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「手当て」の癒し効果|触れることによる心身のつながりとセルフケアの活用法

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2024年12月13日

「手当て」に込められた癒しの力『心身の相互作用を活かすセルフケア』を解説

“手当て”という言葉があります。病気やケガの治療という意味で使用される言葉ですが、その原点は文字通り‟手を当てること“、すなわち‟触れることで心身の苦痛を和らげること”だという説があるのをご存じでしょうか?”触れること”が心身に与える効果は、心理学や生理学の両面から長年にわたって研究されてきました。

触れることは、物理的な接触を超えて精神的な安定や幸福感を促進する重要な要素であり、日常生活においてもその効果を感じることができます。不安なとき、家族や恋人、友人、仲間に手を握ってもらったり背中をさすってもらったりして安心した経験をされてきた方、いらっしゃいますよね。

本コラムでは「触れること」がメンタルヘルスに与える具体的な効果と、どのようにセルフケアに活用できるかについて解説します。

 

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手当ての癒し効果


「手当て」という言葉の背景には、文字通り「手を当てる」ことが、病気や怪我の治療だけでなく心身の安定をもたらすという意味が含まれています。日常生活でも、家族や友人が手を握ったり、肩や背中を軽くさすることで安心感を得た経験があるかもしれません。この行為がもたらす安心感には、心理的な根拠があります。

触れることによって人は、心地よさや安心感を感じ、脳内でリラックス効果をもたらすホルモンが分泌されます。このような触れる行為が、ストレス軽減や心のバランスを保つ効果を持つとされています。

 

身体心理学の視点から見る「触れること」


心理学には様々な分野があるのですが、その中の1つ、身体心理学という学問についてご紹介します。身体心理学は、心と体が互いに影響し合うという考えに基づいています。特に「心身一如」という東洋思想においては、心と体が一体の存在として捉えられています。心の不調が体に影響を与えることや、逆に体の不調がメンタルに影響を与える例はよく見られます。例えば、ストレスや不安を感じたとき、体が緊張し、姿勢が崩れがちになることは誰しも経験し得る日常的な現象だと言えます。

 

“心と体はつながっている”という前提に基づけば、”触れる行為を通じて心を整える”というアプローチは理に適っています。東洋医学やヨガ、呼吸法、瞑想なども、体を通じて心を調整する方法として発展してきました。身体心理学の視点から見れば、触れる行為がメンタルヘルスに与える影響は無視できないものだと言えます(関連項目:精神科医監修|体の病気とメンタルヘルスー心と体はつながっているー)。

 

触覚と心のつながり


皮膚は、人体における最大の感覚器官であり、日々さまざまな感覚を受け取っています。触覚を通じて感じる温度や圧力、肌触りといった感覚は、脳に信号として伝わり、心理的な反応を引き起こします。触覚の情報は、非常に原始的なものであり、脳に対して直接的な影響を及ぼすんです。

なお、触覚には「C触覚線維」という神経が関与しており、特にゆっくりとした軽い接触に反応して快感を生み出す機能があります。この神経が刺激されることで、オキシトシンというホルモンが分泌され、心理的な安定や幸福感を感じるのです。

 

オキシトシンの役割


オキシトシンは、ストレス軽減や人間関係の強化に寄与する「幸せホルモン」として知られています。オキシトシンが分泌される場面には、信頼関係のある人との触れ合いや、動物とのふれあいが挙げられます。また、ボランティア活動や思いやりを持った行動でも分泌が促進されます。オキシトシンは、脳内でストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑制する効果があり、気分を安定させるセロトニンの分泌を促します。また、扁桃体の過活動を抑制することで、不安や恐怖感を軽減する作用もあります。

触れることによってオキシトシンが分泌されることで、結果としてメンタルや感情のバランスが安定するわけです。

 

なお、山口(2022)によれば、①信頼できる親密な相手とのスキンシップ(握手やハグ、マッサージ等)、②ボランティア活動、③目を見つめる、優しく話しかける(心のふれあい)、④五感への快刺激(例:アロマを嗅ぐ)、⑤ペットを飼う、⑥共食によってオキシトシンの分泌量を増加できるとのことです(関連項目:精神科産業医監修|共食のメリットー誰かと一緒に食事をすることー)。

