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タグ : maitake(臨床心理士) , メンタルヘルス , メンタル不調・精神疾患解説 , 認知行動療法・認知バイアス
2023年3月10日
目次
人の想像力って素晴らしいと思いませんか?
想像力があるからこそ、本を読んで映像を思い浮かべたり、相手の気持ちを想像したり、これから起こるかもしれないことを予測できたりします。想像することで新しいアイデアが生まれたりと、創造性にも深いかかわりがある想像力は人間の特権です。しかし、この能力が暴走してしまうと、気分に悪い影響を与えることもあるのです。もしかすると、多くの方が経験されたことがあるかもしれません。今回は想像力と不安の関係についてご紹介いたします。
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私達は常々想像力を働かせながら生きています。
例えば…
ー「コンビニでお金を払いコーヒーを買った自分」をイメージできるので、コーヒーを買うために店まで行こう、と考えます。
ー落ち込んでいる家族を見て「悲しいことがあったんだろうな」とイメージできるので、そっとしておこう、等の行動がとれます。
この力は広く言えば「見通し」という言葉で語られることもあります。
見通しとは、「これくらいの量の仕事なら、何時までに終えられそうだな」のように、経験をもとに未来についてある程度あたりをつけるような機能、とイメージしてよいでしょう。反対に「通勤電車が遅延し、復旧の見通しが立たない」状態におかれてしまうと、先のことをどう見積もればいいか分からず困ってしまいますよね。見通しや想像力は、社会生活を送る上でも重要な能力の一つでしょう。
【参考】先延ばしの科学
ところが想像力には欠点があります。想像力の欠点とは『想像と現実が一致しているとは限らないこと』です。現実離れしたイメージが暴走すると、私たちはそれがあたかも真実のように感じられてきます。そして『あたかも真実のようなイメージ』に振り回されて一喜一憂することになるのです。「あの人は私に冷たい。怒っているにちがいない。」と怯えているときも、それはどこまで事実なのでしょうか。確かにそうかもしれないし、本当はそうではないのかもしれません。
具体的に例に当てはめて分析してみましょう。
①~④の項目に沿って整理してみますね。
【試験にトラウマがあり、同じような場面を避けてしまうAさんの例】
ー何か「これはどうしても苦手」というものや状況を思い浮かべてください。
試験が苦手。
ーそれは、どうして苦手なのでしょうか?
昔、緊張して腹痛がしてしまい、集中できず赤点をとった経験があるから。
ーそれをすると(それがあると)、どうなるからでしょうか?
試験会場に行くだけで緊張して腹痛がするようになったから。
ーそれを避けようとしますか?
はい。試験会場が怖いので、試験を受けられなくなりました。
過去のつらい経験から、試験や試験会場が怖くなってしまった例です。ここに至るまでのご経験や思いは、とても大変なものだったのでしょう。大変な経験を経て、試験が受けられなくなるなど困った状況になっています。試験を受けたくても受けられない…つらい思いは二次的、三次的にどんどん膨らんでいきます。悪循環を止めるために、一度整理してみましょう。
重要なのが、
1)Aさんは試験会場に行けば、必ず失敗してしまうと感じていること。
2)それが想像の中だけでなく、現実のことだと確信していること。
です。
想像力があるゆえに、不安を作り出してしまっている状態です。
ここで、不安について考えてみます。多くの方は、不安になったときはその気持ちは永遠に大きくなり続けると思っているのではないでしょうか。そして、その不安から逃れるために「逃げる」もしくは「避ける」という行動を取ります。Aさんは試験を避けることで、不安の原因から離れられて、一時的に不安感が急降下します。すると、どうでしょう、ホッと一安心できます。つまり、避けるという行為をとったことによって強くて不快な不安感から離れ、急激な安心感を得られているのです。
一旦不安感の急降下を経験すると「避けること」(回避行動)のメリットが強く残ります。確かに状況によって逃げることはとても大切ですが、Aさんの場合これでは一生試験が受けられません。そして、試験を受けられない…受けられない自分はダメだ…などとどんどんつらいと感じる範囲も広がってしまいます。
