ブログ

精神科医監修|統合失調症を精神医学の視点から解説!症状・治療法とその背景

タグ : ,

2024年12月6日

統合失調症とは?精神医学の視点から症状と治療法を徹底解説

以前、学生時代に受けた講義のお話を交えながら「エス」についてのブログを執筆しました(【精神科医監修心理学講座】フロイトの構造論【es・自我・超自我とは】再び学生時代の記憶をたどり、今回は精神医学の授業を参考に「統合失調症」についてご紹介したいと思います。

 

株式会社サポートメンタルヘルス公式LINE ID

メンタルヘルス情報配信中!

 

学生時代に学んだ精神医学と統合失調症の出会い


私が受けたのは集中講義でしたので、毎週〇曜日の△限と決まっている授業とは異なり、長期休暇中に数日間まとめて1日あたり3~4コマの授業を受ける形式でした。担当は精神科医として実際に臨床現場に身を置いているA先生でした。実例を交えたA先生の講義は非常に興味深く、学生たちには信じ難いような経験談も「精神科で働いていると珍しくない出来事」だと教えてくださり、衝撃を受けたと同時に精神科で働くことの大変さを認識したのを思い出します。

数日間の授業ではうつ病、躁うつ病、認知症などの代表的な精神疾患について、それぞれの特徴や治療法に関する講義を受けました。その中の1つが「統合失調症」です。

 

統合失調症の歴史と病名変更の背景


統合失調症という名称は2002年から用いられているものです。現在ではだいぶ浸透してきたと感じますが、それまでは1937年から65年もの間、精神分裂病と呼ばれていました。何も知らない人が病名を聞いたときの偏見や精神が分裂してしまう怖い病気という誤ったイメージの払拭、当事者に対する人格否定や差別をなくすため、全国精神障害者家族連合会が日本精神神経学会に名称変更の要望を出したのが転機になっています。

実際、精神分裂病をという病名を家族や本人に告知しづらいと感じていた精神科医も少なからずいたようです。

【参考】統合失調症について -精神分裂病と何が変わったのか-(日本精神神経学会)

 

陽性症状と陰性症状、統合失調症の代表的な症状とは?


授業内ではこのように名称が変更された背景やよくみられる病状について学びました。

統合失調症の症状は多種ですが、大まかには健康なときには見られなかったものが現れる「陽性症状」健康なときにあったものが低減・消失する「陰性症状」に分けられています。陽性症状の例としては、ないはずのものが見える幻視、誰もいないところで自分に対する悪口や命令が聞こえる幻聴などを含む幻覚、テレビやインターネットで自分のことが話題になっているなど非現実的なことを事実だと思い込む妄想など、陰性症状の例では喜怒哀楽といった表情の表現が乏しくなる感情鈍麻、自発的な行動が困難になる意欲の欠如、自分の世界に閉じこもり、他者とコミュニケーションをとることがなくなる社会的引きこもりなどがあります。また、記憶力、注意力、判断力の低下といった認知機能障害もみられます(【精神科医監修】認知機能とは?認知機能が関連する困りごと)。

 

発症のメカニズムと統合失調症の発症リスク


脳内で放出される神経伝達物質の乱れによるものであるという説もありますが、遺伝や過剰なストレスも要因になりうると推測されており、発症のメカニズムや根本的な原因など解明されていない点も多い病気です。10代半ばから30代半ば頃に後天的に発症するのが一般的で、発症頻度としては全人口の0.7~0.8%、100~120人に1人ぐらいの割合でかかると言われています。

 

統合失調症の4つの進行段階とその特徴


統合失調症は、病気の経過により以下の4段階に分けられています。

前駆期:目立った症状はないですが、不眠やイライラが出現し何となく違和感を自覚します。焦りや気分の変化もみられるため、なるべく睡眠をとり休めるように注意します。

急性期:幻覚や妄想が出現するものの自分が病気であるという認識がないため、周囲からみておかしな行動をとることがあります。被害的になりやすく周りで起こる出来事にも敏感になるので、安心感をもてるようにします。

