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オタク臨床心理士・公認心理師は語る。収集癖は趣味なのか病気なのか

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2022年6月10日

最終更新日 2024年3月2日

オタク臨床心理士・公認心理師が『収集癖は趣味か病気か』語ります

【執筆】

籔(公認心理師・臨床心理士)

私がオタクなんて恐れ多いと何度も伝えたのですが、タイトル採用されてしまいました…。せめてオタクの名を汚さないよう精一杯執筆しました。

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壁一面にぎっしりと詰まった本棚、綺麗なショーケースに飾られた数々の品…いわゆるコレクションという概念は、古来より人々の生活と密接に関わってきました。生きるために物資を集めることに始まり、社会的全体の活動としては、美術館や博物館などがコレクションの最たるもの、という扱いかもしれません。

 

少し狭い範囲に目を向けてみると、私たち個人でも「集める」ことには特別な意味がこもる場合が少なくありません。「コレクター」といった言葉にすると特別なものを特別なレベルで集めている人、といったイメージを持ちやすいですが、小さい頃に綺麗な石やガラスを拾って集めたり、瓶の蓋(最近はあんまりないですね)やラベルを大事に取っておいたり…と、「集める」という行動や「集めたい」という気持ちは、人間の本能に近い部分に存在しているのかもしれませんね。

 

筆者も物を集めるのが好きですが、飽き性のためになかなか最後まで集めきれないことが多く、きっちりと全部揃えられる人は凄いなあと憧れたりします。逆に、「ほしい」と思ったときに出揃っているものはまとめ買いしたりしてしまうので、「集めたい」という気持ち一つとっても、その程度・範囲・動機等、非常に個人差が大きいといえそうです。

 

そんな、身近なようで少し敷居が高い気もするコレクションですが、メンタルヘルスとの関わりは?という観点で、今回は少しひも解いていきましょう。

 

これからご紹介するものは、あくまで「可能性」であり、ご自身を振り返るために使っていただきたいという意図でお伝えするものです。あてはまっている/あてはまらないから本物/偽物、という指標ではありませんので、あらかじめご承知おきの上で読み進めていただければ幸いです。

 

趣味としての収集癖=コレクション


収集とかコレクションといっても、上述のように人によって対象も程度も傾向も様々です。中には「これは収集とはいわない!」という美学を持っている方もいるかもしれませんが、今回は広く「集めたい」という気持ちを起点に「集める」という行動を取っている状態のこと全般を指してコレクションとしています。

 

  • シリーズ物のフィギュアを集めるのもコレクション(揃わなくても)
  • 同じ本の版違いを集めるのもコレクション
  • 無限回収もコレクション
  • スタンプラリーやトコロンなんかもコレクション
  • 綺麗な石を拾ってくるのもコレクション

 

物の有無や金額、かける時間等は特に規定せず、集めること全般に関わるメンタルの動きを解説していきます。

 

『収集したい』気持ちのブースター

では、人が物を集めたくなる気持ちについて、少し探っていきましょう。今回は、純粋な「集めたい」「ほしい」という気持ちをブーストさせやすい要因を集めてみました。

 

注意!

※すべての人に当てはまるわけではありません。

※物を集めたい=何らかの不調があるということでもありません。

 

コミュニケーションとしての収集癖

これは「集めたい」気持ち自体からは少し離れたものになりますが、「集めたい」という気持ちのブースター(燃料)になり得る動機で、SNSが爛熟しつつある現代においては無視できない要因といえるでしょう。

 

せっかく集めたし、綺麗に揃えて人に見てもらいたい

ちょっと自慢したい

話すきっかけにしてみたい

 

人間は大なり小なり人と関わらなければ生きていけないことを考えると、「人と関わる」きっかけとして、ご自分の中にある「集めたい」気持ちが増幅されることがあるかもしれません。

 

承認されたい、所属したいという欲求は誰しもが持つものではありますが、他人との比較や「他人にどう思われるか」が主軸になりすぎると、手段と目的が反転してしまいがちです。生活への影響も考えて、「自分がどうしたいか」をじっくりと見つめた上で、人と関われるといいですね。

 

