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発達障害/神経発達症と子育てー育児中の保護者の皆さまへー

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2024年5月17日

発達障害/神経発達症のお子さんを子育て中である保護者の皆さまへ

【解説】

chico(公認心理師・臨床心理士)

「発達障害/神経発達症」という言葉が一般的に使われるようになり、発達障害/神経発達症を持つ人に対する理解と支援も進んできたように思います。特に子どもに関しては、保護者や学校の先生が、子どもの言動から子どもの潜在的/顕在的な困り感を察知した時、発達障害/神経発達症の可能性を考慮するケースが増えてきているのではないでしょうか。

 

周囲の大人が子どもの困り感を察知し、医療機関を受診、実際に発達障害/神経発達症だと診断された(あるいは「発達障害/神経発達症の疑い」と言われた)後、保護者の気持ちには何が起きるのでしょうか。子ども本人の困り感は当然のこととして、子どもを支え続ける家族についても、同じくらい、あるいはそれ以上の困り感が生じるかもしれません。

 

今回は、発達障害/神経発達症のお子さんを持つ保護者の方に向けて執筆しました。今現在、子育ての悩みから、苦しさや孤独を感じている方もいらっしゃるかもしれません。心理学では、発達障害/神経発達症の子どもがいる家族についての研究がなされています。子育ての悩みは「ウチだけじゃない」ということ、子どもと同じように「親も助けを求めて良い」ということをご理解いただけますと幸いです。

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※なお発達障害とは、発達障害者支援法において”自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害”と定義されています。2022年に改訂版が出版されたDSM-5では”神経発達障害/神経発達症”と総称されています。細部に若干の相違は見られますが、本ブログにおいては、発達障害と神経発達障害/神経発達症を併記して取り扱います

【参考】発達障害(厚生労働省 e-ヘルスネット)

 

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お子さんが発達障害/神経発達症の診断を受けるとき


お子さんが発達障害/神経発達症の診断を受けたとき、保護者の皆さまはどのように感じられましたか。落胆、悲しみ、混乱、自責感……筆舌しがたい感情が想像されます。一方で、時にお子さんの言動に翻弄される日々を送ってらした保護者の皆さまにおいては、どこか腑に落ちた感覚もあったかもしれません。お子さんが発達障害/神経発達症の診断を受けるときには、次のようなことが心理的な動揺に影響を与えると言われています。

 

・確定診断が得られるかどうか

発達障害/神経発達症は目に見える障害ではなく、生活環境との相性によって困り感が変動しやすいこともあり、「疑い」の状態から確定まで長い時間を要することが多くあります。いくつかの研究では「疑い」の状態から確定までの間が、保護者にとって最も辛い時期であることが示されています。発達障害/神経発達症の確定診断が得られない期間は、「子どもの言動を理解できない」という不安感や、「(時に保護者の理解を超える)子どもの言動の原因は育児にあるのか」という自責感や罪悪感などが宙ぶらりんになってしまいます。

 

・どのように告知されるか

医師や支援者に、どのように発達障害/神経発達症のことを告げられるかも重要です。「子ども本人がいる前で唐突に障害名を言われた」、「詳しい情報もなく障害名だけ告げられた」、「障害があることは分かったが具体的に今後どうしたらいいか教えてもらえなかった」。いずれの告知の在り方も、ケースバイケースであることは間違いありません。また発達障害/神経発達症は、ライフステージを通じてより良く生きる在り方を検討することが肝要です。生活環境との相性が良ければ、当然困り感のない期間も生じます。困り感が生じた際に具体的な対応策を検討するというアプローチが実際的であり、”今後どうするか”に関する検討は、都度都度行うという在り方は一般的だとも言えます。とは言え、保護者の皆さんにとっては混乱しやすいシチュエーションですよね。

 

・違和感に気づいてから受診するまでのタイムラグ

子どもに発達障害/神経発達症の診断を受けさせることは、時に勇気がいることです。また、子どもの発達障害/神経発達症に対し専門性を有する”児童思春期精神科”が全国的に少ないこともあり、子どもの困り感を察知してから医療機関や支援機関に連れていくまで一定の時間を要するのは当然なことです。一方、「もっと早く気づいてあげればよかった」「もっと早く連れて来ればよかった」と自責感を持つ保護者の方もいらっしゃるのは事実です。

