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産業医監修【心理的安全性の高め方】パフォーマンスが高まるリーダーシップ

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2022年11月11日

最終更新日 2024年1月26日

心理的安全性を意識したリーダーシップがチームのパフォーマンスを高めます

 

こんなご経験はないでしょうか。

 

仕事中にうっかりミスをしてしまったとき、周囲に対して『ミスしたことで迷惑をかけてしまうのでは…』『怒られるかもしれない…』と内心ヒヤヒヤ。

しかし報告しないわけにはいかず、意を決して上司や同僚に報告します。

『ドンマイ!』『気にしなくて大丈夫だよ』といった声掛けをしてもらえると、ホッと一安心するのと同時に、報告に対するハードルがぐんと下がりますよね。

 

マネジメント分野などで少し前から注目され始めた“心理的安全性”。文字の並びを見たままに意味を考えると『心理的に安全な状態』??心理的安全性とは『心理的に安全な状態』という意味ではなく、端的に言うと組織内でホッと安心して発言できる雰囲気のことを指します。

 

今回は心理的安全性の理論と、それを基にした組織づくりについてご紹介します。

 

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心理的安全性とは?


2015年、Google社の発表により“心理的安全性”という言葉が世の中に広まりました。Google社では2012年より『効果的なチームを可能にする要件とは?』をテーマに研究を重ね、結果として効果的にチームが動くために鍵となるのは心理的安全性であると発表されました。先ほど簡単にご説明しましたが、心理的安全性とは、組織の中で他のメンバーから拒絶されたり攻撃されたりせず、率直に自分の意見を伝えられるという集団の雰囲気を指します。1965年にScheinらによって提唱され、1999年にEdmondsonが発展させました。

 

『こんなことを言ったら否定されるのでは…』『能力が低いと思われてしまうのでは…』と感じる状況では、スムーズなコミュニケーションが難しくなったり思うようにパフォーマンスを発揮できなかったりすることが想定されます。近年で言うと、新型コロナの影響によりテレワークを導入した企業も多くあるでしょう。感染対策として非常に有効な方法である一方、社内コミュニケーションの不透明さが課題として挙がるようになりました。『報連相のタイミングに悩むようになった』『基本的にチャット上でのやりとりなので、相手の温度感がわからない』といったお話を2020年春以降よく耳にします。この状況、必ずしも心理的安全性が担保される状況ではなくなっているとも言えるかもしれません。

 

【こちらもご参考にどうぞ】

精神科医監修|テレワークでうつ病が増加?休職はできるのか?

【精神科医監修】テレワークうつ・リモートワークうつを対策!

 

心理的安全性がチームのパフォーマンスを高める


効果的な組織構築のためには心理的安全性を高めることが有用なわけですが、具体的にはどのような効果が期待できるのでしょうか。田原・小川(2022)は、組織の心理的安全性はワーク・エンゲイジメントを介してパフォーマンス向上、ストレス軽減、職務満足感増大といった効果を及ぼすことを示しました。

 

ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態として、『仕事から活力を得ていきいきとしている』(活力)、『仕事に誇りとやりがいを感じている』(熱意)、『仕事に熱心に取り組んでいる』(没頭)の3つがそろった状態

【引用】厚生労働省 第3章|「働きがい」をもって働くことのできる環境の実現に向けて, 第1節|ワーク・エンゲイジメントに着目した「働きがい」をめぐる現状について

 

確かに、安心して自分の意見を言える集団の中で熱意・活力・没頭を維持できる状態であれば、持ち前のパフォーマンスを最大限に発揮できそうですね。

 

 

心理的安全性の高い組織であるほど所属メンバーが不安や心配を感じることなくリスクを取りにいけるため、チーム全体として組織の変革や発展的な課題にチャレンジできたり、パフォーマンスを向上させたりできる可能性が広がると想定します。Edmondson(2012)は心理的安全性が職場にもたらすメリットを7つ紹介しています。

 

  • 率直に話すことが奨励される(特に重要!
  • 考えが明晰になる
  • 意義ある対立が後押しされる
  • 失敗が緩和される
  • イノベーションが促される
  • 成功という目標を追求するうえでの障害が取り除かれる
  • 責任が向上する

 

一方、心理的安全性が低い(メンバーが安心して発言できない)組織の場合、メンバー同士の十分な意見交換は難しくなり、どこかのタイミングで組織としての成長が頭打ちになる可能性も否めません。ただし、心理的安全性を高めるのは容易ではない場合もあるようです。Edmondson(2012)は、同僚が見ているところで支援を求めたり失敗を許したりすることの難しさについて述べています。では、どのような取り組みが有効なのでしょうか?

