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精神科医監修:耐えられない日中の眠気は病気なのか?

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2022年9月16日

最終更新日 2023年3月18日

精神科医監修ブログ『耐えられない日中の眠気は病気なのか』

今回は「どうしても眠くなってしまう!」という耐えられない日中の眠気について解説していきます。

 

眠れないという、いわゆる「不眠」の状態は不調として広く認識されていますが、反対に「眠い!」と言うと、「気合が足りない」「やる気がない」「自己責任」「怠けてる」などと言われがち…。そんなことないのに…と言いたいけれど、自分が原因だと思い込んで、ついつい細かくは振り返らずに「早く寝れば解決」としてしまいがち。

 

もちろん、うっかり夜更かししちゃった次の日に眠いのは当たり前かもしれませんが、どうしてもご自分ではコントロールが難しい、単純な寝不足によらない眠気も存在します。

 

今回は、そんな「耐えられないほどの日中の眠気」の要因について、いくつかご紹介していきたいと思います。日中の眠気の原因によって対処法も様々です、日々の耐えられない眠気分析にお役立てください。

 

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日中の眠気。それ薬の副作用かもしれません


現在、飲んでいる薬などはありませんか?服用している薬の種類によっては、眠気を誘発するものもあります。市販薬だと、風邪薬や痛み止め、花粉症の薬なんかも、眠気が出やすい成分が入っているものがあります。これは、飲む薬とご自分の体質の相性などによって一人一人生じ方が違うため、「あの人は大丈夫と言っていた」というのは参考程度にしかならないかもしれません。

 

市販のお薬を飲む機会がある方は、箱や説明文に書いてある副作用の欄を今一度見てみると、副作用が書いてあったりします。処方薬等で気になる方は、一度薬剤師さんに相談してみるのも良いでしょう。

 

お薬全般に言えることですが、効果(作用)と副作用はセットで起こり得るものです。副作用が出るから何が何でもダメ!ということではなく、生活への影響を考えながら上手にお付き合いしていきたいものですね。

 

食後の眠気なら血糖値を疑え!


お昼ご飯を食べた後の午後、眠くなってしまう人も多いかもしれません。そんな食後の眠気は、血糖値の乱高下が原因かもしれません。

関連項目:食後高血糖(e-ヘルスネット|厚生労働省)

 

いわゆる「血糖値スパイク」と呼ばれる現象ですが、簡単に説明すると、以下のような仕組みで発生しています。

 

  1. 食事を摂る
  2. 血糖値が急激にあがる
  3. 膵臓からインスリン(血糖値を下げるホルモン)がたくさん分泌される
  4. (色々あって)血糖値が急激にさがる

→このタイミングで眠気やだるさ、集中力の低下が出現!

 

 

 

最終的に眠気にかかわるのは急激な血糖値低下の部分ですが、これは血糖値が上がりすぎなければ起こらない現象です。そのため、食後の血糖値上昇をゆるやかにすることが対処の方向としては正しいといえるでしょう。

 

具体的な対処法としては、糖質の多すぎる食事を控えたり、血糖値の上昇がゆるやかになる「低GI食品」中心の食事にしてみたり、食べる順番を工夫してみたり、食事の間隔をあけすぎないようにしてみたり…などが挙げられます。気にし過ぎもストレスの素ですが、どうしても午後眠くなってしまう方は食事の内容を見直してみてもいいのかもしれません。

 

低GI食品については、こちらもご参照ください。

【参考】

炭水化物(厚生労働省)

「食品のGI値」を活用し、健康な体をつくりましょう!(山梨県厚生連)

 

月経も眠気に関連しますよ


女性の場合、月経前に眠くなる人が比較的多くいらっしゃいます。夜は逆に上手く眠れない…という状態も起こりやすく、ご自分の傾向を把握しておくことが重要です。

 

 

月経の周期は「月経期」「卵胞期」「排卵期」「黄体期」という4つの期間に分けることができます。このうち、排卵期と月経期の間の黄体期と呼ばれる期間には「プロゲステロン」と呼ばれるホルモンの分泌が増加します。このホルモンの働きによって体温が上がる結果、日中に眠くなったり、逆に夜の睡眠の質が悪くなったりしやすくなります。

 

対処法としては、普段よりも夜間の睡眠の質を意識したり、15分くらい仮眠をとったりが挙げられるようです。腹痛や頭痛、気分が不安定になりやすいなど、眠気にとどまらない不調が生じやすい時期ですので、無理せずご自分をケアする時間を多めにとるようにしましょう。

関連項目:

 

https://twitter.com/co_sapomen/status/1364923257321787393

 

眠気が生じやすい脳のタイプ


この辺りからメンタル領域が関わってくるお話です。皆さんに生来的に備わっている脳のタイプによっては、眠気、つまり覚醒レベルを調整することが苦手な場合があります。

 

