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タグ : オタク臨床心理士・公認心理師は語る。 , メンタルヘルス , 籔(公認心理師・臨床心理士)
2022年10月28日
最終更新日 2024年1月13日
目次
メンタルヘルス情報配信中!
【執筆】 籔(公認心理師・臨床心理士) 今回はユニバーサルデザインと感覚過敏について取り上げました。ブログ後半で文字のフォントについて語っていますが、私フォントオタクなんですよ。タイトルのユニバーサルデザインからかけ離れますが、視認性を無視したフォントが大好物です。
【監修】 本山 真(精神科医師|精神保健指定医|医療法人ラック理事長) |
色々な人が生活する社会では、どんな人でも過ごしやすく生活できるための工夫がなされています。ちょっと前だと「バリアフリー」、今は「ユニバーサルデザイン」という言葉を耳にする機会が増えてきているかもしれません。
最近よく聞くユニバーサルデザインですが、どのようなものかご存知でしょうか?辞書的な意味でいうと「universal」=普通の、広い範囲の、「design」=設計、といった意味があるようで、「社会の広い範囲で使いやすい設計やしくみ」と考えればよさそうです。
このユニバーサルデザインの発端には、車いすの方のために車道と歩道の段差を埋める坂を設置したところ、車いすだけでなく自転車やベビーカーなど、色々な人が使いやすくなった、というエピソードがあるようです。誰かのためのデザインや工夫が、他の人にとっても助かるものになっているというイメージが近いですね。転じて、誰にとってもバリアが発生しないような、使いやすいデザインのことをユニバーサルデザインと呼ぶようになりました。
日本では、『ユニバーサル社会の実現に向けた諸施策の総合的かつ一体的な推進に関する法律(ユニバーサル社会実現推進法)』が2018年に制定されており、以下の目的のもとで誰もが暮らしやすい社会を目指す活動を促しています。
全ての国民が、障害の有無、年齢等にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、障害者、高齢者等の自立した日常生活及び社会生活が確保されることの重要性に鑑み、ユニバーサル社会の実現に向けた諸施策を総合的かつ一体的に推進することを目的としています。
では、バリアフリーとは何でしょうか?概念としては似ていますが、こちらは、障害者や高齢者、妊婦や子供などに特に焦点を当てて、社会にある「バリア(障壁)」をなくしていこう、という活動の流れです。生活で障壁を感じやすい人の障壁を取り除きましょうということですね。色々な場所に設置されたスロープや手すりなどはバリアフリーの取り組みと言えそうです。
バリアフリーでは、「(特定の障壁を感じやすい人の)バリアをなくす」ことが目的になっているのに対して、ユニバーサルデザインでは「(対象は問わず)誰に対してもバリアが発生しない」ことを目的としています。全くの別物ではなく、ユニバーサルデザインは、もっと広い範囲に目を向けた考え方ということですね。
感覚とは、五感をはじめとした、外界の刺激を感知する仕組みやそのはたらきのことです。目に入ってくる光や、耳に届く音、触れたものの感触などなど…、生きている時には、我々は常に何かしらの感覚刺激に晒されており、切っても切り離せないものです。
そして、この感覚というのは千差万別で、同じものを見ていたり聞いていたりする筈なのに、感じ方は思った以上に異なるようです。これは、いわゆる聴覚障害や視覚障害だけではなく、「自分と同じ五感をもって生きている人」たちの間でも起こっています。
現代科学では解明が困難といわれる「クオリア問題」などは、まさに主観的な感覚に関する問題提起です。「自分が見ている赤色と、隣の人が見ている赤色は、果たして本当に「同じ赤」なのか?」という問いは、興味は尽きないものの一生体験することは叶いません。そこにある刺激は数値化できますが、受け取り手の感じ方までは分からないのです。
生活場面を振り返ってみると、同じ音を聞いても「ちょうどいい」「うるさい」「静かだ」とそれぞれ感じる人がいたり、同じ光を見ても「眩しい」「普通」と感じる人がいたりと、物理的には同じ刺激の強さであっても、受け取る側の人によってその刺激の意味は全く異なる様相を呈してくるのです。
…とはいえ、「人とは違うらしい」ということが頭で分かっても、自分ではない人の感覚を想像するって、ちょっと難しいですよね。特に、明らかな違いがない場合には、「個人差」で終わってしまうことも少なくありません。
それで全員が快適に過ごせているなら気にする必要はありませんが、ちょっとした違いで「実は大変なの…」という思いを抱えている方がいたらどうでしょう?
