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【精神科医監修心理学講座】フロイトの構造論【es・自我・超自我とは】

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2023年4月21日

最終更新日 2024年10月25日

フロイトの構造論(es・自我・超自我)を精神科医監修で解説

ある季節になったりある場所に行ったりすると特別なエピソードや感情を思い出す、という経験は多くの人がしたことがあると思います。

 

私の場合は季節や場所ではありませんが、Mr.Children(ミスターチルドレン)の「es(エス)」という曲やタイトルを聴くと思い出す出来事があります。皆さんはMr.Childrenをご存知でしょうか。簡単にご紹介しますと、Mr.Childrenはミスチルの愛称で親しまれている日本を代表する4人組のミュージシャンです。「es」は1995年に発売されたバラード調の楽曲ですが、その年の1月には阪神淡路大震災が起きており、「es」の歌詞にはその影響を受けている部分があるとも言われています。

 

今回は、その「es」を聴くと思い出すエピソードを書いてみようと思います。

 

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フロイトの構造論


大学時代、入学したばかりの1年次前期に受講した必修科目である“心理学概論”の授業は、60代の男性、A先生が担当でした。10代から見た60代といえば祖父母世代と言っても過言ではないほどの年の差です。しかも、長年教鞭をとられてきたその年代の方の中には、大変失礼ながら教科書や配布プリントに沿って淡々と講義を進めるような先生も珍しくありませんでした。

 

しかし、A先生はどこかそれまで抱いていたベテランの先生に対するイメージとは違う雰囲気がありました。まずは装い。いつもスーツにネクタイ姿で、そのネクタイの色も水色、薄紫色、クリーム色など毎回違う色。そして、胸ポケットからはネクタイと合った色のハンカチを少しのぞかせているというおしゃれな先生だったのです。肝心の授業はというと、笑いを誘うとか特別な資料を使うということではないのですが、聞く側を惹きつける話し方、内容でした。そんなA先生の授業で印象に残っているのが「esーエスー」の話です。

 

Sigmund Freud(1856~1939)

 

「エス」とは精神分析学の創始者であるフロイトが提唱した心理学用語です。フロイトは現在のPTSD(心的外傷後ストレス障害)の概念や、“無意識”に関する研究をしたことで知られており、さまざま治療法の確立にも尽力しました。フロイトは、人間の心の役割には「エス」「自我」「超自我」の3つの領域があり、それぞれの機能から心の活動をとらえる構造論という考え方を提唱しました。

※フロイトの学説は現代科学において否定的な文脈で取り扱われがちですが、目で見ることのできない人間の心を可視化しようとする姿勢は、形を変えながら現在まで受け継がれています。

【関連項目】

 

es(エス|イド)とは?


まず「エス(イドとも呼ばれます。)」は生まれながらに備わっている本能的欲求のことを言います。それは無意識領域の中心機能でもあり、エネルギーにあふれ本能のままに快を求めて行動しようとし、欲求、感情、衝動などをそのまま実現しようとします。幼少期に抑圧された欲望がたまっている場所だという説もあります。

 

生存欲求や承認欲求など名前のついた欲求の他、これをしたい、あれが欲しいといった人間が持っているあらゆる欲求を満たすことを優先し、不快なことを避けようとします。この状態を快楽原則と呼ぶのですが、生まれたばかりの赤ちゃんをイメージすると分かりやすいかと思います。言葉での意思疎通ができないため、不快さを感じると自分の本能的欲求を養育者に満たしてほしいと泣いて表現する様子は、まさに快楽原則に従って生きていると言えますよね。

 

自我(エゴ)とは?


次に「自我」はエスからの要求、超自我からの要求、外界からの刺激を調整する働きをし、精神構造全体のバランスをとります。快楽原則を基準に行動するエスとは対照的に、自我は現実原則にのっとってエスを理性的にコントロールし、衝動を抑えるブレーキのような役割を担っています。生活状況や人間関係などの環境に適応した現実的な判断を行い欲望を制御するのが自我の役割となるので、非常に重要だと言えます。

 

自我は生後約6ヶ月頃よりエスから分化して発達してくるとも言われていますが、生後6ヶ月頃といえば、標準的な発達の赤ちゃんは言葉が出ないながらに泣き方の違いや手を伸ばすなどの体を使った表現で自己主張を開始する時期とされています。快楽原則だけで行動するのではなく、少しずつですが調整できるようになってきているのが分かりますね。また、エスが無意識の領域であったのに対し、自我は意識の領域を指します。例えば自分自身について「私は○○な人間です。」と表現できるような自己意識の部分で、アイデンティティ、個性と表現されるようなものと考えられています。

※心理学では自我のことをエゴとも言いますが、自己中心的な人のことを指す「エゴイスト」、我の強さを表現する「エゴが強い」というような日常生活で使われるエゴとはちょっとニュアンスが違うので気を付けてください。

 

超自我(スーパーエゴ)とは?


3つめの「超自我」は道徳原則にのっとって善悪を判断します。善い行いをするように勧め、悪い行いをしないように禁止する面を持っています。例えば、他人の物を盗んではいけない、うそをついてはいけない、知人と会ったら挨拶をしなければならないなど、社会に適応する為のルールを無意識的に守り、道徳観、倫理観などを追求しようとし、良心的、模範的であろうとする部分のことを指します。

 

幼児期に親などの養育者から受けたしつけや社会との接点を通して学習される個人的・社会的な価値のことであり、エスの本能的衝動を抑圧します。成長するにつれて自分の良心や道徳心に従い様々な物事の善悪を判断できるようになりますが、超自我自体コントロールすることは難しいと考えられています。

 

~theme of es~


さて、A先生は授業内でもっと詳しく初学者の学生向けに「エス」「自我」「超自我」などの用語を説明したあとに「皆さんはMr.Childrenの「es」という曲を知っていますか?」と尋ねました。当時、「es」の発売からは何年も経過していましたので、音楽に興味がない学生の中には知らない人も当然居たでしょうし、またまた大変失礼ながら60代の先生から若者の間で人気のあるミュージシャンの名前が話題にあがったことに驚き、さらに講義内容への興味が増した記憶があります。

 

❝よろこびに触れたくて明日へ 僕を走らせる「es」❞

引用:【es】~theme of es~ 作詞:桜井和寿

 

A先生は上記の歌詞を取り上げ「この使い方は正しい。表記もアルファベットのS一文字ではなくE、Sと書くので、まさに今説明した本能を表しているのです。」と続けました。作詞者はよく勉強していると絶賛するA先生。それまで何気なく聴いていた曲、歌詞がこんなところでつながるなんて面白いと感じたとともに、ますます心理学についていろいろ知りたいと好奇心が動いた瞬間でした。その後は残念ながらA先生の授業を履修することはありませんでしたが、今でも忘れることのない非常に印象的なお話でした。

 

【解説】

ふ~みん(公認心理師)

esの他にも歌詞やタイトルに心理学で使われる用語が含まれている楽曲はあるようです。もし興味をもつことがあれば、ご自身の「エス」に従って知りたいことを調べてみると、新たな発見があるかもしれませんね。

ふ~みん記事一覧

 

【監修】

本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長)

2002年東京大学医学部医学科卒業。2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年医療法人ラック設立、2018年には2院目となる綾瀬メンタルクリニックを開院。

 

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