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精神科医監修|アンガーマネジメントー怒りが生じるメカニズムー

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2023年11月24日

最終更新日 2024年8月2日

怒りが生じるメカニズムを知ってアンガーマネジメントをしましょう

人間の強い感情の1つである「怒り」。日常生活を送る中でイラっとして怒りが喚起される場面って,多かれ少なかれ誰でも経験がありますよね。家族,職場,友人,街中や電車などの見知らぬ人や,渋滞や電車の遅延などの状況因,イラっとして怒りにつながる場面は予期せず訪れます。怒りに翻弄される毎日はとても疲れてしまいそうですね。

 

ところで,私たちはなぜ怒りを感じてしまうのでしょうか。今回は”怒りが生じるメカニズム”について解説したいと思います。

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怒りが生じるメカニズムー扁桃体による怒りの出現ー


人間のあらゆる感情は脳から発せられます。怒りももちろん例外ではありません。怒りは脳の本能的な反応であり,「大脳辺縁系」にある「扁桃体」と呼ばれる箇所で発生しています。「大脳辺縁系」は人間をはじめ多くの動物に備わっており,「扁桃体」は本能的な感情に関わる部位です。

 

ちなみに,脳には様々な領域・部位があるのですが,真ん中の部位であるほど「原始的な」役割を有しています。「扁桃体」も脳の中心部付近に位置しているため,怒りは本能的な反応と言えます。

 

本能的な反応である「怒り」が生じること自体は,生物として自然な反応です。例えば,動物は”威嚇”という行動を取ります。散歩中のワンちゃんから急に吠えられたというような経験はありませんか?牙をむいて吠えるというのも威嚇行動であり,怒りの表現とも言えます。

 

人間に置き換えれば「怒りをぶつけること」が怒りの表現ですね。威嚇は自身の縄張りや自身の生命そのものが脅かされるとき等に出る行動で,そういった脅威に対して怒りを感じ強く吠えることによりその脅威を退散させようとします。威嚇行動によって自身の安全を守るわけなので,怒りという感情がないと生き残ることが出来ません。ワンちゃんが吠えてくるのは,「脅かされる」と感じて怒りを表出しているのかもしれません。

 

怒りを抑えるメカニズムー前頭連合野による怒りのコントロールー


生物の本能である怒りをコントロールするのが「前頭連合野」と呼ばれる部位です。前頭連合野は,情動のコントロールのほか論理的な判断や計画立てたりする実行機能も担っているとされています。前頭連合野は間を人間たらしめている部位とも言えますね。

 

部位でいうと脳の前方外側を覆っている部位です。「扁桃体」がより本能的な部位であるのに対し,「前頭連合野」はより理性的な部位であると言えるでしょう。実行機能については下記をご覧ください。

 

アンガーマネジメントの基本『6秒ルール』


「前頭連合野」の動きをよく表しているのが,怒りの表出を抑える「6秒ルール」です。アンガーマネジメント研修にて解説されることの多いテクニックですね。アンガーマネジメントの基本でもある6秒ルールは,腹立たしい出来事が起きた時,怒りを表に出さず6秒我慢するといったものです。怒りをひたすら我慢するだけでもいいですし,心の中で1から6まで数字を数えてもかまいません。とにかく6秒我慢します。

 

すると「扁桃体」が発した怒りに対し「前頭連合野」がコントロールを開始します。「扁桃体」に対し「前頭連合野」が「落ち着きなさい」と指示を出しはじめるわけです。”なぜ6秒なのか”と言うと,怒りが発せられたのち,怒りがコントロールされるまで約6秒かかるためです。したがって,6秒経過するころに”怒りが完全に収まる”とまではいかずとも,怒りのピークは過ぎ去っている状態になることが多いのです。

 

 

アンガーマネジメント研修では触れられることの少ないテクニックもご紹介しておきましょう。アンガーマネジメントにおける基本6秒ルールを駆使しても怒りが収まらないケースもあるんです。それは未だ「脅威」が過ぎ去っていない場合です。脅威が過ぎ去っていないケースにおいては,脅威の対象となるヒト・モノ・シチュエーションから物理的に距離を取り,冷静になれる時間を作りましょう。アンガーマネジメントにおいては戦略的撤退も有効な選択肢の1つです。

 

