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タグ : メンタルヘルス , メンタル不調・精神疾患解説 , 産業精神保健 , 籔(公認心理師・臨床心理士)
2020年9月19日
最終更新日 2024年2月10日
“新型うつ”、“非定型うつ”、“現在型うつ”などなど。過去メディアを賑わせた『うつ』には様々なうつがありました。
*厚生労働省サイト:こころの耳
新しい『うつ』が取り上げられる度、何でもかんでも『うつ』と呼ぶことへの批判的な意見が飛び交います。そして、時間経過のなかで診断基準として定着する『うつ』もあれば、一過性のブーム(?)で終わる『うつ』もあります。どんな名前の『うつ』であれ、しんどい思いをしている人がいるのは事実。賛否両論あることは重々理解したうえで、“○○うつという名前がつくこと”、“○○うつという考え方が広く拡散されること”で、『自分は○○うつかも、早めにケアをしよう』という人が一人でも増えるのであれば、一定の価値はあるのかなあ、と考えています。
近年のトレンドで言えば、新しい働き方の一つとして定着したテレワーク/リモートワーク。果たしてテレワーク/リモートワークによって『うつ』になり得るのでしょうか?結論から申し上げましょう。テレワーク/リモートワークで『うつ』になる可能性は充分にあります。いたずらに不安や恐怖を煽りたいわけではありません。『自分のメンタルヘルスに関心を持つ』良い機会だと思うんです。
メンタルヘルス、セルフケアに関する情報をお届けしています!
テレワーク、オンライン会議やオンラインセミナー。すっかり定着しましたね!オンライン会議って会議後アプリを閉じさえすれば、次の仕事にさっと取りかかることができるので個人的に大好きです。振り返れば、導入当初は新しい働き方への適応に随分不安を感じていた気がします…。一方で、不安に圧倒されるがまま、ただただ時間が経過してしまうのは何だか勿体ない気もしていました。『ピンチはチャンス』の精神で、新しい働き方へとtryする機会と捉えるように心がけていました。
従前と異なる”新しい環境”というのは、やはり負荷が高まります。俗っぽい表現ですが”五月病”とはまさに新しい環境への適応障害でしょうしね。
【参考】【精神科医監修】五月病は予防できる!公認心理師が解説
テレワーク/リモートワークも同じ視点から分析することが可能なんです。解説をすすめる前に、厚生労働省による適応障害の説明を引用しておきましょう。
“適応障害とは、ある生活の変化や出来事がその人にとって重大で、普段の生活がおくれないほど抑うつ気分、不安や心配が強く、それが明らかに正常の範囲を逸脱している状態といえます”
つまるところ、生活の変化や出来事によって『うつっぽさが生じますよ』ということです。したがって、『テレワークうつ/リモートワークうつは生じ得るか?』と聞かれれば、それまでテレワーク/リモートワークをしていない人にとっては生活の変化に該当するわけですから、回答は『YES』となりますね。つまり、テレワーク/リモートワークへの移行に伴う『あらゆる生活の変化』を原因として、精神的な不調が生じた=テレワークうつ/リモートワークうつ、という発想です。
さてここで、大切なことをお伝えしておきましょう。うつっぽさを招く変化・出来事って、重大さが大切であって、ネガティブな変化、ポジティブな変化という種別は問わないんです。『うつ』と聞くと嫌なことやつらいことがあった時に生じるもので、どちらかというとネガティブな文脈で使われやすいですよね?ところが、変化に対して『大きな力を使うとき』には、それがネガティブなことであれ、楽しいことであれ、すべからくストレスがかかっているんです。テレワーク/リモートワークに初めて取り組んでいらっしゃる方々。まさに今『大きな力を使うとき』に該当しているということです。
それまでと違うことをやるって、自分でも気づかないうちにたくさんエネルギーを使うものなのです。知らず知らずのうちにストレスや疲れがたまってしまっていた…なんてこともあります(『昇進うつ』や『引っ越しうつ』はその代表例ですね)。テレワークが始まって、『自分には合わないな』『しんどいな』『早く元に戻らないかな』と感じている方は、ストレスの大きさに自覚的だと思います。テレワークをしてみて、『こっちの働き方の方が自分に合ってるかも!』、『テレワークで前より楽になった!』と感じている人でも、変化に対するストレスは潜在的に生じているんです。
