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タグ : メンタルヘルス対策 , 産業精神保健 , 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー)
2024年1月5日
最終更新日 2024年8月2日
休職中の従業員がいざ復職を検討するタイミングになったとき、ご本人だけでなく職場の管理職にとっても疑問や不安は少なくないかもしれません。特にメンタル不調による休職の場合、目に見えるご不調ではないことから復帰の明確な判断基準を設けづらく、困惑するケースもあると思います。
今回は復職に伴う疑問の1つとして、医師の診断書を取り上げて解説します。
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診断書の要否は企業ごとに異なります。法令の決まりは特にありません。企業ごとに定めた就業規則に従う必要がありますので事前に確認しておきましょう。
診断書は主治医の判断によって発行されるものです。休職中のご本人(以下、“休職者”と記載します)が復職に向けた診断書を希望しているとしても、そのときの状態やタイミングによっては主治医からGOサインが出ない場合もあります。『どういう状態になったら復職の段階に進むのか』について主治医と休職者、場合によっては管理職を含む3者で十分に話し合っておくことが大切です。
加えて、予定通りになるかどうかは別として『目指したいスケジュール(例:年度初めには復帰したい、など)』を主治医と共有しておくことをお勧めします。それは“職場として配慮できる限界”の提示になるかもしれませんし、“休職者の仕事に対する思いの共有”と言える場合もあると思います。実際のスケジュールや思いについて主治医にも知ってもらうことで、より納得のいく療養生活が適うのではないでしょうか。
【参考】
先に、主治医と産業医の役割について整理しておきましょう。
主治医とは医療機関で診察を担当する医師を指し、病気・障害の診断と治療を行います。原則として主治医は1名であり、その医師から継続的に診察を受けることが推奨されています。一方、産業医とは企業に勤務する医師で、専属産業医(常勤)と嘱託産業医(非常勤)に分けられます。契約の違いはありますがどちらも業務内容は同様で、職場環境の改善や健康管理に関するアドバイスを行っています。
【参考】
休職者の体調や日常生活については主治医が診察をし、必要に応じて薬を処方する、仕事に適応できるかどうかは産業医が診る、という明確なすみ分けがあるんですね。すなわち、主治医が判断するのは“日常生活において支障が出ない体調かどうか”です。それに対し、産業医が判断するのは“就労において支障が出ない体調かどうか”となります。
すべての事業者には、安全配慮義務が課せられています。安全配慮義務とは労働契約法で定められているもので、事業者が従業員の健康及び安全を守るために配慮すべき義務のことを指します。例えば、ハラスメント防止に努める、労働環境の安全性を確保する、業務や勤務時間が過負荷にならないように管理する…といった措置は“従業員の健康・安全の保障”に繋がります。
復職の際も同様で、“休職者(の状態)にとって職場環境や業務内容が安全かどうか”慎重に判断する必要があるのです。安全配慮義務の観点から復職にあたって気をつけるべきポイントは2つあります。
第一に、復職後の配置や業務内容についてです。
原則としては休職前と同一であることが望ましいと言われています。実際のところ、通勤するだけでも心身に負荷はかかりますし(朝の満員電車、辛いですよね…)一定の拘束時間があるというのも復職直後はしんどく感じるものです。そこに新しい環境や作業への適応というタスクを組み込むと、かなり大きな負荷がかかってしまう可能性があります。
また、同一の環境・作業であればご不調をきたす前と復職後とでの比較が可能です。実際のパフォーマンスが見られるので、休職者ご自身が調子を自覚しやすくなるのと同時に、パフォーマンスが戻っているかどうか周囲も判断しやすいというメリットがあります。
ただし、例外として、同部署の人間関係や作業内容、環境とのマッチングが悪く休職に至ったケースは必ずしも上記に当てはまるとは限りません。いずれにしても、復職直後は休職者にとって心身の負担が最小限になるように努めましょう。
気をつけるポイントの2つめは、必要な配慮・制限についてです。
先ほど『配置や業務内容は休職前と同一であることが望ましい』とお伝えしましたが、こちらは段階的に戻していくのが現実的かと思います。具体的な配慮・制限としては、短時間勤務から開始する、残業・休日出勤・出張を制限する、担当業務を絞る、軽作業から再開するなどが一般的です。