怒りと認知のゆがみの関係


さて,脳には怒りを発する「扁桃体」と,それをコントロールする「前頭連合野」があることが分かりました。続いて,心理学的な視点から怒りを見てみましょう。怒りの一部には「認知のゆがみ」が関係していると言われています。

 

認知のゆがみとはアメリカの精神科医アーロン・ベックが基礎を築き,その弟子であるデビッド・D・バーンズが発展させたと言われる「抽象的で誇張的で非合理的な思考パターン」のことを指します。なんだか難しい感じが並びましたが,一言でいうなれば「考え方のクセ」のことを指しています。「こういうときに,こういう風に捉えがち」というモノです。

 

 

もちろん「考え方のクセ」は人それぞれにあるものなのですが,考え方のクセの中でも極端な発想のことを「認知のゆがみ」と呼びます。認知のゆがみは何種類かのパターンがあるのですが,興味のある方はこちらをご参照ください。

今回は”認知のゆがみ”の数パターンうち”怒り”と関連しやすい「白黒思考」「べき思考」を取り上げたいと思います。

 

怒りと関連する認知のゆがみ【白黒思考】

認知のゆがみの代表格である白黒思考。”0-100思考(ゼロヒャクしこう)”,”二分思考”,”二極化志向”,”全か無か思考”と様々な呼び名がありますが,ほとんど同じ意味です。聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。

 

白黒思考は,物事のすべてをグレーゾーン無く白か黒か(あるいは良い-悪い,成功-失敗,正しい-誤り等)の2択だけで認識するという思考パターンです。100点満点のテストで「99点だった…失敗だ」というような考えのことですね。99点はすごい点数だと思いますが,思考が極端になるとテストを「100点」か「100点以外か」の2極でしか捉えられず,「100点=良い」「100点以外=悪い」と判断してしまいます。

【関連項目】

 

怒りと関連する認知のゆがみ【べき思考】

続いては”べき思考”です。こちらもご存知の方が多いかもしれません。自身や他人に対し,その人の状況・状態に関係なく,「~すべきである」,「~しなければならない」や,逆に「~すべきではない」と期待することを「べき思考」あるいは「すべき思考」と呼びます。「自分の中にあるルールは絶対であり,そしてそれは守られるべき」と考えてしまう思考パターンと言い換えられるでしょう。実際に存在する社会的ルールやマナー,モラルを守るときはもちろんですが,期待通りに物事が進まないとき,我慢をしているときなどにも発現しやすいと言われています。

 

“白黒思考”や”べき思考”といった認知のゆがみはうつ病の症状として表れることが多いのですが,怒りについても上記の思考パターンで説明ができます。例えば,電車の中で電話をしている人を見かけたらあなたはどう思いますか?電車の中で電話というだけで「えっ!」と「良くないこと」のように瞬間的に認識した方が多いのではないでしょうか。怒りが喚起された方も少なくないかもしれません。

 

もちろん社会的なマナーとして”電車内での通話は控えた方が良い”とされていますが,事情があって電話している人もいれば,「すみません,いま電車内で…」と断りを入れる人もいるかもしれません。種々の事情を勘定せずに,「電車内での電話は何が何でもダメ」と考えてしまう(場合によっては怒りを感じてしまう)のであれば「白黒思考」だと言えるかもしれません。

 

また「べき思考」から上記の例を見てみると,「電車内では電話をするべきではない」というルールが破られることによって怒りを覚えそうですね。もちろん社会的なマナーやルールを守ることは決しておかしいことではありませんが,相手の事情を聴かずして怒りのまま注意や抗議をすると「こっちにも言い分はある!」「そこまで怒ることじゃないだろ!」と逆に非難されてしまうかもしれません。怒りを感じてもおかしくないケースですが,怒りの感情に任せて怒りをぶつけてしまうと思わぬトラブルに発展してしまうでしょう。

 

【執筆】

TAKUYA(公認心理師・臨床心理士

日頃から怒りっぽい,ルールへのこだわりが強いという自覚がある場合は,自分の考えに「白黒思考」や「べき思考」のような思考パターンが無いか振り返ってみてはいかがでしょうか。

怒りは本能的な感情ゆえパワフルな側面を持ちますが,怒りのメカニズムを理解することで対処できるケースもたくさんあると思います。

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【監修】

本山真(日本医師会認定産業医|精神保健指定医|医療法人ラック理事長|宮原メンタルクリニック院長)

 

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