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癖なの?病気なの?【先延ばしの科学】精神科医監修ライフハック心理学#3

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2022年5月20日

最終更新日 2024年3月2日

精神科医監修ライフハック心理学|先延ばしを科学します!

精神科医監修ライフハック心理学シリーズ。第3弾の今回は『先延ばし』を取り上げます。

 

精神科医監修ライフハック心理学シリーズはこちら!

#1:【精神科医監修】ルーティンワークを解説!

#2:【精神科医監修】散歩でメンタルケア!ストレス発散効果は?

#3:癖なの?病気なの?【先延ばしの科学】精神科医監修ライフハック心理学#3

#4:カフェインの科学【作用と効果と副作用】精神科医監修ライフハック心理学#4

#5:精神科医監修ライフハック心理学#5【実行機能をわかりやすく簡単に解説】

 

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「この課題、締め切りまでに絶対にやらなければならない、でも今はやりたくない…」

 

どんな方も、少なからずこんな思いをされたことはあるのではないでしょうか?こういった行動を「先延ばしにする」と言ったりしますが、心理学的にも「先延ばし」という言葉で定義されています。誰でも苦しめられたことのある、先延ばしによるしわ寄せ…。今回は、そんな苦い思い出とともに、「学習理論」の視点から先延ばしについて考えてみます。

 

先延ばしの定義


『先延ばし』。こちらのテーマは、長らく心理学領域で研究されてきました。研究をすすめていくうえで概念の定義は大切!先延ばしについても多くの研究者が定義してきました。

 

研究を概観すると、先延ばしとは要するに…

「やらなきゃいけないことも、やった方がいいことも分かっている。でも、今はやりたくない(できない)!」

状態です。

 

実は、「今はやらない」という同じ行動でも人によって理由は様々。取り掛からずに過ごしている時間、そのことが気になるし不安で仕方がない、と感じる方もいれば、何とかなるだろうと楽観的に過ごす方もいらっしゃいます。また、計画的に「この日からやろう、だから今日はやらない!」というのも先延ばしです。

 

先延ばしのメリット


課題から離れることで気楽に過ごせる人なら、先延ばすことでその瞬間はこころが安定するんじゃないの?という声も聞こえてきそうです。確かに、ストレスだと思うものから一旦離れる、というのは立派な対処法です。似た状況で、「体調が悪い時にはお休みして、元気になってから取り掛かる。」、これはとても意味のあることです(先ほどの「計画的な先延ばし」とも言えるかもしれませんね)。

 

一方で、「いつやっても自分のコンディションは変わらないけど、なんとなく今は嫌なんだよなあ。」という場合は、いつになってもコンディションは変わりません。結局未来の自分がしわ寄せを食らうことになってしまいます…。締め切りを考え気が休まらないうえに、未来で苦しむことが確定している。もしくは、気楽に過ごしていても、締め切りは同じようにやってきて焦ることになる。

 

要するに、先延ばすことで起きうることとは、

①苦しむことが確定している

②場合によってはそれを思い、締め切りまで気分が落ち込んでしまう

③先延ばしたことで、罪悪感が生まれたり、自分がダメだと思ったりしてしまう

など、悪い面の方が目立ってきます。やはり、明確な理由と目的がないまま時間を過ごしていくのは、精神的に健康だとは言い難いのです。

 

人はなぜ先延ばししてしまうのか


そもそも、先延ばすもの=今すぐ結果がでないものです。花の種を植えて、すぐに芽が出れば育てた感じが体感しやすいのですが、現実はそうはいきません。種を植えてから芽が出るまでに長い時間と世話の労力を要します。しかも、芽が出るかどうかも分からない…。そのため、今やっても結果が見えず分かりづらいため、スッキリしないのです。これと同じように、スッキリしづらいために取り掛かりにくいのです。その他にも、「何事も完璧にしたい」と思うあまり、準備に時間をかけてなかなか本題に手が付けられない…なんてこともあります。

 

 

 

【精神科医本山コラム|その先延ばしは病気?癖?】

精神科臨床において『先延ばし』という困りごとはポピュラーです。病気と言える状態であることもあれば、癖と言うべきか特性と言うべきか生まれつきに近い状態であることもあります。

 

病気による先延ばしとしては『うつ状態による意欲低下症状』によるものがあります。うつ状態はセロトニン不足による不安・イライラ、ノルアドレナリン不足による落ち込み、意欲低下、ドパミン不足による興味・関心の喪失といった症状が観察できます。意欲低下症状が強い状態においては、『○○をしよう』という気持ちが生じづらくなり億劫感が増します。次節にて先延ばしの対処法をご紹介していますが、うつの治療を優先させた方が望ましいケースもあります。先延ばしに気分の落ち込みや楽しめない感覚が伴うようであれば精神科受診をおすすめします。

関連項目:オタク臨床心理士・公認心理師は語る。趣味とストレスの関係とは?

