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【精神科医監修】お酒がメンタルヘルスに及ぼす影響と対策

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2020年6月19日

最終更新日 2024年2月10日

アルコール問題とメンタルヘルス対策

息抜きやストレス解消としてお酒が役立つことがある一方で、ストレスがあるゆえ『お酒がないとやっていられない!』と多量飲酒に走り、結果としてアルコール依存症になってしまう例も少なくありません。今回はお酒にまつわるメンタルヘルス不調の実態、そしてメンタルヘルス対策についてお話しします。

 

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そもそも、アルコール依存症とは?


ご存じの方も多いかと思いますが、アルコール依存症(アルコール関連障害)は、「お酒を飲みたい!」という気持ちに振り回され、自力ではコントロールできなくなる疾患です。持続的に多量飲酒を続けることで、それまで酔えていた量で酔えなくなったり(耐性)お酒が切れると調子が悪くなったり(離脱)、と多くの問題が生じます。その影響は、個人の健康問題にとどまらず、家族や職場といった個人を取りまく環境をも巻き込むことから、アルコール依存症は“関係性の障害”とも言えます。

 

ここで言う“多量飲酒”とは、「1日平均純アルコール60gを超える飲酒」を指し、具体的には、ビール中ビン3本、日本酒3合弱、25度焼酎グラス2.5杯(300ml)に相当します。

一方、“節度ある適切な飲酒量”とは、「1日平均純アルコール20g程度」とされています。

これは、ビール500ml缶1本、日本酒1合、25度焼酎グラス1/2杯(100ml)に相当します。

これくらいの量ですと、『いつの間にか超えていた…』というお酒好きな方は一定数いらっしゃるのではないでしょうか?

 

WHOが作成している国際疾病分類(ICD-10)によれば、アルコール依存症は、約1%の人が一生のうちに経験するとされます。日本国内で考えると、1ヵ月のうちに1度でも多量飲酒をした人は約15%、“節度ある適切な飲酒量”を超えて摂取している人は約8%にものぼります。この数値から考えると、アルコール依存症という疾患は思っているより身近な存在なのかもしれません。

 

アルコール問題と職場におけるストレス


アルコール依存症の原因は、ストレスや不安感から距離を置きたいがための“過剰な飲酒”です。

厚労省のデータによると、仕事や職業生活に関する強いストレスを抱えている労働者は全体の6割弱を占めています(平成28年~平成30年)。

そのストレスの内容としては、『仕事の質・量(59.4%)』、『対人関係(31.3%)』、『仕事の失敗、責任の発生等(34.0%)』、『役割・地位の変化等(22.9%)』、『顧客、取引先等からのクレーム(13.1%)』が挙げられています。

また、仕事や職業生活に関するストレスを『相談できる相手がいる』と回答した労働者は全体の92.8%にのぼり、『上司・同僚』に相談できる労働者は77.5%でした。その中でも実際に『上司・同僚』に相談した人は69.7%を占める結果となりました。

参考:厚生労働省こころの耳

 

メンタルヘルス不調は目に見えづらいため、対応が遅れがちです。メンタルヘルス不調を早期に発見するために、Absenteeism(アブセンティズム:勤怠状況の変化)、Accident(様々な事故の発生=工場での労災など)、そしてAlcohol(飲酒問題)に注目することが推奨されています(これらは総称して“3つのA(3A)”と呼ばれます)。

 

飲酒問題を、“メンタルヘルス不調を見つけるきっかけにする”という発想ですね。飲酒問題を抱える労働者を発見しサポートするためには、きめ細やかな対応を要します。事例で理解してみましょう。

 

―Aさんの例―

Aさんは20代後半の会社員です。

今の企業に就職して数年経ち、仕事をこなす楽しさを見いだせるようになってきました。

人間関係も良好で、大きな悩みはなく生活していました。

ある日、Aさんは部長から書類の記載ミスを指摘されました。

仕事から帰宅後、「どうしてあんなミスをしてしまったんだろう…自分は駄目だ…」といった不安が続き、なかなか眠れませんでした。

 

そこで手に取ったのが缶ビール。

 

「嫌なことを考えたくない」―その何気ない考えから、晩酌が日課に(連続飲酒)。

もともとお酒に強くないAさんでしたが、徐々に缶ビール1本では物足りなくなり、飲酒量が増え、アルコール度数の高いものを選ぶようになりました(アルコールへの耐性)。

このようなアルコールとの付き合い方は、Aさんのパフォーマンスに大きな影響を及ぼしはじめます。

睡眠が浅いことから集中力は低下、結果、ミスが目立つようになり、不安感や焦る気持ちは膨らむ一方です(プレゼンティズム)。

部長を含め、Aさんを見守ってくれる存在はいましたが、Aさんの中では「部長に相談したい」という気持ちと「自力で頑張りたい」という気持ちが葛藤し、仕事に関するストレスをなかなか打ち明けることができませんでした。

