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タグ : かなた(公認心理師・臨床心理士) , メンタルヘルス
2024年7月26日
進学、就職、引越しなど、新しい環境へと変化するとき、皆さんはどんな気持ちになりますか?ワクワクする気持ちと、不安や緊張が入り混じった気持ちになりませんか?人は新しい環境になるとその環境に適応しようと行動します。時に、環境に適応しようとするあまりに、周囲に合わせすぎたり、自分のやりたいことを我慢したりして心身に不調をきたしてしまうことがあります。世間一般では上述したような状態を過剰適応と言います。今回は過剰適応について簡単にご説明していこうと思います。
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過剰適応をご説明する前に、まずは環境への「適応」についてご説明します。心理学で扱われる適応は、「外的適応」と「内的適応」のバランスが取れた状態を表しています。外的適応とは、社会的環境や文化的環境への適応のことです。例えば、学校で決められているルールに従う、会社で求められる役割を全うするなどが該当します。内的適応とは、自分の欲求に従うことで精神的に安定している状態のことです。内的適応は自分の思うままに行動することで満たされます。例えば、置かれている環境の中でやりたい仕事をする、余暇に好きなスポーツをするなどが該当します。
適応という概念は心理学、発達学、物理学など様々な学問で定義が異なっています。また、大きな概念であるため、学問だけでなく、国や地域、時代などによっても捉え方や考え方が異なります。以下の論文は、適応について理解が深まる論文でしたので、ぜひご覧ください。
【参考】
伊藤 哲司(2018).世界に向けた研究対話の展望:「適応」概念の越境を通して考える 発達心理学研究,29(4),189-198.閲覧日2024年4月18日https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdp/29/4/29_189/_pdf
適応について概観したところで、本題である過剰適応の説明に入ります。過剰適応は「内的な欲求を無理に抑圧してでも、外的な期待や要求にこたえる努力を行うこと」と定義されています。例えば、「1人でゆっくりご飯を食べたい、仕事に集中したい!」という内的な欲求よりも、「みんなで楽しむ雰囲気を壊したくないから、なるべく一緒に行動しよう」という外的な側面を優先しすぎて、内的な欲求がおろそかになってしまっている状態です。つまり、過剰適応は外的適応を満たすための行動(外的適応行動と言います)を過剰にすることで、外的適応と内的適応のバランスが崩れてしまっている状態と言えます。
これまでの過剰適応に関する研究において、過剰適応は抑うつや心身症※と関連することが示されています。過剰適応になることで、適応障害やうつ病につながる可能性があるということです。また、過剰適応と摂食障害との関連を示す研究もあります。このように、過剰適応は様々な精神障害につながるリスクがあります。
※心身症:発症や経過に心理社会的ストレスの影響で機能的な障害を伴った疾患群のこと(過敏性腸症候群、機能性ディスペプシア、本態性高血圧、アトピー性皮膚炎、頭痛(筋緊張型頭痛、片頭痛など)NCNP病院国立精神・神経医療研究センター 「心身症とは」閲覧日2024年4月18日
日潟(2016)によると、過剰適応は以下の2つタイプに分類されます。
「内的不適応感」とは、「自分らしさがない」、「自分に自信がない」といった自己不全感のことです。このタイプは、自分らしさを見いだせず、相手に合わせるしかない状況になる➡内的不適応感(自己不全感)が生じる➡外的適応行動が過剰になる➡過剰適応という流れが想定されています。これまでの研究では自己不全感に影響をもたらす要因として、親子関係・養育態度、性格特性(神経症傾向※や外向性※など)、承認欲求、見捨てられ不安、対人恐怖、アイデンティティなどが報告されています。
このタイプは、内的不適応感に介入をすることで、抑うつの軽減が期待できます。例えば、内的不適応感を感じる本人が成功体験を積み重ねられるような関わりを行う、やりたいことや目標を主体的に考え、形成できる環境を整えるなどの介入が考えられます。
※神経症傾向:落ち込みやすいなど感情面・情緒面で不安定な傾向
※外向性:興味関心が外界に向けられる傾向
Costa, P. T., & McCrae, R. R. (1992). Neo personality inventory-revised (NEO PI-R). Odessa, FL: Psychological Assessment Resources.
このタイプは、自分らしさは感じられていつつも、何らかの要因で外的適応を過剰しなければならない状況になる(外的適応行動が過剰になる)➡自分の思いが表現できず、内的不適応が生じる➡過剰適応という流れです。つまり、内的適応はできつつも、それを上回る過剰外的適応行動によって内的葛藤や自己嫌悪感が生じ、過剰適応になります。外的適応行動が過剰になる要因としては、社会適応能力、不合理な信念※、集合アイデンティティが報告されています。
このタイプは、過剰な外的適応行動にアプローチすることで、抑うつの軽減が期待できます。例えば、対人スキルの向上や他者に対する認知のゆがみの修正(主に認知行動療法)などの介入が考えられます(【精神科医監修】認知のゆがみの治し方|心のコリほぐしましょう!)。
※不合理な信念:さまざまな出来事を「絶対~でなければならない」「~であるのが当然である」といったように捉えてしまう非論理的な認知スタイル
Ellis, A. (1962). Reason and emotion in psychotherapy. 閲覧日2024年4月18日https://psycnet.apa.org/record/1963-01437-000
過剰適応という概念はこれまで様々な研究がされていますが、課題も存在します。
人は親、友人、先生、職場の人など、様々な関係性を構築して生活を営んでいます。例えば、親や友人との関わりでは特に問題ないが、職場にいくと周囲に合わせすぎてしまう…ということがあるかもしれません。このように、関係性によって過剰適応のなりやすさ、度合いは異なる可能性があります。そのため、どのような関係性の中で過剰適応になるのかは考慮しておく必要があります。
また、関係性は発達段階によっても変化していきます。過剰適応について検討する対象者の発達段階を抑えておくと、どうしてその方が過剰適応になってしまったのか理解しやすくなるかもしれません。
性格特性や傾向と過剰適応の関連について検討している研究はありますが、「こういう人が過剰適応になりやすい」と言い切れる明確なエビデンスは確立されていません。「こういう人=過剰適応」というカテゴライズをすると、迅速かつベストな支援・介入が出来ない可能性も出てくるため、注意が必要です。
過剰適応は、周囲からは頑張っているように見えても、本人は困り感を抱えている状況の可能性があります。この場合、本人が不調をきたしていると周囲が気づきにくく、不調に気づいて介入した頃には、すでに状態が悪化している…という場合もあります。このような事態を防ぐためにも、不調をきたす前に本人がSOSを出せる環境づくりや、早期に不調を自身で察知できるセルフモニタリングの力を身に着けることが重要かもしれません。
参考文献
【執筆】 かなた(公認心理師・臨床心理士) 今回は過剰適応について解説しました。過剰適応になる背景や介入については今後も研究が広がりそうな予感です。 引き続き研究が発展することに期待です!
【監修】 本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長) 2002年東京大学医学部医学科卒業。2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年医療法人ラック設立、2018年には2院目となる綾瀬メンタルクリニックを開院。 |