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【精神科医監修】感覚過敏とスヌーズレン・センサリールーム

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2024年1月12日

最終更新日 2024年3月2日

スヌーズレン・センサリールームと感覚過敏について解説

発達障害、主に自閉症スペクトラム障害の人は、その特性のために視覚や聴覚からの刺激に敏感に反応してしまい生活しづらくなっている場合があります。このような特徴を「感覚過敏」と言い、視覚、聴覚の他、嗅覚、味覚、触覚にも反応しやすいことが分かっています。「感覚過敏」という言葉自体を聞いたことがある人や「聴覚過敏」と聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。

 

感覚過敏は、自閉症スペクトラム障害の人とそうでない人が同じ感覚情報を受け取ったとしても脳が異なる捉え方をしてしまうために生じます。反対に刺激に対する反応が鈍く、気付かない状態を「感覚鈍麻」と呼びます。信じられないような話だと思うかもしれませんが、極端な例では骨折しても痛みを感じない場合があると言われています。

 

過敏にしても鈍麻にしても、生まれもった脳機能障害が原因となっているため、直そうとしても難しいのが実状です。そのため、無理やり直そうとするよりも苦手なものへの対処法を探したり、苦手意識を軽減させる取り組みを検討してみたりする方が当事者にとっての生きやすさにつながると考えられています。

 

今回はそんな感覚過敏と対処法の例についてご紹介しようと思います。

【関連項目】

感覚過敏からユニバーサルデザインを考える|精神科医監修ブログ

 

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感覚過敏とは?


まず、感覚に過敏な人々の感じ方を簡単な例で挙げてみましょう。

 

視覚:照明や電子機器の一般的な明るさでもまぶしく感じ、目に痛みを感じることもある

聴覚:人の多いザワザワした場所では集中できない、予期しない音やサイレンなどの大きな音に驚き不安を感じる

嗅覚:他の人が感じないようなちょっとしたにおいにも気付く、苦手なにおいがある場所では体調が悪くなる

味覚:特定の食べ物を好みそれしか食べない、ちょっとした味の変化に気付き受け入れられない

触覚:服のタグや縫い目が肌に触れると苦痛に感じ着られない、他者から触れられることに抵抗がある

 

上記のような刺激に反応しやすかったり特定の感覚に対する好き嫌いがあったりすることは、自閉症スペクトラム障害と診断されていない人でもあり得ることだと思います。自分自身で何とか対処でき、生活に支障がないレベルであればそれほど問題はないのですが、自閉症スペクトラム障害の人たちの場合はこれらの感覚が耐え難く、非常に大きなストレスとなるのです。

 

対処法として、視覚過敏にはサングラスの着用、聴覚過敏には耳栓やヘッドホンの使用、嗅覚過敏にはマスクの着用などが一般的であるとされています。味覚や触覚については、事前に自分自身の特性を知らせておくことで周囲の人々からの理解につながる場合があります。

 

感覚過敏を把握するための検査


感覚過敏は確かに存在する困りごとですが、個人内で生じているものであるため周囲が気付きづらい困りごとでもあります。目視しづらい感覚過敏を可視化することを目的とした検査として、Sensory Profile™(感覚プロファイル)があります。

 

感覚プロファイルは、対象年齢ごとにバージョンが異なりますが、基本的に感覚刺激をどう受け取るか(過敏さ/鈍感さ)、感覚刺激がどのように生活へと影響しているかをスコア化する構成となっています。それぞれの質問に対して丸を付けて答えるタイプの検査であるため、簡易に実施できる点は強みです。実施が簡易である一方、検査結果から何を読み取ることができるかについては、実施者の知識や経験に依存するところが大きいため、受検に際しては専門機関に依頼することをおすすめします。

 

なお、近年は、発達障害に伴う感覚過敏に加え、メンタル不調によって生じる感覚過敏を把握する手段としても用いられています。

【参考】

精神科医監修|音が気になる…これって病気なの?聴覚過敏の世界

 

