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タグ : ひのき(公認心理師・臨床心理士) , メンタルヘルス
2026年7月31日

目次
夏になると、「なんだかホラーが見たくなる」という人は多いのではないでしょうか。
かくいう私もかなりのビビリなのですが、この時期になるとついついホラー映画やホラーゲームに手を伸ばしてしまいます。案の定、夜に怖くなって後悔するのですが、しばらくするとまた懲りずに楽しんでしまいます…。
本来、恐怖というものは、人間が避けたいと思う感情のはずです。それなのに、なぜ私たちはあえて怖いものを求め、それを「楽しい」と感じるのでしょうか。
様々なホラー作品が人気を博していることや、「怖いもの見たさ」という言葉があることからも、怖いものに惹かれる感覚は、多くの人に見られる心理のひとつと言えそうです。
今回は、この一見不思議な現象について、脳と心の動きから紹介していこうと思います。
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そもそも、恐怖を感じている状態というのは何を指すのでしょうか?
恐怖とは本来、危機的な状況に陥った際に、自身の身を守るための警告(アラート)として生じる感情です。
恐怖を感じる時に重要な役割を果たすのが”扁桃体”と呼ばれる脳の部位です。扁桃体は情動、とりわけ恐怖や不安の処理に深く関わっていると言われています。扁桃体が脅威を検出すると、視床下部などを介して交感神経系や内分泌系が働き、体がすぐに動ける状態へと切り替わり、下記のような反応が生じます。扁桃体の解説はこちらもどうぞ▶【ぞわぞわ…】精神科医監修パニック障害対策ブログ【そわそわ…】

これは『闘争・逃走反応』ともいって、生き物が脅威と感じる状況や刺激に対して、生存率をあげる行動を選択するために備わっている防御的な反応です。戦うにしても逃げるにしても、素早く動けることが重要ですから、この体の反応は理にかなっていますね。恐怖という感情は、この身体の反応とセットになっています。
例えば、お化け屋敷で驚いた時に、しばらく心臓がドキドキしたりしますよね。これは、脳が刺激を脅威として処理し、戦う・逃げるために体を一時的に興奮状態へ切り替えていると考えると分かりやすいです。
扁桃体の働きは、人間に昔から備わっている本能に近い反応といえます。
では、なぜ私たちはホラー作品を楽しむことができるのでしょうか?
生物にとってのアラートが恐怖という感情であれば、それを楽しむというのは矛盾しているように感じるかもしれません。
海外では、この恐怖と楽しさの関連に着目した研究もいくつか行われています。例えばKissら(2024)は、ホラーを楽しむプロセスとして以下のモデルを提示しています。
つまり、恐怖によって生じた生理的な興奮状態を、スリルやワクワクとして前向きに受け取れた時に、それを楽しいと感じられる、ということです。
では、恐怖をスリルやワクワクとして前向きに受け取るには何が必要なのかというと、
ことが重要であり、この二つが揃ったときに、人々は恐怖による反応を「脅威のシミュレーション」として関わることができるそうです。実際にお化け屋敷の来場者を対象とした研究では、怖さと楽しさの関係は一直線ではなく、逆U字型になることが分かりました。
怖くなさ過ぎる▶退屈、適度に怖い▶最も楽しい、怖すぎる▶楽しさは下がるということですね。

また、この結果は心拍数などの生理的反応でも同様で、「ちょうどいい」興奮状態の時が一番楽しめます。
このように、ホラー作品は単純に怖ければ良いというわけではなく、「実際に危険は迫っていない、安全だ」と認識できて「ちょうどいい怖さである」ときに、私たちは恐怖をスリルとして楽しむことができるようです。
怖さを感じないときには体の反応も少ないため、悪影響が出ることは少ないのですが、怖すぎる場合には、体が強い覚醒・興奮状態となります。本来、恐怖は自分の身を守るために備わっている情動のひとつで、危機的状況において出現すると説明しました。
つまり、ずっと恐怖を感じる状況は、「安全ではない」と感じ続けているということですから、あまり体に良いとはいえなさそうですね。実際に、災害や虐待などで、過度または長い間恐怖に曝され続けると、興奮状態による心身への影響が大きくなります。結果として、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など強い不安や価格制を伴う不調につながることがあります。
こうした状態では、恐怖反応が過剰に生じたり、本来は危険でない状況でも強い不安や恐怖を感じたりすることがあります。もちろん、ホラー作品そのものが何らかの不調を引き起こすわけではありません。一方で、過去の体験やその時の心身の状態によっては、特定の演出が強い不安や恐怖を呼び起こすことがあるかもしれません。
ひとつ前の項目でもお伝えした通り、楽しめる恐怖は「危険を伴わずに体験できるもの」である必要があります。実際がどうであれ「今、自分は安全だ」と思えない状態に陥っているのであれば、それは過度な恐怖になっていると言えるかもしれません。
ホラーは怖ければ怖いほど良いというわけではなく、自分にとって無理のない範囲で楽しむことが大切です。
最近の研究では、ホラーを好む人とレジリエンス(精神的回復力)との間に関連があるという報告があります。
「ホラーを見るとレジリエンスが高まる!」
「レジリエンスを高めたければホラーを見ましょう!」
とご紹介できるとライフハック的なのですが…。
これは元々の好奇心や刺激への向き合い方が関係している可能性があり、ホラー作品を楽しむこと自体に恐怖への耐性を高める効果がある、と断言できるわけではありません。
他方、現実には危険のない環境で「怖い」という感情を体験し、それを受け止める経験は、自分の感情との向き合い方を学ぶ良い機会になるのかもしれません。ホラーがお好きな方は、作品を鑑賞しているときの、ご自身の心の動きや体の反応に少し目を向けてみると、いつもとは違った発見があるかもしれませんね。
なお、ホラーが苦手だからといって、決して心が弱いわけではありません。また、ホラーの楽しみ方に優劣があるわけでもありません。大切なのは、自分に合った形で楽しめるかどうかです。
参考文献
【執筆】 ひのき(公認心理師・臨床心理士) もし今回のコラムを読んで少しホラーに興味を持った方がいましたら、ぜひ自分なりに楽しいレベルのホラーを探してみてください。 恐怖との「ちょうどいい」距離感が見つかると、ホラー自体の見え方も少し変わってくるかもしれません。
【監修】 本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長) 2002年東京大学医学部医学科卒業。2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年医療法人ラック設立、2018年には2院目となる綾瀬メンタルクリニックを開院。 |