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【傾向と対策】感情に関わる5つの認知バイアス|臨床心理士・公認心理師が解説

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2022年12月23日

最終更新日 2023年2月6日

感情に関わる5つの認知バイアスの傾向と対策を臨床心理士・公認心理師が解説

 

今回は、7月に解説した第一弾(オタク臨床心理士・公認心理師は語る。日常に潜む4つの認知バイアスに引き続き、日常で生じやすい感情に関わる認知バイアス5つの傾向と対策を解説していこうと思います。初めに、認知に関係のあるトピックとして「メタ認知」を解説していきます。メタ認知は認知バイアスを考えるうえでとても重要な概念といえるのであわせて学んでみましょう。

 

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【執筆】

籔(公認心理師・臨床心理士)

本稿は締め切り2週間前に提出しました。スタッフからは『今回は2週間遅れだね』と言われました。ゲインロス効果を狙ったのに効果はさっぱりでした。日ごろの行いの度が過ぎると少々の事ではゲインロス効果が発動しないようです。メモメモ。

籔記事一覧  

オタク臨床心理士・公認心理師は語る。シリーズ

 

【監修】

本山真

株式会社サポートメンタルヘルス代表|精神科医師|精神保健指定医|医療法人ラック理事長

 

まずは復習!認知バイアスとは?


認知バイアスとは、私たちが物事を認知する際にかかるバイアスのことです。物の見え方から考え方まで、私たちは思ったよりも「ありのまま物事を受け取っていない」ことが多いのです。これは、生きていく上で重要な情報を適切に取捨選択していくための機能で、生活を送る上でなくてはならないものですが、その一方で、この認知バイアスによって考え方が知らぬ間に偏っていたり、認知バイアスを利用した第三者によって特定の方向に誘導されていたりするかもしれません。認知バイアスを知ることは、そういった心や脳の働きに目を向けて、自分の行動を振り返ったり対策を立てたりするきっかけになります。

 

 

 

臨床心理士・公認心理師による傾向と対策「メタ認知」


メタ認知とは「認知についての認知」と定義される概念です。ややこしいですね…。例えば、目の前の花を見て「花だ」と思うことは「認知」です。そして、この場合の「メタ認知」は「私は今『花だ』と思っているな」と思うことになります。自分自身をもう一つ外側から見ているような感じが近いでしょうか。ここでいう「メタ(meta)」には「高次の・超越した」といった意味があります。最近話題の「メタバース(metaverse)」は、この「メタ」と「宇宙(universe)」を合わせた造語です。その他、「メタ発言」やカードゲームでの「メタる」といった言葉など「メタ」という言葉は現代では幅広く使われていますね。

 

話をメタ認知に戻しましょう。

 

「メタ認知」という概念自体は1970年代くらいから研究が行われてきた比較的新しいものですが「物事を外側から見る」という観点でいうと、古くはギリシアの哲学者ソクラテスが言った「無知の知」という概念は非常に近しいものがあります。「無知の知」とはご存知の通り「私は知らないということを知っている点において、他の者よりも優れている」といったソクラテスの気づきです。このように、古くから人間にとって「メタ」な視点というものの重要性は論じられてきているのです。

 

 

「メタ認知」は、自分に起こっている認知バイアスに気が付く際に重要な力です。その一方で、認知バイアスの中には「メタ認知」が発動しにくくなったり、「メタ認知」それ自体にも影響を及ぼすものもあるのです。認知バイアスを知るとともに「自分はどんな認知をしているのだろう?どんな風に考えやすいのだろう?」という、自分の外側からの「メタ」な視点を意識してみると、新たな発見があるかもしれません。

 

今回は、臨床心理士・公認心理師であるワタクシが、人との違いが出やすい「感情」に深くかかわる認知バイアスを5つ解説いたします。「気持ちは人それぞれ」って言うのは簡単で頭では分かっているつもりでも、心の底から実感して行動できる場面って案外少なかったします。知らぬ間に「皆こう考えないのはおかしい」と思ってしまったり、押し付けてしまったりすることもあって、後悔…なんてことも。そんなときには、自分の認知に何らかのバイアスがかかっているかもしれません。5つの認知バイアスの傾向と対策を知って、自分に起こっていることを探る手掛かりにしていきましょう!