スヌーズレンとセンサリールーム


イギリスでは音や光、人混みや周囲の視線などが苦手な視聴覚面での感覚過敏の特徴がある発達障害児やその家族のために、プレミアリーグのサッカースタジアムや空港などに遮音したり照明の光量を落としたりする工夫を施した「センサリールーム」が設置されています。センサリールームとはイギリス独自の呼称ですが、元々は1970年代にオランダで重い知的障害がある人の余暇活動として始まった「スヌーズレン」に由来しています。

 

スヌーズレンとは、クンクンと辺りを探索する様子を表す「Snuffelen(スニッフレン)」と、うとうとして気持ちが良い様子を表す「Doezelen(ドゥーズレン)」の2つを掛け合わせた造語です。障害のある人自身とその支援者や家族が、くつろぎながら安心して活動できるような、また自由に選択や探索ができるような環境を作り、リラクゼーションを促すことを目的としています。

 

スヌーズレンは、アロマセラピー、タッチングケア、音楽療法といったケアが注目され始めた1980年代、それらを1つにまとめようという動きがあった中でヨーロッパを中心に発展してきた歴史があります。日本でも1990年代から現在にかけて、研究が行われています。その広がりは世界45カ国以上にもなるとされ、昨今では個人にとって心地よい感覚刺激を通じたアプローチをすることで、思考・感情・行動を変化させていくセラピーのようなものとしても用いられています。

【こちらもどうぞ】

【気になる効果やエビデンス】音楽療法とは【デメリットはどうなの?】

困りごとの源泉の変遷|医学モデルと社会モデルの違い。BPSモデルそして生活モデルへ

 

スヌーズレンを構成する3つの要素


スヌーズレンを構成する要素は、①利用者、②ケアする人、③環境、の3つであり、それらがそろった“取り組み”のことも指します。落ち着いた気分で過ごすためのスヌーズレンルームには、光・音・匂い・振動・触覚の素材など、五感を優しく刺激するものが効果的に配置してあります。利用する人たちは、この空間で好きな感覚を楽しみ、誰からも指示されない特別な時間を過ごすことができます。

 

今では創始当時の重い知的障害者だけでなく、精神障害者・発達障害児へのプレイセラピーや認知症の高齢者へのケアの場として、心理的に不安定な人の情緒安定をはかるためなど、その対象は多岐にわたっています。2010年以降は教育や特別活動の一環という位置づけで、特別支援教育の世界だけでなく健常者も対象として幅広く取り入れられているという報告さえあります。

 

「スヌーズレン」と「センサリールーム」はほぼ同義語として使われていますが、スヌーズレンを構成する要素が先ほどの3つであるのに対し、センサリールームは多感覚にアプローチできる「環境」のみを指す言葉である点に違いがあります。しかし、どちらも感覚過敏に悩む人たちには大事な存在であることには変わりありません。

 

そのほか、同じくイギリスではクワイエットアワーという取り組みもされています。この取り組みは、外出先の音や灯りにストレスを感じる人たちに配慮し、店舗や施設が日時を限って館内放送をストップしたり照明の光量を落としたりするというものです。そのおかげで、感覚過敏がある人でも不要なストレスにさらされることなく買い物を楽しめるのです。

 

【解説】

ふ~みん(公認心理師)

多様性やインクルージョンが社会に浸透しつつある現代、日本でもこのような取り組みが徐々に取り入れられていくと、生活しやすくなる人たちが増えるかもしれないですね。

 

ふ~みん記事一覧

 

【監修】

本山真

医師、精神保健指定医、日本医師会認定産業医

東京大学医学部卒業後、精神科病院・診療所での勤務を経て、さいたま市に宮原メンタルクリニックを開院。現在は株式会社サポートメンタルヘルス代表に加え、2院を運営する医療法人の理事長としてメンタルヘルスケアに取り組んでいる。

 

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