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タグ : ayano(公認心理師・臨床心理士) , メンタルヘルス , メンタル不調・精神疾患解説 , 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー)
2021年9月30日
最終更新日 2024年3月2日
目次
HSP診断テストをしてみた。 ん?得点が高い! 自分はHSPなのかも。 あれ?これって病院に行くべき?
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結論からお伝えします。
HSPは病気ではないので病院に行っても仕様がありません。
ただし!困りごとによっては病院に行った方が良いケースもあります。
本ブログでは、精神科医監修のもと【HSPは病院に行くべきか】、HSPの診断問題を解説します。
【こちらもどうぞ】
精神科医監修:HSPと発達障害は似ている?併発の診断は可能なのか?
【精神科医監修】ギフテッドとは?|ギフテッドの特徴・発達障害との違い・診断問題を解説
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最近様々なメディアで見聞きすることが増えたHSP(Highly Sensitive Person。子どもの場合はHighly Sensitive Childの頭文字を取ってHSC)。『繊細さん』なんて呼ばれたりしていますね。『敏感さゆえの生きにくさ』を指すときに使われることが多いようです。Googleなど検索サイトで調べてみると、予測変換には『HSP 診断』、『HSP 治療』といったワードが続きます。これは『病気』を連想させますね…。病院に行くべきか不安になってしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そもそもHSPって何なんでしょう?端的に言えば、HSPは“鋭敏なタイプ”。それ以上でもそれ以下でもありません。
好奇心旺盛なタイプ/慎重なタイプ チームプレーヤータイプ/ソロプレーヤータイプ わいわい好きなタイプ/のんびり好きなタイプ |
世間に浸透している『タイプ』をあげはじめるとキリがありませんが、その一種だと考えていただければ間違いありません。好奇心旺盛なタイプにも、非常に好奇心旺盛な人もいれば、ある程度好奇心旺盛な人もいるように、HSP=【鋭敏なタイプ】にも非常に鋭敏なタイプ、ある程度鋭敏なタイプが想定されています。ある程度鋭敏から非常に鋭敏までを網羅するタイプの話なので、HSP診断テストでチェックしてみて当てはまるかもと思うのは自然なこと。過度に不安にならなくて大丈夫ですよ。
ここからはHSP/HSCに関する専門的な解説を加えます。少々固い言葉が並びますが、できる限り噛み砕きますのでお付き合いください。HSP/HSCにおける鋭敏さを理解するうえでは、“環境に対する鋭敏さ”、“感覚刺激に対する鋭敏さ”、この2つが鍵となります。それぞれ説明していきますね。
まず、環境に対する鋭敏さ。専門的には『環境感受性』(Environmental sensitivity)と表現します。環境感受性は、ポジティブなもの・ネガティブなものは問わず“種々の環境からどれくらい影響を受けるか”という一つの指標だと考えてください。HSPは環境感受性が高いグループという定義がされていますが、つまりは、環境の影響を受けて、すごくハッピーになったりすごくしんどくなったりしやすいタイプだと言えます。
メディアでは、『HSP=すごくしんどい』という一面が強調されていますが、それだけでは説明が十分ではないということですね。ちなみにこの環境感受性、それそのものは特別なものではなく、誰もが持ち合わせているものだとされます。もっとシンプルに考えてみましょう。
家にいるときと外出するとき。違いがありますよね?外出に限っても職場と遊びに行った先では影響が違うでしょうし、友人と家族、同僚、上司、先生など、その場にいるのは誰か、といった環境によってその影響は変わると思います。環境感受性は誰しもが持ち合わせているということをイメージいただけましたか。あとは感受性が高いか低いかの程度の問題です。
なお、最近の知見では、環境感受性は正規分布するのでは、と推測されています。正規分布をイメージしていただくのに最もポピュラーなのが偏差値。真ん中が最も盛り上がった山なりのあれです。つまり、理論上は、環境の影響を非常に強く受ける人、影響が非常に低い人の出現率がそれぞれ人口の約2%(2.3%)、環境の影響を強めに受ける人、影響が低めな人の出現率が約16%(15.9%)、環境からの影響を平均的に受ける人が約7割(68.3)ということになります。
HSPにおけるもう一つの敏感さは感覚刺激に対する鋭敏さ、専門的には『感覚処理感受性』(Sensory processing sensitivity)と表現します。音や光、服のタグの感触や食べ物の味などなど。私たちの生活環境には様々な感覚刺激が存在しています。視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚と呼ばれるものですね。こういった感覚刺激に対する反応が鋭敏なタイプ、これが感覚処理感受性の高いタイプです。
