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【精神科医監修】ギフテッドとは?|ギフテッドの特徴・発達障害との違い・診断問題を解説

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2022年10月7日

最終更新日 2022年12月29日

話題の『ギフテッド』とは?その特徴や発達障害との違い、診断はできるのか?精神科医監修で解説

 

「この人とは、話が合う」と思う時、どうしてそう感じるのでしょうか。

価値観や生い立ちが似ているから?趣味や悩み事が同じだから?

 

また、「この人がライバルだ」と思う時、どうしてそう感じたのでしょうか。

レベルが同じくらいだから?競い合って高め合えるから?

 

 

どちらも理由は様々でしょうが、実は前提として「自分と相手がかけ離れていないから」できていることです。3歳の子どもと20歳の大人が、TOEICの点数で競い合ったり、サッカーのライバルになることは考え難いですよね。理由は、明らかかつ当たり前に出来ることがかけ離れているからです。

 

そうなると「話が合う」や「ライバルだ」などの気持ちとはまた違った気持ちで接することになるでしょう。しかし、学校の同級生との間でこのような気持ちを経験することがあり得たら?

 

実は、平均よりもはるかに能力が高すぎることが理由で社会とのズレを感じている人もいらっしゃいます。この「平均よりもはるかに能力が高い」人を指す言葉が『ギフテッド』です。

 

特別な人という印象を受けるギフテッドですが、医学的に、また社会的にどう扱われているのでしょうか?そもそもギフテッドとは?、ギフテッドと発達障害の違い、診断はできるのか?気になるトピックについて精神科医監修のもと解説いたします。

 

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ギフテッドとは?


アメリカ教育省によれば「ギフテッドとは、同世代の子どもと比較して、並外れた成果を出せる程、突出した才能をもつ子どものこと」です。学術的な定義としては『平均以上の能力、高いレベルのタスクへのコミットメント、高いレベルの創造性』という3つの要素を含むこととされます。

【参考】What makes giftedness? Reexamining a definition. 

 

英語では“gifted”、”giftedness”。神様から才能という贈り物を与えられた人、とも言えるような特別な能力の持ち主を指します。ギフテッドは、欧米では長い歴史を持つ注目度の高い考え方である一方で、日本ではまだ馴染みが薄い概念です。

 

ギフテッドは大きく分けて2パターンあるといわれています。「何でもできる」秀才タイプのギフテッドある分野だけ極端に高い能力を示す2E(twice exceptional:二重に例外)タイプのギフテッドです。

 

2E(二重に例外)タイプギフテッドというのは、「発達障害と優れた才能を併せもつ」ことを指します(松村,2014)。一つ目に発達的に特徴があること、二つ目に能力的に突出していることが例外的であるという意味です。

 

両者ギフテッドについて、歴史上の人物の名前をお借りして具体的に考えてみましょう。

 

まず一人目がレオナルド・ダ・ヴィンチです。

 

レオナルド・ダ・ヴィンチはモナリザを描いたことで有名ですが、実は絵画だけではなく軍事、文学、土木、解剖学、発明など…かなり多くの分野において、並外れた才能があったそうです。これまで無かったような発想を生み出しては、多くの人を魅了していたとのこと。その功績は、現代でも語り継がれているほどです。「何でも人並み外れてできてしまう秀才型ギフテッド」の典型例といってもよいのではないでしょうか。

 

次に、アインシュタインはどうでしょうか。

 

記録では、言葉を話し出すのが遅く、学生時代も暗記などの機械的な勉強を嫌い、集団行動は避けがちな変わり者だったという話があるようで、やや発達障害に当てはまるような部分がみられます。一方で、幼少期にはすでに数学・科学的な思考は非凡さが際立ち数々の功績を残しています。最終的には、相対性理論をはじめとする数々の画期的な理論を打ち立てたわけですから、まさに「その分野の大天才」です。このように、ある分野で突出した才能を示す一方で苦手分野も併せ持つアインシュタインは、恐らくですが2Eタイプギフテッドだったのではないでしょうか。

 

 

※アインシュタインへの言及は下記参考にしました。

 

 

タイプは違えど両者に共通することとして『圧倒的に能力が高い』のがギフテッドの特徴です。そんな『ギフテッド』、実は医学的には定義が定まっていません。ギフテッドについて考えるときは知能指数(IQ)が一つのものさしとして有効です。

 

知能指数(IQ)とは、一言で言えば『生まれつきの理解力や判断力の高低を数字であらわしたもの』というイメージです。

※ちなみに、クイズ番組で使われるようなエンターテイメントのIQと医学的なIQは、全く別物ですので、ご注意下さい。

 

この知能指数は人口の平均=IQ100と定義します。知能指数は平均の人が一番数多く存在するとして、高くなるにつれ・低くなるにつれ数が減っていくと設定されています(偏差値の考え方と同じです)。そのため、知能指数が高ければ高いほど同じくらいの知能の人の数が減っていくのです。こう考えると、ギフテッドとは能力が並外れて高いため同じくらいのレベルの人がほとんどいない人でもあります。

 

ギフテッドの特徴は?


