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タグ : メンタルヘルス , メンタル不調・精神疾患解説 , 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー)
2023年12月15日
最終更新日 2024年8月2日
2023年10月6日、Femtech Tokyo及び女性のメンタルヘルスケアEXPOへ参加してきました。月経、妊活、更年期などはこれまで場を選びがちだった話題という印象ですが、こういったイベントを通して盛り上げていく、且つ当事者だけでなく周囲を巻き込んで皆で考えていく、という雰囲気が非常に魅力的でした!
一方で、男性のメンタルヘルスケアの現状はどうなっているのでしょうか?男性の積極的な育児休暇申請が徐々に一般的なものと認識されてきたり、女性の社会進出が進んできたりする現代社会ですが、『男性とはかくあるべし!』といった風潮がなくなったわけではないような…。今回は、男性にとってリスクの高いメンタル不調についてご紹介します。
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Erikson, E. H.のライフサイクル理論に則って男性のライフステージを追ってみましょう。
【column】ライフサイクル理論とは? 精神分析家であり発達心理学者でもあるErikson, E. H.が“人間は生涯を通じて発達する”という考えのもと提唱した理論です。 人間の生涯を乳児期、幼児期、遊戯期、学童期、青年期、成人期、壮年期、老年期の8つに分け、それぞれのステージで目標とする発達課題を提示しました。段階的に課題を達成することで、より良く生きるための力(人格的活力)を獲得できるとしています。 なお、この後各ステージの年齢を表記いたしますが、あくまで目安であり多少前後するものとご理解いただければと思います。 |
① 乳児期(0歳~1歳半頃)
このステージで課題となるのは“基本的信頼”です。1人で生きていけない赤ちゃんには、空腹を満たしてくれたり危険から身を守ってくれたりする存在が必要不可欠です。お世話をしてもらう経験の積み重ねが『他人を信じても大丈夫』という感覚(基本的信頼)の獲得に繋がります。
② 幼児期(1歳半~3歳頃)
一般的に多くの子どもが言葉を覚えて話したり歩いたりし始めるステージです。少しずつトイレットトレーニングを始めるタイミングにもなりますね。乳児期の頃と比較して、1人でできることが少しずつ増えてきます。『うまくいった!』『褒められた!』という経験によって、このステージの課題である“自律性(自分自身をコントロールできる感覚)”を獲得していきます。
③ 遊戯期(3歳~6歳頃)
自分で考えて行動する“自発性”が課題です。できることが増えてくると、『あれをしたい!』『これもしたい!』という意志も育まれます。実際にやってみるとうまくいかないこともあるのでしょうが、このステージで自発的な行動が尊重されると、将来的な目的意識の獲得に繋がると言われています。
④ 学童期(6歳~12歳頃)
就学すると勉強の出来/不出来が評価されるようになります。学校という集団の中で行われる評価の多くは相対評価であり、同年代の子どもたちと自分とを比較する機会も増えてきます。その中で、自分の得手/不得手を自覚することもあるでしょう。
このステージでは、自分自身のレベルアップに向けた工夫を凝らして“勤勉性”を獲得することが課題になります。うまくいかない経験は劣等感に繋がりやすいものの、それ以上に『やればできるんだ』『次にまた頑張ろう』と思えるような経験を積み重ねることで“勤勉性”を培えるのです。
⑤ 青年期(13歳~22歳頃)
Eriksonはこのステージの課題である“アイデンティティの確立”を最も重視しています。青年期は進学、就職などを通じて幅広いコミュニティと関わるようになります。他者との関わりの中で『自分らしさって何だろう?』『自分の存在意義とは?』という疑問と対峙する機会が増えます。同時に、理想と現実のギャップに悩むことも少なくないでしょう。自分自身と向き合う過程を経て『自分らしさ』に気づき、アイデンティティ(自分とは何者なのか)を確立していくのです。