先述の通り、発達障害/神経発達症は、生活環境やライフステージによって困り感が前景化したり消失したりするものです。保護者の皆さんが気づいたタイミングがお子さんが初めて困ったタイミングであることもよくあることです。”早く気づいてあげれば”とご自身を責めすぎることのないよう、むしろそこまでの期間、困り感を生じさせることのない育児をしてきたご自身を褒めてあげるくらいのスタンスでいてください。

 

お子さんが発達障害/神経発達症であることを受け入れる過程


我が子が発達障害/神経発達症であるということ。頭では分かっていても、その事実を受け入れる(心理学の用語では「受容」)ことに時間を要するケースも少なくありません。”受容”一つとっても”何をどれ位受容するのか/できるのか”は人それぞれです。加えて”受容”は時間経過に伴い変動するものです。時に肯定と否定を、時に落胆と適応を、行ったり来たり繰り返しているという感覚でしょうか。

 

この、行ったり来たりしながら受容していくという過程には名前がついていて「螺旋型モデル」と呼ばれています。螺旋型モデルの受容は、診断を確定することが難しい障害、知的な遅れを伴わないADHD(注意欠如・多動性障害/注意欠如・多動症)やLD(限局性学習障害/限局性学習症)のお子さんを持つ保護者/養育者に生じやすいようです。

 

発達障害/神経発達症を持つ子どもの育児


保護者の皆さんが発達障害/神経発達症を持つお子さんを育児するとき、難しさを感じるのはどのような場面なのでしょうか。以下にまとめてみました。

 

・障害の見えにくさ

先述のとおり、発達障害/神経発達症は、とある場面だけ見ても困り感が充分に理解されづらい特徴を持ちます。結果として、周囲から発達障害/神経発達症であることを理解されづらいのです。この場合の”周囲”には家族も含みます。家族メンバーによって理解の程度に差が生じることもあります。特に母親が一手に子育てを担当している場合、母親の悩みが家族メンバーになかなか共感されないということも生じてきます。

 

・個性との区別

“発達障害/神経発達症の症状”と”本人の個性”の区別が難しいということもあります。保護者の皆さんは、子どもの個性「その子らしさ」が育ってほしいと願うものだと思います。しかし、「らしさ」なのか「症状」なのか分からないことで、子育ての方針に迷うこともあるようです。近年の研究を眺めてみると、発達障害/神経発達症であるか/そうでないかを分かつ様々な差異があるのは間違いないようです。こちらのブログにおいて説明したとおり、”差異イコール困り感ではない”という発想は大切ですが、差異がある以上、困り感が生じた場合についても個性に集約してしまうのは大きな損失につながるかもしれません。

例えばADHD(注意欠如・多動性障害/注意欠如・多動症)は、予期せぬ事故(交通事故など)に遭うリスクの高さがよく知られています。ADHDのお薬を服用している人たちはそうでない人と比較して、事故などによる死亡率が下がるという知見もあります。差異を個性に集約することの弊害を理解していただきやすい知見ではないでしょうか。

 

・不適応的な行動や社会性の問題

保護者が精神的な影響を受けやすいのは、知的能力や障害の程度が重いことよりも、不適応的な行動が多かったり、社会性の問題が大きかったりすることだとされています。具体的には、自分自身や他人を傷つける行動、大声、物にあたる行動、パニック、コミュニケーションの困難さなどが挙げられます。

不適応行動や社会性の問題は”発達障害/神経発達症だから”で整理されてしまうこともありますが、一次障害から来る困り感と、二次障害によって生じている困り感とは区別して考えることが重要だと言えるでしょう。特にASDの感覚過敏を考える際は、一次障害へのアプローチと二次障害へのアプローチは、それぞれ整理することが実際的だと感じます。

【参考】

 

・ライフステージに伴う困難の変化

先述したとおり、幼少期、青年期、成人期と子どもが成長していくにつれて生活する環境が変わっていきます。発達障害/神経発達症は、生活環境との相性によって、特徴が落ち着いたり、あるいは前景化したりするものです。時に大きな躓きを経て二次障害につながることもありますが、次のライフステージによってその二次障害が癒されたりすることもあります。

(発達障害/神経発達症に限らず)子育ては長期戦です。その時々で必要なサポートは変動するという構えでいることが適当だと言えます。なお、発達障害/神経発達症においては、一般的に大きな環境変化を伴うタイミング(進学や就職など)は、環境変化に備えて何を準備しておくとよいかについて専門家や周囲のサポートを仰ぐつもりでいると安心かもしれません。

