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オタク臨床心理士・公認心理師は語る。日常に潜む4つの認知バイアス

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2022年7月22日

最終更新日 2022年11月29日

オタク臨床心理士・公認心理師が日常に潜む4つの認知バイアスを紹介

オタク臨床心理士・公認心理師は語るシリーズ。今回は日常に潜む4つの認知バイアスとして、ソリテス・パラドックス、早まった一般化、ギャンブラーの誤謬、単純接触効果をご紹介します。

 

過去のオタク臨床心理士・公認心理師は語るシリーズはこちら!

 

 

https://twitter.com/co_sapomen/status/1535215206493835265

 

【執筆】

籔(公認心理師・臨床心理士)

本当にシリーズ化するかは謎ですが、今後日常に潜む認知バイアスをちょっとずつ紹介していこうと思います。

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はじめに:認知バイアスってなあに?

 

そもそも、認知バイアスって何でしょうか?聞いたことがある、いくつか種類を知っている、という方も少なくないと思います。

 

普段人間は、自分の外側にある様々な情報を取り入れ、脳で処理をして生活しています。認知バイアスの「認知」とは、ざっくり言うとこの外界の刺激に対する認識の仕方のことを指します。見たものや聞いたことなどをどのように受け取るのか、どんな風に感じて思考するのか、といったこと全てが当てはまります。認知機能というと、まさに受け取った情報を自分の中で処理して活用する機能で、誰しもが生まれてからずっと無意識にやっていることです。

 

次に、認知バイアスの「バイアス」とは“偏り”をあらわす言葉です。偏った見方などについて「お前の視点はバイアスがかかっている」なんて言い方をしたりしますが、そのバイアスで間違いありません。そのため、認知バイアスとは、この認知の処理にバイアスがかかることや、その現象を指す言葉です。そのため、もちろん視覚や聴覚も範囲内です。

 

「どちらが長く見える?」という問いかけと共に、下の画像を見たことがある方もいるのではないでしょうか?(ちなみに、下の画像はミュラーリヤー錯視と呼ばれるものです)

 

 

ネタが分かっていても、やっぱり下の方が長く見えます…

 

私たちは普段、目に入ってきたものや聞こえてきたものをそのまま受け取っていると思いがちです(だってそう見えるし、聞こえるんだから当然のことです)。しかし、先ほどの例のように本来は同じ大きさや色のものが異なって見える「錯視」など、「実際にある数値上の情報とは異なって見える/聞こえる」といった現象は常に起こっているものです。

 

これは、我々が生きる上で、必要な情報と不要な情報を取捨選択する際、脳が起こしている「誤謬(ごびゅう)」によるものといわれています。

 

我々の周りには、必要不要に関わらず無数の情報が存在しています。音を例にとっても、少し耳を澄ましてみれば、空調の音や外の物音、冷蔵庫の音などが意識出来て、全くの無音状態という方が特殊だったりします。でも、皆さんはその状態でも「静かだ」と感じたりできるわけです。無意識的に、「聞く音」と「聞かない音」を脳が選別しているんですね。

 

では、このような要らない情報も全て平たく受け取ってしまったらどうなるでしょうか。やりたいことややるべきことに意識が向けられなくなってしまったり、情報の処理に膨大な負荷がかかって脳がパンクしてしまう可能性が高まります。集中なんてできたものじゃないかもしれません。そのため、我々の脳は自動的に「誤謬」を起こして情報の圧縮処理をしているのです。

 

目や耳の場合、上の例のように「違うこと」に気づきやすいものですが、この「誤謬」は我々の「思考」においても起こっています。そして、「自然に感じている」自動的な脳の仕組みゆえ、自覚しにくいものだったりするのです。

 

認知バイアスは悪ではありませんが、時として、知らない間に自分が損をしてしまうような選択を選ぶよう「仕向けられる」こともなくはありません。

 

性格や経験によって人それぞれ考え方の偏りはあるものですが、それとは異なる、誰にでも起こりやすい自動的な思考傾向を知り、少しだけ自覚的になってみませんか?というのが今回のコンセプトです。

 

認知バイアス自体は、現在知られているだけで数百種類以上あると言われています。

 

今回は、その中でも日常で起こりやすい思考パターンに関する認知バイアス4つをご紹介していきます。

 

【こちらもどうぞ】

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おじさんキャラ解釈違いの悲劇…ソリテス・パラドックス

 

ソリテス・パラドックスとは、「砂山のパラドックス」などでも知られるパラドックス(逆説)の一つで、実は定義が曖昧なものを共通理解として利用することで生じやすい誤解をあらわすときに用いられます。

 

元々は、「砂山から砂を一粒取り出したとき、のこりの砂は砂山といえるか?」という問いから始まっているもので、大抵の人は「のこりの砂は砂山といえる」と回答すると思います。そうすると「砂山から一粒砂を取り除いても、残りは砂山である」という定理が成立することになりますが、これをずっとずっと繰り返していって、最後の一粒になったときもそれは「砂山」であると、果たして言えるでしょうか?

