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タグ : メンタルヘルス , 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー)
2024年6月28日
皆さんにとっての『心地良いにおい』はどのようなものでしょうか?私は梅の花の香りが好きで、春先は心地良く感じます。あと、焼き魚の匂いが非常に好きです笑(食欲がかき立てられますよね!)花の香り、美味しそうな食べ物の匂い、洗剤や柔軟剤、香水…他にも沢山のにおいが私たちの日常生活にはあふれています。そんな身近な“におい”を味方につけて心地良さ、環境の快適さをより向上させることで、仕事や勉強などのパフォーマンスをアップさせませんか?
今回はにおいとパフォーマンスの関連について解説していきます。
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においについて、快を感じるものを“香り”や“匂い”、不快に感じるものを“臭い”と分けて表現することが多いかと思います。本コラムにおいては、以下、一律に『におい』と表記します。
においとは『大気中に浮遊する分子量が300以下の主に有機物で、水及び資質にある程度の溶解性がある物質』と定義づけられています。私たちのまわりにはいつも複数の“におい物質”が存在しています。におい物質は鼻に入ると鼻腔にある嗅上皮という粘膜に吸収されます。嗅上皮に吸収されると嗅細胞から電気信号が出て、嗅神経から嗅球、嗅球から脳(大脳辺縁系)へと伝わり、においが知覚されるというメカニズムです。ちなみに、五感の中で唯一嗅覚だけが大脳辺縁系に直接伝達されるのだそうです。
あるにおいを嗅いで『懐かしい!』『あの場所・人を思い出した!』と、当時の記憶や感情がリアルに甦ってきた経験はありませんか?これには大脳辺縁系にある“海馬(記憶に関連する器官)”の働きが影響しているそうです。
メンタルヘルスとにおいー感覚過敏とは?ー感覚過敏とは、五感の感覚が過敏になっている状態を指します。今回のテーマである“におい”を人より敏感に感じるという方も一定数いらっしゃいます。感覚過敏自体は疾患としてカテゴライズされるものではありませんが、生まれ持った特性である場合と後天的なものである場合とがありますので、簡単にご紹介します。 【こちらもどうぞ】 感覚過敏からユニバーサルデザインを考える|精神科医監修ブログ
○生まれ持った感覚過敏-発達障害由来の特性 発達障害の中でも自閉症スペクトラム障害の特性のひとつに、感覚への過敏性、または鈍麻性があります。これは生まれ持ったものなので、“過敏性/治療する”というよりは“いかに共生するか”が課題となります。
例えば、嗅覚の過敏性を持った方が電車通勤をしているとします。 毎朝、ただでさえ満員電車で疲れてしまうのに、強いにおいを知覚してさらにストレスフルな環境に置かれることとなり、このようなしんどい状況があまりに続くと体調不良をきたす可能性が高まってしまいます。
解決策としては、心地良いと感じられる環境の構築です(【精神科医監修】感覚過敏とスヌーズレン・センサリールーム)。上記大変な電車通勤の例で考えますと、出勤時間を調整して満員電車を避ける、電車通勤以外の方法を模索する等の方法があるでしょう。
○後天的な感覚過敏-メンタル不調由来のもの メンタル不調により、以前は気にならなかったものが気になる(敏感性)、もしくは感覚がわかりづらくなる(鈍麻性)ことがあります(精神科医監修|音が気になる…これって病気なの?聴覚過敏の世界)。この場合、心地良い環境に身を置いて楽になることもあるかもしれませんが、それ以上に“メンタル不調の治療”の優先度を高めて取り組むことが大切です。
メンタル不調が軽快してくると、感覚の過敏性・鈍麻性も自然と元の状態に近づいてきます。もし気になることがありましたら、医療機関(精神科・心療内科)へとご相談されることをお勧めします。 |
においをどのくらい強く感じるか、という感受性は人によって差が大きいそうです。”においを強く感じ過ぎる”、”においを不快に感じる”といった場合には必ずしもパフォーマンスアップには繋がらないかもしれませんし、繋がったとしてもストレスが大きい環境であることは間違いないと思います。においをある程度許容できる(不快と感じない)人であれば、無香の環境よりもにおいのある環境の方が集中力を高い水準で保つことができ、頭がすっきりとした状態でいられると示した研究があります(岩下・合原, 2003)。
以下、においとパフォーマンスに関する研究をいくつかご紹介しますが、結局のところ個人差が大きいので“全ての人に当てはまるものではない”という点に留意が必要です。
においと自動車運転のパフォーマンス
【出典】 田辺稜・神邊篤史・上地孝直・日高啓太・鈴木桂輔・榊原清美・加藤和弘(2021)覚醒水準が低下した自動車ドライバへの香り成分の供給が運転パフォーマンスと生理的特性に与える影響, ヒューマンインタフェース学会論文誌, Vol.23, No.4, p.153-162 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/his/23/4/23_525/_pdf/-char/ja) |
