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タグ : メンタルヘルス , メンタル不調・精神疾患解説 , 盛光(公認心理師・臨床心理士)
2023年1月20日
最終更新日 2024年7月30日
目次
最近以前は気にならなかった音が気になる。こんなにエアコンの音って大きかったかな…。直近の健康診断では問題ないと言われたけど、これって何かの病気なのでは?今回の精神科医監修ブログは音が気になるという困りごと『聴覚過敏』について解説します。
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聴覚過敏とは「身の回りの音が嫌悪感や苦痛を抱くくらい気になる状態」のことをいいます。本来、あるいは多くの人は気に留めないような音が非常に気になったり、不快に感じるくらい大きく聞こえたりします。人によって不快に感じる音は様々です。
例えば・・・
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身の回りの全ての音が気になる・不快に感じるという方もいれば、上記のような特定の音が気になるという方もいます。
音が気になる聴覚過敏。果たして病気なのでしょうか?病気かどうかを考えるうえではどのようにして音が気になる困りごとが生じているのかを整理することが有用です。
音が気になる場合の考え方を大きく分けると、①耳の機能によるもの、②脳の機能によるもの、③その他に分けることができます。また、いつから音が気になる聴覚過敏が生じているのか、それとも元々聴覚過敏があるのか…。音が気になる聴覚過敏を引き起こす要因や生じるタイミングによって対応が変わってきます。
①耳の機能によるもの
まずは、耳の機能に何らかの異常がある場合です。私たちの耳は大きな音を和らげる機能があります。その機能が何らかの異常でうまく働かなくなると、耳に入ってきた音のボリュームの調節ができず、不快に感じるほど大きく聞こえます。
以下で耳の機能以外の要因について紹介していますが、明らかに当てはまる要因がある場合を除き、まずは耳鼻科を受診して、診察や検査を受けることから始めるとよいと思います。
②脳の機能によるもの
次に、耳の異常はなく、脳の機能により聴覚過敏が生じている場合です。耳から入ってきた音の情報は、脳で処理します。ただ、全ての音の情報を処理しているわけではありません。私たちの脳は、自分にとって必要な音を無意識に選択して処理しています。耳から入ってくる音情報は膨大です。何もしていなくても周囲の音が勝手に耳から入ってきます。
車が走る音、エアコンの音、近くにいる人の話し声、パソコンのタイピングの音、足音…
その音一つ一つを「これは何の音?」「なんて言った?」と処理しようとしてもパンクしてしまいますよね。そのため、脳は必要な音だけを選択して、それ以外の音はシャットアウトするようにできています。私たちは普段から一枚のフィルターに包まれていて、必要な音だけフィルターを通過して私たちに届く(認識する)、不要な音はフィルターがシャットアウトする(認識しない)、と考えるとイメージしやすいかもしれません。
しかし、脳への何らかの影響で、必要な音を選択できない状態、不要な音に対するフィルターがうまく働かない状態だと、必要な音もそれ以外の音も、同じように届いてしまいます。その結果、本来は気にも留めないような些細な音が気になり、「集中できない!」と感じます。脳の機能による聴覚過敏は、あるタイミングから聴覚過敏が生じる場合と、元々聴覚過敏がある場合があります。
ご存知ですか?カクテルパーティー効果🍸
先ほど「必要な音だけを選択する」とお伝えしました。人ごみの中で会話をする、これもたくさんの音の中から“相手の声”という必要な音を選んで聞き取っています。その他にも必要な音というのは、“自分の名前や興味のあることに関する内容”も含みます。
飲み会や同窓会でそれぞれ近くの人とおしゃべりしている時に、誰かが自分の名前を出して話しだすと、途端にその会話が耳に入ってくるようになる、という経験がある方、いらっしゃるかもしれません。周囲の会話は特に必要のない音でも、自分の名前という重要ワードに無意識的に反応し、必要な音として聞き取っている、という仕組みです。
参考:日本心理士会HP 心理学Q&A 「ガヤガヤした場所でも話ができるのはなぜ?」
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②-1:あるタイミングから聴覚過敏が生じた
片頭痛、てんかん、精神疾患などが当てはまります。
その中でも、聴覚過敏の症状に加えて…
といった症状(変調)がある場合、精神疾患の危険信号として聴覚過敏が現れている可能性があります。精神疾患の場合、早期に治療を始めることが症状の軽減に繋がります。逆に治療を始める時期が遅くなるほど、日常生活への支障が大きくなったり、症状の改善が難しくなったりします。耳の機能に異常がなく、上記の内容が当てはまる場合は、一度精神科を受診することをおすすめします。
②-2:元々聴覚過敏がある
