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タグ : ハラスメント対策 , 本山真(精神科医師・産業医) , 産業精神保健
2026年7月3日

目次
「お客様対応だから、多少のことは仕方がない。」
これまで現場では、そう受け止められてきた場面も少なくなかったかもしれません。
ー強い口調で叱責される
ー長時間、電話を切らせてもらえない
ー土下座や過剰な謝罪を求められる
ー担当者個人を名指しして、SNSに書き込まれる
ー本来の契約やサービス内容を超えた対応を求められる
こうした出来事は、単なる「クレーム対応」や「接客上の我慢」として片づけられてきた面があります。しかし、企業にとっても従業員にとっても、カスタマーハラスメントはすでに見過ごせない問題になっています。
厚生労働省は、2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策を事業主の義務とすることを案内しています。令和7年6月11日に公布された改正法により、カスタマーハラスメントや求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置が事業主の義務となり、令和8年10月1日に施行されるとされています。
つまり、カスタマーハラスメント対策は、もはや「できれば取り組むもの」ではありません。
2026年10月までに、企業としてどのような方針を示し、従業員をどのように守り、相談があったときにどう対応するのか。
この点を、具体的に整えておく必要があります。
カスタマーハラスメントという言葉は広がっていますが、実務では「どこまでが正当なクレームで、どこからがカスハラなのか。」という判断が難しくなりがちです。
厚生労働省のリーフレットでは、職場におけるカスタマーハラスメントについて、次の3つの要素をすべて満たすものと整理しています。
また、電話やSNSなど、インターネット上で行われるものも含まれるとされています。
ここで大切なのは、企業が「クレームをすべて拒否すればよい」という話ではないことです。
お客様からの意見や苦情の中には、商品・サービスの改善につながる大切な声もあります。一方で、要求の内容や手段が社会通念上許容される範囲を超え、従業員の心身や就業環境を害する場合には、会社として対応を分けて考える必要があります。
つまり、企業に求められるのは、顧客対応を軽視することではありません。
正当なご意見には誠実に向き合いながら、従業員を傷つける不当な言動には、会社として線を引くことです。
カスタマーハラスメント対策で最初に必要になるのは、会社としての方針を明確にすることです。
「当社は、顧客等からの不当な言動から従業員を守る」
「カスタマーハラスメントには、会社として毅然と対応する」
「従業員が一人で抱え込まないよう、相談・報告の仕組みを整える」
このような方針を、経営者や人事部門だけが理解していても不十分です。
現場で顧客対応をする従業員、管理職、店舗責任者、電話対応担当者、営業担当者、受付担当者など、実際に顧客と接する人たちに伝わっている必要があります。
厚生労働省のリーフレットでも、事業主が講ずべき措置として、カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発することが挙げられています。
現場の従業員にとって、会社の方針が見えない状態はかなり不安です。
「お客様に言われたことだから、自分が我慢するしかない」
「会社に相談しても、対応が悪いと言われるのではないか」
「自分の判断で対応を打ち切ってよいのかわからない」
このような状態では、従業員は問題を一人で抱え込みやすくなります。
会社の方針を明確にすることは、単なる形式的な文書作成ではありません。従業員に対して、「あなた一人に背負わせない。」と伝える意味があります。
方針を示した後に必要になるのが、具体的な判断基準です。
カスタマーハラスメントは、現場ごとに起き方が異なります。小売、飲食、医療、福祉、教育、運送、不動産、士業、BtoBサービスなど、業種によって顧客との接点も違います。
そのため、自社で起こりやすい場面を想定しながら、どのような言動をカスタマーハラスメントとして扱うのかを整理しておく必要があります。
たとえば、次のような行為です。