 

ここまでくると「一粒なら砂山ではない」と感じる人が多いかもしれません。「じゃあ2粒は?3粒は?…」と反対を繰り返していくことができると、いつか「それは砂山だ」となるのではないでしょうか。

 

となると、どこかで「砂山」ではなくなるタイミングがありそうですが、じゃあ具体的に砂何粒からが砂山といえるのか、定義した人はいるのでしょうか?

 

あなたの言う「砂山」と、隣の人が思う「砂山」、本当に同じですか?

 

現実の話に戻すと、この砂山のように「実は定義が曖昧」なことによってすれ違いや誤解が生じる場面は、実は生活の中にたくさん潜んでいます。

 

筆者の友人には、いわゆる「おじさんキャラ」が好きな人が数名いますが、人によって「おじさん」の定義が異なっています。

 

しかし、皆一様に「自分はおじさんが好きだ」と言うのです。そうすると、年齢の話なのか見た目の話なのか、はたまた性格の話なのかが分からない状態になってしまいますね。

 

これを放置していると、自分の中で「おじさん」だと思うキャラを勧めたときに「これはおじさんではない!」と怒られてしまうかもしれません。

 

これを解消するためには、一人一人に「あなたにとってのおじさんとはなんですか?」といったことを細かく聞いてまわらないとダメなわけですが、一般的な概念を用いていると、お互いに「分かったつもり/分かってもらえたつもり」になってしまうことが往々にしてあるのです。

 

こうして「おじさんの解釈違い」という悲劇が起こります。

 

「新しい/古い」とか「若い」とか「はやく」とかもありがちですが、もちろん曖昧なままでも特に問題ない場面もたくさんあります。雑談でいちいち「これの定義は?」とか聞いていたら、生活が窮屈になってしまいかねません。

 

しかし、今この場におけるその言葉が指し示す定義を明確にしておく方がよい場面もある、今本当にそうなっている?という問いかけは、頭の片隅に置いておけるといいのかもしれません。

 

イエローならばカレー好き?早まった一般化

 

早まった一般化とは、個別の事例から広い範囲の物事(=一般化)をしすぎてしまう考え方のことです。

 

最近の話題でいくと、ゴレンジャーから順番にスーパー戦隊を見ている途中の人が、30作品ほど見た段階で「スーパー戦隊のピンクはすべて女性がやっている」と結論付けるのは、早まった一般化の例です。2022年の作品(46作品目)である暴太郎戦隊ドンブラザーズでは、キジブラザーという男性が変身するピンクが登場しています。「イエローはカレーが好き」といったものだと過度な一般化だという認識を持ちやすいかもしれません。

 

https://twitter.com/Donbro_toei/status/1489909316530237440

 

このように「A1はZ」「A2はZ」「A3はZ」つまり「AはZ」というようなカテゴライズした一般化は、範囲を広げすぎると、誤りを含みやすくなる、という意識を持っている必要があるでしょう。「A5000000000000000はZ」までは本当でも、「A5000000000000001はX」かもしれないのです。

 

本当におなじと言ってしまっていいのですか…?

 

とはいえ、一般化するという手法は使い方によっては物事を効率よくまとめたりとらえたりするために有効なので、一概に悪とは決めつけられません。「こういう傾向にあるなあ」とまとめることで、新たな発想やひらめきに繋がったり、人に伝えやすくなるといった利点はぜひ活用していきたいです。

 

「決めつけ」や「言い過ぎ」になっていないか、それによって不和が生じないかどうかには、意識を向けておきたいものです。

 

いでよレアガチャ!ギャンブラーの誤謬

 

ここまで最高レア出なかったんだから、次はそろそろ出るだろう…

 

ガチャをまわしていて、そんな風に思ったことはありませんか?

