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タグ : メンタルヘルス対策 , 健康経営® , 産業精神保健 , 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー)
2023年3月3日
最終更新日 2024年1月23日
2016年に『健康経営』が登場してから近年認知度が増してきました。従業員の健康維持・増進の考えが浸透しつつあるのは、健康経営アドバイザーの立場からすると非常に嬉しく感じる進展です。健康経営の取り組みを十分に行っていることを示す“健康経営優良法人”を申請する企業数は徐々に増えており、2022年度には約15000社にのぼったそうです。
【参考】
健康経営優良法人に認定されるためには様々な項目をクリアする必要があるわけですが、今回ご提案したい項目は『女性の健康の維持・増進に関する取り組みの強化』です。女性の健康維持・増進。大切なことは理解しているけれども何をどうしたら良いのか…。そんなお悩みをお抱えの企業担当者様、女性の健康に寄り添った近年のトレンドとしてフェムテック市場があるんです!フェムテック(Femtech)とは女性のライフステージごとの課題や悩みをテクノロジー(製品、サービスなど)で解決することを目的とした市場を指します。
【参考】
【産業医監修】フェムテックとは?メンタルヘルス専門職が簡単に解説!
企業が健康経営を推進する際、『女性の健康維持・増進』は意識的に取り組むべきテーマとして取り上げられています。今回の精神科産業医監修ブログは企業が健康経営の一環としてフェムテックの考え方を導入する意義やメリットについて解説いたします。
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健康経営優良法人についてはこちらのブログでも解説しています。ご参考にどうぞ!
産業医監修|地方創生につながる健康経営ー中小企業こそ健康経営をー
企業の健康に対する取り組みと言えばメタボリックシンドローム対策がメインでした。女性の社会進出増加(2016年時点で約44%が女性従業員)という時流に伴い、経済産業省は女性の健康に対する取り組みを充実させることが企業の活性化に有効なのではないかと提案しています。経済産業省の提案を支持するデータとして男性と女性とではかかりやすい疾病が異なり発病しやすい年齢にも男女差があるといったものがあります。ポピュラーな疾患を例に出せば…痛風は患者全体のうち約95%が男性だと言われていますね。また骨粗鬆症は男性患者と比較して女性患者が3倍ほど多いようです。つまり企業が健康課題に取り組むにあたっては、従業員の性別や年代によって対応・対策を考える必要があるわけですね。
関連項目:有病率に性差が見られる疾患|厚生労働省
フェムテック市場が盛り上がりを見せる女性の健康課題…。女性は思春期、性成熟期、更年期、老年期と生涯を通じて女性ホルモンが大きく変動します。女性ホルモンバランスの変動に応じたヘルスケアが必要なんですね。ホルモンバランスによる女性の健康課題、具体的には月経によるもの、妊娠・出産に関わるもの、更年期に生じやすいものなど様々です。企業として女性特有の健康課題に対する積極的なケアを怠ることで、職場ではプレゼンティーズムによる損失が生じやすくなるんです。
プレゼンティーズムについて解説しておきましょう。プレゼンティーズムとは出勤しているにもかかわらず心身上の健康問題によりパフォーマンスが上がらない状態を指します(欠勤による生産性低下はアブセンティーズムと呼びます)。プレゼンティーズムには頭痛、寝不足、花粉症(!)、月経に関する不調などの“欠勤するほどではない不調”が含まれます。欠勤するほどではないものの集中力や注意力を低下させる不調が、結果的に企業の生産性低下を招いてしまうわけです。女性の社会進出という表現が古臭く感じる現在、フェムテックを駆使し女性の健康課題によるプレゼンティーズムへと適切な対策を導入している企業が生産性を高めます。企業が女性の健康課題に取り組む意義の1つは“プレゼンティーズムの予防・改善”だと言えるでしょう。
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経済産業省の調査によると、女性従業員の約半数が女性特有の健康課題により困った経験があると回答しています。加えて女性従業員のうち約43%が女性特有の健康課題やライフイベントなどにより職場で何かしらあきらめた経験があるという報告があります。職場で女性があきらめたもの/ことの内容としては、『正社員で働くこと』が最も多く、次いで『昇進や責任の重い仕事に就くこと』が多いという結果でした。