いわゆるADHDタイプの脳の方は、この覚醒レベルの調整があまり器用にできない脳のタイプをお持ちです。後述のナルコレプシーを併発している方も、ADHDではない人と比べると多くいらっしゃいます。夜は寝てるし不眠とは無縁だと思うけど、ごはんを食べる前でも抗いがたい眠気が…こんな状況になったりします。

 

多動や衝動性、不注意など、一見すると「動き過ぎて困難が生じている」と思われがちなADHDですが、実はこれらの行動、脳の話で説明すれば活動が低いため生じているものだったりします。アクセル全開だから動いてしまう、というよりも、ブレーキがきかない(働きにくい)から止まれない、という方がイメージとしては近いかもしれません。そのため、同じような単調な作業を繰り返していたり、興味の持てないものにずっと接していると耐え難く眠くなる(脳の覚醒のレベルが下がってしまう)ことが起こったりします。

 

生活上での工夫ですが、眠気を感じたときは脳の活動が下がっているサインのため、いったん全く違う作業に意識を切りかえて、スッキリしたらまた戻る!などの大胆な割り切りが有効な工夫だったりします。眠くなりにくいだけでなく、結果的に作業が早く終わったり、ミスが少なくなったりと、仕事の能率自体も上がるかもしれません。別のことを始めると元々やっていたことを忘れそう…という場合には、時間を区切って戻ってこられるようにリマインダーなどを設定しておくとよいでしょう。

 

また、ADHDの方は不眠でなくても睡眠の質を保つのが難しかったりします。寝ることにも集中できていないという感じです。良く寝たつもりでも、隠れ寝不足になっていて、日中の眠気に影響が出ているかもしれません。睡眠の質を振り返ってみていいかもしれませんね。

関連項目:癖なの?病気なの?【先延ばしの科学】精神科医監修ライフハック心理学#3

 

日中の眠気とメンタルの病気


最後に、メンタルヘルス領域の病気による日中の眠気をご紹介します。

 

【ナルコレプシー】

名前を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、日中に突然、耐え難い眠気に襲われて眠ってしまうという疾患です。近年の研究で、オレキシンという脳内の物質が少ない(分泌されにくい)ことで生じているのではないか、ということが明らかになりました。授業中や仕事中であっても突然眠ってしまい、他の要因での居眠りとの区別が外からだと分からないため、周囲の理解が得られにくい疾患でもあります。

 

ナルコレプシーの症状としては、金縛りや「情動脱力発作」と呼ばれるものもあります。情動脱力発作とは、笑ったり怒ったりなど、感情が大きく動いたときに体が脱力してしまうという発作です。このときには、倒れてしまったり、腰が抜けたり、持っているものを落としてしまったりといったことが起こり得ます。

 

DSM-5における診断基準は、以下の通りです。

A 耐え難い睡眠欲求、睡眠に陥るまたはうたた寝する時間の反復が、同じ1日の間に起こる。これらは、過去3カ月以上にわたって、少なくとも週に3回以上起こっていなければならない。

B 少なくとも以下のうち1つが存在する:

1.(a)または(b)で定義される情動脱力発作のエピソードが、少なくとも月に数回起こる。

(a)長期に罹患している人では意識は維持されるが、突然の両側性の筋緊張消失の短い(数秒~数分)のエピソードが、笑いや冗談によって引き起こされる。

(b)子どもや発症5カ月以内の人では明確な感情の引き金がなくても、不随意的にしかめ面をする、または顎を開けるエピソードがあり、舌の突出、または全身の筋緊張低下を伴う。 。

2.脳脊髄液(CSF)のヒポクレチン-1の免疫活性値によって測定されるヒポクレチンの欠乏(同じ分析を用いて測定された、健常者で得られる値の1/3以下、または110pg/ml以下)。脳脊髄液のヒポクレチン-1低値は、急性脳外傷、炎症、感染の状況下のものであってはならない。

3.夜間のポリソムノグラフィでは、レム睡眠潜時が15分以下であり、睡眠潜時反復検査では、平均睡眠潜時が8分以下、および入眠時レム睡眠期が2回以上認められる。

【引用】高橋三郎、大野裕(2014)『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』 医学書院

 

 

 

精神科医本山の豆知識|睡眠薬の歴史

今回のテーマは耐えられないほどの日中の眠気。運転や高所での作業に従事している場合、危険が伴います。医療の活用をご検討ください。

 

精神科において日中の眠気と言えばナルコレプシー。上述の通り、覚醒している状態をキープするオレキシンの量が少ないため生じることが明らかになりました。オレキシンが覚醒状態を維持するということは、つまりオレキシンの働きをブロックすれば眠くなるということです。

 

