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【産業医監修】健康経営とハラスメント対策の意外な関係

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2022年12月30日

最終更新日 2024年1月23日

健康経営とハラスメント対策の意外な関係とは?精神科産業医監修ブログ

 

2020年6月1日に改正労働施策総合推進法(通称“パワハラ防止法”)が施行されて約2年半。当初、ハラスメント対策義務化は大企業にのみ課せられたものであり中小企業については努力義務扱いでしたが、2022年4月1日より中小企業を含むすべての事業者が対象になりました。

 

厚生労働省の調査によると、過去3年間職場でパワーハラスメントを受けた経験のある人は31.4%、職場でセクシャルハラスメントを受けた経験のある人は10.2%、職場で顧客などからの著しい迷惑行為を受けた経験のある人は15.0%いるとのことです。また、1度でも職場でハラスメントを受けた経験がある場合、『怒りや不満、不安などを感じた(69.2%)』、『仕事に対する意欲が減退した(52.9%)』といった心的負担が強く出現することが報告されています。

【参考・引用】

令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査|厚生労働省

 

 

職場におけるハラスメント対策を講じるうえで重要なのが健康経営の発想です。“健康経営”という言葉自体はTVやSNSなどのCMでも度々目にするようになりました。健康経営に関する周知が進んだ影響なのか、近年健康経営に着目している企業が増加トレンドに入っている印象があります。今回の精神科産業医監修ブログは、健康経営とハラスメント対策の意外な関係について解説します。

 

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今さら聞けない?健康経営とは


健康経営とは従業員の健康保持・増進のための取り組み(健康管理)を経営的な視点から考え戦略的に実践することを指します。また、従業員の健康管理にかかる支出はコストではなく投資であると捉えることがポイントです。

 

 

そもそも“健康経営”という経営手法が注目されるようになった背景には労働人口の減少があります。日本の抱える社会的な課題である少子高齢化。人口は減る一方、従業員は高齢化していくという深刻な状況です。このままいくと労働人口は減少し続け、従業員不足の事態に陥った結果、従業員ひとりあたりの業務負担が増えてしまう可能性が高くなります。また、業務負担の増加が個人のパフォーマンスに影響することを考えると、企業の成長を阻害する要因にもなりかねません。

 

対策として、従業員の心身の健康に平時から意識を向けることが有効です。具体的には、定期健康診断の勧奨やストレスチェックの実施、職場環境の調整、職場のコミュニケーション活性化などに関連する対策を講じることが推奨されています。

 

健康経営を推進することはまず従業員本人の心身の健康に直結します。また、健康経営の観点では仕事と生活のバランス(ワークライフバランス)を取ることも重視されていることから、自分らしい生活の実現を目指すことも可能になります。

 

従業員の健康保持・増進に関する職場としての取り組みは従業員のモチベーション向上に繋がり、企業としての成長を可能にします。結果的に企業の社会的評価が向上し、新規入職者の獲得や人材定着にも寄与すると考えます。

 

なお、これらの働きかけは保険者にとっても大きなメリットがあります。健康経営の手法として、『データヘルス計画』というものがあります。これは従業員の健康データに基づいて、特定健診、特定保健指導を含む効果的な取り組みを実施するものです。保険者と企業が協働して従業員の健康のために取り組み(これをコラボヘルスと言います)、健康経営を促進することで健康な従業員が増え、社会保険制度の維持が期待できます。

【参考】

医療保険者によるデータヘルス/予防・健康づくり|厚生労働省

 

 

健康経営とハラスメント対策の密接な関係


健康経営の基盤をなしている法律として、最も基本的なものは労働基準法だと言えます。労働基準法は、従業員の健康管理のために働き方を整えるための公法です。労働基準法に加え、労働安全衛生法、女性活躍推進法や健康増進法も関連していると言えるかもしれません。

 

同じように、従業員の健康を守るための法律の1つとして、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)があります。冒頭でご紹介したように、ハラスメント被害に遭った方の中には心身の不調をきたしたり、働くモチベーションが低下したりすることも少なくありません。それが職場全体の雰囲気にまで影響し、企業全体の生産性が低下する可能性も否定できません。

 

 

ハラスメントを防止する取り組みによって個人(従業員)の心身の健康は守られ、それが組織の成長や生産性向上に繋がっていくのです。

 