プレゼンティーズムが生じやすいだけでなく優秀な人財を失うというのは企業にとっても大きな損失になります。健康経営が推進される背景にあるのは『労働人口の減少』です。少子高齢化が進む現代社会において人材不足の課題は今後ますます深刻になっていきます。健康経営やフェムテックを通じて、性別・年齢・病気や障害の有無など問わず、多様な人財が安心して意欲的に働きその人が持つ能力を最大限発揮できる企業を作り上げることで生産性を向上させていく必要があるのです。
経済産業省は、女性従業員が抱える職場における健康課題を以下のようにまとめています。
職場で困った経験をしている女性のうちの7割以上が月経関連の症状に悩まされています。フェムテック市場でも月経関連の困りごとへのケアは非常に注目されています。月経前におなかが痛くなる、月経周期が乱れている、イライラしたり落ち込んだりするなど月経関連のお悩みの内容は人それぞれですが、中にはPMS(月経前症候群)の診断基準に当てはまる方がいらっしゃいます。PMSは健康保険適応のれっきとした不調であり医療機関における治療が有効なケースもあります。フェムテックがカバーしているのは予防、医療がカバーするのは治療というわけですね。PMSについてはこちらの記事をご参照ください。
精神科医監修|PMS・PMDDのトリセツ|解説から対処法まで|株式会社サポートメンタルヘルス
性別や年齢問わず健康課題を解決するためにポイントとなる“ヘルスリテラシー”という概念があるので紹介しておきます。ヘルスリテラシーに明確な定義はありませんが、端的に言うと“健康に関する基本的能力”のことを指します。厚生労働省の『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』によると、ヘルスリテラシーとは『医療における情報を理解・活用できる力』です。同じように、東京都医師会ではヘルスリテラシーを『健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力』と説明しています。
【参考】
医療者と患者のコミュニケーション:ヘルスリテラシーを手がかりにして|厚生労働省
ヘルスリテラシーが不十分だとどうなるのでしょうか。ヘルスリテラシーが不十分とはすなわち健康に関する正しい情報を入手し理解・活量する力が不足しているということですから健康度が低くなることは想像しやすいと思います。実際にヘルスリテラシーの低い方の傾向として以下が挙げられます。
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健康経営を進めるにあたって従業員個人への対策に加え健康維持・増進に取り組みやすい職場の環境、風土などを醸成することへの対策も非常に重要になります。従業員に上記のような傾向がみられる場合“職場全体としてのヘルスリテラシーが不十分であるかも”といった視点も必要です。
女性の健康課題に話を戻しますが、実はヘルスリテラシーが高い人ほど仕事のパフォーマンスが高いという研究があります(働く女性の健康増進調査2018|日本医療政策機構)。こちらの研究ではPMSなど月経周期に伴う心身の変化が仕事のパフォーマンスにどれだけ影響するか比較し、ヘルスリテラシーが高い群の方は有意にパフォーマンスが下がる割合が低いという結果が得られました。同じように、更年期症状や更年期障害によるパフォーマンス低下にもヘルスリテラシーの高さが関わっているとのことです。
しかしながら、経済産業省の調査によると、管理職・男性及び女性従業員のうち70%以上の方が『女性の健康課題が労働損失や生産性へ影響していると知らなかった』もしくは『わからない』と回答しています。これは男性だけでなく女性自身の知識不足も課題であることを示唆しています。加えて、企業における女性向けのサポート整備状況について、女性活躍の流れによりワークライフバランス関連の取り組みは比較的進んでいるものの、女性の健康課題に対する取り組みは制度の整備状況や認知度が低いことも示されました。具体的には、家庭と仕事を両立するための産休・育休の制度や時短勤務などは広く知られているものの、妊婦健診など母性健康管理のためのサポートや不妊治療に伴う休暇などは、企業の制度としてまだ導入されていないケースが多いようです。
【参考】
【執筆】 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー) あらゆる企業にとって女性の健康課題へのサポートが重要だということはご理解いただけたかと思います。ではフェムテック、健康経営を駆使した対策としてどこから始めると良いのでしょうか。次回ブログにて解説します。
【監修】 本山真(日本医師会認定産業医|精神保健指定医|医療法人ラック理事長) |