【参考】【公認心理師執筆】自分に合った働き方の選択|新しい働き方としてのテレワーク
環境の変化が実際どれくらいのストレスになるのかについては、ご自身のタイプや環境との相性による部分がかなり大きいですし、ストレス発散のしやすさも個人差は大きいものです。かく言う私自身も、『変化しないで続ける』ことの方が大の苦手なため、変化を求めるタイプではあるのですが、それでも大きな変化が続けば『楽しいけどすごく疲れる…』となりがちです。自覚されづらい潜在的なストレスがかかっている状態の一例です。
また、自分でコントロールができない環境の変化は、自発的な変化よりも当然大きなストレスがかかります。突然の勤務形態変化はコントロールできない環境変化に該当しますね。従来型の働き方が自分に合っていた、特段変化も求めていなかった、という方にとって、この変化は影響が大きいのは当たり前です。
実際にテレワークなどによる不調にはどのようなものがあるのかをチェックリスト方式で具体的に紹介しますね。最近不調だな、と感じている方は、ご自分に当てはまる項目があるかの参考にしてみてください。
1.気分が晴れない
2.だるさがある、やる気が出ない
3.仕事に集中できない
4.睡眠リズムが崩れた/上手く眠れない
5.食欲がわかない
6.気晴らしができない、趣味が楽しくない
7.考えがまとまらない
8.気持ちの切り替えがうまくいかない
いかがだったでしょうか?こうやって一覧として並べてみると、すごく具合が悪そう…とお感じになるかもしれません。ただし、どんな不調も最初は些細な変化であることがほとんどです。『なんだかおかしいな、ちょっとしんどい』と薄々感じつつ、『頑張れば大丈夫、慣れればそのうちよくなるだろう』と思ってそのままにしてしまう方が多いんですよね…。
もちろん、そのまま慣れていくことで、自然に不調が改善していく人もいます。ただし、私が耳にする範囲だと『ちょっと休めばよくなると思ったんだけど…』といった事例が多い印象ですね。
適応障害の対策はシンプルであり、“ストレス因そのものをなくすこと”、“ストレス因から距離を置くこと”に尽きます。つまり、テレワーク/リモートワークがストレス因であるなら、テレワーク/リモートワークがなくなる、ないし、テレワーク/リモートワークから距離を置くことが対処法になります。
…”働き方の多様化”の時代において、テレワーク/リモートワークから完全に距離を置くことは難しいのかもしれません…。付け焼刃な対策は、心身のスタミナを削るだけで成果に結びつきづらい可能性があります。ここは一つ、どっしり構えて作戦を立てましょう。“彼を知り己を知れば百戦殆うからず”。孫氏に学びましょう。
【対策1】己を知る!
まず、『元気な時の自分の調子』、『普段の自分の調子』(心のコンディションとでも言いましょうか)を把握しておくことをおすすめします。人それぞれ、元々持っているエネルギーの量や、得意としていること、不得意としていることは違います。仕事をしていると「〇〇さんと比べてできていない…」という悩みを持つこともあると思いますが、メンタルヘルスの観点からすれば、周りとの比較ではなく、「いつもの自分と比べてできないことがある気がするな」といった、普段の自分との比較がとっても重要!
まあ、元気な時(と言うべきかコンディションが良い時、悪くない時)に自分の状態へと目を向けたり意識するってなかなか難しいんですけどね…。ただまあ余裕のあるときこそ、「自分はどんなタイプなんだろう?」「どういうときにストレスを感じやすいんだろう?」「普段はストレス解消にどんなことをしているだろう?」という観点から自分を理解しておくことで、些細なコンディションの変化や不調の芽にいち早く気づくことができます。ちなみに、心のコンディション評価はどんな方法でもOKです!同居しているご家族やお友達、パートナーがいらっしゃるようであれば、周囲の評価を参考にするのも良いですね!
