ブログ

事例に学ぶ【従業員理解に活かす職場ハラスメント対策】公認心理師が解説

タグ : , ,

2020年10月1日

ハラスメント対策?職場での活かし方を事例で学ぶ!

労働施策総合推進法(パワーハラスメント防止法)の改正によって、ハラスメント対策に必要な措置を職場に導入する義務が企業に課せられることになりました。

セクハラ・マタハラ防止法に続く国をあげてのハラスメント対策となります。

義務化スケジュールは下記の通りです。

2020年6月 2022年4月
大企業 義務化
中小企業 努力義務 義務化

義務化に伴い、ハラスメント対策窓口の設置といった対策実施・対策準備に追われている企業も少なくないのではないでしょうか。

 

いきなり余談ですが、最近“パワハラ”と聞いたときにドキッとしてしまう自分がいます。
ハラスメントをしているつもりなど全くありませんが、後輩から『若丸さん怖いです(笑)』と言われてしまうことがたまにあって…。
実はほんのちょっと気になっているんですよ…。

 

私のぼやきはさておき(笑)

 

“職場におけるパワーハラスメントとは、『職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすもの』を指します”

引用:明るい職場応援団(厚生労働省)

 

パワーハラスメント概説については、こちらをご覧ください!

ハラスメントの定義や種類、対策についてまとめています。

 

実際の事例としては、パワーハラスメントの定義に基づき、該当行為がハラスメントになるかどうか個別に判断されることになります。

 

判例に目を通してみると、ハラスメント加害の立場となった方の訴えとして、『ハラスメントのつもりはなかったのに…』と感じている事例が少なくありません。

 

ハラスメント対策が強化されている中、『自覚なくハラスメントをしてしまうのでは…』と不安になったり、『何をどうするとハラスメントになってしまうのか…』と困惑したりすることはありませんか?

 

管理職の一言が“指導”と受け取られる事例と“ハラスメント”と受け取られる事例の背景に、実は従業員理解の鍵がある。

 

今回は、【従業員理解に活かすハラスメント対策】を、事例ベースでご紹介します。

 

事例で学ぶ職場ハラスメント

~A部長の苦悩~

A部長は○×株式会社営業セクションの組織管理をしています。

ここ数ヵ月、ある部下たちとの関わり方に悩んでいるようです。

 

  • 事例1 Bさんの場合

入社3年目の女性社員Bさん。

明るく活発な人柄で、仕事に対する姿勢も真面目で熱心です。

A部長としては、Bさんに任せられる仕事が増えてきたような印象がありました。

一生懸命仕事に取り組むBさんを見て、A部長も指導に熱が入ります。

しかし、1ヵ月ほど前からケアレスミスが目立つようになってきました。

外回りから戻ってくると、資料をまとめつつぼーっとする様子もあります。

また、社内で昼食をとる姿を見なくなりました。

そんなBさんが気がかりではあるものの、A部長は『仕事中だよ。集中しなさい!』と厳しく指導します。

『はい、すみません!』ハッと慌てて作業に取り掛かるBさんを見て、A部長も内心落ち着きません。

その後も数日、A部長とBさんの間で同じようなやりとりがありました。

それを連日見ているBさんの同僚たちは『A部長のやっていることってパワハラなのでは…?』と疑念を抱き始めます。

『またミスしているぞ!確認したのか?』

『何度言ったらわかるんだ!』

A部長の“熱意のこもった指導”は、周囲から見たら“いじめ”であり、“威圧的な嫌がらせ”でした。

後日、A部長は上長に呼ばれ、ハラスメントに関する指摘をされてしまいました。

『そんなつもりではなかったのに…』

『まさか自分がハラスメントをしていたとは思いもしなかった…』

職場からの信頼が厚いA部長でしたが、部下への対応に悩み自信をなくしてしまいました。

 

  • 事例2 Cさんの場合

同じくA部長の部下で、入社1年目のCさん。

Bさんと同じように明るく親しみやすい性格で、先輩や訪問先のお客さんからも好かれています。

ただ、うっかりミスが多かったり、急なスケジュール変更への対応で混乱したりという苦手さはあります。

Cさんの入社後数ヵ月間、A部長はその2点について何度も指導してきました。

『先日と同じミスをしているぞ!』

『スケジュール変更があったらすぐに対応しろ!客先を待たせてしまうじゃないか!』

Cさんも一生懸命な態度ではありますが、なかなか改善しません。

連日指導を続けてきたA部長も疲弊してきました。

『どうして何度言ってもわからないんだ…』

『Cくんにお願いするよりも他の社員に依頼した方がスムーズじゃないか…』

そう思ったA部長は、Cさんに振る営業の仕事を減らしました。

その分、Cさんに割り当てられたのは営業とはほとんど関係ない単純な事務作業。

Cさんのうっかりミスは目立たなくなり、突然スケジュールが変更されるような状況にもほとんど陥らなくなりました。

A部長としては、Cさんに厳しく接する機会がなくなったことで『パワハラをせずに済んだ』と安心していました。

しかし、Cさん側は不安でいっぱいです。

『最近仕事を任せてもらえない。もしかしたら退職を促されているのかもしれない…』

心配になったCさんは同期社員に相談しました。

その話が上長の耳に入り、再びA部長は呼び出されて厳重注意を受けました。

『良かれと思って事務作業を任せていたのに…』

『一体どこからがハラスメントなんだ…』

ハラスメントをしないように気をつけていたはずのA部長ですが、どうしたら良いのかわからず途方に暮れてしまいました。

 