 

発達障害/神経発達症をもつ子どもの家族に対する支援


北九州市のアンケート調査報告書『発達障害のある人の家族』(令和3年度)にて、保護者が日常生活上の「手立て」を講じるうえでの難しさに触れられています。

  • 毎日のことなのでおっくうになる
  • 効果があるかどうか分からない
  • 正しいやり方が分からない
  • 話せばわかるのではないかと気が進まない

 

発達障害/神経発達症を持つ子どものご家庭は、様々な困難を抱えやすい傾向にあります。そこでご紹介したいのが「家族支援」です。

 

・ペアレントプログラム

具体的な養育スキルを身につけることを目的に、保護者に対して行われる教育プログラムです。専門家から適切な情報を得て、子どものことを理解し、具体的にどう関わったらいいか学んでいきます。子どもに適した対応を試行錯誤することは、その子どもの強みに注目することにもなります。再三取り上げているとおり、所謂問題行動と言われる言動は、生活環境との組み合わせによって生じがちです。”機能分析”という考え方を理解することで、保護者の皆さん自体が子どもにとっての環境の一要素として捉え直すことで「問題だらけ」といった感覚が段々と薄くなっていくことが期待できます。

【参考】

精神科医監修|ABC分析とは何かわかりやすく解説ー行動について考える心理学ー

 

・親の会

親の会は、発達障害/神経発達症の子どもを持つ保護者同士の集まりです。先輩ママ・パパとの関わりの中で、気持ちの上でお互いに支え合うことができます。専門機関よりもアクセスにあたっての心理的ハードルが低い、本音を吐露しやすい、子育ての「モデル」を身近に見ることができる、といった特徴があります。他の発達障害/神経発達症の子どもに目が行くことで、客観的に我が子をみることができるようになることもあるようです。また親の会の先輩ママ・パパは、様々な社会資源ユーザーとしての先輩でもあります。実際に社会資源を利用してみた感想を含めた情報交換の場所としての機能も保護者の皆さんにとっては安心できるポイントかもしれません。

 

ちなみに、「ファミリーセンタードサービス」という言葉をご存知でしょうか。保護者を、子どもの教育者としてだけでなく、支援を直接受けるべき存在として捉える考え方です。もし今、お子さんがサポートを受けている支援機関があれば、そこで保護者の皆さん自身の相談もしてみてください。上記の、ペアレントプログラムや親の会も様々な所で行われていますので是非調べてみてくださいね。

 

発達障害/神経発達症に関して、活用できる制度や相談窓口などの情報は、以下よりアクセスできます。

 

発達障害/神経発達症のあるなしに関わらず、育児にはフォーマル/インフォーマル問わず人手が必要です。発達障害/神経発達症のお子さんを育児している保護者の皆さんには、”利用可能な人手が多くてお得”、”人手が利用できる状態にも関わらず利用していないのは勿体ない”と捉えていただいても良いのではないかと感じます。お一人で抱え込んでご自身を責めることのないよう、資源の活用をご検討くださいませ。

 

引用・参考文献


  • 相浦沙織・氏森英亞(2007)発達障害児をもつ母親の心理的過程:障害の疑いの時期から診断名がつく時期までにおける10事例の検討 目白大学心理学研究,3,131-145.
  • 原口英之・上野茜・丹治敬之・野呂文行(2013)我が国における発達障害のある子どもの親に対するペアレントトレーニングの現状と課題 行動分析学研究,27(2),104-127.
  • 堀家由妃代(2014)発達障害児の親支援に関する一考察 佛教大学教育学部学会紀,13, 65-78.
  • 松井藍子・大河内彩子・田髙悦子・有本梓・白谷佳恵(2016)発達障害児をもつ親の会に属する母親が子育てにおける前向きな感情を獲得する過程 日本地域看護学会,19(2),75-81.
  • 中田洋二郎(1995)親の障害の認識と受容に関する考察–受容の段階説と慢性的悲哀 早稲田心理学年報,27,83-92.
  • 夏堀摂(2001)就学前期における自閉症児の母親の障害受容過程 特殊教育学研究,39, 11-22.
  • 野田香織(2008)広汎性発達障害児の家族支援研究の展望 東京大学大学院教育学研究科紀要,48,221-227.
  • 山根隆宏(2009)高機能広汎性発達障害児をもつ親の適応に関する文献的検討 神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要,3(1),29-38.

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