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タグ : 産業精神保健 , 田っちゃん@無職生活を経て転職しました!(公認心理師・臨床心理士)
2026年10月30日

目次
社員から「辞めたい」と切り出されたとき、
「本当の理由は何なのだろう」
「何を改善すればよかったのだろう」
と悩んだ経験はないでしょうか。
時間をかけて面談をしても、
「一身上の都合です」
「新しいことに挑戦したくて」
といった表面的な理由しか聞けず、本当の退職理由が見えないまま話し合いが終わり、方向性にズレが生じてしまうことも少なくありません。
退職相談の場では、退職を引き止めようと説得すればするほど、退職希望者は身構えてしまい、本音を話しにくくなることがあります。そこで大切なことは「本音を話しても大丈夫だ」と安心感を持ってもらえるような空気をつくることです。
今回は、社員から退職の相談を受けた際に、管理職や人事担当者が持っておきたい心構えと、不安や葛藤を抱える退職希望者に安心して本音を話してもらうための関わり方や聞き方について、心理職の立場からお伝えします。
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導入でもお伝えしましたが、管理職・人事担当者の皆様にまず意識していただきたいのは、「安心して話せる空気をつくること」です。
退職相談の場では、退職希望者は
といった不安や自責感を抱え、緊張感を抱えたまま面談に臨んでいることが少なくありません。
近年重要視されている心理的安全性(Psychological Safety)に関するレビューでは、「自分の意見を言っても否定されたり、不利益を受けたりしない」と感じられる環境では、従業員は懸念や困りごと、改善提案などを率直に話しやすくなることが示されています。
こちらもどうぞ▶産業医監修【心理的安全性の高め方】パフォーマンスが高まるリーダーシップ
退職相談でも同様に、退職理由を聞き出すことを急ぐのではなく、まずは退職希望者のここまでの葛藤を想像し、「責められない」「否定されない」「急かされない」と感じてもらえる環境をつくることが、本当の想いを引き出すための前提になると思われます。
例えば、次のような声掛けは、相手に安心感を与え、自分の気持ちを話しやすくなるきっかけになります。
このような言葉をかけることで、相手は「ここなら自分が意見を言っても否定されたり、不利益を受けたりしない」と感じられ、心理的安全性が高まることで本音を打ち明けやすくなる可能性が高まります。
まずは退職を伝えるまでの葛藤や不安に思いを巡らせ、その気持ちを受け止める姿勢を示すことから始めてみましょう。
退職相談で陥りやすい落とし穴の一つに、「退職理由を本人だけの問題として捉えてしまうこと」があります。心理学には「基本的帰属の誤り(Fundamental Attribution Error)」という考え方があります。これは、本来は状況や環境の影響も大きい出来事であっても、「本人の性格」や「能力」といった内的要因に原因を求めてしまいやすい、人間の認知の偏りを指します。
退職相談の場でも、
「辞めたいのは忍耐力が足りないからではないか」
「仕事への意欲が低いのではないか」
と本人の問題として考えてしまうことがあります。
しかし、実際の退職はそれほど単純ではありません。これまでの研究では、本人の要因だけではなく、
など、職場環境の影響なども関係していることが報告されています。
そのため、退職理由を尋ねる際には、
といった職場環境の面にも目を向けることが大切です。
もちろん、退職には本人の考え方や価値観が影響する場合もあります。しかし、最初から「本人の問題」と決めつけてしまうと、退職希望者は「どうせ自分が悪いと言われる」と感じ、本音を話しにくくなってしまいます。
例えば、「毎日22時まで残業が続いていて、このままでは体力が持ちません。」という相談に対して、「仕事の効率を上げれば解決するのでは?」と本人だけに原因を求める対応では、作業量の負荷という環境要因が見落とされてしまいます。
また、「上司との関係がつらい」という相談に対して「上司はあなたのためを思って厳しく言っている」と返してしまうと、それが仮に事実だったとしても、社員は自身の受け止め方が悪いと言われているように感じてしまうかもしれません。
退職相談では、「本人が悪い」「会社が悪い」という二者択一ではなく、「個人と環境の間でどのようなミスマッチが起きているのか」という視点で話を聞くことが大切です。
このような視点を持つことは、相手が安心して状況を話せる面談につながり、結果として、より実態に近い退職理由を把握しやすくなるでしょう。