 

今回解説する5つの認知バイアスはこちら

 

5つの認知バイアス傾向と対策1つ目は【気分一致効果】


気分一致効果とはその時の自分の気分によって入ってくる情報が偏る現象のことです。

 

例えば、朝に家族と喧嘩して嫌な気分で出勤した日…

  • 通勤電車でマナーの悪い人と乗り合わせてイライラさせられた
  • ネットで見かけたニュースは暗い話題ばかりだった
  • 職場でも嫌なことが多かった

こんな風に、ツイてない日だ、と感じることはありませんか?

 

これは、その日に特別に悪いことばかり起きていたのではなく「自分自身が悪いところにばかり目が向くようになっている」認知バイアスからくる感覚かもしれません。

 

この気分一致効果はネガティブなものだけでなくポジティブなものに対しても起こります。前向きな気分の時に物事がうまく進む、いわゆる「ノッている」ような感じがするのも、この気分一致効果が要因で積極的に行動を起こせているからかもしれません。ネガティブな出来事に引きずられて、ズルズルと嫌な気持ちが続いてしまう…、いつも気にならなかった悪いことが引っかかってしまう…気分一致効果が発動しているそんな時の対策として、楽しいことを思い出して気分を切りかえたり、マインドフルネスで「今」に意識を向けてみたりすることで、ネガティブなループを断ち切ることができるかもしれません。

 

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マインドフルネスとは①定義と潮流

マインドフルネスとは②仕組みとやり方

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認知バイアス【感情移入ギャップ】の傾向と対策


感情移入ギャップとは、感情的になっているときにはその感情を持たない視点で考えることが困難になる、逆に感情が落ち着いているときには感情的になっているときの視点が持ちにくい、という現象です。『痘痕も靨』、『屋烏の愛』、これらは「好意」による感情移入ギャップをあらわしていることわざかもしれません。反対に『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』ということわざは「嫌悪感」による感情移入ギャップをあらわしているといえます。全く同じ言動であっても見る側に「好意」があれば良い方向に、「嫌悪感」があれば悪い方向に捉えられて、フラットな視点での言動に対する「評価」を考えにくくなってしまいます。

 

卑近な例を挙げるなら、お腹が空いているときにスーパーに行くとつい食べ物を買いすぎてしまう、お腹がいっぱいのときには逆に買わない、という経験は誰しもあるのではないでしょうか。客観的に必要かどうかよりも、その時の自身の状態や感情に行動が影響されることは身近で起こりやすかったりします。

 

ちなみに、この感情移入ですが、共感とも言い換えられます。漫画やアニメを見ているときに「この登場人物に共感できる!」と思うことはないでしょうか?好き嫌いとは少し違うのですが、共感できると感じたことがある方は、その人物のことを思い浮かべてみてください。

 

では、その人物の「どこに」「なぜ」共感したのでしょうか?

 

人それぞれ理由はあると思いますが「自分と似たような経験と気持ちを持っている」「他人事とは思えない」といった理由が挙がる方が多いのではないでしょうか。この場合、その人物に対する好意とは別で「嫌いだけど共感はしてしまう」「分かるからこそ嫌い」と感じるかもしれません。いずれにせよ、共感は強い感情を生み出すものです。人は自分自身が経験したものに対して、より強い共感を覚える傾向があるそうです。さらに、現在進行形で経験しているほど、共感は強くなる傾向にあります。「若い頃はそうだった」と「今まさに同じ気持ち」とでは熱量が違う、と考えると想像しやすいかもしれません。失恋したばかりのときに切ないラブソングが沁みるのは、これらの共感の強さの差が分かりやすい例ですね。

