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【精神科医監修】「ドカ食い気絶部」とメンタルヘルスの関係|ストレスと過食の深層心理

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2025年2月7日

「ドカ食い気絶部」とメンタルヘルスの関係|ストレスと過食の深層心理

前回のブログにて「風呂キャンセル界隈」というトレンドワードについて解説しました(「風呂キャンセル界隈」急増中!?その真相とメンタルヘルスの関係)。今回は気になるトレンドワードシリーズとして、「ドカ食い気絶部」について、メンタルヘルスとの関連を考えながら解説していきたいと思います。

 

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「ドカ食い気絶部」とは?ネット発のトレンドワードの意味


ドカ食い気絶部という言葉の起源は、2020年頃ネットの掲示板にて作られた「マクドナルドのメニューをドカ食い(一気に大量に食べること)して気絶する部」というスレッド名がつけられたことが由来していると考えられています。現在では、マクドナルドに限らず、飲食物をドカ食いすることによって、疲労感や眠気を催させて気絶するように眠ることを指しています。「ドカ食い気絶部」というワードの語呂の良さも手伝ってかX(旧Twitter)をはじめ、様々なSNSにおいて、大量の食べ物の画像をアップする際、実際にドカ食いをして気絶するかどうかと関係なく添えられることの多い言葉のようです。

 

なぜ人はドカ食いをするのか?その心理的背景


『自棄食い』という言葉があるように、食行動とストレスには関連があります。

まず神経伝達物質によるメカニズムをご紹介しましょう。

嬉しい、楽しい、悲しいなどなど、人間の気分変動には様々な神経伝達物質が関わっていると考えられています。実は、食事をとることによって、幸福感をもたらす「セロトニン」や「ドーパミン」(ドパミン)といった神経伝達物質が分泌されるのです。食事によって、一時的に気分が高揚しストレスが和らぐと感じるのはこうした神経伝達物質の分泌が関与していると考えられます。特に高糖質・高脂質の食べ物を摂取することで、快楽物質とも評されるドパミンが大量に分泌されるため、無意識のうちにジャンクフードやスイーツを選びやすくなります(関連項目:栄養がメンタルを安定させる?【栄養精神医学】食事とメンタルの深い関係)。

自律神経によるメカニズムもご紹介しておきます。

何らかのストレスによって交感神経が優位になった状態において、生体は満腹中枢が正常に働きにくくなります。結果として、平時よりも食事量が増える=過食に繋がることもあります。ドカ食い行動とは、生体としてストレスを感知しているサインとも言えますし、ストレス反応を喚起している状態に脳が適応しようとしている一種の防衛反応とも言えるのです。

 

ドカ食いとメンタルヘルスの関係|短期的なリフレッシュと長期的リスク


風呂キャンセル界隈解説にて触れましたが、短期的な風呂キャンセルはストレス対処方略として有効な側面もあります。同様に、短期的且つ即時的なストレス解消を目的とした「やけ食いして、気絶するように寝てやる!」「今日はご褒美で甘いものをいっぱい食べよう!」という行動は、日常に取り入れやすいリフレッシュ法だと言えるでしょう。

とは言え…やはり何事もバランスが大切です。ドカ食い(過食)は、短期的であれば悪くないリフレッシュ方法ですが、長期的に習慣化している場合、心身にさまざまな悪影響を与えるリスクについて考える必要があります。ドカ食いによって気絶が生じるメカニズムを理解することで、身体に生じる長期的なリスクをイメージしやすくなると思います。

血圧低下

大量の食事を摂取すると、消化器系や循環器系に大きな負担がかかります。食べ物が胃に大量に入ると、胃が膨張し、消化のために大量の血液が胃腸に集中します。結果として血圧が急激に低下し、脳への血流が不足することが原因で意識が薄れるわけです。お腹に血が集まって「頭がぼーっとしてくる」というイメージです。

血糖値スパイク

大量の糖質を摂取すると、血糖値の急上昇とその後の急激な下降(低血糖)が起こりやすくなります。急激な低血糖により、めまい、ふらつき、意識の低下が生じることで気絶状態に陥るわけです。

 

いずれもドカ食いによって気絶が生じる”仮説”ではありますが、端的に”身体に良い”とは言えないメカニズムですよね…。長期的にドカ食い気絶を継続することで、身体に多大な負荷が生じることは想像に難くありません。

 

過食が習慣化するリスク|神経性過食症や摂食障害との関連


ドカ食い気絶が長期化している場合のメンタルヘルスとの関連についても考えてみましょう。

ドカ食い気絶の頻度や回数などバランスが取れないほどの状態である場合は、もしかしたら神経性過食症や過食性障害に当てはまるかもしれません。例えば、神経性過食症という疾患においては、以下の症状やエピソードが診断基準として整理されています。

 

①他とははっきり区別される時間帯に(例:任意の2時間の間の中で)、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる。

②そのエピソードの間は、食べることを抑制できないという感覚(例:食べるのをやめることができない、または、食べる物の種類や量を抑制できないという感覚)

1.体重の増加を防ぐための反復する不適切な代償行動、例えば、自己誘発性嘔吐;緩下剤、利尿薬、その他の医薬品の乱用;絶食;過剰な運動など

2.過食と不適切な代償行動がともに平均して3ヶ月にわたって少なくとも週1回は起こっている。

3.自己評価が体型および体重の影響を過度に受けている。

4.その障害は、神経性やせ症のエピソードの期間にのみ起こるものではない。

 

