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ワーカホリズムとは?働きすぎがメンタルに与える影響と予防策を臨床心理士が解説

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2024年9月13日

最終更新日 2024年9月17日

働きすぎに関する概念ワーカホリズムがメンタルに与える影響・予防策を臨床心理士が解説します

突然ですが、皆さんは「働く」ことにどんな印象を抱いていますか?

仕事が楽しくて働いている方、家庭を支えるために働いている方…いろいろな思いを抱えて働いている方がいらっしゃると思います。現在は働き方にも多様性が主張される時代になってきました(参考:精神科産業医監修|ワークライフインテグレーションとは何か?)。実際に、国によって働き方改革が行われており、長時間労働の規制や柔軟に働ける就労制度の推進がされていたりします。働き方の多様性が主張されている背景の1つに、働きすぎて不調になってしまう方が多く存在する現状があります。今回は働きすぎに関する概念であるワーカホリズムについてご紹介します。

 

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ワーカホリズムの定義と特徴


ワーカホリズムという概念を提唱したのはOatesです。Oatesはワーカホリズムを「過度に働くことへの衝動性ないしコントロール不可能な欲求」と定義づけました。ワーカホリズムの特徴としては、「時間の多くを仕事に費やす」、「仕事中でなくても頻繁に仕事のことを考える」、「組織からの期待や経済的な理由から必要性以上に働く」などがあげられています。例えば、休日も仕事のことを考えて落ち着かない、余暇活動よりも仕事を優先させるなどに当てはまる場合はワーカホリズムが高い人(ワーカホリックと言います)の可能性があります。

 

ワーカホリズムを理解するうえでご紹介したいのが、Schaufeliの提唱した構造です。Schaufeliはワーカホリズムを「強迫的かつ過度に一生懸命働く傾向」と定義したうえで、「働きすぎ」という行動的な側面と「強迫的な働き方」という認知的な側面の2つに整理することを提案しました。少しイメージしていただきやすいように、行動的な側面と認知的な側面を分けて説明してみます。まず、行動的な側面です。行動的な側面はいわゆる「働きすぎ」といわれるような行動があるかどうかです。例えば「長時間働く」、「大量の仕事をする」などの行動があれば、ワーカホリズムの行動的な側面を満たしていると言えます。次に、認知的な側面です。認知的な側面は働くことに対して過度なあるいは合理的でない考えを持っているかどうかです。例えば「休みを返上してまで働かなければならない」という考えや、「他人よりも自分がより多く仕事をしなければならない」などの考えが該当します。

 

ワーカホリズムの高さが心身に与える影響


上記でご説明したように、いわば強迫的に働きすぎてしまう傾向というのがワーカホリズムだとします。そうすると、ワーカホリズムが仕事や心身にどのような影響を与えるのかは想像に容易いのではないでしょうか。

 

まず、仕事に関して、ワーカホリズムは職務満足感やパフォーマンスの低下につながることが明らかになっています。つまり、働くうえで仕事の内容や役割等に満足できない、たくさん働いているにも関わらず作業効率が上がらない等の悪循環が生まれてしまいます。

 

さらに、ワーカホリズムが高いと仕事に意識がとらわれて余暇活動が十分にできない可能性もあります。余暇活動をすることや仕事と休みといったオンオフの切り替えは健康にとって重要です。そのため、ワーカホリズムが高い状態を放置しておくとうつ病や不安障害、強迫性障害につながるリスクがあります。

 

意欲があってたくさん働くこともワーカホリズムなのか?


周囲から見れば働きすぎと感じる方の中には、いやいやというより、意欲的に働いている方もいらっしゃると思います。このような方もワーカホリズムが高いといえるのでしょうか?結論から言うと、そうではないといえます。なぜかというと、ワーカホリズムとは別の概念で説明できるからです。別の概念というのが「ワークエンゲージメント」です(関連項目:精神科産業医が答えます”中小企業における職場メンタルヘルス対策”相談室)。

 

ワークエンゲージメントは「活動水準が高く、内発的な動機づけが高い状態」を表す概念です。つまり、仕事に多くのエネルギーを注ぎ、かつ自身の興味や意欲から進んで仕事をしている状態を表しています。ワーカホリズムとワークエンゲージメントは「仕事に多くのエネルギーを注ぐ」といった行動的な側面が共通しています。一方で、以下のような点が異なっています。

 

【参考】産業医監修【心理的安全性の高め方】パフォーマンスが高まるリーダーシップ

 

①働くことへのモチベーション

ワーカホリズムは「働かざる終えない…」、「不安だから働く」などといった理由から働いている状態なのに対して、ワークエンゲージメントは、「仕事が充実しているから」、「仕事が面白いから」などといった理由から働いている状態です。つまり、ワーカホリズムとワークエンゲージメントは、働くことへのモチベーションがあるかないか、仕事の意義を感じられているかいないかで異なります。

ちなみに…

ここまでワーカホリズムについてお話してきましたが、本人にワーカホリックであるという自覚がない場合、ワーカホリックだ!と判断するのは難しいですよね。ですので、本人の困り感や主張が把握できる主観的な指標だけでなく、客観的な指標(バイオマーカー)を利用すると、信頼性の高いリスクアセスメントが可能になります。

②身体的、心理的な負担

上記でご説明した通り、ワーカホリズムは心身の不調につながります。一方で、ワークエンゲージメントが高いと職務満足感やパフォーマンスの向上、心理的なストレス反応の低さなどにつながる可能性があります。

 

ワーカホリズムは改善、予防できるのか?