 

この『感情移入ギャップ』という認知バイアスの対策を考えるうえでのポイントは「自分が共感したものについて、他の人も同じ温度感で共感しているわけではない」という視点が抜け落ちる傾向を把握しておくことです。先述のとおり、共感は個人の経験や感情に左右される感覚ですから、自分と異なる経験を積んで生きてきた他人は、同じものを見てもまた別のものに共感をしているかもしれません。

 

重要なのは「共感や感情移入は非常に主観的な感情であり、万人に共通するコモンセンスではない」というメタ認知と「感情が動いている時には、評価が歪んでいるかもしれない」という気づきでしょう。「こう感じない人はおかしい!」「作者はこう考えたに決まっている!」等を強く感じるときほど、一度足を止めてこの感情移入ギャップのことを思い出してみてください。

 

ギャップ萌えの傾向と対策【ゲインロス効果】


 

―不良が雨の中で仔犬を拾う

―優等生が裏で悪事を働く

―ツンデレにヤンデレ……

 

これらに心を動かされる傾向にあるのは、ゲインロス効果によるものかもしれません。ゲインロス効果とは感情の変化量が大きいほどより印象が強くなるというものです。ギャップ萌えやギャップ萎え、このあたりも関係する概念かもしれません。

 

① ずっと良いことをしている人

② ずっと悪いことをしている人

③ いつも悪いことをしていた人が良いことをする

④ いつも良いことをしていた人が悪いことをする

 

この4つのパターンの場合、最も好意的に見られるのが「③いつも悪いことをしていた人が良いことをする」で、最も悪く見られるのが「④いつも良いことをしていた人が悪いことをする」になります。④は「あげて落とす」という展開なんかも分かりやすい例ですね。

 

 

…なんだか、普段から良いことをしている人が損しそうな結果ですが、同じ状況が続くと慣れて「当たり前」になって感覚がマヒしていく、という体験は誰しも覚えがあるのではないでしょうか。光が眩しいほど闇が濃くなる…みたいな厨二的な概念は、実はこのゲインロス効果を端的に表している表現かもしれません。冒頭の例が古典的な例としてよく言われるのも、見ている側の感情を効率よく揺さぶるエッセンスだからだといえるでしょう。現実の人間関係などでは、感情どおりの評価をしてしまってよいのかを、一度立ち止まって考える必要がありそうです。

 

臨床心理士・公認心理師による【現状維持バイアス】の傾向と対策


行動経済学の基礎的な理論に「プロスペクト理論」というものがあります。これは意思決定モデルの一つであり、下の図のように意思決定場面においては、数値上同じ量であっても利益よりも損失の方がより強く感じられるという人間の特徴を表しています。

 

 

これに関連する認知バイアスとして、変化に対して、大きなメリットよりも目の前の僅かなマイナスが許容できずに「現状維持」を続けてしまう「現状維持バイアス」というものがあります。何かを変える際には、メリットよりもデメリットに意識が向く傾向にあります。慎重と言えるのかもしれませんが、デメリットにばかり意識が向いてしまうと、せっかくのチャンスを逃してしまったり、逆に自分が苦境に立たされることも多くあります。

 

ゲームのリメイクが出た時、新要素で得られるメリットやその他の改善点より「前の方がよかった」と感じるデメリットの方が強く引っかかって「下手に変えなくてよかったのに!!」「昔はよかった」「全部だめ」という気持ちになりやすかったりするのも、現状維持バイアスによるものかもしれませんね(本当にダメ、という場合ももちろんありますが…)。

 

これは「自分の考えは絶対的に正しい、世間もそう感じている筈」というメタ認知を欠いた姿勢に繋がりがちです。また「変えないことに対する正当で客観的(だと自分では思っているが実は主観的)な理由」がいくつも浮かんできてしまうため、どうしても他の人の意見に耳を傾けることが難しくなり、意見を曲げることができなくなってしまいます。