また、このステージに移行するあたりで多くの人は第二次性徴を迎え、男性であれば声変わり、精巣・生殖器の発達、陰毛の発達などが始まります。心身ともに大きな変化を迎えるため、戸惑いや混乱を感じるのは自然な反応だと言えるでしょう。
自分自身の在り方、人生観に向き合う…言うは易し、です。『男性はあらゆる場面でリーダーシップを発揮するべき』『女性は男性をサポートするべき』『長子は家業を継ぐべき』というような役割分担が一般的だった頃と比較すると、現代社会では人生の選択が個人に委ねられ、『自分が何をしたいのか』『どう生きていきたいのか』という単純ではない課題にぶつかりやすくなっていると言えるのではないでしょうか。
⑥ 成人期(23歳~40歳頃)
心身ともにエネルギッシュで、且つ社会人としての責任を負うステージです。ここでは家族、友人、パートナー、同僚、自分の所属するコミュニティなどとの“親密性”が課題となります。この課題を達成するためには、青年期で“アイデンティティの確立”をクリアしていることが必要不可欠です。『自分がどういう考えを持っていて、どう生きていきたいのか』という価値観をある程度整理したうえで、自分とは異なる生き方をしている他者とコミュニケーションを図り、親密さを獲得していくのです。
他者とのコミュニケーションがうまくいかないとき、人は孤独を味わうことがあります。成人期はその孤独感をどう乗り越えるか、他者とどう共生していくかをじっくり考えるステージなのでしょう。
⑦ 壮年期(40~65歳頃)
このステージの課題は“世代性(生殖性とも言います)”です。“世代性”とは、次世代を支える存在(子ども、部下・後輩、技術、サービス、アイディアなど)の生成・育成への関心を意味します。自分自身が積み上げてきた経験や知識を次世代へ繋ぐことで、次世代以降の発展に寄与できるのです。次世代への関心が薄い、ないし成人期にて“親密性”を達成していない場合、発展のチャンスを逸することになるかもしれません。
男性に限った話ではありませんが、壮年期には管理職クラスへ昇格していることも少なくありません。管理職(壮年期)が“世代性”に取り組むのと同時期に、従業員(成人期)が“(上司・同僚・会社との)親密性”に向き合っているということだってあるでしょう。課題達成は容易いことではありませんが、双方が課題遂行に苦慮しているときに『(部下・後輩に)教えない!』『(上司・先輩に)聞かない!』というディスコミュニケーションが生じるリスクがあることは頭の片隅に入れておきたいですね。
加えて、男性ホルモンの分泌量が減り、身体的・精神的に変化が生じやすくなるのもこの頃です(詳細は後述します)。
⑧ 老年期(65歳頃以降)
人生を総括するステージで、“自我の統合”が課題です。これまでを振り返り『良い人生だった』と確信を持って受け容れることを指します。多くの場合は退職し、第二の人生を歩み始めるタイミングかもしれません。同時に、生きてきたこと、死に近づいていることと直面する機会となります。死を受け容れることもそう簡単ではありません。時には恐怖感や不安感、絶望感でいっぱいになることもあるかもしれません。各ステージにおける課題をクリアしておくことがネガティブな感情に打ち勝つ土台となり、穏やかな“自我の統合”に至ると言われています。
…こうしてライフステージを辿っていくと、私たち人間の生涯はなかなかハードモードなのだと感じますね。
ステージごとの課題について記載しましたが、必ずしも特定のタイミングで特定の課題を達成しなければいけない!というわけではありません。人生山あり谷あり。うまくいかない時期だってあるでしょう。一度失敗したからその後の人生もうまくいかないのではなく、生涯にわたって発達していく、より良く生きる力を培っていくというイメージをお持ちいただければと思います。
ライフサイクル理論ではステージごとに課題が設けられていました。感じるストレスの強度は人それぞれだと思いますが、容易く乗り越えられない課題が複数あるように思います(私自身で言うと、アイデンティティを確立している!と自信を持って言えるかと聞かれたらちょっと困りそうです…)。
加えて、体の変化がストレスになることもあります。以前、ブログで女性特有の健康課題についてまとめましたが、同じように男性にとってリスクを孕むステージが存在するのです。簡単ではありますが、男性に多いメンタル不調を2つご説明しましょう。
【参考】
【産業医監修】フェムテックとは?メンタルヘルス専門職が簡単に解説!
