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タグ : かなた(公認心理師・臨床心理士) , メンタル不調・精神疾患解説
2026年8月7日

目次
皆さんは、お酒を飲んで、よく眠れた経験はありますか?
私自身、お酒を飲んだ日に、すとんと寝られたような感覚に陥ったことがあります。
しかし、多量の飲酒は体にもよくないですし、“アルコール依存症”という病気があるくらいですから、一定の節度をもった飲酒が望ましいですよね。でも、現実問題として、「眠れないくらいだったら、お酒を飲んでちゃんと寝たい!」という方もいらっしゃると思います。
今回は、“お酒を飲むことで本当に眠れているのか?”について考えてみたいと思います。
お酒とメンタルヘルスの関係はこちら▶【精神科医監修】お酒がメンタルヘルスに及ぼす影響と対策
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お酒と睡眠の関係について解説する前に、睡眠のサイクルについてお話します。
私たちは、寝ている間に90分前後の睡眠の波を繰り返しています。これを、“睡眠サイクル”といいます。
睡眠には、“ノンレム睡眠”と“レム睡眠”の2種類があります。
眠り始めはノンレム睡眠が多く、明け方に近づくほどレム睡眠が増えます。ノンレム睡眠は、脳のエネルギー回復や成長ホルモンの分泌、体の修復、免疫の調整などの役割を担っています。脳が休んでおり、いわば体のメンテナンスをしているような状態です。
次に、レム睡眠です。レム睡眠は、感情の整理や記憶の統合、ストレスの処理、心の安定化などの役割を担っています。脳が働いていることもあり、夢を見やすいのもこの時間です。
まとめると、睡眠は、ノンレム睡眠とレム睡眠のサイクルで回っています。
お酒に含まれるアルコールは、脳の中枢神経を抑制します。中枢神経が抑制されることで、GABAの作用が強まり、グルタミン酸の働きが抑えられます。GABAとは、神経の興奮を落ち着かせる物質です。一方、グルタミン酸とは、脳を興奮させる物質です。
例えるなら、GABAはブレーキ、グルタミン酸はアクセルのような役割をしています。
お酒を飲むと眠くなる感覚があるのは、脳にブレーキがかかることで、緊張がゆるみ、思考が鈍り、不安が弱まり、眠気が強くなるからです。
ただし、アルコール摂取後にGABAとグルタミン酸の作用が大きく変化した反動で、アルコールが抜けた際にグルタミン酸が過剰に働くことがあります。すると、夜中に目が覚めたり、動悸が出たり、不安感が出たりします。
結果として、寝つきはよくても、途中で起きてしまったり、朝の気分があまりよくなかったりすることがあるのです。
自然に眠った時より、お酒を飲んだ時のほうが「眠れた感覚」になる方もいらっしゃると思います。その背景には、眠れない日の状態と、お酒で眠れた日の状態との差があります。
眠れない日は、考え事が止まらなかったり、意識がさえていたりします。一方、お酒を飲むと、アルコールにより脳の働きが強制的に鎮静され、意識がすぐに落ちます。
この「眠れない」と「すぐ寝られた」という印象の差が、「お酒を飲むと眠れた」という認識につながっている可能性があります。しかし、すぐに寝つけたことと、睡眠の質がよいことは同じではありません。
お酒によって寝つきがよくなったように感じても、睡眠サイクルが乱れたり、中途覚醒が増えたりすることで、結果的には十分に休めていないことがあります(こちらもどうぞ▶【精神科医師監修】寝たはずなのに疲れてる?睡眠障害4つのポイント)。
お酒を飲まないと眠れないという方は、上記でご説明した印象の差だけでなく、神経系が「お酒を飲むと眠れる」「お酒を飲むとリラックスできる」と学習している可能性があります。具体的には、眠れない時にお酒を飲むことで、一時的に楽になります。
しかし、この行動を繰り返すことで、睡眠の質が落ち、翌日に疲れや不安が残りやすくなります。すると、その不快感を和らげるために、また飲むという悪循環につながることがあります。さらに、お酒を継続的に飲めば飲むほど、同じ量では反応が鈍くなり、同じ効果を得るために飲酒量が増えやすくなります。
これが、寝酒に頼り続けることの大きなリスクです。
アルコールは、GABAの作用を強制的に強めることで、一時的な不安の軽減や入眠しやすさにつながることがあります。しかし、前述した通り、睡眠サイクルを崩しやすいこと、耐性がつきやすいこと、中途覚醒が増えやすいことがデメリットとしてあります。
一方、睡眠薬は、GABAの作用に働きかけることで※、睡眠の改善を図る薬です。医師の指導のもとで服用すること、容量が管理されていることから、自己判断で飲酒に頼るよりも安全性を確認しながら使用できます。
もちろん、睡眠薬にも注意点はあります。だからこそ、「眠れないからお酒で何とかする」のではなく、眠れない状態が続く場合には、医師に相談しながら適切な方法を検討することが大切です。
※なお、新しいタイプの睡眠薬は、オレキシンという覚醒を維持する神経伝達物質の働きを抑えるメカニズムを持ちます(オレキシン受容体拮抗薬)
アルコールに頼りがちという方は、以下の方法を試してみてください。
ぬるめのお風呂に15分ほど入る、足湯をするなどの方法があります。
入浴は寝る90分前が理想とされます。
深部体温が下がるタイミングで眠気が来やすくなるためです。
ゆっくりと呼吸を整えることで、副交感神経が優位になりやすくなります。
「眠る前にこれをする」と神経に覚えさせることで、入眠前のルーティンになります。
考え事が止まらない時は、いったん紙に全部書き出してみるのも一つの方法です。
頭の中だけで処理しようとせず、外に出してあげることで、少し整理しやすくなることがあります。
今回は、お酒と睡眠についてお話してみました。
このブログを書いている中で、睡眠をメタファーで表したいと思い、考えてみました。
睡眠の状態をPCにたとえるなら、睡眠はセーブと再起動を繰り返す時間です。自然な睡眠は、セーブポイントでちゃんとセーブしてから電源を落とすイメージです。
一方、アルコールは、強制シャットダウンに近い状態かもしれません。そのため、再起動した時に不安定になりやすいのです。
睡眠薬は、医師の指導のもとで使う場合、シャットダウンのタイマーを設定するようなイメージに近いかもしれません。
「お酒を飲むと眠れる」と感じることはあります。しかし、それは本当に心身が回復する眠りなのか、一度立ち止まって考えてみることも大切です。
眠れない状態が続く時には、お酒で何とかしようとせず、周囲の人や専門機関に相談してみてください。
【執筆】 かなた(公認心理師・臨床心理士)
【監修】 本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長) 2002年東京大学医学部医学科卒業。2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年医療法人ラック設立、2018年には2院目となる綾瀬メンタルクリニックを開院。 |