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タグ : メンタルヘルス , メンタル不調・精神疾患解説 , 本山真(精神科医師・産業医)
2021年12月27日
最終更新日 2022年7月28日
目次
『アスペ』ってきっと耳にしたことありますよね?
それでは『アスペ』って何なのか正しく理解していますか?
アスペはアスペルガー症候群(ないしアスペルガー障害)の略(と言うよりはスラングという理解が正しいかもしれません…)。
『こだわりが強い』
『人からユニークだと言われる』
『誰かと生活するのが辛いと感じていた』
これらはアスペルガー症候群の方にあるあるなお困りごとです。こういった困りごとのみ抜粋すると『私もアスペルガー症候群かも』とお感じになる方もいらっしゃるかもしれませんが、特徴的な困りごと=アスペルガー症候群というわけではないんですね。
本ブログでは、アスペルガー症候群について解説しようと思います。
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アスペルガー症候群(アスペルガー障害とも呼ばれます)とは、社会性・コミュニケーションスタイルの独特さや、興味関心のある対象に強く没頭するといった特性を持つ障害です。
1992年、世界保健機関(WHO)による国際疾病分類であるInternational Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems=ICDの第10版、ICD-10で初めて『アスペルガー症候群』が登場しました。その後、1994年にアメリカ精神医学会発行のDSM-Ⅳというマニュアルにもアスペルガー障害として診断基準が搭載されました。
ICD-10もDSM-Ⅳもそれぞれ数年おきに改訂されていくわけですが、改訂ごとに割と大きな変化が反映されます。元々同じグループだとまとめられていた疾患が別グループになったり、逆に別グループだったものが同じグループに統合されたりするわけです。
2013年のDSM-ⅣからDSM-5への改訂にて『アスペルガー症候群(アスペルガー障害)』の取り扱いに大きな変化がありました。
なんと、アスペルガー症候群(アスペルガー障害)が無くなってしまったんです(!)。
DSM-5への改訂にて、アスペルガー症候群(アスペルガー障害)は『自閉症スペクトラム障害(自閉スペクトラム症:ASD)』に含まれる疾患概念となりました。アスペルガー症候群と同様の特性に加えて言葉の遅れを認める自閉症(自閉性障害)や、その特性の程度が高くない特定不能の広汎性発達障害などが『自閉症スペクトラム障害』として括られています。
“スペクトラム”とは『連続体』という意味です。元々は、『自閉症』、『アスペルガー症候群』など、それぞれ異なるグループだと考えられていたわけですが(広汎性発達障害:PDDという大きなグループに位置してはいましたが)、それぞれ特徴(専門的には特性と呼びます)の濃淡はあれど、実は共通していることがわかってきたんですね。
ちなみにアスペルガー症候群の語源は、ハンス・アスペルガー医師が学術報告したグループであることからきています。
アスペルガー症候群(ASD)の原因は現状特定されていません。
かつては、“養育者の愛情不足や家庭環境が原因である”という仮説(冷蔵庫マザー仮説)がありました。端的に言えば、母親の愛情不足によって自閉症になるという仮説なのですが、時代ですよね…。当然、現在はきっぱりと否定されています。
近年の考え方のトレンドは、複雑な遺伝子的要因や生来的な脳の障害等が関わっているのではないかというものです。生来的な特性をいかに活かすかという観点において、養育環境は一つの変数になりうると考えるのが実際的です。
とは言え、『養育環境は一つの変数に過ぎない』のに、『唯一の変数』と拡大解釈され犯人探しにつながってしまうケースも…。養育環境が唯一の変数となれば、必ず誰か(多くの場合複数の誰か)が傷つきます。“生来的な特性をいかに活かすか”については、様々なアプローチがありますし、多くの場合はそれぞれを組み合わせた複合的なアプローチが有効です。
さて、アスペルガー症候群の特徴(特性)をざっくりまとめると以下の3点となります。