『ある日突然ギフテッドになった!』ということはあり得ません。なぜならギフテッドで定義されている才能とは生来性のものを指すからです。そのためギフテッドと言われる人々の多くは、幼少期の段階ですでに「周りと合わない」と違和感をもつ傾向があります。

 

保育園で友達がケンカをしていても、理由が子どもっぽすぎると思い距離を感じてしまう。

小学3年生で高校数学が理解できるので、算数の授業がとんでもなくつまらない。

必死でテスト勉強をしなくても高得点が取れるので、周りから浮いてしまう。

2eタイプギフテッドであれば、数学オリンピックで優勝できるのに漢字はまるっきり覚えられない変わり者扱いをされる。

 

ギフテッドと呼ばれる人たちはこんなことを常々感じながら集団生活を送ることになります。「周りとのかみ合わなさ、勉強のつまらなさを感じつつも、学校には行かなくてはならない」。そんな生きづらさや、学校への違和感を抱いていたギフテッドは9割に及ぶそうです(NHKクローズアップ現代2019)。事実、ギフテッドはギフテッドではない子どもと比較し不安が生じやすいという報告も存在します(対象の少なさ、研究報告の少なさといった限界があるため、ギフテッドは不安が生じると結論づけられるレベルには達していません)。

【参考】Behavioral and Socio-Emotional Disorders in Intellectual Giftedness: A Systematic Review

 

また、ギフテッドはギフテッドではない子どもと比較すると睡眠障害が生じるリスクが4.67倍、不適応行動が生じるリスクが14.12倍という特徴があります(睡眠障害の改善は適応困難を緩和する可能性があるようです)。

【参考】Sleep Characteristics and Socio-Emotional Functioning of Gifted Children

 

 

生きづらさや違和感が蓄積した結果として不登校に繋ったり、悪目立ちすることを恐れ敢えてできないように振る舞うギフテッドも多いといわれています。周囲から浮かないために手加減を繰り返し、本当の能力が誰にも気づかれないままのギフテッドもいらっしゃることでしょう。

 

また、2eタイプギフテッドであれば、得意・興味分野が必ずしも教科学習と一致するとも限りません(例えば、多国語を話せる才能があったとしても、日本では中国語やフランス語の授業はないので成績には反映されない、など)。そのため、2Eタイプギフテッドは、その才能が成績に反映されず適正な評価を受けられず時を過ごしてしまうこともあるのです。

 

なお、ギフテッドにはOE特性という特徴がみられると言われています。日高(2021)によると、OE(Overexcitability)特性は、刺激に対する反応の激しさを特徴とします。言い換えると「何かを感じたときに並みよりも強く心が動き、行動に現れる性質」といったところでしょうか?

 

OEは以下の5つに分けられます。

日高(2021)によると下記のうち1つ以上の領域に当てはまるギフテッドが多いとのこと。

 

  • 精神運動性OE エネルギーの高さなど 「活動的でエネルギッシュ」
  • 感覚性OE 感覚や技術的喜びの強さなど 「活き活きとした感覚体験の強化」
  • 創造性OE 空想的な考え方、ファンタジーの世界に生きるなど 「知識欲・疑問欲・発見欲」
  • 知性OE 好奇心・集中力・熱心さ・思索にふけるなど 「夢・ファンタジー・発明を好む」
  • 情動性OE 気分・感情の激しさ、感情的な影響を受けやすいなど 「様々な感情体験を強く深く強烈に表現する」

 

ここまでの話は言い換えれば、ギフテッドはその能力に合ったレベルや学習環境が提供された場合、十分な力を発揮することができる特徴があるということでもあります。

 

実際、発揮される力のレベルが並外れて高いため、社会に役立つ新しいアイデアを形にされるギフテッドも多くいらっしゃいます。歴史上の『ギフテッドではないか?』と言われる人々もその偉業の数々で私達の生活を豊かにしてくれています。

 

「それならばギフテッドにとって良い環境を用意してギフテッドの持つ力を発揮してほしい!」との考えから、欧米ではギフテッド教育が盛んに行なわれています。当たり前のようにギフテッド教育が導入されているがゆえに、州によってギフテッドと判定する基準が違い定義も定まり切っていないようです。それほど前向きにギフテッド教育に熱心なのです。

※歴史的に遡ると、1957年ロシアのスプートニク人工衛星打ち上げ成功を受け、アメリカ国内にて競争力の低下に関する懸念が高まったことがギフテッド教育の始まりだとされます

 

一方で、日本におけるギフテッド教育はまだまだその域には達していません。2023年度より文部科学省が『特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する指導に注力する』と発表したことで少しギフテッドに関する認知度が上がってきたところでしょうか。日本のギフテッド教育の発展は、まだまだスタートラインに立った状態です。今後ギフテッドの特徴を活かせるような教育となっていくでしょうか。

 

ギフテッドと発達障害の違いは?