現状最も新しいタイプの睡眠薬(オレキシン受容体拮抗薬)は、上記作用機序を想定されています。オレキシン受容体拮抗薬は、2022年現在、スボレキサント(商品名:ベルソムラ)、レンボレキサント(商品名:デエビゴ)の2種類が保険適用となっています。ちなみに睡眠薬は、バルビツール系、ベンゾジアゼピン系、Z薬(Z-drug)、オレキシン受容体拮抗薬の4つに分類できます(メラトニン受容体作動薬を含めれば5つ)。バルビツール・ベンゾジアゼピンは麻酔に使われることから分かるように鎮静状態を作り出すイメージです。Z薬(Z-drug)は、ベンゾジアゼピン系から筋弛緩作用が取り除かれたものであり、概ね作用機序は同様だと考えられています。

 

オレキシン受容体拮抗薬は、それまでの睡眠薬でメジャーだった『鎮静状態を作る』というコンセプトを『覚醒状態を抑える』という狙いに切り替えたわけで、スボレキサントが発売された当時(2014年)、非常に画期的だと感じたのを覚えています。

 

 

【特発性過眠症】

ナルコレプシー同様、過眠症のひとつです。

 

ナルコレプシーが比較的短い時間で目が覚めて、一旦はスッキリする一方、こちらの特発性過眠症は、1時間以上など長時間寝てしまうことが特徴です。また、中には夜の長時間睡眠(10時間以上)を伴う場合もあるようです。

 

ナルコレプシーも含め、過眠症の検査や診断には専門の医療機関を受診する必要があります。周囲から指摘がある場合や、おかしいなと思った際には、受診を検討してもよいかもしれません。

 

【躁うつ病(双極性障害)】

躁状態とうつ状態を繰り返す、躁うつ病のうつ状態の時期では、過眠の症状が出ることがあります。「とにかく辛くて一日中寝ている」「起きられない」といった状態です。また、過眠と一緒に過食の症状が出る方もいらっしゃいます。「お腹は空いていないけれど、だらだら食べてしまう」といった話を聞くこともあり、一般的に「眠れない、食べられない」というイメージがありがちなうつ状態とは少し違う?と感じられるかもしれません。

 

反対に躁状態の時期は、逆に睡眠時間が短くなる方が多くいらっしゃいます。「何徹しても元気で、無限にやる気が湧いてくる!」「とにかく寝なくても平気」といった感じで、明らかな短時間睡眠でも寝不足と感じることなく過ごせてしまいます。また、食欲も「食べなくても動ける、ごはんよりも行動」といったようにあまり食べない状態が続いたりします。

 

もちろん、過眠があるから即躁うつ病!ないから違う!とは一概に言えませんが、気分の落ち込みに加えて、食欲や睡眠にも波があるなあと感じられた方は、一度相談してみると良いかもしれません。

関連項目:精神科医監修|感情の波に飲み込まれるな!激しい怒りを乗りこなせ!

 

メンタルの病気だけでなく、身体的な不調のサインとして眠気が出ることも多くあります。最近急に眠くなった、生活に支障をきたすような眠気がある、といった際には体の不調も視野に入れて医療機関の早めのご相談をお勧めします。

 

番外編:日中の眠気は夜間の睡眠の質によるものかも


 

  • 以前と比べて日中眠くなったり疲れが強く残るようになった。
  • 夜眠れなくて日中眠い、夜にどうにか上手く寝たい。
  • (眠気の記事ですが)上手く眠れなくて日中つらい。

 

こういったお困りごとをお持ちの方は、一度ご自身の睡眠の質を徹底的に振り返って行動を変えてみる試みも有効だと思います。

【参考】

【眠れない方必見!】睡眠のカギは朝にある!精神科医監修不眠解消メソッド

【精神科医監修】眠れない原因は考えない!【不眠症の医学】

【精神科医師監修】寝たはずなのに疲れてる?睡眠障害4つのポイント

 

弊社で実施している「睡眠大事」プログラムは、ご自分の睡眠を見つめなおせる機会になります。睡眠について正しい知識を得て、自分の睡眠の特徴を掴んでいくことで、生活の質も向上させていきましょう。

精神科医監修|【睡眠大事】より良い眠りのためのオンラインプログラム

 

いかがでしたか?『耐えられない日中の眠気』とひとことで言っても、様々な要因があります。ご自身で対処できるものから、なかには治療が必要な不調のサインであることも少なくありません。

 

「いつもより眠いな」

「いつも眠いな」

 

こんな風に思ったり気付いたりしたときには、少し立ち止まってご自分の生活を振り返ってみるきっかけにしてみてください。

 

【執筆】

籔(公認心理師・臨床心理士)

ブログには毎月締め切りがございまして…。ブログを書こうと思うときまって耐えられない眠気が出るんですよ私。お薬も飲んでいないし食事にも気を使っているんですけどねえ。不思議ですねえ。

籔記事一覧

 

【監修】

本山 真(精神科医師)

 

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