精神科産業医監修|ハラスメント対策を意識するべき状況


どういった状況がハラスメントを引き起こすのか、つまりハラスメント対策を意識するべき状況として、今回は例を挙げつつ2点ご紹介します。

 

【ケース1】個人の意識や価値観の違い
学生時代、厳しい顧問や指導者のもとで部活動に勤しんできた経験があるAさん。

どんなにきつい練習メニューであれ、泣き言ひとつ言うことも憚られていました。また、“チームの士気を高めるため”といった大義名分のもと手が出る指導者もおり(体罰に頼る指導は決して行ってはなりません!)、ハードな状況が常習化していました。当時Aさんはそのような状況に耐え抜き、優秀な成績を残しました。

 

ハードな状況を乗り越えて成功体験を手にしたAさんの思いを想像してみると、もしかしたらそのような状況や度を越えた厳しい指導を『当たり前のこと』と認識しているのかもしれませんし、『大変だったけど自分は耐えてきた!』という自負をお持ちかもしれません。

 

こういった背景をお持ちのAさんが社会人になり、部下を指導する立場になったらどうなるでしょうか?Aさんとしては良かれと思って行う指導であったとしても、それが結果的に指導の範疇を超えたハラスメントとして認定されてしまうかもしれません…。

 

【ケース2】コミュニケーション不足
新規入職社員の教育を担当することになったBさん。新入社員のCさんは緊張しているのか、口数が少なく表情も硬い印象です。

Bさんは『入ったばかりでまだ話しづらいのかもしれない』と考え、まずはこれまでの経験上うまくいった新人研修の方法でCさんと関わることとしました。

 

入社から3ヵ月ほど経って研修期間の終わりが近づくタイミングになりましたが、Cさんにとっては不慣れな業務がまだまだ沢山あります。しかし、積極的なコミュニケーションを避けるようなCさんの業務態度は変わりません。

 

口数が少なく表情も読み取りづらいCさんの本心がわからないBさんは心配の気持ちが強く、『Cさん、本当にわかっているの!?』と強い口調で詰め寄ってしまいました。もともと緊張しやすいCさんは余計委縮し、そのやりとりを見ていた周囲の人たちもなんとなく気まずい雰囲気に…。

 

Aさんのケースのように、ハラスメントにおける意識、価値観の違いは、個人が生きてきた背景や文化によって大きく異なります。しかし、どのような背景・文化をお持ちであろうとハラスメント行為は決して行ってはいけないことです。とは言え、各々の意識や価値観を完全に一致させることは困難です。

 

また、BさんやCさんのように日頃からコミュニケーションが取りづらい関係性である場合、相手の考えていることや意図がわからないことからすれ違いが生じていることも少なくありません。しかも、それが個人間の問題にとどまらず周囲にまで影響を及ぼす(職場の雰囲気が悪くなる)こともあります。

※なお、”職場におけるコミュニケーション不足”については、新型コロナウイルス感染症対策のため広がったテレワーク(リモートワーク)の影響も見過ごせません。オフラインで気軽に行っていた雑談や相談ができない環境に身を置くという急激な変化は、元々良好な関係性であったとしても思わぬボタンの掛け違いを生じさせることがあるのです。

関連項目:【精神科医監修】テレワークうつ・リモートワークうつを対策!

 

では、職場としてどういった取り組みがハラスメント対策として有効なのでしょうか?

 

精神科産業医監修|健康経営とハラスメント対策の2つの共通点


上記のような状況を回避するためにはどういった取り組みが有効なのでしょうか?

 

ハラスメント対策や健康経営を推進するために必ず取り組むべき事項があります。それは、“社内に十分周知・啓発すること”です。何を始めるにしても、これが出発地点になります。このタイミングで最も大きな影響力を持っているのが事業者(経営者)です。企業全体で何を目的として取り組むのか、企業の代表としてどういった思いがあるのか、といった事業者の生の声を従業員に届けることで、事業者の本気の姿勢が従業員により伝わりやすくなります。

 

具体的な方法としては、事業者や担当者が朝礼などの機会に従業員に向けて話をする、目に入りやすい位置にポスターを掲示する、研修の機会を設けるなど様々です。周知する際は、できるだけ具体的に、且つかみ砕いて伝えることを心掛けましょう。なお、社内で対応することにより負荷がかかりすぎる(また、そもそもリソースがない)場合は、社外のリソースを積極的に活用することをお勧めします。