 

触れることとメンタルヘルス


触れることがメンタルヘルスに与える効果は、他者との信頼関係や自己認識にも影響を与えます。例えば、マッサージを受けたり、セルフケアとして自分の体に触れることで、自分の存在を認識しやすくなり、自己肯定感が向上することが知られています。また、触れ合うことで安心感や信頼感が生まれ、他者との関係性が強化されます。人は孤立や疎外感を感じると、メンタルヘルスに悪影響が生じやすくなりますが、触れることで相互作用が生まれ、孤立感が軽減されます。社会的なサポートとしても、触れることが重要な役割を果たすのです

触覚の性質(山口,2022)

実在性

触れた人は相手の存在を実感する感覚があり、触れられた人は自分の存在を相手に認めてもらった感覚が生じる

相互性

触れる人も触れられる人もお互いに影響し合っており、その感覚はどちらも主観である

融合感や一体感

触れた人と触れられた人の親密な関係を築く

体の外部を捉えると同時に内部の変化も知覚する

例:ボールに触れたとき、外部にあるボールを感知するのと同時に自分の内側である手の感覚も知覚する

 

触れることをセルフケアに取り入れる方法


セルフケアの一環として「セルフタッチ」をおすすめします。セルフタッチを日常生活に取り入れるために、マッサージやスキンケアをするときに少し意識してみることを試してみましょう。

マッサージ

自分の手で体の一部を優しくマッサージします。筋肉の緊張が解け、リラックス効果を得ることができます。

スキンケア

いつもより少しだけじっくり自分の肌に触れてみましょう。手のひらの温度や圧を感じるところに注意を向けたり、手のひらの感覚を研ぎ澄ましてみたりしてみると、どんな感じがするか是非試してみてください。

 

日常生活の中で触覚に意識を集中する時間を持つこと。これはマインドフルネスのエクササイズであるとも言えます。マインドフルネスとは、“今・ここ”の体験に気づきを向けて、判断したり評価したりすることなく、そのまま眺めたり受け止めたりするものです(参考:【精神科医師監修】マインドフルネスとは③効果、副作用を解説!)。

スキンケア、ボディケアと一緒にメンタルケアもできるので、ちょっとお得な気分になれるセルフケアです笑

 

触れることが人間関係に与える効果


触れることは、他者との信頼関係や親密さを深める手段としても重要です。特に、人とのふれあいが少ない現代社会では、物理的な触れ合いが希薄になることが多く、それがストレスや孤立感の増大につながることもあります。例えば、職場や日常生活でストレスを感じているときに、友人やパートナーと軽く手を握り合うことが、心理的な支えとなり、安心感を生み出したりします。

 

触れることは、親密さや信頼感を形成するための手段でもあります。特に初対面の人との間での軽い握手が、相手との距離を縮める役割を果たすこともあります(関連項目:産業医監修|職場におけるパーソナルスペースから考える快適なオフィス空間)。触れることはコミュニケーションの一部としても重要な要素だと言えますね。

 

参考・引用文献


  • 伊藤絵美(2020)「セルフケアの道具箱」晶文社

 

【執筆】

若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー)

若丸記事一覧

触れることは、心理的な安定や幸福感を促進するだけでなく、人間関係を深め、自己肯定感を高める効果も持っています。オキシトシンの分泌を通じてストレスを軽減し、メンタルを安定させる触覚の力(手当て)は、日常生活の中で取り入れてみるべきセルフケアです!もし今回ご紹介したケアがご自身にフィットする感覚があれば、ぜひ日常生活にてご活用ください。即効性は感じられないと思いますが、コツコツ続けることでじんわり効果が広がっていくようなイメージを持っていただけますと幸いです。

 

【監修】

本山真(日本医師会認定産業医|精神保健指定医|医療法人ラック理事長)

 

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