ユニバーサルデザインは、「なるべく多くの人のバリアがない状態を目指していこう!」という試みなので、こういった「個人差」もなるべく広く見ていかないといけないわけです。
でも、何のとっかかりもないと途方に暮れてしまいますね。「違うのは分かるけど、どう違うのかなんて分からないし…」「そもそも、他の人の感じ方なんて考えたこともなかった」というのは当たり前だと思います。他の人の感覚が体験できる人はいないとされているので、誰もが自分の感覚を「普通」だと思っています。
今回のテーマはユニバーサルデザインなので、感覚が人と違うことで、見えないところで生活に支障をきたしやすい「感覚過敏」に着目してみたいと思います。
上述のように、人それぞれ違うらしいと頭では分かるものの、実感するのがとても難しい感覚。…とはいえ、なんとなく「人より匂いに敏感かなあ」とか「好き嫌いが多いのかもしれないなあ」と感じることはあるかもしれません。しかし、大体は「好み、個人差の範囲だからワガママかもしれない」「皆そんなもんだろうから、自分の気にしすぎ」と片付けてしまったりするものです。
実はこの感覚、生まれつき非常に独特さを持っている方がいます。そして、その独特さゆえに生活に支障をきたしていることも少なくありません。「見えない」「聞こえない」といったハッキリと分かりやすい違いではないため、当事者であっても大変さを放置してしまいがちです。
このような独特な感受性のうち、敏感なことを「感覚過敏」と呼びます。対になる言葉で鈍感なことを「感覚鈍麻」と呼びますが、意外にも、一人の人が両方の特徴を持っていたりするのです(独特、とお伝えしたのは、敏感さだけではないためです)。たとえば、「特定の音にはとても敏感で、集中が難しい場面が多い」一方で「痛みには鈍感で、怪我に気付きにくい」ということが同じ人の中で起きたりします。
感覚過敏をお持ちの方は「刺激に敏感」というよりも、「刺激に対する反応が偏っている」と言った方が状態を正しく言い表しているのかもしれません。
さて、この感覚の独特さですが、一般的にはASD(自閉スペクトラム症)の方に多いとされています。とはいえ、個人差も大きく、人によって何に敏感か/鈍感かも様々なため、絶対にこれに反応する!といった指標はありません。
ASDの方の感覚過敏ですが、その脳機能の特徴から考えると、そもそも外の世界の情報を取り込む時に特徴(偏り)があるため起こっている、という説もあります。他の人が取り込まない感覚まで拾ってしまうということですね。
【こちらもご参照ください】
認知バイアスなんかもそうですが、情報の取り込み→処理→出力といった人の活動の中で、どういった情報をどれくらいの比率や強さで取り込むか、どこに注目するか、どうやって処理するかなども個人差が大きい部分です。そのため、人によって受け取り方に差が出るんですね。
そんな感覚過敏ですが、具体的にどのあたりで過敏さがあるのかを例で示してみました。もちろんこの限りではありませんし、過敏な方全員に全部が当てはまるわけでもありません。
今回はユニバーサルデザインということで、社会生活で特に関りが深そうな、視覚と聴覚に限定しています。気になった方はその他の感覚(味覚、触覚、嗅覚)についても調べてみてください。
視覚の感覚過敏チェックリスト |
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聴覚の感覚過敏チェックリスト |
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こうして列挙してみると、気にならない人にとっては本当に些細な生活上の刺激が、感覚過敏の方にとっては障壁になりかねなかったりするのがお分かりいただけるかなと思います。
※より専門的に感覚過敏を調べる場合には、SP感覚プロファイルという心理検査を使用したりします。
感覚過敏の方は、周りが気にならない刺激に邪魔をされる結果、必要な情報が上手く取り込めない…ということが起こりがちです。認識できていないわけではないので、しんどい状態を我慢したり時間をかけたりすれば情報の取り込みはできなくはないため放置されがちですが、工夫次第でつらい思いをしないで済むならそれに越したことはないでしょう。