1.社会性・対人関係・コミュニケーション
相手の内側にある感情や思いを「察する」よりも、見えている情報(言葉、表情など)から物事を理解する機構を持っています。俗に言う『空気を読む/読めない』という話です。
コミュニケーションとは“言葉のキャッチボール”と例えられる通り、自分の感情や考えを表現し、相手が表現したものを理解することの繰り返しです。
アスペルガー症候群の方の場合、コミュニケーションスタイルが独特です。例えば、一方的に話したり、字義通りの理解をしやすいため友達から『バカだな~』と冗談で言われたことを真に受けてしまったり、話題の細部に注力する結果、話の展開についていけなかったり。
自分の考えや思いをキャッチし表現することが苦手であること、相手の考えや思いを想像するより可視化された情報から理解するスタイルであることから、コミュニケーション場面において混乱を招くケースもあるようです。
さらに、アスペルガー症候群以外のASDでは言葉の遅れが認められることがあり、それゆえに他者とのコミュニケーションがうまくいかない場合もあります。
2.行動や興味の偏り
ルーティーンへの親和性が高く、日常生活がパターン化しやすい傾向があります。
例えば、朝に目が醒めたらまずは伸びをして、トイレに行って、その次に歯を磨いて、顔を洗って…など、自分なりの決まりに従って生活をします。ただ、一緒に暮らしている家族がトイレに入っているため決まり通りに動けない…!という場面に遭遇したとき、そしたら先に歯を磨いておこう、と臨機応変に行動するというよりは、ルーティーンに固執する(その結果、いつもと違う状況に混乱してしまうことも…)タイプと言えます。
また、興味・関心を持つ事柄について極度に没頭する機構を持っています。好きなことには寝食を忘れるほど熱中し、仕事や勉強など他に必要なことを忘れてしまうこともあるようです。
“マイルール、マイペース、マイワールド”を大切にするタイプだと言えますね。
3.知覚
近年の知見では、光や音など五感の刺激(感覚刺激)をキャッチするスタイルが特徴的だとされています。感覚刺激に対して非常に敏感なタイプの人、反対に刺激が強く入ってこないタイプの人、とスタイルは様々です。例えば、光や色などの視覚刺激に敏感な人の場合、真っ白な紙や蛍光色を眩しく感じ、勉強に集中できないことがあるようです。
【参考】
上記のような特性から日常生活や仕事、学校生活などに困りごとが生じている場合、医療機関をご受診されることもあるかもしれません。
心療内科・精神科では、診断マニュアルであるDSMやICDの診断基準に照らし合わせてご本人のお話を聴取します。発達障害は先天的なものだと定義されているため、ご本人の幼少期を知る養育者の方からもお話を伺ったり、必要に応じて検査を実施したりして、多角的に診断していきます。
時折、WAISやWISCと呼ばれるWechsler式知能検査の結果、アスペルガー症候群だと言われました、というエピソードを耳にするのですが大いに『?』です。一時、アスペルガー症候群やASD、ADHD(注意欠如多動症)をWechsler式知能検査で判別する、というムーブメントがあったのは確かですが、様々な知見を総合した結論は、単一の検査から診断名は導き出せない、というものでした。
仮に『知能検査の結果○○です』という説明を受けた場合は、『知能検査の結果も含め総合的に○○です』と理解しましょう。
なお、困りごとの内容によっては精神疾患と鑑別する必要があります(正しくは重複することもあります)。代表的なものを3つ挙げますね。
①うつ病・うつ状態
憂うつな気持ちを抱えているとき、これまではそつなくこなせていた作業がうまくいかなくなったり、コミュニケーションがうまく取れなかったりすることがあります。そういった状態像が、アスペルガー症候群と類似して見えるケースがあります。
アスペルガー症候群の特性ゆえ環境とマッチングが高まらないこともあります。社会生活がしっくりこなければ、落ち込んだり、自信を失ったりする可能性は当然上がるわけで、結果としてうつ病やうつ状態になることは充分にあり得ます。
※特性と環境とのミスマッチングにより生じる困りごとを専門用語では『二次障害』と言います(特性部分を一次障害と考えます)。
【参考】
②強迫性障害
