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精神科医監修:HSPと発達障害は似ている?併発の診断は可能なのか?

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2023年3月17日

最終更新日 2023年3月17日

よく似ているHSPと発達障害の併発診断問題を精神科医監修で解説

 

最近インターネットの記事や書店に並ぶ本のタイトルで目にすることが多くなった「HSP」という単語。Highly Sensitive Personの略で、日本語では「とても敏感な人」「繊細さん」などと訳され、視覚、聴覚、共感力など些細な刺激にも反応する敏感な気質を生まれながらにもっている人のことを指します。HSPの概念は自身の過敏さに悩んでいたアメリカの心理学者アーロンによって1996年に提唱されました。HSPは社会、年齢、性別などの関係なく、人口の15~20%、つまりおよそ5人に1人の割合で存在すると言われています。

 

 

ブログ執筆にあたりHSPに関する研究動向を概観してみましたが、HSPと既存の概念との関連を検証している研究が多い印象です。つまるところ、新たにHSPという概念を持ち出す必要があるのかどうか、今後知見の蓄積が待たれるという状況かと推測します。“既存の概念を以て説明可能なHSPがなぜここまで流行しているのか”。研究の対象はその社会背景なのかもしれません。

 

アダルトチルドレンや新型うつ、毒親、(狭義の)発達障害など…。メンタルヘルス近縁の概念は定期的に流行するわけですが、HSPが一過性のムーブメントで終わるのか、困り感を抱えた方々をすくい上げる装置となりうるのか。今回は頻繁にHSPとの関連が取り上げられる発達障害との関連に触れていきたいと思います。

【飯村周平先生のHPです】

Japan Sensitivity Research 心理学者によるHSP情報サイト

 

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■HSPと発達障害は似てる?


前提として、HSPは気質の特性であり、発達障害は脳の機能に異常が起きることによって発生する症状である点が決定的な違いです。また、HSPは医学的な病名ではないため、医療機関を受診したとしてもそのような診断がつくわけではありません。

 

HSP(HSC)は環境・感覚情報に対して感受性の高い鋭敏なタイプ、それ以上でもそれ以下でもありません。あくまで鋭敏という切り口でタイプをまとめたというコンセプトですから、当然ながら病気ではありません。

【引用】HSPは病院に行くべきか??診断問題を解説

 

HSPの敏感さや細かさは、しばしばこだわりや変化への不適応、注意力散漫といった形で顕在化します。こだわりが強く変化への適応が苦手な発達障害である自閉症スペクトラム障害/自閉スペクトラム症(ASD)、注意力が継続せず散漫になりがちな発達障害である注意欠如多動性障害/注意欠如多動症(ADHD)と混同されることもあるかもしれません。

関連項目:発達障害(厚生労働省)

 

 

加えて、種々の特徴のために生きづらさを感じたり不安やイライラが募り情緒不安定になったりする点大勢の人が集まる場面において気を遣いすぎるHSPと周囲の人々の感情や話の流れについていくのが大変な発達障害者がそれぞれ疲れを感じるという点において、背景は違うもののよく似ている部分があると言えるかもしれません。

 

一方で、前提として説明した通りHSPは病気ではありませんから、HSPの敏感さや細やかさは治療で改善するものではなく、障害が理由で受けられるようなサービスの対象にもならないのです。二次的な不調として気分の落ち込みや動悸が出現しているなどという場合は治療を受けることで改善されるケースもありますので、気になる症状がある場合は自己判断せず専門機関をたずねてみましょう。

 

■HSPと発達障害を併発することはある?