心身の不調や職業生活の質の低下などのリスクがあるワーカホリズムですが、ワーカホリズムを低減するためには、実際どのような支援が必要なのでしょうか。ワーカホリズムを低減する上でポイントとなるのが、職業生活と私生活の適切なバランスを促進することです。このバランスは「ワークライフバランス」とも呼ばれており、企業や従業員の健康度を上げるためには欠かせないものです。今回は支援方法を企業と個人の2側面からまとめてみました。

企業における支援

①上司のリーダーシップトレーニング

例えば、上司が業務時間外も仕事をしている状況を想定してみてください。「上司が仕事しているから自分も仕事をしなきゃ」、「仕事をした方が評価されるかもしれない」といった考えの結果、自分も超過で仕事をしてしまった…となりやすいですよね。

他方、ちゃんと休むことが大事だよ!と積極的に切り替えを促す上司がいたとすると、適度に休んだり、仕事しすぎないように気を配ったりする傾向が高まるかと思います。このように、上司のふるまいや考え方は部下に直結してくるため、上司のふるまい方や考え方を学べる研修は効果的と考えられます。

②職場の雰囲気づくり

働きやすい環境、休みやすい環境はワークライフバランスを整える上で必要不可欠になってきます。コミュニケーションツールを活用して気軽に連絡ができる環境を整える、働き方に対するフィードバックの仕方を工夫するなどの対策が効果的と考えられます。

③産業医の関与

専門家による判断ができる支援体制を整えておくと、ワーカホリックによる問題が早い段階で見つかったり、支援にスムーズにつなげられ、問題の解決がはやまったりというメリットがあります。そのため、産業医の関与は三次予防において効果的と考えられます(関連項目:精神科産業医監修|産業医面談のメリット・デメリットを解説)。

 

個人の工夫(取り組み)

エビデンスが担保されている代表的な取り組みとして、リラクゼーション法やマインドフルネス、認知のゆがみの矯正(認知行動療法:【精神科医監修】認知のゆがみの治し方|心のコリほぐしましょう!)があります。さらに、仕事に時間を割きすぎない、仕事に注意を向けすぎないなどの取り組みも重要です。以下に例を挙げてみたので、参考にしてみてください。

  • タスクに優先順位をつける
  • 時間管理をする
  • 目標を正しく設定する(時間内で取り組める、負荷が大きすぎないなど、現実的に可能な目標を設定する)
  • 自分の働き方を把握するために記録をつける(セルフモニタリングと言います)
  • キャリアカウンセリングを受ける

 

【執筆】

かなた(公認心理師・臨床心理士)

人の数だけ働き方はありますし、どれだけ働くかを決めるのは個人の自由だと思っています。現実的な問題(金銭など)や会社の就業規則など、考慮しなければならないことはありますが、より多くの人が自由に働ける社会になればいいな…と思っています。筆者は若いうちはバリバリ働きたい派なので、しばらくは猪突猛進で働いてく予定です!

かなた記事一覧

 

【監修】

本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長)

2002年東京大学医学部医学科卒業。2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年医療法人ラック設立、2018年には2院目となる綾瀬メンタルクリニックを開院。

 

参考文献


  • Burke RJ. (1999). It’s not how hard you work but how you work hard: Evaluating workaholism components. Int J Stress Manage, 6, 225–39.
  • Cossin, T., Thaon, I., & Lalanne, L. (2021). Workaholism prevention in occupational medicine: A systematic review. International journal of environmental research and public health, 18(13), 7109.
  • Gonçalves, L., Meneses, J., Sil, S., Silva, T., & Moreira, A. C. (2023). Workaholism Scales: Some Challenges Ahead. Behavioral sciences (Basel, Switzerland), 13(7), 529. https://doi.org/10.3390/bs13070529
  • 窪田和巳, 島津明人, & 川上憲人. (2014). 日本人労働者におけるワーカホリズムおよびワーク・エンゲイジメントとリカバリー経験との関連. 行動医学研究, 20(2), 69-76.
  • Oates W(1971). Confessions of a workaholic: The facts about work addiction. New York: World,
  • Schaufeli, W. B., Taris, T. W., & Van Rhenen, W. (2008). Workaholism, burnout, and work engagement: Three of a kind or three different kinds of employee well‐being?. Applied psychology, 57(2), 173-203.
  • 島田恭子, 島津明人, & 川上憲人. (2016). 未就学児を持つ共働き夫婦における ワーカホリズムと パートナーの精神的健康との関連: 夫婦間コミュニケーションの媒介効果の検討. 行動医学研究, 22(2), 76-84.
  • Shimazu A, Schaufeli WB. (2009), Is workaholism good or bad for employee well-being? The distinctiveness of workaholism and work engagement among Japanese employees. Ind Health, 47, 495–502.
  • Shimazu A, Schaufeli WB, Kubota K, et al, (2012). Do workaholism and work engagement predict employee well-being and performance in opposite directions? Ind Health, 50, 316–21.
  • Sonnentag, S. (2003). Recovery, work engagement, and proactive behavior: a new look at the interface between nonwork and work. Journal of applied psychology, 88(3), 518.

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