊張状態で眠れるまでベッドで悶々とし続ける。結果としてベッドイコール緊張と、体が学習してしまう。このように不眠を維持する因子により、急性不眠が慢性不眠になることで『眠れない』という困りごとが成立するわけです。

 

したがって、慢性不眠へと移行した『眠れない』という困りごとを解消する際は、Perpetuating factorをターゲットとします。

 

 

関連のない事柄同士の関係
ベッドイコール緊張という学習について触れましたが、当然のことながら、そもそもベッドと緊張感には関連がありません。関連のない事柄同士が関連づけられ定着するプロセスを『学習』と呼びます。
パブロフの犬って聞いたことありませんか?犬に餌をあげるときにベルを鳴らすと、ベルを聞いただけでよだれが出るようになる、というあれです。ベルイコールよだれ、という学習がなされているわけですね。これがまさにレスポンデント条件づけと呼ばれる学習方略です(パブロフ条件づけとも呼ばれます)。
つまるところ不眠においては、緊張を感じている状態でベッドに居続ける、ベッドイコール緊張という条件づけが成立してしまっているんですね。緊張の反対はリラックス。条件づけされた緊張が眠気を阻害するときには、リラクゼーション法を試してみるのも手だと言えます。
【参考】
これ以外にもベッドで食事を取ったりしていると、ベッドイコール食卓と条件づけされてしまいますし、休日は一日中ベッドで横になってゲームをしているとなると、ベッドイコール興奮と条件づけされたりしてしまうわけです。
ベッドに入るのは眠くなったら!寝るため以外にベッドは使わない!といった行動によって『ベッドイコール睡眠』という条件づけを行なうのが、刺激調整法、刺激制御法と呼ばれるアプローチです。

 

眠れない原因探しから維持因子へのアプローチへ

上述の通り、眠れないという困りごと=慢性不眠は、少なくとも3つのPによって成立しているわけで、原因と結果という一対一の関係で生じるものではありません。『○○のせいで眠れないのだ!』と原因探しに奔走してしまうのは、すでに眠れない日々を通じて学習された考え方に翻弄されているのかもしれません。

 

とは言え『眠れない』のは辛いもの。藁にも縋る思いで原因探しをしたくなる気持ち、よくわかります。ひと昔前は『眠らなくても死なないよ』という切れ味鋭いアドバイスが流行(?)していましたが、近年の知見を総合すると、不眠症は生活習慣病を発症・増悪させ、結果として生命予後を縮めるとまとめることができます。

【参考】

睡眠と生活習慣病との深い関係(厚生労働省)

 

また、精神疾患に伴う不眠についても、不眠を解消することで精神疾患のコントロールも良好になる、不眠を放っておくと認知症のリスクになる、といった知見があることから、眠れないという困りごとへは、積極的に対処していく意義があると言えます(過ぎたるは猶及ばざるが如し。眠らなくては、という考えにとらわれるのはNGです)。いずれPerpetuating factorをターゲットとしたアプローチの詳細をご紹介しようと思います。

 

【監修】

本山真(精神科医師/医療法人ラック理事長)

 

【執筆】

久野(公認心理師・臨床心理士)

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