ブログ

精神科医監修|認知症を治療・予防することはできるのか?治療法・予防法を解説

タグ : ,

2023年7月21日

認知症は治療・予防ができるのか?治療法と予防法を精神科医監修で解説

 

【解説】

ふ~みん(公認心理師)

以前のブログで認知症についてご紹介しました。

 

認知症とは、「一旦発達した知的機能が低下して社会生活や職業生活に支障をきたす状態」とされており、アメリカ精神医学会精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)による診断基準は、「記憶障害のほかに、失語(言葉が出にくくなり言い間違いが増える)、失行(体を動かしたり動作を遂行したりすることが不可能になる)、失認(道に迷ったり左右が分からなくなったりする)、実行機能の障害(物事を論理的に考えたり計画を立てて実行したりすることが難しくなる)が1つ以上加わり、その結果、社会生活上あるいは職業上に明らかに支障をきたしており、以前の水準から著しく低下していること」とされています。

 

日本では高齢者数の増加に伴い認知症患者も増加傾向にあり、2025年にはおよそ5.4人に1人が認知症になると言われています。加齢は誰もが避けて通れず、自分自身の人生であっても認知症になるかどうかは予測できません。これほど患者数の多い認知症ですが、発症原因が不明確なために根本的な治療法が確立されていないのが現状です。しかしながら、何も手立てを講じることができないというわけではありません。認知症に伴って出現するさまざまな症状に対して「薬物療法」と「非薬物療法」によって対処することができます。

 

今回のブログでは認知症の種類や症状の詳細については触れませんが、もしも認知症になってしまったときはどのような治療が受けられるのか、将来認知症にならないためにどうしたら予防ができるのか、などを見ていきたいと思います。

【参考】

認知症施策|厚生労働省

もし、家族や自分が認知症になったら 知っておきたい認知症のキホン(政府広報オンライン)

 

ふ~みん記事一覧

 

【監修】

本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長)

2002年東京大学医学部医学科卒業。2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年医療法人ラック設立、2018年には2院目となる綾瀬メンタルクリニックを開院。

 

株式会社サポートメンタルヘルス公式LINE ID

メンタルヘルス情報を発信中!友だち登録どうぞ!

 

認知症の治療法ー薬物療法ー


薬物療法とは、その名の通り薬を用いて不調を改善する方法です。例えば、不安やイライラに対しては気分を落ち着かせる薬、やる気の低下やおっくうな感じに対しては意欲を高める薬など、それぞれの症状に合わせた薬を服用します。このような症状に合わせた薬の他、認知症の進行自体を緩やかにする抗認知症薬と呼ばれる薬もあります。現在、日本では次の4種類が使われており、どれも医療機関において医師の判断の下で処方されます。

 

1.アリセプト®(ドネペジル塩酸塩)

軽度~重度まで、アルツハイマー型認知症による記憶障害の緩和への効果が期待されています。

主な副作用として、吐き気、食欲不振などが認められます。不整脈など心臓疾患の合併がある場合は服用できません。

 

2.レミニール®(ガランタミン)

軽度および中程度のアルツハイマー型認知症で、記憶障害や見当識障害(時間や場所、人間関係などが認識できなくなる状態)を抑制する効果が期待されています。

主な副作用として、吐き気、嘔吐が認められます。心臓病、胃潰瘍、気管支喘息、パーキンソン病、てんかんがある場合、服薬についての判断は慎重に行います。

 

3.イクセロン®/リバスタッチパッチ®(リバスチグミン)

軽度および中程度のアルツハイマー型認知症で、記憶障害の緩和への効果が期待されています。「パッチ」という名前から想像できる通り貼り薬なので、飲み込みがうまくできない人や定時に服薬することが困難な人でも使用できます。

主な副作用として、かゆみ、発心、頭痛などが認められます。これまでに湿布薬で肌に異常が出現した経験のある人は注意が必要な他、レミニール同様 心臓病、胃潰瘍、気管支喘息、パーキンソン病、てんかんがある場合、服薬についての判断は慎重に行います。

 

4.メマリー®(メマンチン)

中程度以上のアルツハイマー型認知症で使用されることが多く、中核症状(記憶障害、見当識障害、判断力低下など)の緩和と、周辺症状(不安、徘徊、妄想など)の改善の効果が期待されています。しかし、服用しすぎると活動量や意欲が低下する可能性があるため、摂取量には注意が必要です。

主な副作用として、めまい、便秘などが認められます。

 

 