ギフテッドと発達障害の違いについては各所で議論を呼んでいます。HSPと発達障害の違いに関する議論に似た雰囲気を感じます。

 

それではギフテッドと発達障害の違いは何なんでしょうか?

 

2Eタイプのギフテッドであれば、定義上発達障害でありつつ才能も併せ持っているため発達障害でもある、といえます。ただし、発達障害=みんなギフテッドではありません。

 

発達障害としてグルーピングされるASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、LD(限局性学習症)。定型発達である人が苦手とする部分が得意であったり、逆に定型発達である人が得意とする部分が苦手であったりします。このことからやや混同しやすくはありますが、定義上のギフテッドであるためには加えて「高い能力」が必須です。

 

 

つまりギフテッドであるためには得意な部分が突出していることが条件なのです。発達障害であり、ある分野で目を見張るような能力を兼ね備えている場合が2E型のギフテッドです。そして、たいていの分野で高い能力を発揮する秀才型のギフテッドについては、得手不得手がはっきりしている発達障害とは異なります。

 

ギフテッドに特徴的なOEが、発達障害の感覚過敏や不注意、多動などと混同しやすいことや、年齢相応ではない学力から『特定のことへの強い興味がある』という状態に見えたりとすること、周りから浮いているのは空気が読めないせいに見えること等から判別が難しく「発達障害だといわれていたが、後になって自分がギフテッドだと気づいた」というギフテッドも多くいらっしゃるようです。

 

ギフテッドと発達障害の違いをまとめますと下記の通りになります。

  • 秀才型ギフテッドと2E型ギフテッドとで分けて考える必要がある
  • 秀才型ギフテッドは発達障害とは違い全般的に能力が高い
  • 2E型ギフテッドは発達障害が前提となっている

 

ギフテッドって診断できる?


2022年現在、日本においてギフテッドは病気・障害ではありませんから診断基準が存在しません(そもそもギフテッドの定義自体がまだまだ曖昧な印象もあります)。したがってギフテッドは診断できません。

 

2E型ギフテッドについては、定義に照らし合わせれば、発達障害と診断されていることが前提となりますね。

【参考】発達障害|厚生労働省

 

ギフテッドと同じように流行している概念である『HSPに関する診断問題』は【精神科医監修】HSPは病院に行くべきか??診断問題を解説をご参照ください。

 

 

ギフテッドにおける才能とは?


ギフテッドにおける『突出した才能』について、どのような基準を設けて「才能」と定義しているのでしょうか?

 

孫正義育英財団では

  • 分野は問わず、国際大会または全国大会規模のコンテストにて優秀な成績を収めた方
  • 国際的に通用する資格を所持、または団体に所属している方
  • 学業や研究活動において、明らかに秀でた成績や成果を持つ方
  • 起業準備中又はすでに自身の経営する事業にて業績を出している方
  • 本財団事務局の論文選考で優れた思考を発揮している方

など、業績を重視して入会の選考をしているようです。

 

また、JAPAN MENSA(通称メンサ)では、入会基準に「15歳未満の方はテストの代わりに専門医等の知能測定の証明を提出すること」、「15歳以上であれば入会テストを受けて、全人口の上位2パーセント以内のスコアであると認められれば会員となること、もしくは専門医の証明書による入会」を条件としているなど、知能検査の結果や試験に合格することを重視されているようです。

 

「何をもってギフテッドとするか」は曖昧ですが、才能のある証拠となるような結果を出していること、知能が突出していることの証明などはやはり条件になるということでしょうか。

 

【参考文献】

  • 松村暢隆(編)2014『認知的個性を活かす特別支援の基礎・実践的研究-2E教育の理念で生徒の得意・興味を活かして苦手を補う-』2011-13年度科学研究費補助基礎研究(C)研究成果報告書,2-10
  • 誰も知らないレオナルド・ダ・ヴィンチ 斎藤 泰弘(2019)NHK出版新書
  • 天才と発達障害 岩波 明(2019)文春新書
  • ギフテッドの Overexcitability 特性と関連する ADHD 傾向,空想傾向,およびマインドワンダリング頻度の検討― OEQ-II,ADHD-RS,DDFS,MWQ を用いた健常大学生のデータ ―日高 茂暢,富永 大悟,片桐 正敏,小泉 雅彦,室橋 春光(2021)佐賀大学教育学部研究論文集

 

【解説】

maitake(臨床心理士)

今回のブログ執筆にあたり『ギフテッド』を調べてみて、改めて多様性を考える機会となりました。ギフテッドやHSPの流行を通じて多様性が浸透することで、社会を構成する一人一人の意識や社会における種々のデザインが多様性を前提としたものに置き換わっていくんでしょうね。

maitake記事一覧

 

【監修】

本山真(精神科医師)

精神保健指定医、日本医師会認定産業医、医療法人ラック理事長

株式会社サポートメンタルヘルス代表

 

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