 

最近はADHD(注意・欠如多動症)の関連を疑う事例が増えていますね。そもそもADHD(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)とは不注意、多動・衝動性を主症状とした神経発達症群(発達障害)に分類される疾患の一つです。かつてADHDは、子どもによく見られる疾患であり、大人になるにつれて症状が緩和すると考えられていました。近年の調査では、成人の30人に1人ほどにADHDの症状を認めることが明らかになっています。ADHDにおける先延ばしを考えるうえで、Triple pathway modelと呼ばれるADHDの病態仮説が役立ちます。Triple pathway modelにおいて不注意、多動・衝動性は、抑制機能障害(実行機能障害)・報酬機能障害(遅延報酬障害)・時間処理障害によって生じていると考えます。先延ばしに関連しそうなのは、中長期的な行動の苦手さに関連する報酬機能障害、タイムスケジュールに関連する時間処理障害でしょうか。

 

 

ADHDは主症状をターゲットとした薬物療法が確立されている珍しい神経発達症(発達障害)です。現在日本ではメチルフェニデート(商品名:コンサータ®)、アトモキセチン(商品名:ストラテラ®)、グアンファシン(商品名:インチュニブ®)、リスデキサンフェタミン(商品名:ビバンセ®)の4種類がADHD適応薬となっています。

【参考】

ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療|厚生労働省

 

先延ばしの対処法は?


色々な方法が考えられますが、今回は学習理論に基づいていくつか考えてみました。

 

失敗して反省する作戦

初っ端から、荒療治です。心理学の学習理論に基づくと、人は上手く行ったときに取っていた行動を学習し、次に同じような状況に陥ったときにもやってみようとします。つまり、成功した状況はまた繰り返しやすくなるのです。

 

例えば…

「課題から逃げたい」→「取り掛からない」→「間に合わない」→「徹夜」→「間に合った」

が成立してしまうと、「すぐ取り掛からなくてもなんとかなった!」という経験をしたことになります。そのため、同じ状況に置かれたときに「また、徹夜すればいいかな」と学習してしまいます。

 

これを敢えて…

「課題から逃げたい」→「取り掛からない」→「間に合わない」→「出来る限り努力する」→「間に合わなかった」

という結果にします。

 

そうすると、「取り掛からなかったから間に合わなかった」と学習されます。失敗した経験をすることで、「次は、痛い目をみないように早めに取り掛かろう」とする訳です(人生全てに言えることですが、要するに『反省して次に活かす』ということですね…。これを意図的に作り出すということです。)因みに、この場合は結果だけみると間に合っているので「成功」しています。しかし、その経過の中で焦り、苦しい思いをしたこと自体が「失敗だった」と捉える方にとっては、これも反省できる内容になります(「もう二度とあんなに焦りたくないから、早く取り掛かろう。」)。

 

不安感をエンジンに!作戦

課題に取り掛からないことで不安になる方は、それを逆手にとることもできるかもしれません。まず、ご自身が何に対して不安になっているか分析してみましょう。

 

ー叱られること?

ー失敗すること?

ーやり方が分からないこと?

 

周りからどう評価されるかが心配だという場合は、意識がそこに向きがちだということでもあります。なので、「悪く評価されないように(失敗しないように)頑張る」と不安を行動のエンジンにしていきます。

 

ただし、この場合「周りの目を気にして努力したので、上手く行った。

これからも周りの目を気にして不安になりながら頑張ろう!」という学習に繋がるとも言えるため、長い目でみるとご負担だとも言えます…。

どうしてもやるしかない時の特効薬的な考え方として捉えていただく方がよいかもしれません。

 

課題への取り掛かり方が分からないのであれば、まずそのことを自覚するのが第一歩です。漠然とした不安やめんどくささの理由が、「分からないから」であることが分かるわけです。例えばレポートの書き方一つとっても、検索してみることでヒントが得られるかもしれませんし、誰かに相談することで拓かれることもあるかもしれません。

 

逐一ご褒美を!作戦

先ほどご説明したように、スッキリしづらいから先延ばしてしまうのであれば、逐一スッキリさせればいいのです。これを、報酬を与える(正の強化をする)といいます。

 

引用:【眠れない方必見!】睡眠のカギは朝にある!精神科医監修不眠解消メソッド

 

基本的に、課題中、取り組み始め~取り組んでいる間はずっとスッキリしません。全て終わった時にやっと達成感が得られる訳です、が、それを小分けにして何度も味わってしまおうという方法です。取り組んでいる間にやっていることを、細かく分けます。そして、それが達成される度に自分にご褒美のプレゼントをします。例えば、1日のノルマを決めて、達成できればゲームを1時間していいことにするなどです。もしくは、『単語を100個覚える』という課題の場合、1つ覚える毎にチェックをつけるというのも、目に見えてスッキリできるものの一つと言えるでしょう。

 

取りかかれない理由は一旦置いておく作戦

完璧にやりたくて、やる気がでなくて、取り掛かる順番が分からなくて、等、考えれば考えるほど第一歩が重くなってしまいます。こういう時こそ「とりあえず、課題に関する何かをしてみる」です。一旦行動にうつし、それに注力することで、不安を払拭します。ここで起きるとラッキーなのが、「集中することでマインドフルネス状態(今、ここに集中した状態)になり、不安感が下がる」ことや、「それが上手くいったら、またやってみてもいいと思える」ことです。この軌道に乗れると、気付いた時には進んでいることが期待できます。

関連項目:【精神科医師監修】マインドフルネスとは①定義と潮流

 

【臨床心理士がわかりやすく解説】マインドフルネス基礎講座

 

今回は学習理論をもとに先延ばし癖への対処法をいくつかご紹介しました。自分をコントロールするという意味で、ゲームのように取り組んでみるのもありかもしれませんね。

 

【解説】

maitake(臨床心理士)

ブログ執筆は先延ばししてしまいがち。こちらのブログを参考に、締め切りに間に合うように気をつけます笑

maitake記事一覧

 

【監修】

本山真(精神科医師)

精神保健指定医、日本医師会認定産業医、医療法人ラック理事長

株式会社サポートメンタルヘルス代表

 

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