HSPの敏感さは以下の4つの特性で特徴づけられています。

 

①深い情報処理を行う

視覚刺激の受け取り方や空気を読み取る力に優れているため、簡単に結論づけられるような物事に対しても様々な思考をめぐらせ、HSPではない人よりも細やかに情報を認識します。

②過剰に刺激を受けやすい

外部からの刺激に非常に敏感に反応するため、音、光、味、気候の変化などに対してHSPではない人と比べ桁違いに多い情報が入ってきます。

③感情の反応が強く共感力が強い

周囲の人の気持ちを表情やしぐさなどから敏感に感じ取り深く共感する傾向があるため、相手が表現していないメッセージまで読み取ってしまい、過剰に共感や同調してしまうことがよくあります。

④些細な刺激にも反応する

他の人が気付かないような全体のごく一部の変化に気付いたり、音、光、香りなどの刺激がちょっとしたものであっても敏感に察知したりします。

 

HSPの人たちは上記の特徴によって疲弊したり不安になったりしがちだと指摘されています。上記特徴は自閉症スペクトラム障害(以下ASD)の人たちにもみられる特徴です。程度の大小や自他の認識にもよりますが、HSPではないかと思い医療機関を受診したところ、幾度もの医師とのやり取りや検査を重ねた結果ASDだった、という診断に至る事例もあるようです。

 

発達障害とひとまとめにすると前述した注意欠如多動性障害(ADHD)や読み・書き・計算などが極端に苦手な学習障害(LD)なども含みますので、発達障害全般というよりもASDはHSPはよく似ている概念であり、困り感を抱えた当事者の方からすれば併発していると考えたくなるかもしれません。上記4つの特徴に加えASD特有のコミュニケーションの不得手さがある、音や光には敏感だが他人の気持ちを推察したり表情を理解したりするのはあまり得意ではないというタイプの場合、既存の疾患概念で言えばASDによく当てはまります。

【こちらもどうぞ】

感覚過敏からユニバーサルデザインを考える|精神科医監修ブログ

 

■HSPと発達障害、どちらなのかを診断することは可能?


ここまでの中で何度か触れてきましたが、現状ではHSPというのは医学的な病名ではなく気質や特性として理解されています。それに比して発達障害は、DSMというアメリカ精神医学会が作成している精神疾患の診断・統計マニュアルや、ICDという世界保健機関(WHO)が作成している疾病及び関連保健問題の国際統計分類で診断基準が明文化されています。

関連項目:疾病、傷害及び死因の統計分類|厚生労働省

 

このような観点から考えると、医師は患者に対して“他人よりも敏感さがある、共感力に優れているなど”と認めることがあるとしてもHSPという診断はつけないでしょう。だからといってすぐに発達障害だという話になるわけでもありません。診察室の中で話をすることでDSMやICDの診断基準を満たしていると認識したとしても、発達検査や知能検査といった各種検査結果や、学校や社会での対人関係や集団生活の様子などを加味して、最終的に判断するのです。

 

 

ASDやADHDといった発達障害の診断がつくことで、”治療の対象になり服薬などによる症状の改善が見込める”、”障害者手帳の取得や福祉サービスの利用が可能になる”、”職場に合理的配慮を求められる”などの利点も考えられますが、自分自身が一番困っていることはどのようなことで今後の人生それらとどのように付き合っていったら良いのかを見極め、適切な対応をとれるように支援を受けることが大切です。

 

【解説】

ふ~みん(公認心理師)

例えばアダルトチルドレンが流行したことでアルコール問題に光が当たったように、新型うつが流行したことでブラック企業が社会問題となったように、HSPが流行することで顕在化する何かがあるのかもしれません。顕在化する何かがあるのか。それが何なのか。明らかになるにはもう少し時間が必要なのでしょう。

ふ~みん記事一覧

 

【監修】

本山真(精神科医師/精神保健指定医/産業医/医療法人ラック理事長)

2002年東京大学医学部医学科卒業。2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年医療法人ラック設立、2018年には2院目となる綾瀬メンタルクリニックを開院。株式会社サポートメンタルヘルス代表取締役社長として、心理スタッフによる中小企業のハラスメント外部相談窓口サービス(ハラスメント・コンサルティング・デスク)をリリース。ご興味がございましたらお問い合わせください。

 

 

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