厚生労働省の資料でも、社会通念上許容される範囲を超える言動として、理由のない要求、サービス内容を著しく超える要求、不当な損害賠償要求、身体的・精神的な攻撃、威圧的な言動、継続的・執拗な言動、拘束的な言動などが例示されています。
もちろん、すべてのケースを事前に分類しきることはできません。
それでも、ある程度の基準があるだけで、現場の判断はかなり変わります。
「これは自分が我慢すべきことなのか」
「上司に相談してよい段階なのか」
「会社として対応を切り替えるべき場面なのか」
この判断を、従業員個人に任せきりにしないことが重要です。
カスタマーハラスメント対策で、実務上とても重要になるのが相談窓口です。
どれだけ方針を整えても、従業員が相談できなければ、会社は状況を把握できません。
特にカスハラは、現場で起きた出来事がその場限りで処理されてしまいやすい問題です。
「今日も大変だった」
「また同じお客様から電話が来た」
「今回は何とか対応した」
このような形で現場内にとどまり、人事や経営層に共有されないことがあります。
しかし、会社が把握できていない問題は、対応することもできません。
厚生労働省のリーフレットでも、相談体制の整備として、相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること、相談窓口担当者が適切に対応できるようにすることが挙げられています。
ここで考えたいのは、窓口を「設ける」だけでなく、相談しやすい状態にすることです。
このあたりが曖昧なままだと、従業員は相談をためらいます。
特に中小企業では、人事担当者、管理職、経営者との距離が近いため、社内窓口だけでは相談しづらい場合もあります。
そのため、外部相談窓口を組み合わせることは、実務上かなり有効です。
社内には言いづらいが、外部の専門職になら話せる。
自分の受け止め方が過剰なのかどうか、まず整理したい。
会社に報告する前に、状況を落ち着いて話したい。
こうしたニーズを受け止める入口として、外部相談窓口は機能します。
カスタマーハラスメントは、相談窓口に入ってから対応するだけでは遅いことがあります。
実際には、電話口、窓口、店舗、訪問先、メール、SNSなど、現場でその瞬間に対応を迫られることが多いからです。
そのため、企業は事前に現場対応のルールを決めておく必要があります。
たとえば、次のような内容です。
厚生労働省のリーフレットでも、あらかじめ定めた対処の内容として、管理監督者に対応方針について指示を仰ぐこと、可能な限り労働者を一人で対応させないこと、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報すること、本社・本部等へ情報共有を行い指示を仰ぐことなどが示されています。
ここで重要なのは、従業員に「臨機応変に対応してください。」とだけ伝えないことです。
臨機応変という言葉は便利ですが、現場にとっては負担になります。
何をしてよくて、何をしてはいけないのか。
どの段階で上司を呼んでよいのか。
どの段階で対応を終了してよいのか。
この線引きがないと、真面目な従業員ほど無理をしてしまいます。
カスタマーハラスメント対策は、現場の接客品質を下げるためのものではありません。
むしろ、従業員が安心して通常の顧客対応に集中できるようにするためのものです。
相談や報告が入った後の流れも、事前に整理しておく必要があります。
カスタマーハラスメントの相談があった場合、会社はまず事実関係を確認します。
そのうえで、被害を受けた従業員への配慮を行い、必要に応じて再発防止策を検討します。
厚生労働省のリーフレットでも、事後の迅速かつ適切な対応として、事実関係を迅速かつ正確に確認すること、被害者に対する配慮のための措置を行うこと、再発防止に向けた措置を講ずることが挙げられています。
このとき、相談内容をどのように記録するかも重要です。
こうした情報が整理されていないと、会社として判断しづらくなります。
反対に、記録と報告の形式が整っていれば、管理職、人事、経営層、必要に応じて弁護士などの専門家とも情報共有しやすくなります。
カスタマーハラスメント対応では、「その場の対応」と「会社としての対応」を分けて考える必要があります。
現場で起きたことを、会社全体で受け止める。この流れを作ることが、従業員を守るうえで大切です。
カスタマーハラスメント対策では、特に悪質なケースへの対応方針も事前に決めておく必要があります。
例えば、脅迫、暴力、つきまとい、業務妨害、名誉毀損にあたる可能性がある行為などです。