消耗期:目立った症状は減少しますが、意欲や活力もなくなります。引きこもりがちになる場合もあるので、休みながら無理なく規則正しい生活を崩さないように気を付けます。

回復期:エネルギーが戻り心身ともに安定してきます。社会での活動を徐々に再開し、再発予防策を講じることも大事です。

 

【参考】精神科医監修|音が気になる…これって病気なの?聴覚過敏の世界

 

統合失調症の治療法:薬物療法とリハビリテーション


統合失調症の代表的な治療法は抗精神病薬による薬物療法です。抗精神病薬には脳内で過剰に活動するドーパミンを抑制することによって症状を安定させる効果があるとされています。従来(1950年代)から用いられている「定型抗精神病薬」と呼ばれるお薬は陽性症状に効果があり、新しく(1990年代後半から)用いられるようになった「非定型抗精神病薬」と呼ばれるお薬は陽性症状だけではなく陰性症状や認知機能障害への効果も期待されています。

お薬ですので副作用が生じる可能性はあります。手が震える、のどが渇く、体重が増加するなどの副作用がみられる場合にはそれらの症状を抑えるお薬も同時に処方されます。また、併存する強い不安や不眠を改善するために抗不安薬や睡眠薬の服用を勧められることもあります。統合失調症のお薬は通常の錠剤やカプセル剤の他、液剤や注射剤もありますので、通院、服薬だけで改善しない場合は入院治療によってお薬の調整をしたり症状の経過をみたりします。

また、薬物療法以外にはリハビリテーション(環境調整、社会復帰支援等)や精神療法を受けること、当事者や家族が病気に対する理解を深めることも有効だと言われています(関連項目:精神科医監修|歴史から紐解くメンタルヘルスにおけるリカバリーとは?)。

現状、統合失調症は完治が難しい病気と認識されていますが、症状が軽快し安定して過ごせるようになる人は多くいます(寛解状態と呼びます)。しかしながら再発の可能性も大いにあるため、調子が良くなったからといって自己判断で通院や服薬を中止しないように気を付けなければいけません。

 

音楽「魔王」と統合失調症の関連性


さて、ここまで統合失調症についての部分的な説明ではありましたが、少しはご理解いただけたでしょうか。

この単元の最後にA先生は「“魔王”という曲を知っていますか?」と問いかけ、歌詞や情景が描かれたプリントを配布しました。魔王とは、学校の音楽の授業で学習した方も多い曲だと思いますが、文豪ゲーテの詩にシューベルトが曲をつけた物語詩です。高熱を出した息子が風や風に吹かれて揺れる葉の音を魔王のささやきだと言い、恐怖から解放してほしいと訴えながら医者へ向かう道中、父の腕の中で息絶えるというストーリーです。

 

A先生は「これを統合失調症だと見立てると、“魔王”がいるという幻視、妄想、そしてその声が聴こえるという幻聴、現実かどうかの判断もできず判断力の低下もみられる、というように考えることができるのです。」と説明し、それまでの授業の内容にやや緊張していた学生たちの雰囲気を和ませるように「これはひとつの例ですが、実際現場に出たらこのような患者さんに出会うと思うので、そのときはぜひ(授業の内容を)思い出してください。」と笑顔で結びました。

 

【解説】

ふ~みん(公認心理師)

様々な病気の症状や治療法を知っておくのはもちろんですが、本ブログでご紹介したように他方面から物事を見立てたり可能性を考えたりすることは、治療をする側、受ける側双方にとって大事なことだと感じています。

ふ~みん記事一覧

 

【監修】

本山真

医師、精神保健指定医、日本医師会認定産業医

東京大学医学部卒業後、精神科病院・診療所での勤務を経て、さいたま市に宮原メンタルクリニックを開院。現在は株式会社サポートメンタルヘルス代表に加え、2院を運営する医療法人の理事長としてメンタルヘルスケアに取り組んでいる。

 

関連記事