とはいえ、企業として配慮できることにも限界があると思います。再スタートのラインをどのあたりに設定するか、企業側と休職者とで十分にすり合わせておきましょう。
『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(厚生労働省)』によると、職場復帰支援は5つのステップを経ることが望ましいとされています。
《STEP 1:病気休業開始及び休業中のケア》
休養を要する状態だと主治医が判断した場合、多くの場合はその旨を記載した診断書を職場に提出してから休職に入ります。休職者が安心して休めるように、今後必要になる事務手続きや復職の流れについてはこの段階で説明しておきましょう。
※休職中に使える制度についてはこちらのブログでご紹介しています。
【参考】
精神科医監修:適応障害と診断され休職をすすめられたらどうすればいい?|株式会社サポートメンタルヘルス
《STEP 2:主治医による職場復帰可能の判断》
療養して復職の準備が整ってくると、休職者から企業側へ職場復帰の意思が伝えられます。その際、復職可能の旨が記載された診断書を提出するよう事業者から休職者へ指示があることがほとんどでしょう。そこで登場するのが、先ほどご紹介した主治医の診断書です。おさらいになりますが、主治医は“日常生活において支障をきたさないか”を中心に診ています。すなわち、主治医の診断書は必ずしも“職場で求められる業務遂行能力まで回復している”という証明にはならないことについて留意しましょう。
《STEP 3:職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成》
休職者の意思や体調、主治医の見解、職場環境や業務内容の評価など情報を収集し、それをもとに職場の産業保健スタッフ(産業医を含みます)を中心に復職の可否を判断します。そこで復職が可能であると判断されたら、具体的な復職スケジュールやフォロー体制(=職場復帰支援プラン)について検討します。
《STEP 4:最終的な職場復帰の決定》
事業者には休職者の話、主治医や産業保健スタッフの意見、産業医の意見などを網羅して復職の可否を最終決定する責任があります。ここでGOサインが出れば復職です。
《STEP 5:職場復帰後のフォローアップ》
無事復職できたとしても、長期的なお休みからの復帰には時間を要するケースがほとんどです。そのため、職場の管理職や産業保健スタッフが適宜フォローに入ります。具体的には、復職した従業員と話をしたり様子を見たりして、STEP 3で作成した職場復帰支援プランの見直し・調整を行います。今後同じような要因で休職に至らないようその従業員の体調に配慮しつつ、職場環境や業務内容の改善を続けていきます。
上記5つのステップが望ましいとは言いつつ、対応は企業ごとに異なるかもしれません。段階的な復職を就業規則の中で定めている企業もありますが、特に定められていない場合は休職者ご自身が工夫してリハビリに取り組む必要性が出てきます。
ご自身で取り組む場合は、必要に応じて専門家などのサポーターに力を借りつつ、無理が出ないように気をつけながら復帰を目指すことになります。サポートの一例としてリワークプログラムがあります。ご関心のある方は以下のページをご参照ください。
【参考】
日常生活への適応を診ている主治医と職場環境とのマッチングを診ている産業医とでは、見立てが少々異なることも珍しくありません。職場の管理職や産業保健スタッフは、診断書を含め主治医と情報交換を行い、休職者本人の話や生活記録をもとに現在の状態、日常生活に支障をきたしていないかなどを丁寧にヒアリングします。そのうえで、職場環境・業務内容に適応できるかどうかを判断していきます。長時間の拘束に耐え得る体調なのか、通勤の移動は問題ないのか、集中力や注意力は回復しているか…などチェックするべき項目は沢山あります。
『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(厚生労働省)』に掲載されている判断基準の例は以下の通りです。
参考・引用文献
【執筆】 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー) 休職者側も企業側も、職場復帰の対応に戸惑うことも少なくないでしょう。『回復に至るまではこういう経過を辿る』『復職支援はこういう流れで行う』といった一般的な基準はありますが、実際のサポートは休職者それぞれに応じた判断・対応をしていく必要があります。 また、休職理由がメンタル不調によるものだった場合、復職後2年間は再発率が高いという報告があります(遠藤, 2017)。休職者本人の負担や企業の生産性低下といった損失に繋がらないよう、再発予防の観点から復職支援を考えていくことが大切だと思います。
【監修】 本山真(日本医師会認定産業医|精神保健指定医|医療法人ラック理事長|宮原メンタルクリニック院長) |