連続的な多量飲酒を続けていたところ、Aさんは同僚のBさんから飲みに行かないかと誘いを受けました。

勤務終わりにふたりは居酒屋へ向かい、生ビールや焼き鳥を注文しました。

Aさんにとっては久しぶりに楽しい時間を過ごしながらの飲酒です。

気の許せる同僚であるBさんとは、これまでに何度も飲みに行っては仕事やプライベートの話をしていました。

程よく酔いが回ってきた頃、Bさんが切り出しました。

「ところでさ、最近疲れてない?」

その言葉にAさんはハッとしました。

『とりあえずここだけの話にしてほしいんだけど…』

Aさんは、仕事で失敗したことや不安で眠れず毎晩飲酒をしていることをBさんに打ち明けました。

Bさんは一通り黙って聞いた後、ひとりで抱え込まず部長に相談してみること、Aさんの心身の不調が心配だから医療機関受診も視野に入れることを勧めました。

その翌日、Aさんはこれまで抱えてきた苦悩について部長に伝え、心身の不調が回復するまでの環境調整について一緒に考えてもらうことになりました。

また、Aさん個人としては、自分自身のアルコールとの付き合い方を見つめ直し、アルコール問題を専門とする医療機関を受診することを決意しました。

 

Aさんの「自分は駄目だ…」という考えから生じる不安は、“仕事をバリバリこなすこと”を生きがいにしていることと関係しています。思うように仕事がこなせない状況は、Aさんが人生の中で大切にしたいこと(生きがい)の実現を難しくします。

 

もしあなたのまわりにAさんのような部下や同僚がいたら、どのように対応しますか?

 

アルコール問題へのメンタルヘルスサポート


厚労省によれば、Aさんのような例はそれほど稀なケースではありません(仕事の失敗、責任の発生等(34.0%))。このようなアルコール問題に対するメンタルヘルスサポートとしては、1.医療機関受診、2.自助グループ(AA)への参加、3.心理療法、等が挙げられます。

 

1.医療機関受診

アルコールを含む嗜癖の問題は、専門医療機関へのご受診をお勧めします。特にアルコール問題を有する方の場合、メンタルヘルスケアはもちろん、肝機能障害など身体的疾患へのアプローチが必要な場合も多いのです。

 

また、アルコール問題へのアプローチとして抗酒剤の服用があります。飲酒欲求自体を抑える作用はありませんが、服薬後に飲酒すると吐き気等の反応が出現します。きちんと服薬することで、周囲からの信頼を取り戻すことに繋がります。

アルコール問題の専門医療機関はインターネットでも容易に検索できます。

 

2.自助グループ(AA)への参加

Alcoholics Anonymous(通称:AA)とは、“飲酒を辞めたい”という思いを持つ方であれば誰でも自由に参加できるグループです。世界規模のグループであり、メンバー数は200万人以上にのぼります。そこでは、アルコール問題を抱えるメンバーが、自分自身の困りごとと向き合いながら互いをサポートし、その克服を目指しています。AAに専門家は存在せず、運営は当事者であるメンバーが自ら行います(=自助グループ)。アルコールをはじめとした嗜癖問題を克服するためのキーワードは“仲間”です。それぞれの経験に向き合い、思いを共有することで、共同体としての回復を目指します。

 

3.心理療法

「お酒を飲まない」という気持ちの維持をサポートするツールとして、専門家による心理療法があります。その中には、個人で受けるものから集団で実施するものまであります。主に行われている心理療法としては、認知行動療法(考え方のクセや歪みについて検討して回復を図るもの)や動機づけ面接法(回復へのモチベーションを高めることを目標としたもの)等が挙げられます。

 

働く皆さまがご自身を大切に働くために~アルコール関連障害について~


企業の中で労働者のメンタルヘルス不調を発見しケアするためには、労働者個人の生活習慣やこれまでの歴史、背景等を概ね把握してサポートすることが重要且つ必要なことでしょう。一方、日々の業務に加えて上記をさばくのは、管理職の皆さまにとって時間的負荷及び心理的負荷がかかる要因にもなりうるのではないかと思います。

 

“ストレスが発散できる”、“コミュニケーションが円滑になる”というように、お酒によるメリットは沢山あります。ただ、メンタルヘルス不調が生じた際に頼るものがお酒である場合、個人の心身の健康問題、労働問題、家族や周囲の方々との関係性等に多大な影響を及ぼします。弊社のサービスは、メンタルヘルス不調の改善のためにご活用いただけるのはもちろん、その予防にも有用であると考えています。ストレスになりうる要因について知っていることやサポートのためのサービスについて知っていることは、中長期的なメンタルヘルスケアへと繋がります。

 

【監修】

本山真(精神科医師・宮原メンタルクリニック院長・日本医師会認定産業医)

 

【執筆】

若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー)

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