職場ハラスメント防止対策を従業員理解に活かす

やや極端な例だと感じられたかもしれませんが、職場の上司と折り合いが悪くカウンセリングを受けに来る方は一定数いらっしゃいます。

ポピュラーな訴えは、うつっぽかったり、眠れなかったり、食べられなかったり。

仕事をしている間、ストレスフルな環境にいるわけですから不調が生じるのは自然だと言えます。

 

ただし相談にいらっしゃる方の中には、精神疾患や生来の特性が背景にあることをうかがわせるケース、結果として日常生活に大きな影響を与えているケースがあるんです。

 

【精神疾患・生来の特性】という視点から、先ほどの事例を分析してみましょう。

 

  • 事例1 Bさんの場合 分析編

Bさんには、“集中力の低下”、“食欲の低下”といった症状がありそうですね。

このような症状は、適応障害やうつ病などの精神疾患において多く認められます。

  • 適応障害

適応障害は、ストレスをきっかけとして日常生活に支障をきたす精神疾患です。

ストレスがきっかけなので、ストレスがなくなったり、ストレスを距離を置くことで症状が改善する点が特徴です。

不安な感じ、憂うつな気分などの気分の症状に加えて、仕事や家事が手につかない、眠れないといった行動面の症状が出現します。

不調の原因となっているストレスがなくなれば、適応障害の症状は6ヵ月未満で改善します。

不調が6か月以上続く場合には、診断名が『うつ病』になる可能性もあります。

 

  • うつ病

うつ病は、抑うつ気分(気分が落ち込む、気分が晴れないなど)、アンヘドニア(興味や関心の喪失:楽しめない、興味がわかない感じ)がメインの症状です。

病気の初期には、身体症状(不眠、食欲や体重の低下、倦怠感、動悸、頭痛など)も多く認められます。

診断基準的には、こういった症状がほとんど1日中、ほとんど毎日、2週間以上続く、という条件がつきます。

 

どんなに活発な人でも、このような状態ではもともとのパフォーマンスは発揮できません。

明るく元気いっぱいな、いかにも“こころの病とは縁がなさそうな人”であったとしても、精神疾患になる可能性は十分あるのです。

こういった状態になっているとき、必要なのは休養や加療です。

精神疾患の症状をいかに早期発見できるかがポイントになります。

 

こちらの記事もどうぞ!

 

  • 事例2 Cさんの場合 分析編

Cさんは、“精神疾患によりもともとのパフォーマンスが発揮できなくなった”というよりは、“生まれ持った特性”が背景にあるようなケースです。

それが直接本人の困り感に繋がっていることもあれば、本人に加えて周囲の人たちが困っている事例もあります。

“生まれ持った特性”によって生活の支障が表面化する事例においては、自閉症スペクトラム障害/自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動性障害/注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害が背景にある場合があります。

発達障害については、ここ最近メディアで取り上げられることも多いので、耳にしたことのある方も多いかもしれません。

おさらいも含めて紹介いたします。

 

自閉症スペクトラム障害/自閉スペクトラム症(ASD)

ASDには“Wingの三つ組”と呼ばれる以下の特徴があります。

  • 社会性の障害
  • コミュニケーションの障害
  • 常同的・限定的な行動

ASD傾向を持っている方の中には、他者とのコミュニケーションが苦手だったり、特徴的だったりすることがあります。

例えば

  • 相手の発言を字義通りに理解する
  • 言葉以外のメッセージ(表情、声色など)を読み取ることが苦手

また、物事に対するこだわりを持っている方が多く、1つのことに一旦集中すると没頭しやすい傾向があります。

したがって、同時にあれこれといった働き方ではなく、1つ1つこなしていく作業がマッチしています。

 

注意欠陥多動性障害/注意欠如・多動症(ADHD)

ADHDの主症状は、①不注意、②多動性、③衝動性です。

意識や集中が移ろいやすい、言動が衝動的になりやすい特徴を持っています。

その場に存在する多くの情報、刺激へと全方位的に意識が移ろうため、うっかりミスをしやすい、気になる刺激に飛びつきやすい、落ち着きがないといったことが起こりやすいのです。

意識が散らばりやすいため1つ1つじっくりこなす作業よりは、同時にあれこれ進める取り組みとの相性が良いかもしれません。

 