田辺他(2021)では、パインとリモネン(レモン・オレンジ・グレープフルーツ等の果皮に含まれる成分)という2種類のにおい物質を材料として、自動車の運転パフォーマンスにどう影響しているか実験を行っています。結果は下記の通りです。
リモネンはグレープフルーツの果皮の主成分です。確かに、グレープフルーツのにおいを嗅ぐとすっきりリフレッシュできるような感じがしませんか?もしグレープフルーツのにおいがお嫌いでなければ、パフォーマンスアップを目指して試してみる価値があるかもしれません。
においと運動のパフォーマンス
【出典】 西垣景太・伊藤兼敏・高橋芳梨・遠藤慎也(2022)香りのある空間で高強度運動を実施した際の心理的影響, 日本体育・スポーツ・健康学会予稿集 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspehssconf/72/0/72_247/_pdf/-char/ja) |
においのある空間で高強度運動(15秒間、自転車を最大限漕ぐ)を行ったときの心理的影響に関する研究です。グレープフルーツのにおいがある環境下で運動を行ったとき、『活力がみなぎる』『リラックスをサポートにする』『疲労回復をサポートする』といった回答が有意に多い結果となり、パフォーマンスの発揮に一部影響していることが示唆されました。
先ほど自動車の運転の研究でも、グレープフルーツの主成分であるリモネンのにおいがパフォーマンスアップに影響していましたね。グレープフルーツのにおいは、交感神経の働きを促進しつつリラックスを促進する効能が見込めるのだとか。
においと学習のパフォーマンス
【出典】 平野雅人・山中俊夫・崔ナレ・竹村明久・小林知広(2020)香り環境下における学習効率に関する研究(その5)香り環境が心理評価及び学習効率に及ぼす影響, 空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集, 2020. 7(0), p.73-76 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/shasetaikai/2020.7/0/2020.7_73/_pdf/-char/ja) |
ローズマリー・レモン・ペパーミントのにおいを提示した環境下で学習パフォーマンスの測定を行った研究で、以下のような結果が示されています。
上記から、においがある環境下では学習のパフォーマンスが上がりやすいことが示されました(学生のうちに知りたかった…!笑)。
今回ご紹介した研究は、自動車の運転、運動、学習のパフォーマンスを題材として取り扱っていましたが、今このブログを読んでいただいている皆さんがパフォーマンスをアップさせたいことは何でしょうか?仕事、試験勉強、部活、趣味活動…人それぞれだと思います。覚醒水準を適度に高めて集中力を維持させたり、休憩中のリラックス効果をアップさせることでパフォーマンスを高めたり、と、においは様々な効果が期待できるのかもしれません。
参考
・においのメカニズム|日本デオドール株式会社(引用日:2024/03/30)
(https://www.deodor.co.jp/nioimec.html)
・「ニオイ」とは?|新コスモス電機株式会社(引用日:2024/03/30)
(https://www.new-cosmos.co.jp/product/smell/xp3293_nioi.html)
・岩下剛・合原妙美(2003)香りによる覚醒が在室者の作業パフォーマンスへ及ぼす影響に関する考察, 空気調和・衛生工学会大会学術講演論文, 平成15年, B-25, p.673-676
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/shasetaikai/2003.2/0/2003.2_673/_pdf/-char/ja)
・【精油の辞典】グレープフルーツ精油の効果・効能・おすすめの使い方|くらしとアロマ(記事更新日:2023/06/01、引用日:2024/03/30)
・グレープフルーツの香りの効果と効能は?成分やおすすめの使用方法を紹介|Suvalite Air(記事更新日:2023/05/23、引用日:2024/03/30)
(https://www.karumoa.co.jp/suvaliteair/column/grapefruit/)
【執筆】 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー) 弊社母体の医療法人には、待合室にアロマディフューザーを置いているメンタルクリニックがあります。においは日替わりで、主にリラックス効果が期待できるものを使用しています。 アロマオイル・精油を置いているお店も沢山あるので、好みのにおいを楽しみつつ、試しにパフォーマンスに変化があるかモニタリングしてみると面白いかもしれませんね。 ある程度自由度のきく環境であれば、においを味方につけてより健康的に、よりパフォーマンスアップを目指すことも可能かもしれません。私もリモートワーク用にアロマオイルを探してみようかなと思います。
【監修】 本山真(日本医師会認定産業医|精神保健指定医|医療法人ラック理事長) |