【参考】精神科医監修|音が気になる…これって病気なの?聴覚過敏の世界
学術的には、HSP/HSCとは環境感受性と感覚処理感受性の高さを指すのです。つまり、環境の影響に鋭敏、感覚刺激に対して鋭敏、そんな鋭敏なタイプをHSP/HSCと定義しましょう、という話です。
HSP(HSC)は環境・感覚情報に対して感受性の高い鋭敏なタイプ、それ以上でもそれ以下でもありません。あくまで鋭敏という切り口でタイプをまとめたというコンセプトですから、当然ながら病気ではありません。アメリカ精神医学会によるDSM(精神障害の診断および統計マニュアル)にも掲載されていませんし、ICD(国際疾病分類)にもHSP/HSCの記載はありません。好奇心旺盛なタイプだから病院に行きますか?という話です。
HSPが病気ではない以上、病院に行っても診断がつくわけでもなく、当然治療法があるわけでもありません。冒頭でお伝えした『HSPは病気ではないから病院に行っても仕様がない』というのはこういうことです。ではHSPは本当に病院に行っても仕様がないのか。例え話で整理してみましょう。
好奇心旺盛なタイプのAさん。 庭に珍しい真っ赤なキノコが生えているのを発見! 好奇心にかられてキノコを食べてみた! はい、お腹を下しました。 |
この場合、病院に行けば胃腸炎と診断されて、お薬が出たり、アドバイスをもらったりするでしょう。タイプ=病気ではないが、タイプゆえ病気になることはある。その場合においては病院に行く意義はある、ということです。感受性が高く鋭敏さに翻弄されるあまり、生活に支障が出ている場合、意識を今ここに固定する【マインドフルネス】が有効かもしれません。
臨床心理士がわかりやすく解説!マインドフルネス講座解説編
HSP自体は感受性が高いタイプであって病気ではない。だから病院に行っても仕様がないのはわかった。とは言え『生きにくさ』が存在するのは事実です。この『生きにくさ』抱えて生活していくしかないのか…。もう少しだけお付き合いください。あなたのその『生きにくさ』、解消するための標準治療が世の中に存在しているかもしれません。HSP/HSCと非常によく似た疾患をご紹介します。
その生きにくさHSPではなくてASDかも?
先ほど説明した感覚処理感受性。感覚刺激への鋭敏さですね。感覚処理感受性はあくまでタイプの話なのですが、感覚刺激への鋭敏さ(または鈍感さ)が症状の一つである疾患があるんです。それが自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:以下ASD)です。ASDという疾患概念において、感覚刺激への鋭敏さ(鈍感さ)は感覚過敏(感覚鈍麻)としてまとめられます。基本的には、生まれてから現在までのある時点で出現するというよりは生まれ持った特性であると考えてください。
※ちなみに、ASDには感覚過敏の他、対人関係・コミュニケーションが苦手、ある事柄に対して強い“こだわり”があるといった症状があります。厚生労働省の解説にリンクを貼っておくので参考になさってください。
ASDの標準的な治療は、生活環境の調整となります。
関連項目:
その生きにくさHSPではなくて不安障害かも?
HSPの特徴の1つに“物事を深く考えすぎて疲れてしまう”ことがあります。“考えすぎる”背景には、強い不安感が存在していることもあるんです。精神科領域では、不安症(不安障害)という疾患概念があります。本来、不安になること自体は何の問題もありません。しかし、その不安が日常生活に支障をきたすとなると話は別です。例えば、強い不安感・恐怖感で頭がいっぱいになったり、考えすぎて動悸や息苦しさなどの症状が出てきたり、不安を感じるものを避けて生活したり、といった状態ですね。不安障害の標準的な治療は、抗うつ薬・抗不安薬を用いた薬物療法や精神療法・心理療法(認知行動療法など)となります。
関連項目:
その生きにくさHSPではなくて強迫性障害かも?
強迫症(強迫性障害)とは、自分でも「おかしいな」と違和感を持つほど強い不安感・不快感があり、その解消のために過剰な行動を繰り返す精神疾患です。コロナ禍で起こりがちな強迫症の例を挙げましょう。外出先では、多くの場所で手指のアルコール消毒が徹底されていますね。『感染したらどうしよう…』と不安になることもありますが、私たちはできる限りの感染対策をしながら日々を送っています。しかし、その不安感が強すぎて苦しくなると、少しでも安心するために過剰に消毒をしたり手を洗い続けたりすることがあります。そのような行動を繰り返しても不安感はぬぐい切れず、結果として不安感や不快感が増長する可能性を高めてしまうのです。
強迫性障害の標準治療は、SSRIや三環系と呼ばれる抗うつ薬を用いた薬物療法や精神療法・心理療法(認知行動療法など)となります。
関連項目:
その生きにくさHSPではなくてうつ病かも?