 

心理的安全性はどうしたら高まるのか?


荒金(2019)は、従業員がネガティブな状態になっている場合は心理的安全性を高めるための取り組みをするべきであると述べています。ネガティブな状態の例として、不安感があります。Edmondson(2012)は、職場で直面する不安を『無知だと思われる不安』、『無能だと思われる不安』、『ネガティブだと思われる不安』、『邪魔する人だと思われる不安』の4つに分けて解説しています。実際にどうかは置いておいて、上記のようなレッテルを貼られてしまうのではないか…と直感的に感じて発言を躊躇する人は一定数おられると想定します。

 

 

心理的安全性を高めるための手段の1つとして、1 on 1ミーティングをご紹介します。

 

1 on 1ミーティングとは上司と部下が1対1で行う対話のことで、部下の能力を引き出すことを目的としています。形式としては似ていますが、“能力を評価する”要素を持つ評価面談とは区別されます。

【参考】組織づくりベース|1on1ミーティングとは?必要とされている背景やアジェンダの例

 

山口(2020)によると、メンバー全員が集まる場では言いにくいことでも、管理職・リーダーと2人だけの場であれば話すことが可能になり、結果としてリーダーへの信頼感や安心感が醸成されていくようです。心理的安全性を高める重要な要因のひとつには、管理職・リーダーの姿勢が含まれているのかもしれません。

 

心理的安全性を高めるリーダーシップ


社会心理学に“PM理論”というものがあります。これはリーダーシップを集団における機能の観点から整理したもので、三隅二不二によって提唱されました。PM理論では集団における機能を、①目的達成のための目標達成機能(Performance function;P機能)②集団のメンバー同士のまとまりを維持しようとする集団維持機能(Maintenance function;M機能)に分け、リーダーがそれぞれの機能を重視しているかどうかによってリーダーシップを分類しています。

 

目標達成に向けた働きかけを特に重視しているリーダー(P機能>M機能の状態。Pm型と呼びます)であれば、高い生産性は担保されるでしょう。しかし、メンバーをまとめる機能(M機能)をそれほど重視していない場合、良好な人間関係を維持しづらい集団になってしまうリスクがあります。一方、集団維持のための働きかけを特に重視しているリーダー(P機能<M機能の状態。pM型と呼びます)であれば、メンバーへの声掛けや気遣いを積極的に行い、結果としてまとまった集団づくりが可能になります。しかし、P機能をそれほど重視していない場合、生産性はそれほど上がらないかもしれません。

 

 

三隅(1978)は、P機能・M機能の両方を重視したPM型のリーダーシップが最も集団の生産性や士気を高められると述べています。高い生産性を維持する(目標を達成する)ために集団・組織をある程度統制するP機能、メンバーとの自然なコミュニケーションを保ちチームワークを高めるM機能。PM理論の発想からリーダーシップを考えたとき、この2つの機能をバランス良く取り入れることが心理的安全性の高い組織づくりに有効だと考えます。

 

【引用・参考文献・参考書籍】

田原直美・小川邦治(2022)職務チームにおけるパフォーマンスとメンタルヘルス, 西南学院大学人間科学論集, 17, 2, 111-127

Edmondson, Amy C.(2012)Terming: How Organizations Learn, Inovate, And Compete In The Knowledge Economy, Jossey-Bass(野津智子訳(2014)「チームが機能するとはどういうことか」英語出版)

荒金泰史(2020)心理的側面に着目して、一人ひとりを生かす~ワーク・メンタリティの視点から~, RMS Message, vol.55, 41-46

山口裕幸(2020)組織の「心理的安全性」構築への道筋, 医療の質-安全学会誌, vol.15, 4, 366-371

三隅二不二(1978)「リーダーシップ行動の科学」有斐閣

 

【執筆】

若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営アドバイザー)

少子高齢化が進み就労人口が減りつつある現在、多くの企業において人手不足を回避するために対策を打ち出す必要があると思います。最近では健康経営に取り組む企業も増加しています。従業員が安心して長く働けるシステムの構築、企業のブランディングという観点から考えても、心理的安全性を高める取り組みは非常に有効でしょう。

【参考】健康経営(METI/経済産業省)

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【監修】

本山真(日本医師会認定産業医|精神保健指定医|医療法人ラック理事長)

 

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