退職相談では、「辞めたい」と伝えていても、その気持ちが完全に固まっている人もいれば、まだ迷いや葛藤を抱えている人もいます。管理職としては、「辞めてほしくない」という思いから、つい引き留めること自体を目的にしてしまいがちです。
しかし、退職相談で大切なのは、「その人にとって現在の職場で改善できることがあるのか」を一緒に考えることです。もし改善できる余地があるのであれば、退職の意思が変化する可能性もあります。
例えば、
といった方法によって、働きやすさが改善するケースもあります。
一方で、その場しのぎの提案や、実現が難しい約束をしてしまうと、本人は「引き留めるために言っているだけではないか」と受け止め、不信感につながることもあります。
管理職が一方的に解決策を提示するのではなく、質問を通して「何が変われば働きやすくなるのか」を本人と一緒に整理していく姿勢こそが本音を話せる環境につながります。
例えば、次のような 「もし○○だったら」という仮定の質問(if構文) を用いると、退職希望者自身も希望を伝えやすくなります。
また、この段階では、現在の働き方を続けた場合と、退職した場合の双方について整理することも大切です。
例えば、現在の職場で心身の消耗が続いているのであれば、退職という選択によって心身の復調につながる可能性もあります。
一方で、退職によって経済的な不安が大きくなったり、相談相手がいなくなって孤立したりするなど、退職をすることが新たな負担につながる可能性もあります。
そのため、「今の働き方を続けた場合と、退職した場合、それぞれどのようなメリットや不安がありそうか、どのようなことを考えましたか。」というように、本人の意思を尊重しながら今後の選択肢を整理していくことも重要かもしれません。
ただし、退職希望者は、退職を伝えるまでに何度も悩み、自分なりに考えを整理してきています。
そのため、相手のためを思っていったことでも、かえって不安をあおっているように受け取られたり、退職を思いとどまらせようとする意図に感じとられたりすると、本音を話しにくくなってしまうことが想像されます。
管理職ができることは、心配することや無理に引き留めることではなく、その人が置かれている状況を理解し、職場で改善できる可能性があるのか、それとも退職という選択が本人にとって望ましいのかを、一緒に考えていくことでしょう。
そして、そのような姿勢が、退職希望者にとっても納得感のある面談につながり、結果として、より率直な対話や改善につながっていくのだと考えます。
社員から「辞めたい」と伝えられたとき、管理職に求められるのは、まず退職を引き止めることではなく、安心して本音を話せる対話の場をつくることです。
そのためには、退職理由を「本人の問題」と決めつけるのではなく、職場環境や本人とのミスマッチという視点も踏まえながら状況を理解しようとする姿勢が必要不可欠です。
また、退職相談は、一人の社員の退職理由を確認する場であるだけでなく、組織全体の課題を知る貴重な機会でもあります。退職者の声には、チームや職場に共通する課題が隠れていることも少なくありません。
だからこそ、一件の退職を「終わった出来事」として終わらせるのではなく、離職防止や職場環境の改善につながるフィードバックとして受け止め、次の組織づくりに生かしていく視点が大切ではないでしょうか。
退職が避けるべき事項なのではなく、本来は改善できたかもしれない課題があるにもかかわらず、お互いが本音を話せないまま退職に至ってしまうことこそが、最も避けるべきことだと私は考えています。
参考文献
【解説】 田っちゃん(公認心理師・臨床心理士) 日々、組織全体のことを考えながら、一人ひとりの社員と向き合い、時には葛藤を抱えながらも最善を尽くされている管理職・人事担当者の皆様に、心から敬意を表します。 今回は管理職・人事担当者の皆様に向けてお伝えしましたが、管理職側だけが努力すればよいものではなく、退職を考える社員側も、自分の状況や気持ちをできる限り言葉にし、お互いが対話を続けようとする姿勢を持つことが理想ですね。
【監修】 本山真(代表取締役社長) 精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長 2002年東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院で研修。川越同仁会病院、不動ヶ丘病院の勤務を経て、2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年には医療法人ラックを設立し綾瀬メンタルクリニックを開院。2019年株式会社サポートメンタルヘルス設立。 |