 

筆者はいつも思います。

 

このように、確率に関する誤った見積を出してしまうことを「ギャンブラーの誤謬」といいます。ガチャの例でいけば、基本的に何回まわしても最高レアが排出される確率は変わりません。天井までまわして確定させるのであれば話は別ですが、「次は出る確率があがる!」なんてことは基本的にはあり得ないわけです。

 

では、なぜそんな気がしてしまうのでしょうか?

 

それは、「そこまでに起こった出来事の確率を無意識に計算して、その後を予測してしまうから」です。

 

例えば、1/2の確率で表と裏が出るコインを投げて、10回連続で表が出ている場面では、「そろそろ裏が出るんじゃないかな」と思う方が多いのではないでしょうか。

 

こんな風に、実際の確率(1/2ずつ)とそこまでに起こった結果にズレが生じている場合、帳尻を合わせるように物事を予測してしまうわけです。

 

実際は、10回目までずっと表だったからといって、そのあとの1回で急に裏が出る確率が2/3とか3/4になるなんてことはなく、確率はずっと変わらず1/2のはずです。

 

「次こそは…」とギャンブルをやめられない人の精神は、このような誤謬が影響しているかもしれません。ずっと幸せだと「いつかしっぺ返しを食らう」と不安に感じる人がいるのも、ギャンブラーの誤謬にあたる考え方が働いているといえるでしょう。一方で「次こそは!」と思うことで、頑張ったり活動するためのエネルギーになることもあります。上手に取り入れていきましょう。

 

ランダムグッズから沼は始まる。単純接触効果

 

ランダムグッズを買ったときに何故かよく出るあのキャラ…好きでも嫌いでもないけど気になってきた。

 

単純接触効果とは、元々はなんとも思っていない(好きでも嫌いでもない)ものなどに関して、接触頻度が増加することで好意的な感情が芽生えるといった現象のことです。

 

冒頭の例以外でも、なんとなく選んだ最初の一匹だけど、ずっと使ってたら愛着が湧いてきた、なんていう現象もこの単純接触効果によるものかもしれません。

 

単純接触効果が起こる仕組みですが、我々の脳は、新しいものに触れたときには大きな負荷がかかります。知らない情報を取り込むわけですから、負担がかかるのはイメージがつきやすいかと思います。

 

そして、「よく見るもの」は慣れているため、知らない情報が少ない、つまり処理するための負荷が少なくなります。この負荷の少ない「楽な」状態を、「よいもの=好意」と勘違いしてしまうことが起こるのです。こうした、ある要因を本来繋がらない結果と結び付けてしまう「誤帰属」という現象によって、単純接触効果が生じているようです

 

一つ気を付けておきたいのは、これは「なんとも思っていない」ものが対象であるということです。元々「好きじゃない、嫌い」というマイナスの感情を持っている対象については、接触頻度が増えると、反対にもっと嫌になるという研究結果が出ています。残念ながらマイナスはプラスにならないようです。

 

どこまでが勘違いで、どこからが本当の気持ちなのか?勘違いでも気持ちは気持ちじゃないのか?など、ちょっと哲学的な問いが生まれそうな効果ですが、仕組みとして知っておいても損はないと思います。

 

日常に潜む4つの認知バイアスまとめ

 

脳の誤解ともいえる認知バイアスをいくつか紹介してきました。繰り返しになりますが、認知バイアスは、なくすことができない脳の反応です。

 

ただし、ある程度どんなことが起こりやすいのかを知っていることで「今これになってるかも?」と気づく確率を上げることは可能です。何より「自分の脳は非常に勘違いしやすいものだ」と自覚しておくことで、上手に共存しやすくなるでしょう。

 

世の中の全てを疑ってかかったり、自分の考え方すべてを否定する必要はありませんが、大きな決断をするときや、のるかそるか、なんて時には少し立ち止まって調べてみたりして、上手く乗りこなしていきたいものです。

 

今後も、生活で起こりがちな認知バイアスについてご紹介していければと思います。

 

【こちらを参考にしましたよ】

情報文化研究所(2021)認知バイアス事典 フォレスト出版

 

こちら認知バイアスに関するおすすめの本でもあります。

100以上あると言われる認知バイアスのなかでも日常生活・社会生活にて『あるある』と思える認知バイアスが、具体例・理論的背景を通じてわかりやすく紹介されています。

 

 

池田まさみ・森津太子・高比良美詠子・宮本康司 (2020). 錯思コレクション100

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