○アルコールへの依存
男性の1.9%、女性の0.2%が生涯でアルコール依存症に罹患すると見積もられています。この数値だけで言えば、男性は女性の9倍(!)罹患するリスクがあるということです。また、男女ともに40~50代が発症のピークという報告があります。Eriksonのライフサイクル理論で言うところの壮年期に該当しますね。
罹患に至る要因は複合的だと推測しますが、リスキーな飲酒行動に至るきっかけはほんの些細なことなのかもしれません。壮年期の課題である“世代性”から考えると、子どもや部下とのコミュニケーション不和、(ホルモンバランスの変化やメンタル不調による)意欲の低下、それによる生みの苦しみなどは身近なストレス因として挙げられそうです。
アルコールとメンタルヘルスについてはこちらの記事で解説しています。ご参考にどうぞ。
【精神科医監修】お酒がメンタルヘルスに及ぼす影響と対策|株式会社サポートメンタルヘルス
○ホルモンバランスの変化による不調
一般的に“更年期”は閉経の前後5年間を指すことから、“更年期障害”は女性特有の疾患だと認識されやすいかもしれません。しかし、“更年期”にあたる年代は男女問わずホルモンバランスの変化が生じており、不調を自覚される方も少なくないようです。
男性ホルモン(アンドロゲン)の大部分を占めているのがテストステロンです。概ね40歳頃よりアンドロゲン及びテストステロンの分泌量が徐々に低下していき、場合によっては加齢男性性腺機能低下症候群(Late-onset hypogonadism;LOH症候群)と診断されます。
男性ホルモンは骨、脂肪、筋肉、認知機能、性機能、精神面へ作用します。加齢、ストレス、疲れなどを要因として徐々に低下していきますが、それによって様々な症状が引き起こされます。個人差はあるものの、よく見受けられるのは身体症状、精神症状、性機能症状の3つです。
ホルモンバランスの変化による不調は、うつ症状と非常によく似ています。『うつ病=気分が落ち込む』だけではなく、疲れやすさやだるさといった身体症状、性欲減退などの性機能症状を伴うケースも珍しくありません。適切な治療のためには、丁寧な問診や検査が必須です。自己判断にはご注意を!
上記のような不調を感じたら、第一選択として医療機関受診をご検討ください。何事も早期発見・早期治療が症状改善の1番の近道です。とは言え…厚生労働省の調査によると、男性(特に50代)は相談したり助けを求めたりすることに抵抗を感じる方が多いようです(全体の43%)。
社会的立場への影響を気にしているのか、『男たるもの、強くあるべし』といった思いゆえに生じているのか…要因ははっきりしていませんが、約半数の男性は“困りごと改善のために誰かに相談する”という手段を取りづらい傾向があると言えます。
どうしても人には相談しづらい、相談のハードルが高いという場合はセルフケアから始めてみましょう。セルフケアとは、ストレスやヘルスケアについて正しく理解すること、ストレスに気づき対処することを指します。
【参考】
【精神科医監修】散歩でメンタルケア!ストレス発散効果は?【ライフハック心理学#2】
【精神科医監修】アスリートとメンタルケア|リラクゼーションでパフォーマンスアップ!
参考文献
【執筆】 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー) 性別に関係なく、各ライフステージに合わせたヘルスケアは“自分の人生を大切にすること”と同義なのではないでしょうか。 多くの人がヘルスケアを身近に感じられる世の中になったら良いなぁと思います。
【監修】 本山真(日本医師会認定産業医|精神保健指定医|医療法人ラック理事長|宮原メンタルクリニック院長) |