これもまた想像力のなせる業です(試験は本当に受けられないのか?受けられないと本当にダメ人間なのか?これも事実である確証はありませんね)。そんな不安ですが、実は永遠に大きくなるものではありません。不安はある程度時間が経つと、それ以上強まらずに高止まりします。しかし、その性質を身をもって体感するためには、当然『腰を据えて不安を感じ』なくてはなりません。不安が高止まりすることが知られていないのは、この体験に至るまでのハードルが高いからでもあるでしょう。
Aさんの『試験会場が怖い』という不安への解決法の一つは想像した未来を実験によって確認することになります(専門的には行動実験と呼んだりします)。まず『試験会場に行って(行っている想像でもよい)、本当に不安になるか確かめる』。『不安になったら、不安であることを一定の時間感じて、不安は永遠に上昇するものではないことを知る』。つまり、不安から逃げず、不安に感じていることを自覚して受け入れることが重要なのです。
これは認知行動療法の技法のなかで「エクスポージャー」や「フラッディング」と呼ばれるものの要素です。不安感の程度によっては実地に赴く前にイメージを使ったり疑似試験会場にトライしたりと少しずつ段階的に取り組んでいくのがエクスポージャー法の特徴です。想像力が暴走してしまう前に、今起きている『不安であるという事実』と、『不安は長くは続かない』ことを自覚するのです。
【参考】エクスポージャー療法|厚生労働省
もう一つ、例で考えてみましょう。
【満員電車になんとか乗り続けているBさんの例】
ー何か「これはどうしても苦手」というものや状況を思い浮かべてください。
満員電車。
ーそれは、どうして苦手なのでしょうか?
狭いし、自由に動けないから。
ーそれをすると(それがあると)、どうなるからでしょうか?
漠然と不安になって、逃げ出したくなる。
ーそれを避けようとしますか?
考えないようにして電車に乗り続けている。とは言え電車に乗らないわけにいかないので、音楽を聴いて気にしないように努力している。
一見、よく頑張って耐えていて、何の問題もないのでは?と感じる例ですが、不安がコップから水があふれるギリギリの状態です。このまま続けていくといつか不安があふれ、満員電車が苦手になってしまうような経験に繋がる可能性も否めません。つまり、Bさんは「不安で逃げ出したい」という気持ちを避けながら一生懸命電車に乗っています。
不安を避けているのは、AさんBさんに共通しています。ここでも未然の対処法として考えられるのは、同じように『満員電車が不安であるという事実』と、『不安は長くは続かない』ことを不安を感じ取り受け入れることで自覚することです。
不安から逃げる、避けるという方法は、確かに必要な場面も存在します。一方で、想像によって膨らんでしまった不安を避け続け、生活が狭まってしまうことで悩まれる方もいらっしゃいます。この状態は『学習解除の機会損失』という言葉で説明されます。学習とは(とても簡単に述べると…)過去の経験から「○○すると◆◆になる」と理解するようになることです。
学習解除の機会損失とは理解が事実とは異なっている場合にそうではないことに気付くチャンスを失っている状態です。私達は本能的に不安という「脅威」から逃げるようになっていますし、人間たるゆえ想像力があります。このバランスがうまく取れるように、今起きていることに気づけるような姿勢を身につけられるとよいですね。
関連項目
【ぞわぞわ…】精神科医監修パニック障害対策ブログ【そわそわ…】
精神科医監修:あがり症は性格なのか?社交不安障害の対策法を解説
【解説】 maitake(臨床心理士) 不安については扁桃体と呼ばれる原始的な脳部位が司っています。つまり、不安とは野生環境で生き残るために必要だった機能の一つだと言えるわけです。命を脅かされるようなイベントが随分減った現代社会においては、本来の役割を果たしたと言えるのかもしれません。 とは言え、現代社会には現代社会なりの危険があるのも事実です。不安を的確に乗りこなして、しなやかにサバイブしたいですね。
【監修】 本山真(代表取締役社長) 精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長 2002年東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院で研修。川越同仁会病院、不動ヶ丘病院の勤務を経て、2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年には医療法人ラックを設立し綾瀬メンタルクリニックを開院。2019年株式会社サポートメンタルヘルス設立。 |