 

前回解説した「単純接触効果」で、人は新しい情報を取り入れること自体が負担になる、と説明しましたが、変化はまさに新しいことの最たるものです。そのため、変化にメリットしかない状況ですら「変化させる負荷」自体が現状維持を続けてしまう十分なデメリットになってしまうのです。確実な見通しが立たなかったり変化を迫られたりする状況において不安を感じるのは当たり前です。そんな時でも変化を拒否するのではなく、一旦客観的に要素を書き出してみたり、長期的なメリットとデメリットをしっかりと洗い出してみて、現状維持バイアスに陥っていないかを確認してみるといいのかもしれません。

 

押すな、押すなよ【心理的リアクタンス】の傾向と対策


 

―「押すな」と書かれていると押したくなってしまうボタン

―「宿題やりなさい!」「今やろうと思ってたのに(やる気がなくなった)」

 

 

人は自由が脅かされる状況に陥ると、自分の意思よりも自由を回復することを優先した行動をとってしまうことがあります。この認知バイアスを心理的リアクタンスといいます。リアクタンス(reactance)とは元々は電気回路の抵抗のことをあらわす言葉で、心理的に抵抗が生まれる場面では、それに抗うような気持ちや行動が起こるという意味です。

 

冒頭の「今やろうと思ってたのに!」でやる気がなくなってしまうパターン、実は本当にやろうとしていた時にも起こってしまいます。最初は自発的な意欲があったとしても、強制された時点で「自由が阻害された」ことになるため、元々あった意欲自体を自分でも否定してしまうのです。自分の意思より「自由の回復」が優先されてしまうわけですね。相手のために良かれと思っての行動でも言えば言うほど逆効果、という悲しい結果があちこちで起こっているかもしれません。

 

物の販売でいうと「期間限定」や「残り◎名様」といった表示なんかは、この心理的リアクタンスを利用した販促方法です。限定されるということはすなわち「自由が阻害される可能性」が示唆された状態であり「欲しいと思ったときには手に入らないかもしれない」という不自由を解消するために、特に欲しくないものでも買いやすくなるといった仕組みです。

 

また、現状維持バイアスの項目でもお伝えした通り、人は損することをより敏感に感じ取るので手に入らない損を回避するために購買行動に繋がりやすくなるというわけです。私たちは自分の意思で行動や決定をしていて意思を変えるときも自分が思ったからと考えやすい傾向にありますが、外的な要因によって知らずの内に意思自体やそれに伴う行動・決定が誘導されている可能性があることも念頭に置いておくと、心理的リアクタンス対策として有効かもしれません。

 

臨床心理士・公認心理師による5つの認知バイアス傾向と対策まとめ


今回は、認知バイアスのうち、感情にかかわるバイアス5つの傾向と対策について解説しました。

 

自分の意思や「当たり前」「常識」といった感覚も、視点を変えるとまったく別の考えが出てくるものです。「メタ認知」を意識して、自分の感覚がどんなものに影響を受けやすいか、それに伴う自分の行動を振り返ってみることも、時には大切かもしれません。繰り返しになりますが、認知バイアスは悪者ではありません。プラスの方向に働くときには大いに活用することで、パフォーマンスや生活の質の向上に繋がります。

 

一方、多くの人が陥りやすい認知バイアスを知ることは「自分が今どんな風に感じているのか」という自覚や「ここは分かりにくくなってるな、見えないなあ」という自覚に繋がりやすく、「じゃあどうしていこう」という対策を立てていきやすくなるでしょう。そうして、認知バイアスを乗りこなしていくことによって、本当の意味で「損を減らす」生活が送れるようになるかもしれませんね。

 

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【参考文献】

情報文化研究所(2021)認知バイアス事典 フォレスト出版

池田まさみ・森津太子・高比良美詠子・宮本康司 (2020). 錯思コレクション100

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