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タグ : メンタルヘルス , 産業精神保健 , 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー)
2024年8月23日
最終更新日 2024年9月13日
目次
厚生労働省の令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事や職業生活に関することで『強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある』と回答した人は全体の82.2%だそうです。非常に高い割合ですね…。
強い不安、悩み、ストレス等を抱えたとき、皆さんはどう対処していますか?直面しているストレスにうまく対処しようとすることをストレスコーピングと言います。何かとストレスの多い現代社会を生き抜くために、今回はストレスコーピングについて解説していきます。
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冒頭でご紹介した厚生労働省の「令和4年 労働安全衛生調査(実態調査)」にて、仕事・職業生活の中でストレス等を感じている内容として最も多いのが『仕事の量(36.3%)』、次いで『仕事の失敗、責任の発生等(35.9%)』、『仕事の質(27.1%)』、『対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)(26.2%)』という結果でした。現代社会における圧倒的な課題は、労働人口の減少です。労働人口の減少に伴い、従業員ひとりひとりにかかる負担が大きくなっているのかもしれません。
なお、同調査において、メンタルヘルス対策を行っている企業は全体の63.4%という結果が出ています。メンタルヘルス対策を導入している企業は年々増加しているものの、ストレスを抱える人、メンタル不調をきたす人の増加幅に追いついていないのかもしれません(メンタル不調によって休職・退職した従業員がいる企業は13.3%)。早急に個人及び企業規模でのストレス対処(ストレスコーピング)が求められます(【ストレスってなに?】ストレスとの上手な付き合い方)。
ストレスコーピングとは何かを理解するにあたり、ストレスの仕組みを把握しておく必要があります。「ストレッサー」「認知」「ストレス反応」について簡単にご説明します(なお、厳密には”ストレス”とは外圧による緊張状態を指す表現であり、一般的に用いられている”ストレス”とはストレッサーないしストレス反応を指していることが多いように感じます)。
画像引用:春のストレスを乗り切りましょう!季節の変わり目のメンタル不調対策
ストレッサーとはストレス(厳密にはストレス反応)の原因となるものです。物理的ストレッサー(暑さや寒さ、騒音等)、化学的ストレッサー(一酸化炭素、薬物等)、心理社会的ストレッサー(人間関係等)といった種類があります。イメージとしては種々の刺激・圧力(外圧)ですね。ストレッサーという圧力は、認知(考え)を惹起します。ストレッサーによって惹起される認知は人によって個性がかなり出るところで、ストレッサーをどのように捉えるか、どのように感じるかによってストレス反応は大きく変わってきます。ストレスフルなシチュエーションであっても『ピンチはチャンス』の精神で乗り切るハーディネスはわかりやすい例かもしれません(精神科医監修|ストレスに強い性格【ハーディネス】を解説)。
ストレッサーによって生じる心身の反応のことをストレス反応と言います。抑うつ、怒り等の心理的反応を示す人もいれば、動悸、腹痛といった体の反応が引き起こされる人もいます。また、過食やアルコール依存など行動にあらわれるストレス反応もあります。
ストレスコーピングとはストレス(反応)への対処方法です。そもそもストレス反応とは所謂心身の不調や困りごとです。ストレス反応はストレッサーに端を発し、認知というフィルターによってストレス反応が増減するという関係性にあります。つまり、ストレス対処(ストレスコーピング)を考えるうえで対象となる変数には、ストレッサー、認知、ストレス反応の3つがあるわけです。ストレッサー、認知(考え)、ストレス反応に対しどのようなストレスコーピングが有効なのか、具体例を交えながら解説します。
ストレッサーそのものに働きかけ、ストレス反応を減少させる方法が問題焦点型コーピングです。問題焦点型コーピングは「問題焦点型」「社会的探索的支援型」という2つのアプローチに分類できます。
問題焦点型
ストレッサーそのものへアプローチするコーピングです。
例:『業務量が多すぎる…。集中力・注意力が落ちているような気もする。』
→この場合のストレッサーは「業務量の多さ」であり、集中力・注意力低下がストレス反応です。問題焦点型コーピングの場合、業務の仕方を変える、業務量を調節してもらうといった方法によりストレッサーの消滅・低減を図ります。
社会的探索支援型
周囲に支援を求めてストレッサーの消滅・低減を図るアプローチです。
例:『業務量が多すぎる…。集中力・注意力が落ちているような気もする。』
→業務量が多く自分のキャパシティを超えていると感じた際、上司や同僚に相談し解決策(アドバイスをもらう、業務量を調整してもらう等)を得るというアプローチが社会的探索支援型コーピングです。
ストレッサーそのものではなく、ストレッサーへの構え、感じ方を自ら変えるアプローチを情動焦点型コーピングと言います。情動焦点型コーピングは「情動処理型」「認知的再評価型」とに分類されます。
情動処理型