感覚過敏の方も情報が取り込みやすいユニバーサルデザインを一部ご紹介します。
視覚の感覚過敏への対処 |
形の話 まずは文字の形です。世の中には色々なフォントがありますね。良く使われる明朝体やゴシック体、可愛かったり恰好良かったりするデザインフォントなど、同じ日本語でも様々な形があります。
感覚過敏の方にとっては、明朝体のように一文字の中の線の太さが不揃い(縦が太くて横が細い)なフォントは視認が難しかったりします。不均一さに意識がいって、文字全体を認識するのに時間がかかってしまうようです。
文字全体が同じ太さの線で描画されている「ゴシック体」や、最近のフォントである「UD(ユニバーサルデザイン)明朝体/ゴシック体」等を使用することで、文字の視認性が変わります。
デザインの都合で明朝体は使いたい…という時などはUDの明朝体を採用してもいいかもしれません。
色の話 本来蛍光ペンは、強調のために用いられるものですが、感覚過敏の方の場合「眩しくなってしまって逆に見えない」「目が痛い」といったことが起こります。でも、色がついていた方が見やすい人もいます…。
そんなときは、柔らかい色のペンで線を引いたりすると、見やすい人・分かりやすい人がぐっと増えます。「MILDLINER」シリーズや「フリクション」のソフトカラーシリーズなどは、淡い色味で感覚過敏の方でも視認しやすいマークが可能です。
色のコントラストが強いと、目がちかちかしてしまうこともあるので、「白い紙に黒い文字」ではなく、背景を少しだけグレーにしてみたり、文字を真っ黒ではない濃い目のグレーにしてみることで、感覚過敏の方への負荷がグッと減らせます。リーディングルーラーという色への過敏対策グッズもおすすめです! |
聴覚の感覚過敏への対処 |
例えば学校では、感覚過敏の子どもは机や椅子を引く音が苦手だったりします。大人であっても、机や椅子の音は変わらず苦手で集中が途切れてしまう、頭が痛くなる、といったことは起こります。
ユニバーサルデザイン的な対処としては、引きずっても音のなりにくい素材の床や机・椅子の脚を採用するなどです。ちょっと大掛かりかなと思うならば、カバーを付けて音を軽減するのも全然アリです。引きずる音がしなくて困る人はあまりいないでしょうから、感覚過敏がない人にとってもよい工夫でしょう。
昔は耳栓やイヤーマフを使用したりしてましたが、最近はデジタル耳せんという聴覚過敏対策アイテムも開発されています。 |
人それぞれな感覚過敏ですが、「何がしんどいか」「なぜしんどいか」が分かるとユニバーサルデザインに落とし込む対処が見えてくるのです。
今回は感覚過敏とユニバーサルデザインについて解説してみました。
皆さんが自分で資料や人に見せるものを作るときは、作りたい形があったり、使いたい色があったりと色々考えると思います。全部の物に過敏になる必要はありません。誰を対象にしたデザインなのか、誰が触れるものなのか、それを考えていく中で、感覚過敏の方もいるかもしれない?と気づいた際にはほんの少し工夫を入れてみてもいいのかもしれません。
自分とは異なる感覚を持っている人もいるのかもしれないと知ることが、誰もが使いやすいデザインのある社会への第一歩だと筆者は思っています。
「敏感なこと」「鈍感なこと」はそれぞれが持っている脳のタイプによって変わってくるものです。刺激は絶えず入ってくるのでそれ自体に翻弄されてしまいがちですが、「自分がしんどい刺激があるか」「それによってどれくらい困っているか」が重要なポイントだと思われます。
ガジェットが進化している昨今、ユニバーサルデザインに限らず感覚をサポートするアイテムは数多くあります。辛いのに前向きにとらえる必要はありませんが、悲観的になりすぎる必要もない場面は実は数多くあります。人とは異なるアイテムを使うことはズルでもなければルール違反でもない、そんな社会になりつつあります。
自分に適したアイテムを活用して、日々の生活を快適に送っていきましょう。
【参考文献】
金子書房 井出正和(2022)科学から理解する 自閉スペクトラム症の感覚世界