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【2021年最新版】産業医執筆:ハラスメント対策まとめ【義務化≒罰則】

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2021年4月30日

最終更新日 2023年5月9日

【執筆】

本山真(産業医/精神科医師/医療法人ラック理事長)

 

【2019年5月】、【2020年6月】、【2022年4月】。この数字を目にして(耳にして)ピンときたあなた。ハラスメント対策意識していますね!

 

弊社ブログにてお伝えしてきたように、労働施策総合推進法法改正に伴い、大企業は2020年6月1日より、中小企業は2022年4月より、職場ハラスメント対策が義務化された/義務化されるわけです(ハラスメント相談窓口義務化にどう対応する?【産業医解説×パワハラ対策】)。

 

本ブログでは職場ハラスメント対策に関する情報を整理してお伝えします!産業医・精神科医師として、職場ハラスメント対策には大きな可能性を感じています。個人の皆さん、人事担当・労務担当の皆さん、管理職の皆さんも最新版の知識にアップデートして職場ハラスメント対策を理解しておきましょう。

企業におけるハラスメント対策の義務化


厚生労働省調査(平成 28 年度 厚生労働省委託事業職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書)によれば、パワハラを一度以上受けた経験のある労働者は実に3人に1人。パワハラがいかに身近な問題であり喫緊の課題であるか明らかになりました。

 

引用:【産業医監修】データから考えるパワハラ防止法【義務と罰則】

 

歴史的に辿れば、2016年の男女雇用機会均等法改正に基づく2017年施行のセクハラ対策、育児・介護休業法に基づくマタハラ対策、2019年の労働施策総合推進法改正によるパワハラ対策の義務化により、2020年6月1日より企業におけるあらゆるハラスメント対策が義務化されました(パワハラ対策のみ中小企業は2022年4月1日から)。

 

職場ハラスメント対策にて義務化(事業主が雇用管理上講ずべき措置)とされたのは下記の通りです。

1.事業主の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に対してその方針を周知・啓発すること

2.相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること

3.相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者及び行為者に対して適正に対処するとともに、再発防止に向けた措置を講ずること

4.相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

5.業務体制の整備など、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講ずること

【引用】職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)

 

ハラスメント対策を具体例に落とし込むと、1、5についてはハラスメントの定義や職場としての対策を、就業規則や企業内掲示などで周知啓発、2~4については相談窓口設置、相談フローの設定となります(【安心できる職場作り】ハラスメント対策の必要性・重要性|公認心理師執筆)。特に窓口設置については、自前で用意するにせよ外部に委託するにせよ、ある程度準備期間が必要となります。

 

企業ハラスメント対策の罰則と重要性


現状、ハラスメント対策義務化に伴う罰則規定はありませんが、労働施策総合推進法第33条にて規定違反している事業の公表が許可されています。

 

厚生労働大臣は必要があると認める時は、事業主に対して助言、指導または勧告をすることができる、規定に違反している事業主に対して、第33条の勧告を受けても従わなかった場合は、その旨を公表することができる

【引用】労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律

 

下記、弊社ブログより引用します。

 

罰則規定はないものの、労働人口の減少が叫ばれる昨今、企業のブランドイメージ低下は大きなペナルティだと言えるでしょう。

引用:【産業医監修】データから考えるパワハラ防止法【義務と罰則】

 

罰則規定がないから対策に取組む必要がないかというとそうではないということです。加えて、精神科医師の立場としてハラスメント対策の重要性は、職員の安心感を生むことによる魅力的な職場作りにあると考えています(【安心できる職場作り】ハラスメント対策の必要性・重要性|公認心理師執筆)。

 

職場ハラスメント対策による魅力的な企業作りを事例で理解していただくことを目的としたブログがこちら『事例に学ぶ【従業員理解に活かす職場ハラスメント対策】公認心理師が解説』です。ハラスメント対策を従業員理解に活かす方法がありますよ、という提案です。

 

職員定着率、離職率が深刻な課題となっている介護業界。実は介護業界は職員の安心感とハラスメント対策をより明確に打ち出しています。利用者、利用者のご家族からのハラスメントによる離職を防止するために、令和3年度介護報酬改定にてハラスメント対策の強化が義務化されているんです。先にも述べた通り、企業に対してはハラスメント対策義務化に伴う罰則規定は存在しませんが、介護業界においてはハラスメント対策を導入しないと、実質介護報酬が減算される仕組みとなっています。

【参考】介護現場におけるハラスメント対策マニュアル:厚生労働省(pdfファイル)