抗認知症薬として現在4種類が保険適応になっていますが、進行具合や出現している症状によって効果的なお薬を選び、使い分けることが大事です。また、脳血管性認知症の場合は抗認知症薬だけでなく脳血管障害を予防するための降圧剤や抗血小板薬が選択肢に入ることもあります。いずれにしても、専門の医師の診察を受け相談することが重要です。

 

認知症の治療法ー非薬物療法ー


では、今度は非薬物療法についてです。非薬物療法とは、その名の通り薬物に頼らず脳を活性化させ、認知症者本人の能力を引き出すことを目的とする方法です。例えば、よく耳にする脳トレもその一種です。ゲームや映像鑑賞を通して集中力や記憶力を高め、脳の機能低下を防ごうとしているのです。認知症の非薬物療法としては主に次のようなものが行われています。

 

1.運動療法、理学療法、作業療法

運動療法とは、関節を動かしたり筋力の増強を図ったり、立つ・座る・歩くといった基本動作の練習によって脳の活性化や心肺機能の向上を目指すものです。ウォーキングや体操などの有酸素運動を行うこともあります。適度な疲労感は夜の快眠へもつながります。

 

理学療法、作業療法は、それぞれ理学療法士、作業療法士といったリハビリテーションのプロによって提案されるトレーニングです。激しく大きな動きはせず、指先や手の動きを使い脳への刺激を促します。

 

2.回想法

認知症改善には欠かせないコミュニケーションを取り入れた方法です。昔の楽しかった記憶や同年代だからこそ共感できる話題を共有し、積極的にコミュニケーションを図ることを目的としています。昔の写真や日用品などに触れながら、プライバシーを侵害したり気分を害したりすることのないよう行うことが大切です。

 

3.音楽療法

音楽を聴く、演奏する、歌うことで健康の維持や心身の回復を目指すリハビリテーションです。音楽に合わせて体を動かすことには運動機能の維持、増進の効果も期待できます。

【こちらもどうぞ】

 

4.リアリティーオリエンテーション

こちらは主に見当識障害の治療法の1つです。複数名で行い、自分や家族の名前、今居る場所、日時などを正しく理解し、認知能力の維持、他者とのコミュニケーション促進を目的とします。

 

この他、絵画や陶芸などに親しむ芸術療法、動物とのふれあいを通じて感情の安定などを目指すペット療法など、多くの非薬物療法があります。いずれも認知症の方が心地良く参加でき、積極的に継続して行うことができる内容が良いとされています。

 

認知症の予防法ー生活習慣とアロマテラピーー


ここまで認知症の治療法をみてきましたが、予防できるならしておきたいと思う方も多いことでしょう。

 

認知症になりにくい生活を送るためには…

  • 栄養バランスの良い食事を摂る
  • 定期的な運動をする
  • 脳を働かせ、特に右脳を使う
  • 多くの人々と会話をする

などが推奨されています。

【こちらもどうぞ】

 

テレビを見ているだけで外出も他人との会話もしないで1日が終わる、という生活を送っている独居の高齢者も珍しくないと聞きますが、このような生活は認知症のリスクを高めてしまいます。

 

以前、アロマテラピー(芳香療法)が認知症予防に効果的であるという研究結果がテレビや書籍で取り上げられました。これは、アロマオイルの香りをかぐことで嗅覚が刺激され、においを感知する神経と関係のある海馬が活性化するというものです。海馬は記憶をつかさどる脳内の部位であり、アルツハイマー型認知症は海馬の萎縮がみられることから、海馬が活性化する=認知機能の低下を防げるという結果が導き出されたのです。

 

アロマオイルは非常に多くの種類がありますが、認知症予防に効果を発揮するのは朝(11時頃まで)の時間帯にローズマリー・カンファ―を2滴とレモンを1滴、夜(就寝前頃から)の時間帯に真正ラベンダー2滴とスイート・オレンジを1滴、どちらも2時間程度かぐこととされています。ローズマリーには複数の種類がありますが、必ずカンファ―を用い、ラベンダーも真正ラベンダーが最も効果を発揮すると研究者は言っています。

 

2時間も香りをかぎ続けるのは容易ではありませんが、朝は香りをつけられるアロマペンダントを利用し、夜は就寝の少し前辺りから香りを拡散させるディフューザーを寝室に置いておくと難なく香りを取り入れられるようです。アロマ専門店やインターネット等ではこれらの香りがブレンドされたアロマオイルを取り扱っているところもあるとのこと。食事や運動などとともに上手に活用すれば、少しでも長く健康的な生活を送る手助けになるかもしれません。

【参考】

The effect of inhalation of essential oil from Rosmarinus officinalis on scopolamine-induced Alzheimer’s type dementia model mice

関連記事