自分は大きな病気なのではないか。そんな考えにとらわれてしまう症状を心気妄想(しんきもうそう)と呼びます。クラシカルな分類法では、罪業妄想(ざいごうもうそう)、貧困妄想(ひんこんもうそう)とともに、うつ病に伴う三大妄想としてまとめられます。自分はHSPなのではないか。そんな考えに支配されて深く考え込んでしまったり、ネットを調べて若干怪しい対処方法に手を出してしまったり…。
もしかするとそれは心気妄想かもしれません。『HSPかもしれない』。そんな心配ごとに、気分転換がうまくできなかったり、夜眠れなかったり、食欲が落ちていたり、そんな不調を伴っていませんか?『HSP(HSC)は疲れやすさを伴いやすい』とまとめられているようですが、うつ病も身体的な症状として疲れやすくなったり倦怠感が出現したりします。
うつ病の標準治療は休養、環境調整、薬物療法、精神療法・心理療法(認知行動療法など)となります。
【メンタル不調についてはこちらもどうぞ】
【精神科医監修】そのメンタル不調、サインかも?|ビジネスパーソン必見!
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もしメンタルの病気になったら? |公認心理師が疑問にお答えします!
ASD・不安障害・強迫性障害・うつ病と、HSP/HSCとよく似ている困りごとを解説しましたが、どれにも当てはまらなかった方。もしかするとその生きにくさ、考え方の癖が関係しているかもしれません。考え方の癖は認知行動療法にて取り扱うことの多い概念。肩コリの考え方バージョンとイメージしていただくとよいかもしれません(わかりづらいですね笑)。生活環境への適応プロセスのなかで、物の見方・考え方が凝り固まりつつある状態とでもいいましょうか。
『最近うまくいかない、嫌なこと続きの毎日。自分が生きにくいのはHSPのせいに違いない!』
考え方のコリをほぐすとぐっと生活しやすくなるかもしれません。詳細については下記ブログをご参照ください。
【関連項目】
【精神科医監修】認知の歪み?10パターンの考え方の癖を解説!
【精神科医監修】認知のゆがみの治し方|心のコリほぐしましょう!
認知行動療法とは?認知再構成法と行動活性化【精神科医監修✕公認心理師解説】
自分はHSP(HSC)かもしれない。そんな感覚に敏感になっている現状を、仮に【HSP現象】としましょう。先述の通り、『HSPかもしれない生きにくさ』の本体は、標準治療の確立された何らかの疾患である可能性があります。自分でHSPだと決め込んでしまうことで治療につながる機会を逸しているのであれば、これは大きな損失です。同じ困りごとであるのに、Aさんは治療を受けて生活の制限が外れている一方で、Bさんは治療を受けられる状態であるにも関わらず(それを知らずに)生活の制限を受けているのですから。これはHSP現象の功罪でいうところの罪の部分ですね。
一方で、HSPかもしれないしそうでないかもしれないけれども、困っているのは確かだ。専門家に詳しくみてもらおう。そんな感じに何らかのサービスにアクセスする行動が増加するようであれば、これは間違いなく功・功績の側面でしょうね。メンタルヘルスのサービスはアクセスまでのハードルが高いもの。様々な研究によって援助希求行動/援助要請行動と呼ばれる援助を求める行動(help seeking behavior)が生起しづらい領域であると明らかになっています。自身の困り感を自覚すること。そのうえでサービスを使ってみようと思い行動を起こすこと。この2つにつながるのであれば、HSP現象には大きなメリットがあると言わざるを得ないでしょう。
サービスにアクセスした方が適切なサービスにつながる社会を創造すること。それが我々専門職に課せられた使命だと感じます。昨今のHSP/HSCブームを見ていてあれこれ思うところはあるのですが、コンプレックス商法への利用には疑問を感じます。医療には倫理の四原則が規定されていますが、善行原則や無危害原則に抵触する可能性があります。
【監修】 本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医) 【執筆】 古くはアダルトチルドレンやボーダーラインパーソナリティ(境界性パーソナリティ障害)、最近ですとHSP/HSCやギフテッド。流行の数だけ潜在的な困りごとが存在していたということだと思います。困っているのに声を上げづらい状況に対して、我々メンタルヘルス専門職の感受性を高めることが必要だと感じます。 |