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タグ : メンタルヘルス , 市川(公認心理師・臨床心理士) , 認知行動療法・認知バイアス
2024年7月19日
最終更新日 2024年8月2日
目次
皆さんは、日々の中で気づいたらまた同じことを考えていたという経験はありませんか?
例えば・・・
『同じミスを繰り返してしまった』
『思ってもいない言葉をぶつけてしまった』
『あの日の恥が忘れられない』
『昔言われて傷ついた言葉が忘れられない』
このようなネガティブな考えが頭の中に浮かび、気持ちが沈んだり、心が苦しくなったり、『自分はダメな人間だ』と感じたり・・。これは、感情や思考に心をフックされている(釣り上げられている)状態です。心をフックされてしまうと、本当は前を向いて歩きたくても歩けない状態になってしまいます。もしもあなたが不安に心を吊り上げられてしまった時、あるいは吊り上げられそうな時に、自分でフックを外して進みたい方向へ歩き出すための方法を本ブログでご紹介します。
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G-life(ジラフ)
私たちの人生に不安や悩みはつきものですし、それぞれが悩みながら人生を歩んでいることでしょう。日常の中で、今日、昨日または1年前の傷ついた出来事を思い返して悲しくなったり、腹が立ったりすることもありますよね。そんな中で心の苦痛を取り除くための方法を自分なりに考え、自分を責めたり、他人を恨んだり、時にはなにかに依存したり…、そして余計に心が苦しくなってしまったなんてことはありませんか?
・・・この時、あなたの心を苦しくしているのは誰なのでしょうか?
もしかしたら、それは過去にあなたが誰かから受けた言葉なのかもしれません。しかし、実際は過去のことであり『今』あなたの頭の中で言葉を生み出しているのはあなた自身なのです。過去の出来事を耳元でささやいて大きくしているのは私たちの心、思考なのです。これを仮に『マインドさん』と名付けます。マインドさんは私たちの頭の中にいて、様々なことをささやきます。
例えば、怖い映画を見てから一人でトイレに行った時に『後ろに幽霊がいるのでは!?』とマインドさんがささやきます。すると、とたんに恐怖を感じて心臓がどきどきし始めるでしょう。しかし、実際は幽霊も人もいません。この時、恐怖を増幅させていたのはマインドさんの仕業なのです。マインドさんのささやきの中で、ポジティブな言葉はそのまま受け取っても問題はありませんが、ネガティブなささやきがあったときにはマイナスな行動を引き起こすきっかけになる可能性があるので注意が必要です。真実ではない物語に囚われ、今の自分に必要なことができなくなってしまっている状態のことを、後ほど紹介するACTという心理療法の中では『フュージョンする』と呼びます。
もしマインドさんに『あなたは不幸な人間だ』とささやかれて、そのまま真に受けてしまう(フュージョンする)と、たとえあなたがどれほど恵まれている人生を歩んでいても、不満や不幸を感じて生きることになってしまいます。この時に大切なことは“マインドさんの言葉を真に受けすぎないこと“になります。
マインドさんの“ネガティブな言葉”を真に受けすぎないことは大切ですが、“ただポジティブに考える”ことが良いとは言い切れません。
あなたが人生において価値をおいていることはどんなことですか?家族、仕事、趣味など、人によって様々だと思いますが、全てポジティブに考えるには限界があります。人生においてネガティブなことは起きるものですし、ネガティブなもの全てに蓋をしても問題自体は解決しないでしょう。生きている中で楽しい時もあれば苦しい時もありますし、ネガティブとポジティブの両面があります。そのため、ネガティブなマインドさんを無視したり追い払ったりするのではなく、ともに歩いていくことが望ましいと考えられています。そのためには、ネガティブな言葉が頭に浮かんでも注目しないことが先決なのです。
ですが、ただ注目しないようにする!というのは困難なことでしょう。もし、あなたにとって大好きなこと、推している人のことを1日中考えないでください!と言われたとしても簡単にできるものではないですよね。マインドさんのネガティブな言葉に注目せず、真に受けすぎないための方法としてACTという心理療法をご紹介しますね。