心理的効果(認知バイアス)による収集癖

いわゆる「認知バイアス」と呼ばれるものも「集めたい」という気持ちを増幅させる場合があります。認知バイアスとは、簡単に言えば、人間が誰しも陥りやすい「合理的ではない思考の仕組み」のことを指します。元々は、多くの情報を効率よく整理したり理解するために生まれた脳の仕組みですが、知らない間に自分が損してしまう行動に繋がってしまうことも…。また、いわゆるマーケティングでは、そういった人間の抗いがたい特徴を突いてくる手法がとられがちです。

 

「集めたい」と思う気持ちを刺激しているかもしれない「認知バイアス」をいくつかご紹介します。

 

【サンクコスト(埋没費用)】

「サンクコスト(埋没費用)効果」は、ものを集め続ける一つの要因になっているかもしれません(大体同義でコンコルド効果、とも言ったりします)。

 

これは「ここまでお金をかけた(=埋没費用がある)んだから、最後まで買わないと」とか「ここでやめたら今までのものが無駄になっちゃう」とか、そういう心理のことです。特にコンプリート系の収集の場合に「せっかくここまで集めたんだから最後まで買ってしまおう」という意識が働きやすくなるのも、この効果の影響かもしれません。

 

収集とは少し異なる文脈も含まれますが、ガチャなどで「ここまで引いたんだから出るまで回さないと無意味」というのは、まさにこのサンクコスト(過去に支払った対価)を取り戻そうとする心理が強く働いているかもしれません。

 

【ツァイガルニック効果】

もう一つ、認知バイアスの中で収集と関連しそうなものが、ツァイガルニック効果と呼ばれるものです。これは「途中でやめたものの方が印象に残る」という思考の特徴です。

 

「あのアニメ、完走してないなあ…」とか、「元々全通するつもりなかったけど、1公演だけチケットがとれないと逆に気になってくる」とか「目標の個数に数個足りない」とか、「少し欠けている」状態というのは意識にのぼりやすい、つまり気になりやすいというものです。意識にのぼる回数が増えれば、そのぶん「行動に移そうかな」と感じる機会も増える=行動に移す可能性が高まる、ということですね。

 

止まっている絵がぐにゃぐにゃ動いているように見える「錯視」と同様に、「認知バイアス」はなくならない脳の仕組みです。そのため、無暗に否定せず、「あるかもなあ」と気づいた上でどう行動するかを考えていくことが重要そうですね。

 

【こちらもどうぞ!】

オタク臨床心理士・公認心理師は語る。日常に潜む4つの認知バイアス

 

脳のタイプによる収集癖


皆さんそれぞれがご自分の特徴をお持ちです。個々人の脳のタイプ、というと近しい表現かもしれません。偏りのない人などおりませんし、信念も行動も自分が普通だと思っていることが相手には異常だった、ということは日常茶飯事です。

 

最近知られるようになってきた、タイプ(偏り)が環境とマッチングしにくい方、いわゆる発達障害に該当される方の中にも、集めることに関わる特徴が出現することがあります。

 

【ASD(アスペルガー)タイプの方】

発達障害の中でもASDタイプの方は、脳のタイプとしてとても強いこだわりを持ちやすいことが知られています。このこだわり、生活上だと「決まったルールはキッチリ守りたい」とか「ルーチン通りに活動したい」などの形で見えてきたりしますが、「物を集める」ことに関してもこだわりが向かうことがあります。まさに「集めずにはいられない」という、意識が一点集中している状態だと、とてつもないコレクションを長年かけて揃えたり…なんてこともあるかもしれません。

 

<ASDについてはこちらもどうぞ>

【精神科医師が解説】アスペルガー症候群とは何でしょう?

 

【ADHDタイプの方】

ADHDタイプの方は、診断基準の中にも含まれる「衝動性」といわれる特徴をお持ちです。俗っぽい言い方をすると、脳のタイプから「待てない」「我慢できない」ことが起こりやすい方が多くいます。

 

そのため、「集めたい!」と思ったら自分の懐事情は二の次三の次、即断即決で物を買ってしまう傾向があります。「ほしい!」と思ったときの爆発力がすごいので、一気に揃えたり大きな買い物をしたりがあるかもしれません。その一方でこだわり自体はあまりない場合も多く、「買うまでがピーク」となりやすかったりもします。

 

先述のように、診断がつかない場合であっても、脳のタイプは人間誰しも偏っているものです。コレクションに限らずですが、ご自身の特徴やタイプを把握した上で、自分に合った工夫を取り入れていくことが重要です。