発達障害の特性の一つに、聴覚を含む感覚の過敏さがあります。この特性を持つ方は、小さい頃から大きな音や特定の音が苦手であったり、色んな音が聞こえることで集中のしづらさや疲れやすさを感じたりします。また、体調がすぐれない時や不安が高い時により敏感になることがあります。発達障害の中でも、自閉症スペクトラム障害の人に多いといわれています(ASDの全ての人が聴覚過敏を抱えているわけではありません)。
発達障害の聴覚過敏は、耳の疾患や精神疾患などとは異なり、元々備わっている機能です。“治す”、ではなく“その特性と付き合っていく”ものです。気合や我慢でどうにかすることではなく、その人の特性に合った環境を整えることが大切です。
「これをすると元気になる!」という自分なりのリラックス法をいくつか見つけておくとよいでしょう。また、聴覚過敏は目に見えないため、周囲から理解されにくい現状があります。家族や友達、職場の人など身近な人に、
など、「自分はこんなところがあるよ」ということを知ってもらうと、周囲も理解した上で接しやすくなり、自分らしく過ごすことやパフォーマンスを発揮することに繋がります。聴覚過敏の世界を理解するうえで下記のような動画が参考になりますよ♪
【公式】「感覚過敏の疑似体験」VR映像 川崎フロンターレ公式チャンネル
③その他、原因不明
日々の疲労やストレスが蓄積していくことで、普段は気にならないような小さな音が気になるということがあります。この場合「これ!」というはっきりした要因はなく、色々な要因が重なっていることが多いです。
など、負荷が少なくなるような過ごし方を取り入れることが大切です。ただ、ストレスや疲労が蓄積していくと、上記で挙げた精神疾患の危険信号の症状も一緒に現れることがあります。ストレスなどからくるのか、精神疾患の前触れなのか、すぐには判断が難しい場合もあります。症状の放置や自己判断をせずに医療機関を受診してみることが日々の困りごとの解消に繋がります。
【精神科医コラム|音が気になるのは病気なのか?統合失調症と聴覚過敏】さて今回のテーマは聴覚過敏です。近年はASD(自閉スペクトラム症)の症状である感覚過敏の一種として取り扱われることの多い聴覚過敏ですが、そもそも精神科において聴覚過敏と言えば、統合失調症の初期症状(前駆症状)として用いられることがほとんどでした。 関連項目:【精神科医師が解説】アスペルガー症候群とは何でしょう?
今回は統合失調症における聴覚過敏についてご紹介です。統合失調症は、陽性症状(幻覚妄想など)と陰性症状、認知機能障害を代表的な症状とする精神疾患の一種です。一般的には病前期、前駆期、急性期を経て(治療への反応性に応じて)安定期へと至ります。今回のテーマである聴覚過敏は前駆期に生じやすい症状です。
ではなぜ前駆期に聴覚過敏が生じるのでしょう?種々の仮説はあるわけですが、本ブログ内にて取り上げた『フィルター仮説』が理解しやすいかもしれません。
私たちの脳は、自分と他人(社会)との間に境界を作っています。やや哲学的とお感じになるかもしれませんが、これは非常に現実的、効率的な話です。考えてみてください。エアコンの音や蛇口の閉めが甘くて落ちる水滴の音。冷蔵庫のモーター音や時計の針の音。周囲に溢れる種々の音すべてを認識していたら?過剰な情報により、あっという間に脳が疲弊してしまうでしょう。
オーバーフローを防ぐため、私たちの脳は自分にとって必要な情報や関連のある情報を優先的に取り入れる機能を有しているんですね。この優先性がフィルター機能。フィルター機能は自分と他人(社会)との間に境目を作るわけです。統合失調症によってフィルター機能が上手に発動しなくなり、自分と他人(社会)との境目があいまいになる症状を自我障害と呼びますが、自分の考えが漏れてしまう、人の考えが流れ込んでくる、そんな症状が出現するようになるんです。統合失調症における聴覚過敏は自分と他人との境目があやふやになりかけている状態だと考えていただくとよいでしょう。
冒頭でお伝えした通り、最近は聴覚過敏と言うとASDの感覚過敏を指すことがほとんどです。あくまで目安ですが、小学校入学以前より過敏さがあるようであればASDの文脈における聴覚過敏である可能性が高く、小学校中学年以降に徐々に出現するタイプの聴覚過敏であれば統合失調症を想定する必要性が高い、とお考えください。
ちなみに…食べ過ぎれば胃もたれするのと同様、脳も臓器ですから酷使すれば働きが低下します。フィルター機能も脳の働きの一つですから、疲労により上手に働かなくなることもあります。周囲の雑談が気になる、雑音に気を取られやすいといった聴覚過敏は、脳を稼働させすぎているサインかもしれません。
参考:統合失調症|厚生労働省 |
参考文献
【執筆】 盛光(公認心理師・臨床心理士) 体の不調と同様にメンタル不調は「調子が悪い気がする…」「なんか変…」という小さな気づきが結構重要です。聴覚過敏に限らず、小さな気づきをキャッチできた場合は早めに相談、受診することが大切ですね。
【監修】 本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医) |