ストレスの多い現代社会において、自分のことを大切に、自分らしく生きていくための心理療法として注目されているのがACTです。ACTは1980年に米国で生まれ、うつ、不安神経症、慢性疼痛、麻薬中毒など様々な症状に効果を発揮している心理療法といわれています。今すぐに解決することが難しい悩みや出来事に直面した時に、不安やストレスを感じることは当然のことです。ACTでは、こんな状況でも、自分の価値に沿った行動が選択できるように支援することを目指しています。
マインドさんのささやきが本当かどうかではなく、そのささやきがあなたの人生に有益かどうかが大切なのです。ネガティブな感情を排除するのではなく、あるがままに受け入れて自分にとって価値のあるゴールに向かって行動していくのがACTの姿勢です。
仕事での失敗や失恋、それ以外にも様々な場面で『フュージョン』は生じます。例えば、ある人が仕事の先輩から指摘を受けて『自分は何もできない人間なんだ・・。』と考えているとしましょう。この思考を事実として捉える(フュージョンする)ことで“自分は何もできないから”と新しいことにチャレンジする気持ちが起きなくなったり、何事にも諦めやすくなったり、実際はできていることでもできていないと評価するようになってしまいます。
このようなネガティブな考えに囚われている状態から抜け出すことを『脱フュージョン』と呼びます。ネガティブな思考を切り離し、脱フュージョンをするコツは『今この瞬間』における思考を“思考として観察する”ことです。そうすることによって、ネガティブなマインドさんと距離を置くことが出来るでしょう。その具体的な方法を、2つの例を元にご紹介します!
Aさん:『明日は会社のプレゼンがある・・。いつも人前で緊張して恥ばかりかいてしまうから、きっと今回も失敗してしまうんだ。明日が不安で眠れないよ・・』 Bさん:『子どもが家でうるさくして、ついつい強く叱ってしまう毎日・・。学校のお友達とのトラブルも多くて本当に嫌になる。でもこれは全部私の教育のせいなんだ・・。しっかりしなきゃ。』 |
もし、こんな考えが浮かんだ時はその考えのまま自分を認識する必要はありません。フュージョンをしないためには、語尾に『と考えているんだな』と付け加えてみましょう!
例えば・・
このように、自分の思考の中にひと手間加えてみることで思考との距離ができフュージョンしにくくなります。この方法は簡単に始められるのでぜひ試してみてくださいね。また、脱フュージョンをするためには『今この瞬間』を大切にする生き方、心理過程である〈マインドフルネス〉が有効です。以下のリンク先にマインドフルネスについての解説が載っているので見てみてください。
【精神科医監修】マインドフルネスシリーズ 【番外編】マインドフルネス体験談 |
マインドフルネスエクササイズをしている時、あるいは普段何かをしていると、あなたの思考に浮かんできて気づいたら支配をしてしまうマインドさんはどんな形をしていますか?声、言葉、音、映像・・自分の頭に浮かんでくる思考をよく観察して、どんな声や言葉なのか、そのエピソードなどをノートに書いてみましょう。
ノートに書けたらその思考に名前を付けてみましょう!ぷんぷん鬼、しくしくあお虫、もやもや太郎など…どんな名前でもOKです!もし、その思考がやってきた時に、『もやもや太郎が来たな!』と思えるだけで思考と距離ができ、フュージョンしにくくなるでしょう。ご自身の取り組みやすい方法を試してみてくださいね。
脱フュージョン以外にもACTに関連するキーワードがあるので参考にしてみてください。
参考文献
【解説】 市川(公認心理師・臨床心理士) ACTにおいて大切なことは、『価値に向かって進むこと』と言われています。あなたにとって『こうありたい!』と思うことはどんなことでしょうか?誰かの支えになること、優しいこと、正しいこと、努力すること、誠実であること、諦めないことなど、人によって様々だと思います。『こんな自分でありたい!』と思える言葉を見つけることで、自分らしく今を生きるためのヒントになるかもしれません。皆さんがそれぞれの価値に向かって進んでいけることを願っています。
【監修】 本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長) 2002年東京大学医学部医学科卒業。2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年医療法人ラック設立、2018年には2院目となる綾瀬メンタルクリニックを開院。 |