一人暮らしで周りに確認できない。そんな方へコンディションチェックのおすすめ方法は、睡眠(睡眠時間や睡眠の質)と、食事のモニタリングです。
このあたりを抑えておけば、些細なコンディションの変化に早めに気づくことができるでしょう!なお、メンタルヘルスのケアにおいて、「早期に気が付き対処する」ことは何より大切。専門的にはEarly Intervention(早期介入)と呼びます。
【参考】精神疾患の早期発見・治療の重要性(厚生労働省生活習慣病予防のための健康情報サイト)
メンタルヘルス不調も体の怪我や体調不良と同じ。悪化すればするほど、治りが悪くなったり、回復までに時間がかかってしまうんですよね。いち早く己の変化に気づき、変化に気づいたら早めに対処する。ヘルスケアの基本です!
【参考】あなたにあったメンタルヘルスケア|オンラインカウンセリングのすすめ
【対策2】彼を知る!
ストレスへの対処を考えるには、その仕組みを知ることが一番。精神医学・心理学領域において『ストレスマネジメント』と呼ばれるアプローチです。ストレスに関する一般的な知識については下記ページで紹介しています。
ストレス対処においては、ストレス因(専門的にはストレッサーと呼びます)への対処とストレス反応への対処(専門的にはコーピングと呼びます)が必要になりますが、働き方の多様化時代においては、テレワーク・リモートワークというストレス因は変えられません。ストレス因へのアプローチが困難である以上、ストレス因によって蓄積していくストレスを小出しに発散していくことが有用です。いわゆるストレス発散ですね。
テレワーク/リモートワークは『仕事の時間』と『プライベートの時間』(生産活動と非生産活動)の切り替えが難しいという特徴を持ちます。【業務⇒プライベート】の切り替えがうまくいかないと、家にいても気持ちが休まらなくなってしまいますし、【プライベート⇒業務】への切り替えがうまくいかないと、仕事に集中しきれずに、思ったように仕事が進められなかったりします。
同じ場所にいるとどうしても上手な切り替えって難しいですよね…。そんな時は、自律神経にアプローチすることで、こころとからだレベルで切り替えを期待するリラクゼーション法である『自律訓練法』をおすすめします。自律訓練法は、精神医学、心理学の世界で古くからよく知られており、ご自宅でも手軽にできるリラックス方法です。リンク先の記事ご参照ください!
自律訓練法や漸進的筋弛緩法(ぜんしんてききんしかんほう)といったリラクゼーション法が、うつや不安、不眠症などメンタル不調に及ぼす効果については、主に海外において一定のエビデンスが蓄積されています。
【参考】健康のためのリラクゼーション法(厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』eJIM)
【監修】 本山真(精神科医師・精神保健指定医・産業医 医療法人ラック理事長)
【執筆】 籔(公認心理師・臨床心理士) テレワークうつ対策において気をつけておきたい点をもう一点あげておきます。テレワーク/リモートワークは、在宅で外部の目がない分、仕事中でもSNSやメディアへのアクセスがしやすいんです(いや本当はダメなのはわかっていますが!)。職場で仕事をしているときよりも、多くの情報に晒される可能性が高まるんです(いや本当はダメなんですよ?)。SNSやメディアへのアクセスにメリハリをつけましょう!(本当に!)
なお、ご自身でのストレス対処に充分な効果が認められない場合、そもそもご自身でのストレス対処が困難な場合、ストレス反応が日常生活へと大きな支障を与えている場合は、誰かに相談してみましょう。一人暮らしであったり家族がいなかったり相談相手がいない場合には、外部の専門機関を利用してみるのも一手。先ほどのチェックリスト項目に該当するものが多めであって、2週間以上継続しているようであれば、医療機関への受診をおすすめします。 【参考】もしメンタルの病気になったら? |公認心理師が疑問にお答えします!
日常生活のうち、仕事が占める時間って少なくありません。快適で有意義なテレワークライフを送れるよう願っております。 |