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タグ : TAKUYA(公認心理師・臨床心理士) , メンタルヘルス
2023年9月15日
最終更新日 2023年9月15日
目次
ニュースやSNSなどで目にする機会が多くなってきたダイバーシティという言葉。日本語で「多様性」と訳される言葉で,国籍,人種,年齢,性別,宗教,障害,価値観など様々に異なる属性を持った人々が,組織や集団の中で共存している状態のことを指しています。今の日本では特にLGBTQに関する議論が盛んに行われていますね。
共存とはつまるところ,互いに尊重し,協力し,活躍できる状態のことです。お互いの違うところについて,強制や排斥をせず,一方で大げさに取り入り一体化することもなく,ただただその違いを認め合っている状態とも言えるでしょう。
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ダイバーシティのうち, 人間のneuro(脳・神経)に着目したのがニューロダイバーシティ(neurodiversity)という考え方です。
その中身は…
①「脳や神経、それに由来する個人レベルでの様々な特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で活かしていこう」という考え方で,➁「特に、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害/限局性学習症(LD)といった発達障害において生じる現象を、能力の欠如や優劣ではなく、『人間のゲノムの自然で正常な変異』として捉える概念」です。
うーん…言いたいことが分かるような,分からないような?
①のほとんどはダイバーシティの説明とほぼ同じことを言っているのでなんとなくわかりますが,➁がちょっと難しいですね。
【参考】
特に『人間のゲノムの自然で正常な変異』あたりはあまりピンとこないのではないでしょうか?「1人1人の脳の機能や発達は人それぞれに異なり,特定の分野が得意な人もいれば苦手な人がいるように,それぞれに個性がある」ということを言っているのですが,「え?脳ってみんな同じじゃないの?だってみんな同じ人間じゃん」とも思ってしまうわけで,なかなか理解が進みません(私も最初はよく分かりませんでした)。
村中直人先生の『ニューロダイバーシティの教科書』という本の中に,わかりやすい例え話がありました。
『ニューロダイバーシティの教科書』
(村中直人/著)「猫町倶楽部」メンバーの方が取り上げてくれたようで、#Yahooニュース で紹介されていました。#ニューロダイバーシティ の考え方が広がってくれると嬉しいです🙂 https://t.co/8Xgszhp6ky pic.twitter.com/SAMZXSmyIs
— 金子書房 (@kanekoshobo) June 1, 2022
それは人間の脳や神経のメカニズムをパソコンやスマホの動きに見立てて考えてみるというものです。より身近なスマホで考えてみましょう。スマホの仕組みをざっくりと説明すると,①ハードウェア,➁オペレーションシステム(OS),③アプリケーションの三つに分かれます。
①ハードウェアはスマホそのものです。箱の中には精密な機械がぎっしり詰まっていますが,充電やOSがないと動きません。➁OSは画面を触ったら反応する,アプリの起動・操作をする等,スマホを動かす基本の仕組みです。これが無いとスマホが動きません。③アプリケーションはメールや電話,SNSなど特定の目的をもったソフトウェアのことです。これが我々にとって一番身近にありますね。これらを使うためにはハードウェアやOSが必要不可欠です。
これを人間に当てはめてみましょう。
①ハードウェア→人間の脳や体そのもの ➁OS→脳の働き ③アプリケーション→見たり,話したり,考えたりなどの活動 |
つまり,ニューロダイバーシティの定義にある『人間のゲノムの自然で正常な変異』とはいったい何を指しているかというと,スマホでいう機種の違いのことなんです。つまりハードウェアやOSなどのいわゆる「脳の機種」が人によって異なっているよね。ということを言っています。
ご自身を含め,家族や友人でも使っているスマホの機種が違うことってよくありますよね。自分はiPhone,友達はXperiaやGalaxyを使っている,なんてよくある光景だと思いますが,機種が違うだけでみんな同じくスマホを持っているわけです。
もちろんOSも異なります。iPhoneの場合はiOS,XperiaやGalaxyはAndroidとなりますが,どちらもOSということは変わりないです。ただ機種やOSごとに違いは当然あるわけなので,あの機種は写真がきれいに撮れる,この機種は処理速度が速くアプリやネットがスムーズに動くというように,スマホごとにそれぞれ特徴を有しています。
ですが機種ごとに違いはあろうとも,それがスマホであることに変わりはないのです。そしてスマホに多様性があるように,人間の脳にも様々な多様性があるということです。
朝が得意な人もいれば,夜が得意な人もいます。 運動が得意な人がいれば,勉強が得意も人もいます。 口から生まれたような人もいれば,ずっと一人でも平気な人もいます。 それぞれが,それぞれの脳の機種である,ということです。 |
しかし今の社会,特に日本は「人間は、だいたいみんな同じような脳の機能、神経の働き方をしていて当たり前」というニューロダイバーシティの対義的な「ニューロユニバーサリティ(neuro universality:神経普遍性)」の構造となっています。学校で言えば,みんな同じ時間に登校し,同じ教室で,同じ内容の授業を,同じように静かに集中して受けると言った形で学んでいます。
これは,「みんな脳の構造はだいたい一緒」のため「全員に合う方法がある」という形の上で成り立っています(この記事の「え?脳ってみんな同じじゃないの?だってみんな同じ人間じゃん」という考えもある意味ニューロユニバーサリティ的な考えです)。しかし,多人数教室で授業を聞くという学び方が,その人の脳の機種やOSに合わない場合も当然あるわけです(スマホで例えると,自分はタイプCの充電コードなのに,ここにはライトニングケーブルしかない!というような状況ですね。)。
なので,学校ではうまく学べなくても,家庭教師や個別指導等の違う方法で学ぶことができたということもあるのです(学校と塾の優劣の話ではなく,その人にとって合う・合わないといった話ですので,もちろん逆のパターンもあります)。「脳の機種の違い」や「少数的である」というだけで,学びや活躍の機会が不公平にならないようにする,ということもニューロダイバーシティの一側面でしょう。
ここで肝心なのが,もとは発達障害当事者の権利運動などから始まったニューロダイバーシティという考え方ですが,「脳の機種」という観点から考えると,ニューロダイバーシティの対象はASDやADHD,LDなどの発達障害だけではなく,本質的には多数派を自認する方も含めた「すべての人」となります。つまり,障害の有無や,神経系の多数派・少数派という垣根を越えて,皆が活躍できる社会を目指しているのがニューロダイバーシティの考えと言えます。
【執筆】 TAKUYA(公認心理師・臨床心理士) 皆が活躍できる社会の実現や,ニューロダイバーシティという考え方には,様々な課題や議論点が残っています。病名がつくからこそ生きやすくなった方や医療的介入が必要な事例もあり,なかなか一筋縄ではいかないのも現状です。今後,機会があればそちらについても取り上げていきたいと思います。
【監修】 本山真(日本医師会認定産業医|精神保健指定医|医療法人ラック理事長|宮原メンタルクリニック院長) |