ストレッサーによって生じた不安、悲しみ、怒りといった感情(情動)を処理するという対処方法です。
例:『仕事でミスをして上司に怒られてしまった…。自分はダメ人間だ(涙)』
ストレッサーは「ミスをして上司に怒られたこと」であり、生じた情動が(涙)=悲しみです。ストレッサーの消滅・低減が難しい場合、ストレッサーによって生じた感情を誰かに話す(=言葉にする)といったコーピングによってストレス反応を整理・処理することができます。この例の場合は、『ミスをして上司に怒られちゃった。頑張っているつもりだったけど、自分はダメ人間だと思って悲しくなったんだ…』と同僚に話してみるのが情動処理型のコーピングになります。
認知的再評価型
ストレッサーに対する捉え方、考え方(認知の仕方)を変えることでストレスを軽減する方法です(【ストレスの心理学】臨床心理士が認知的評価理論をわかりやすく解説)。
例:『仕事でミスをして上司に怒られてしまった…。自分は駄目人間だ(涙)』
「ミスをして上司に怒られる」というストレッサーによって惹起された認知「自分は駄目人間だ」に対し、「それ、本当?」と妥当かどうか検討します。「『駄目人間』は事実?自分がそう感じているだけ?」「いつもミスしているわけではないのでは?1度のミスで『駄目人間』と決めつけるのは妥当?」といったように考えを巡らせていくと、『ミスをしてしまったことは良くなかったけど、自分の全てが駄目なわけではない。次から同じミスをしないようにまた頑張ろう』と少し前向きに考えられるかもしれません。
ストレス反応が生じた際、ストレス反応を発散、低減させるのがストレス解消型コーピングです。問題焦点型コーピング、情動焦点型コーピングと比較するとお手軽にできるコーピングですが、対処療法であることは理解しておきましょう。
気晴らし型
趣味や好きなことをして気分転換を行い、ストレスを解消する方法です。
例:『仕事がうまくいかない。毎日憂鬱だなぁ…。』
「憂鬱な気持ち」がストレス反応です。ご趣味やもともと好きだったことは何でしょうか?美味しいものを食べる、カラオケに行く、買い物をする等、自分の好きなことをして気分転換を図る方法が気晴らし型コーピングです。
リラクゼーション型
リラックス体験からストレスを解消する方法です。
例:『仕事がうまくいかない。毎日憂鬱だなぁ…。』
「憂鬱な気持ち」でいっぱいなとき、リラックスとはかけ離れた状態になっていると思います。ストレス反応を一旦落ち着かせるために、マッサージを受ける、アロマテラピーを試してみるといったリラクゼーションによりストレスを解消する方法です。心理療法のアプローチで言うと、自律訓練法(自律訓練法とは|公認心理師がリラックス法を解説!)やマインドフルネス瞑想(【精神科医監修】マインドフルネスとは②仕組みとやり方)はコーピングとしてご活用いただけるものかと思います。
ストレスコーピングを導入するにあたり、まず意識していただきたことは“現状把握”です。ご自身は何にストレスを感じやすいでしょうか?そして、ストレッサーに相対した際、どのように対処していますか?
現状把握ができたら、それに合わせてストレスコーピングを選択する段階へ移ります。皆さんが持っているストレスコーピングをリストアップしてみましょう。『持ち合わせているコーピングの数が少ないかも…』と感じた方は、本ブログを参考に振り返ってみてください。問題焦点型、情動焦点型、ストレス解消型をバランス良く持っていると、あらゆる場面に対処できるでしょう。
全体を通してのポイントは“自分ごととして主体的に考えて動くこと”です。『なんとなくやってみる』のではなく、『自分で選択してストレス対処をするんだ』という意志を持って取り組みましょう。
ストレスコーピングは個人が意識するセルフケアに加えて、企業や組織といった単位においても取り組むことが可能です。
1on1とは、上司と部下で定期的に行う1対1のミーティングで、部下の自主性の向上や成長を促すことを目的として実施します。
1on1による効果の1つとして上司・部下間の信頼関係の構築があります。1on1で培った信頼関係をベースに、困っているときにヘルプが出せたり(社会的探索支援型コーピング)、困っているという感情を伝えられたり(情動処理型コーピング)すると、部下のストレスの緩和に繋がりますね。
メンタルヘルス対策に取り組んでいる企業は全体の63.4%、ストレスチェックを実施している企業の割合は63.1%でした(令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」|厚生労働省)。
ストレスチェックの結果、高ストレスであるということは、即ちストレス反応が顕在化しているということです。職場だからこそできるコーピングアプローチをコーディネートしましょう。産業医を含む産業保健スタッフによるケアを受けられるのも職場ならではのストレス対処方法です。
従業員のストレスコーピングを後押しする方法として、福利厚生として、マッサージやヨガなどの出張サービス(ストレス解消型のコーピング機会の提供)、ストレスコーピングに関するラーニングサービスを提供するといった企業が増加しています。
参考・引用文献
【執筆】 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー) 1つのストレッサーに対する認知やストレス反応は人それぞれです。 “従業員ひとりひとりが適切なストレスコーピングを選択できるようにサポートすること”は、現代社会の企業においてはmustな発想なのかもしれません。
【監修】 本山真(日本医師会認定産業医|精神保健指定医|医療法人ラック理事長) |