 

人手不足が叫ばれる昨今、既存の従業員に末永く活き活きと勤務してもらいつつ、新しい人材を確保していくことが、企業のパフォーマンス向上の鍵となります。いち早く時流を察知した企業は、すでに多様な勤務形態や福利厚生の導入に着手しています。

引用:【医師監修】企業が取り組みたい職場メンタルヘルス対策

 

今後必ずやってくる労働人口の減少に向けて、企業が力を入れて取り組むべき対策の一つ。それがハラスメント対策だと言えます。

 

職場ハラスメント対策キャッチフレーズ


厚生労働省は、職場ハラスメント対策義務化に先立ち、“ハラスメント対策キャッチフレーズ募集”というユニークな試みを実施していました。募集の結果、パワハラ部門で大賞を受賞したのは…

 

パワハラでなくす信用 部下の支持

(引用:職場のハラスメント対策キャッチフレーズ決定!あかるい職場応援団

 

確かに、信用も支持も一旦失うと元に戻りづらいものです(私も管理者の立場として気をつけませんと…)。皆さんのご職場においても、社独自のハラスメント対策キャッチフレーズハラスメント対策スローガンを考えてみてもよいかもしれませんね。スタッフに選ばれたハラスメント対策キャッチフレーズであれば主体的な意識が生まれるでしょうし、身近な感覚が持ちやすいかもしれません。なお、こちらのキャッチフレーズ、パワハラ以外にもセクハラ部門、マタハラ部門受賞キャッチフレーズも掲載されています。

 

職場ハラスメント対策お役立ちサイト

我々専門職も参考にしている厚生労働省サイト、ハラスメント裁判事例、他者の取組などハラスメント対策の総合情報サイトあかるい職場応援団

 

事例別ハラスメント裁判例の検索、所属部署間が異なる場合のハラスメントの考え方、法テラス(弁護士・司法書士など相談窓口)など相談機関の一覧、パワーハラスメント対策導入マニュアル、ポスター、社内アンケート例などなどハラスメント対策に関する豊富なコンテンツを揃えたサイトです。大企業のみならず中小企業の管理職様、人事担当者様も必見です。

 

同じく厚労省による職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)では、法改正の概要、ハラスメント対策義務化の内容やパンフレット、社内研修資料、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)相談窓口が掲載されています。

 

企業ハラスメント対策関連動画集


職場におけるハラスメント関係法令の改正内容(厚生労働省公式YouTubeチャンネル

 

原昌登 先生(成蹊大学法学部教授) による『明るい/働きやすい職場を作るために』(厚生労働省公式YouTubeチャンネル

 

職場ハラスメント対策企業事例紹介 第一三共株式会社(厚生労働省公式YouTubeチャンネル

 

みんなでNOハラスメントオンライン研修講座

厚生労働省あかるい職場応援団による『労働者向け』、『人事・労務担当者向け』のeラーニング研修講座動画です。確認テストもあるので知識の整理ができますよ。

 

動画で学ぶハラスメント

同じくあかるい職場応援団による動画集です。ハラスメント種別、パワハラ6類型別、場面別で絞り込みが可能です。端的にわかりやすく便利です!

 

ハラスメント対策本山執筆後記


企業におけるハラスメント対策まとめブログを執筆してみた感想として…事業者にとってのハラスメント対策と労働者にとってのハラスメント対策。(結果的に)両者のかい離につながる情報も少なからず存在するように思いました。事業者にとっては魅力的な組織作り、労働者にとっては安心できる職場作り、両者は相反するものではありません(こちらは弊社ブログにてデータから考えるパワハラ防止法として解説しています)。

 

パワハラ対策はパワーハラスメントの予防・解決につながるだけでなく「管理職の意識の変化によって職場環境が変わる」(43.1%)、「職場のコミュニケーションが活性化する/風通しが良くなる」(35.6%)、「休職者・離職者の減少」(13.4%)、「メンタルヘルス不調者の減少」(13.1%)といった副次効果も得られるんです。

引用:【産業医監修】データから考えるパワハラ防止法【義務と罰則】

 

労働人口の減少は避けられない未来。産業医として、精神科医師として、より良き未来づくりへと貢献したいと考えています。一介の医師にできることは限られているかもしれませんが、弊社には志を一つにする精神保健福祉士、公認心理師、臨床心理士といった専門職スタッフが在籍しています。ハラスメント対策の強化を通じて、より良き未来づくりのお手伝いさせてください。

 

日本医師会認定産業医・精神科医師 本山真

 

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