ルーティーンへの親和性が高いという観点から、アスペルガー症候群は強迫性障害と類似している部分があります。
強迫性障害とは、自分の意志とは関係なく『~しなければいけない』といった考えが頭から離れず(強迫観念)、違和感(自我違和感)を持ちながらも同じ行動(強迫行為 例:鍵の開け閉めを確認する、手を洗うなど)を繰り返します。
【参考】
アスペルガー症候群は、変化よりも恒常を好むため決まった行動をルーティン化していることがあります。また、変化による不安感を減らすために何度も同じことを繰り返したりすることがあります。
③統合失調症
アスペルガー症候群では、生来的に感覚刺激への敏感さを持っていることが多いことがわかっています。一方で、ある日突然、光や音が気になり生活に支障をきたしている場合、統合失調症を含む精神疾患を疑う必要があります。
『フィルター障害仮説』という統合失調症を説明する仮説がありますので、そちらに沿って説明しますね。
私たちは、生活環境に存在する様々な情報を意識下で選別しています。必要な情報を取り入れ、不要な情報をカットしているわけです。情報の取捨選択は、私たちの脳に備わっている「フィルター」の働きによって行われます。統合失調症を発症すると、このフィルターがうまく機能しなくなり、元々フィルターがカットしていた種々の情報(音などの感覚刺激や自身に無関係な情報)を取り込んでしまうようになるわけです。
生来的な特性なのか、後天的な症状なのかは鑑別の大きなポイントですね。
【参考】
(精神科・心療内科に限った話ではなく)医学的診断のプロセスにおいて医師は『除外』を通じて診断名を絞り込んでいきます。うつ病・うつ状態、強迫性障害、統合失調症に限らず、アスペルガー症候群(ASD)と似ている部分を持っている疾患・障害は数多くあります。決して『自分はアスペルガー症候群に違いない』と自己判断しないようにしましょう!
アスペルガー症候群の治療に関する考え方を解説しておきましょう。
実際に医療機関を受診し、医師よりアスペルガー症候群(ASD)と診断されたとして、何より重要となるのは『自分自身のタイプを理解すること』です。
先ほどの感覚刺激一つ取ってみても『自分に感覚過敏の傾向があるかどうか』、あるとすれば『何に対して過敏なのか』把握しているだけで、自分にストレスのかからない選択をすることができます。聴覚過敏であればノイズキャンセリングイヤホン、視覚過敏であれば蛍光色でないマーカーなど、現在は色んなツールがありますしね。
極度な没頭も、考えようによっては関心事に集中できるということでもあるわけで。職業選択の際、参考になるかもしれません。
ちなみに、現状、アスペルガー症候群(ASD)を含む発達障害を治す薬はありません(そもそも論として治すという発想を持って向き合うものでもありません)。
リスペリドン(商品名リスパダール)、アリピプラゾール(商品名エビリファイ)というお薬には『小児期のASDに伴う易刺激性』に対して適応がありますが、これは易刺激性による困り感を低減させるというコンセプトですね。
環境とのマッチングがうまくいっていない結果、二次的に生じている問題(眠れない、気分の落ち込みなど)に対して薬物療法や心理療法を提案されることはあり得ます。
アスペルガー症候群(ASD)含む発達障害における特性は、基本的には生来性のものです。特性と環境のマッチングが良ければ、事例化することなく経過することもあります(この場合、障害という概念で考えるべきかどうか、という議論はありますが…)。
つまり、子どもの頃から特性が困りごとになることもあれば、大人になってから初めて困りごとが生じることもあるわけです。
特性の程度は人によって様々で、当たり前ですが困りごとも人それぞれです。従って、治療方法も人によって多少変わるわけですが、共通しているのは『自分自身の特性理解が解決の鍵』という点です。
社会生活の中で何かしらの障壁を感じている場合は、発達障害の専門機関に相談することも手だと思います。
自分らしく生きることへの第一歩になるかもしれません。
【参考】
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について|厚生労働省
【解説】 本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医) |