こういった特性は、メリットとして働くことも多々あります。

例えば、ASD傾向のある方は、優先順位をつけたうえで業務を1つ1つ片付けられる状況においてパフォーマンスを最大限発揮できる可能性が高いと言えますし、ADHD傾向のある方の場合、その場の情報量をある程度制限することで、複数業務を遂行しやすくなるはずです。

 

一方、特性ゆえにうまくいかないことがあると、本人も周囲も疲弊します。

疲れが溜まると不調を起こし、場合によっては適応障害やうつ病を発症する可能性もあります。

 

こういったシチュエーションで大切なのは、“適材適所”の発想です。

もちろん本人の希望との兼ね合いもありますが、個人の特性を見極め、向いていると思われる部署・業務内容へ移ることができれば、うまくいかないサイクルを変えるきっかけ作りになるでしょう。

 

適材適所を考えるうえでのテレワークについてまとめています。

 

2つの事例の背景にありそうな要因について分析してみましたが、A部長の気持ちが理解できる方もいらっしゃるのではないでしょうか(私はなんとなくわかるような気がします)。

A部長は決してBさんやCさんのことを貶めたかったわけではないと思います。

Bさんに対しては、これまでの業績を踏まえて期待する気持ちがあったのかもしれません。

そのため、上司としてできる限り手厚く指導していたのではないかとも想像します。

Cさんの事例では、上司としてCさんの適性を極めたうえで単純な事務作業を任せることにしたのかもしれません。

『Cくんの負担が減るように…』と、Cさんを思いやるゆえの行動だった可能性もあります。

 

ただ、どちらの事例についても、A部長の思いはいわゆる“ハラスメント”になってしまいました。

A部長が管理職として感じていたことと、BさんやCさんが従業員として感じていたことには乖離があったように思います。

その乖離を埋められていたら、事例のような結末にはならなかったのかもしれません。

 

ハラスメント問題防止・解決案カテゴリー

上記事例のような『ハラスメント』事例を避けるために、有用かつ必要な防止案、解決案は大きく2つのカテゴリーに分けられます。

 

  • カテゴリー1 風通しの良い職場づくり

日頃から十分なコミュニケーションをとっておくことは大切です。

これは管理職、従業員、どちらか一方が努力するものではなく、双方が歩み寄ることが必要ですね。

そして、意外と大切なのが雑談です。

スポーツで言えば、試合中のやり取りが前者、ロッカールームや練習中のやり取りが後者というイメージです。

 

炭鉱が盛んだった頃、“スカブラ”と呼ばれる仕事をする人たちがいました。

彼らの仕事は、他の従業員が汗を流して作業をしている中、面白い話をしたり少し下品な話をしたりすることでした。

一見作業の邪魔になりそうな存在ですが、この“スカブラ”がいなくなると作業効率が下がり、人間関係が悪化したという話があります。

 

業務効率化が進む現代の企業において、“スカブラ”職を復活させるのは難しいでしょうが、仕事中に敢えてちょっとした雑談タイムを作ることは可能かもしれません。

ちょっとした一見無駄な試みによって、より風通しの良い雰囲気が作れたりすることもあるのかもしれませんね。

 

  • カテゴリー2 ある程度の専門知識を持っておくこと

体の不調については、不調が目に見えたり、検査結果で拾えたり、健康診断で明らかになったり、と早期発見できるチャンスがいくつかあります。

一方、今回ご紹介した精神疾患や発達障害は、一見しただけではわかりづらいんです…

つまり、早期発見のためのヒント(知識)を持っておくことが大切なんですね。

初期段階のうちに発見することで、休職や加療に繋げることができ、その後の重篤化を防ぐことができます。

 

『精神疾患・発達障害に関する知識を身につけましょう!』と言われたとして、実際のところいかがです?

研修を通じて、精神疾患・発達障害一覧といった知識を身につけることは可能でしょうが、机上の知識を現実場面で運用するにはコツがいるものですし、社員一人一人をきめ細やかに観察することが必要になります。

従業員の様子を観察することも管理職に任される業務の1つかもしれませんが、負担は大きいですよね?

もちろん、信頼している上司に話を聞いてもらえるとしたら、従業員にとっては非常に安心できる環境になるでしょうが、管理職の負荷が増すのは間違いありません。

相談窓口を外部に委託するのは管理職の負担軽減という観点から有効な手段だと思います。

 

事例で学ぶ職場ハラスメント対策まとめ

今回は精神疾患や発達障害に関連するハラスメント事例についてご紹介しました。

“ハラスメント”は、管理職側も従業員側もヒヤヒヤする単語だと思いますし、窮屈な思いを抱えながら働くのは息が詰まりますよね。

ハラスメント対策としての仕事しやすい人間関係・環境構築のために、何から始めていきますか?

 

【執筆】

若丸(公認心理師・臨床心理士)

関連記事