このような場合、現場の努力や接遇スキルだけで解決しようとするのは危険です。
厚生労働省のリーフレットでも、対応の実効性を確保するために必要な措置として、特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、その対処を行うことができる体制を整備することが挙げられています。
悪質なケースでは、次のような判断が必要になる場合があります。
これらは、現場担当者だけで判断するには重すぎる内容です。
だからこそ、会社として「どのような場合に、誰が、どのような判断をするのか。」を決めておく必要があります。
カスタマーハラスメントの相談体制を整える際には、相談者のプライバシー保護も欠かせません。
従業員が相談をためらう理由の一つは、「相談したことが周囲に知られるのではないか。」という不安です。
特に小規模な事業所では、誰が相談したのかが推測されやすいことがあります。
そのため、相談内容を誰が取り扱うのか、どの範囲まで共有するのか、記録をどのように管理するのかを明確にしておく必要があります。
また、相談したことを理由に、本人が不利益な扱いを受けないことも周知しておく必要があります。
厚生労働省のリーフレットでも、相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること、相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発することが求められています。
相談窓口は、設置しただけでは機能しません。
相談しても大丈夫だと思えること。
相談した後に不利にならないとわかること。
会社がきちんと受け止めてくれると感じられること。
この安心感があってはじめて、従業員は声を上げやすくなります。
ここまでを整理すると、2026年10月までに企業が進めたいカスタマーハラスメント対策は、次のようになります。
これらを一度に完璧に整えるのは簡単ではありません。
特に中小企業では、人事担当者が日常業務を抱えながら、法改正対応、研修、相談対応、規程整備まで担っていることも多いと思います。だからこそ、社内だけで抱え込まず、外部の専門職や外部相談窓口を組み合わせることが現実的な選択肢になります。
カスタマーハラスメント対策において、外部相談窓口は大きな役割を持ちます。
従業員にとっては、社内には言いにくいことを相談できる入口になります。
会社にとっては、現場で起きている問題を早期に把握し、対応を整理するための入口になります。
カスハラの問題は、従業員が我慢し続けてから表面化すると、対応が難しくなります。
休職につながる。
退職につながる。
現場の士気が下がる。
管理職が対応に疲弊する。
SNSや外部機関への相談をきっかけに、会社が後手に回る。
このような状態になる前に、相談が届く仕組みを作ることが重要です。
外部相談窓口は、問題を大きくするための仕組みではありません。むしろ、問題が大きくなる前に受け止めるための仕組みです。
2026年10月まで、まだ時間があるように見えるかもしれません。
しかし、方針の作成、社内周知、相談窓口の整備、現場対応ルールの作成、管理職への研修、記録様式の整備まで考えると、準備には一定の時間がかかります。
次の項目に一つでも不安がある場合は、早めに見直しを始めることをおすすめします。
株式会社サポートメンタルヘルスでは、企業ごとに専用の相談フォームを発行し、臨床心理士・公認心理師がハラスメント相談を受け付ける外部相談窓口サービスを提供しています。
カスタマーハラスメントを含む相談内容を整理し、報告書形式で企業に共有することで、社内担当者が初動対応を検討しやすくなります。必要に応じて、弁護士連携による事実関係調査や対応判断にもつなげることができます。
2026年10月の義務化に向けて、カスタマーハラスメント対策をどこから整えればよいか不安な企業様は、まずは現在の相談体制の点検からご相談ください。
点検はこちら▶【魅力的な職場づくり企業診断】ハラスメント対策対応状況チェック
【コラム監修】 本山真(精神保健指定医/日本医師会認定産業医) 東京大学医学部卒業後、精神科病院、精神科クリニックにおける勤務を経て、2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニックを開院。メンタルヘルスサービスのアクセシビリティを改善するために2019年株式会社サポートメンタルヘルス設立。 |