簡単に整理しますと…「一気にたべすぎるのをやめられない…止められない…」「食べ過ぎちゃったから、吐いちゃおう…」「結構な頻度でドカ食いしちゃうな…」「体形や体重は気にしちゃうな…」に思い当たる方、「食べること」へのコントロール感がないと感じる方については、神経性過食症に該当するかもしれない、ということです。

なお、上記内容の内、「食べ過ぎちゃったから吐いちゃおう」(代償行為と呼びます)は無いというケースについては、過食性障害に該当する可能性があります。”食行動のコントロール不能”という視点で整理すれば、神経性やせ症(体形等を気にして逆にご飯が食べれなくなる疾患)や大きな括りとして「摂食障害」に該当し得ます。

ご自身のドカ食い気絶を振り返ったとき、上記のいずれかに当てはまるかも…と思われた方は、疾患名にて検索をしてみることをおすすめします。

 

過食や過眠はメンタルヘルス不調の症状かも?双極性障害(躁うつ病)との関連


双極性障害(躁うつ病)は、気分の波を主症状としたメンタルヘルス不調です(参考:精神科医監修|感情の波に飲み込まれるな!激しい怒りを乗りこなせ!)。

気分の波が主症状”と聞いてピンとこない方もいらっしゃるでしょう。多かれ少なかれ誰しも気分の波はありますからね。双極性障害における気分の波は、活動量が増える(浪費が多くなったり、寝なくても仕事をできるといった活動量が高い時期がある等)躁状態と気分の落ち込みや活動量が低下するうつ状態の時期を繰り返す、といったものです。双極性障害におけるうつ状態には、過食や過眠が伴いやすいと言われています。

「定期的にドカ食い気絶をしたくなるかも…」と感じる方は、”双極性障害、躁うつ病、双極症といったワードで検索していただく”、”専門知識のある人や医療機関への相談をしてみる”といった対策を講じることをおすすめします

 

「ドカ食い気絶部」が示す現代のストレス社会とは?


現代社会の大きな特徴は三次産業の拡大です。三次産業の拡大とは、コミュニケーション場面の増加と換言できます。コミュニケーションに伴うストレスの増加は現代型のストレスだと言えるでしょう。また、一次産業と比較すると労働可能な時間帯が拡大していることも見過ごせないストレスです。生体には元来、朝起きて夜眠るという体内時計が備わっていますが、労働時間の拡大とは、生体のリズムに抗う生活スタイルが拡大するということです。現代社会は、生体に対してかなり無理を強いている社会だと言えます。

現代社会はヒトにとってストレスフルな環境ですから、定期的なストレス解消が必要となります。都度多大なコストをかけるわけにもいきませんから、身近且つ手軽な手段として食事に頼る人が増えるのも納得です。SNS上で「ドカ食い気絶部」が話題になった背景には、多くの人が共感できるコスト意識の存在があるのかもしれませんね。

また、現代の食環境の影響も見過ごせません。コンビニやデリバリーサービスの普及により、高カロリーな食事を簡単に手に入れられる環境が整っていることも、ドカ食い気絶部を助長する要因の一つだと言えるでしょう。

 

食行動を整えるためにできること|健康的なストレス対処法


ストレス対処は問題焦点型、情動焦点型、ストレス解消型に分類されますが、ドカ食いはストレス解消型に該当します。ストレス解消型は、即時的なストレス反応軽減というメリットがある一方で、根本的な解決にならないというデメリットを持ち合わせています。ストレッサーの強度が不変、且つ、ストレス解消としてドカ食いというレパートリーしか持ち合わせていないのであれば、ドカ食いは習慣化してしまいます。

 

 

また先述の通り、ドカ食いという対処方法は長期的なリスクを内包しています。ドカ食いを継続することによって心身の病気になってしまった場合、病気であることがストレッサーとなり、新たなストレス反応を喚起することも想像できます。長期的な心身の健康やQOLの向上を目指すのであれば、ストレス解消型の対処方法のレパートリーを増やす、ストレッサーそのものへのアプローチに取り組んでみる(問題焦点型対処)といったストレス対処に取り組んでみてください(参考:医師監修|現代社会を生き抜くスキル|ストレスコーピングを解説)。

 

参考文献


 

【解説】

俊介(公認心理師・臨床心理士)

私も仕事終わりについファストフードを食べてドカ食い気絶してしまい「食べちゃったなあ」と思うことがよくあります。自分の状態を客観視しながら、ときどき振り返る機会をつくったり、困った時には人に相談していきたいなと思います。ごはんがおいしく食べられるのはありがたいことですが、おいしすぎるのも考え物ですね…。

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【監修】

本山真(株式会社サポートメンタルヘルス代表)

精神科医師、精神保健指定医、日本医師会認定産業医

東京大学医学部卒業後、精神科病院・精神科診療所における勤務を経て、埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニックを開院。医療法人ラック理事長として2018年東京都足立区に綾瀬メンタルクリニックを開院。2019年メンタルクリニックにおける診療から見えてくる社会課題を解決するため株式会社サポートメンタルヘルス設立。

 

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