 

<ADHDについてはこちらもどうぞ>

癖なの?病気なの?【先延ばしの科学】精神科医監修ライフハック心理学#3

 

病気による収集癖


以前はそんなことなかったのに、最近ものをたくさん集めてしまう…。

買うときは気分がいいけど、後ですごく落ち込んでしまう…。

借金したり、生活に支障が出るレベルなのにやめられない。

買わないと不安で不安で仕方がない

程度はそれぞれですが、ご自分や周囲にネガティブな側面が強く出ている場合には、現在ご不調である可能性も否定できません。

 

たとえば「周期的にお金を使いすぎてしまう(=浪費)」という状況は「双極性障害(躁うつ病)」の躁状態の指標の一つです。お金を使う時には気が大きくなっており気にならない⇒その後落ち込んでしまう⇒少し経つとまた気が大きくなって浪費…というループに陥ることもしばしば…。気が大きくなっている時には、大きな借金をしても「すぐ返せる!」と自信満々になってしまったりします。

 

収集に向くかはその人次第ですが、お金を多く使うことと同時に、「何徹で活動しても元気!」「ご飯食べなくてもいける!」「大きいこと、新しいことを始める意欲が無限に湧いてくる」といった状態も、躁状態の指標になってます。

 

<双極性障害(躁うつ病)はこちらもどうぞ>

精神科医監修|感情の波に飲み込まれるな!激しい怒りを乗りこなせ!

 

また「買わないと気が済まない」「揃えないと不安で仕方がない」「集めないと悪いことが起こりそう」というように、不快な感情の打ち消しが目的で物を集める場合「強迫性障害」の傾向があるかもしれません。

 

手をたくさん洗ってしまうとか、鍵の開け閉めを何度もして生活に支障が出てしまうことが有名ですが、この「強迫行為(=行動)」というものは、特定の「強迫観念(=気持ち)」を打ち消すための行動であるため、「物を揃える」といった、ある種儀式的な行為が対象になる場合もあります。

 

実は「物を集めること」ではなく「(ものを集めることで)不安を打ち消すこと」が目的になっているのです。なお、国際的な精神疾患の基準であるDSM5には、近しい疾患として「ためこみ症」が記載されるようになりました。これは、「物を捨てること」への苦痛が強く、物の価値関係なくためこみをしてしまう結果、住環境の悪化につながることも少なくありません。

 

「集めたい」以外のご不調を感じたり、我慢できないことで生活に支障をきたしているぞ…という場合には、早めに医療機関等を受診してご相談ください。

 

<強迫性障害・強迫症はこちらもどうぞ>

強迫性障害(厚生労働省|みんなのメンタルヘルス)

精神科医監修:強迫性障害とは?診断基準や症状などわかりやすく解説

 

収集癖は悪いこと??


コレクションにまつわる要因を色々とあげてきました。結論から言うと、集めること自体には良いも悪いもないでしょう。気持ちの方向 × 生活への影響 がプラスに傾いているのであれば、趣味として続けていって有意義なものであると、個人的には思っています。

 

 

 

<趣味の有用性に関しては、こちらもどうぞ>

オタク臨床心理士・公認心理師は語る。趣味とストレスの関係とは?

推し疲れの原因とは何か?SNS、お金の使い過ぎ、バーンアウトに注意!

 

その一方、ネガティブな気持ちから慢性的に逃れるため、というマイナスの傾きが強くなっていないか、借金してまでどんどん買ってしまう…といった生活への影響がマイナスに働いていないか等のモニタリングは、定期的に必要かもしれません。その際には、客観的な指標として、ご自身の収入と支出のバランス、時間の使い方等を周囲の人に確認してもらうのも一つの方法です。

 

最後に、少々哲学的なお話になりますが、一度「自分はなぜ集めたい(増やしたい)のか」に立ち返ってみるのもいいかもしれません。ネガティブな事象が自分や周囲の人から見て起こっていないのであれば、立ち返った結果「もっと集めるぞ!」となるもよし「ちょっと控えてもいいかも」と気づけてもよし。

 

愛の観点からいえば、少しくらい控えたからといって愛がないとかそういう話はなく、各々「ご自分が」一番幸せになれる愛し方が見つかるといいなあと思っています。

 

参照サイト・文献

 

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