 

意識的に周知することは、先ほど挙げたAさんの事例においても効果的です。個々人の価値観を完全に一致させることは不可能ですが、その企業に所属する1人の社会人として念頭に置いてほしい意識・考え方を共有することは可能です。厳しい環境の中で成果を上げた経験のあるAさんはもしかすると物足りなさを感じるかもしれませんが、『こういった言動はパワーハラスメントに該当しそう』『自分にとっては普通だったけど、このご時世では気をつけないといけないんだなぁ』といった発見に繋がるかもしれません。

 

職場周知により従業員の中に共通した認識が育まれることで、ハラスメントによる心身の不調を予防することができ、従業員の健康の維持・増進やモチベーションの向上に至り、結果として企業全体の成長へと繋がると考えます。

 

 

さらに、コミュニケーション不足の解消のためには“風通しの良い職場づくり”が有効です。先述しましたが、新型コロナウイルスの影響によりテレワークが普及したことで職場がそれぞれの自宅に切り替わり、コミュニケーションスタイルを変化させざるを得なくなった方も多いかと思います。

 

先ほど挙げたBさん・Cさんのケースでは、コミュニケーションがスムーズに取れなかったことをきっかけとして問題が生じています。こういったすれ違いを減らすために有効な方法の1つはコミュニケーションを活性化させる機会を導入することです。

 

例えば、いつも通りの形式的な会議よりもやや気楽なランチョンミーティングの機会を設けてみるのはいかがでしょうか。Cさんのように緊張しやすい方や、会議の固い雰囲気に圧倒されやすい方にとっては、いつもより少しリラックスして話し合いに参加できる機会になるかもしれません。感染対策を考えると必ずしも有効であるとは言い難いのですが、社員旅行やスポーツ大会といった社内イベントを企画することも面白そうです。働いているときとはまた違った一面が見られるかもしれません。このように普段と少し毛色の違うイベントを起爆剤として職場のコミュニケーション活性化が促進されることもあります。

 

『健康経営とハラスメント対策の意外な関係』まとめ


ハラスメント対策を健康経営の発想から解説しました。

 

今回ご紹介したような取り組みを積極的に続けることで『従業員を大切にする企業である』という認識が広まることで、従業員への好影響はもちろんのこと、そのご家族や地域、社会にも影響を及ぼすことが期待できます。

 

ハラスメント対策に限った話ではありませんが、新しい取り組みを始める際は“無理をしすぎずできることから始める”を合言葉にしましょう。ハラスメント対策を1から講じる場合、社内及び社外に相談窓口を設けるなど一定の支出が必要になりますが、コミュニケーションを活発にする、従業員の健康を維持・増進することについては新たな支出を必要としない取り組みも多くあります。前述したように、健康経営において従業員の健康を維持・増進する試みに関わる支出は投資です。投資が投機にならないよう継続性を意識しましょう。

 

併せて、健康経営的な発想を持って俯瞰することも大切です。ハラスメント対策は義務化されているため、法律に則って全ての企業が対応しなければならないものです。とは言え、抱えている課題が全く同じ企業・職場は存在しません。例えば、コミュニケーション活性化を目的とした取り組みが、ある企業・職場では良い結果を生み、別の企業・職場では良い結果に繋がらないばかりかマイナスにつながるといった事例も少なくありません。

 

ご自身が所属する職場をより発展させていくためにはどういった働きかけが有用なのか、ご自身や周囲の方々がより気持ち良く働ける環境づくりを進めるためにはどのような取り組みをしたら良さそうか、といった視点を持ってみると、個人や企業、職場にとって実りのある新しい発見があるかもしれませんね。

 

こちらもご参考にどうぞ!

 

【引用・参考文献】

企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版)|経営産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業化

 

【執筆】

若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営アドバイザー)

健康経営とハラスメント対策。ブログ内でも触れましたが、最も重要な共通点は『従業員を大切にする職場』といった視点です。『労働人口の減少』という社会的課題に立ち向かうたった一つの方法は人材を人財として認識することです。人財確保・定着にお悩みの中小企業経営者様、人事担当者様は是非一度弊社にご相談ください。魅力的な職場作りのお手伝いをいたします。

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【監修】

本山真(日本医師会認定産業医|精神保健指定医|医療法人ラック理事長)

 

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