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タグ : 健康経営® , 産業精神保健 , 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー)
2024年4月12日
目次
2020年以降の新型コロナ感染症拡大を経て、働き方に明確な多様性が生まれました。新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行したのちも、リモートワークやフレックスタイム制を働き方の選択肢として引き続き設けている企業が多く存在することはその証左だと言えるでしょう。特にリモートワークについては、労使双方にとって通勤コストがかからないといったメリットがある一方で、オンとオフ、仕事とプライベートのメリハリがつきづらい…と悩んでらっしゃる方も少なくありませんでした。
多様な働き方という新しい価値観の浸透に伴い、インターネット環境やコワーキングスペースの充実といった多様な働き方を支えるインフラ整備が果たされた現代においては、いかに働くか(具体的には仕事とプライベートのバランスをいかにとるか)という実際的な課題に取り組む必要があります。本コラムにおいては、多様な働き方を前提とした時代における新しいマインドセット”ワークライフインテグレーション”を解説します。
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ワークライフインテグレーションについて解説する前に、ワークライフバランスについて触れておきましょう。ワークライフバランスとは、ワーク(職業生活)とライフ(家庭生活を含む個人生活)を両立させるという考え方です。日本においては1990年代後半頃より普及されている考え方であるため、馴染みのあるフレーズかもしれません。
ワークライフバランスの起源は古く、1980年代のアメリカにおける“ファミリーフレンドリー”というコンセプトまで遡ることができます。アメリカの企業においては、1970年代より共働き家族や単身家族を前提とした仕事の在り方が検討されていました。時代を追うごとに、子どもを持つ女性の割合が増加するという推計を根拠として、ビジネス的な視点に基づき、女性が仕事と家庭を両立していくことを社会課題として捉えてきたのです。
上記の通り、ファミリーフレンドリーは女性を対象とした経営戦略でしたが、時代の流れとともに、性別にかかわらず優秀な人材確保・定着を目指すというシフトチェンジがなされ、1990年代にはワークライフバランスというコンセプトへと収束していきます。なお、同じ頃、ヨーロッパ各国においても男女機会均等化の動きが盛んとなり、1990年後半には、女性就業率の引き上げや職業生活と家庭生活の調和を目指した施策の導入、労働時間のフレキシビリティー向上策といったアプローチが活発になります。
世界各国におけるワークライフバランスという潮流が日本に導入され始めたのは、1990年代後半頃。少子化対策や働き方改革と関連づけて展開されてきた点が特徴的です。近年の動向として、ワークライフバランスは、健康経営優良法人の認定基準として取り上げられています。女性の社会進出という社会的課題からスタートした”ワークライフバランス”は、従業員の健康施策という、より広範な概念として定着していると言えます。
先述の通り、ワークライフバランスとは、”家庭生活によって仕事ができない”という社会課題を解決するための”ファミリーフレンドリー”に端を発したアプローチであり、生活が家庭生活によって規定されている人々の解放運動という側面を持ちます。従って、職業生活(ワーク)と家庭生活は別物であるという前提のもと展開していく必要がありました。
皮肉なことですが、現代の日本は、生活が仕事によって規定されやすい労働環境となっています(日本におけるワークライフバランスが、働き方改革(つまり、生活全体において仕事が占める時間を減らす)と紐づけられて論じられる傾向にあるのはそのためです)。欧米諸国と日本とで事情は異なりますが、ワークとライフは二項対立である必要があるわけですね。
一方、ワークライフインテグレーションにおいては、仕事と生活は二分されるものではなく、垣根なく自由に行き来できる相互且つ並列な関係性として考えます。ファミリーフレンドリー、ワークライフバランスを通じて、家庭生活即ちライフではなく、仕事即ちライフでもない、という生き方や価値観が定着したからこその発展的な視点だと言えます。
ワークライフインテグレーションを理解するうえでは、2つの視点を持つ必要があります。
1つは、労働者個人としての視点です。仕事もプライベートも一人の人間の生活の一部であり、双方を充実させることで人生が豊かになる、つまり、プライベートを充実させることで仕事のモチベーション、パフォーマンスも高まるといったように、仕事とプライベートは相互に影響し合っているという考え方です。ワークライフインテグレーションにおいては、決められた拘束時間のもと特定の企業に勤めるという発想だけではなく、様々な企業のプロジェクトへと時間単位で参加するという発想もできます。どのような仕事と生活で24時間を構成するのか、自己管理が可能なわけです。
もう1つの視点は、企業(雇用側)の視点です。企業にとってのワークライフインテグレーションとは、つまり生産性向上に最適化された柔軟な働き方の提供です。出社が前提である職場においては、生産性向上に寄与する労働力は出社できる社員に限られます。出社かリモートワークか働き方に選択肢のある職場においては、出勤できない社員も労働力としてカウントできます。朝8時に出勤して17時に退勤する、という働き方のみであると、子どものお迎え、親の介護といったライフ要素によって、そもそも働き続けることさえ難しくなってしまうかもしれませんが、子どものお迎え後は帰宅してリモートワークという働き方が可能であれば、生産性を維持・向上できるかもしれません。
ワークライフインテグレーションのメリットについて、企業と従業員それぞれの立場から整理してみましょう。
企業にとってのメリット
(1)人材の確保・定着に繋がる
育児、介護、病気の治療などにより柔軟な働き方を求めている人は一定数存在します。ワークライフインテグレーションに基づく働き方の多様化によって、人材の確保・定着につながることでしょう。
(2)生産性が向上する
働きやすい環境が生産性を高めることはよく知られています。インテリア改装やグリーン導入といった外的な環境面へのアプローチに加えて、勤務形態や労働時間、副業・兼業の許認可といった環境へのアプローチも働きやすさを高めるために効果的です。
従業員にとってのメリット
“育児、介護、治療などのライフ要因によってワークが阻害されないこと”が最も大きなメリットと言えるでしょう。ワークライフインテグレーションのコンセプトに基づけば、ワークの可能な時間とライフに要する時間とを、労働者自身がコーディネートしていきます。ワークもライフも生活の一部であり垣根は無い、というワークライフインテグレーションだからこその発想ですね。
一点注意点として…ワークとライフを自身でコーディネートするうえでは、自身でコンディションを管理する比重が高まります。セルフケアの視点がより重要な社会になっていくのでしょう。
ワークライフインテグレーション導入を検討しているものの何から始めたら良いのか…とお悩みの経営者様、人事ご担当者様もいらっしゃるかもしれません。働き方の多様化において代表的なのものにリモートワーク、フレックスタイム制、時短勤務や時差勤務などがありますが、導入にあたって企業と従業員個人がそれぞれ意識しておくと良い重要なポイントを簡単にお伝えします。
企業にとっての重要ポイント
(1)ワークスペースと業務の見直し・整備
出社前提とは限らない自由度の高い働き方になるので、まずはワークスペースや業務の見直し・整備をする必要があります。場合によってはフリーアドレス化やコワーキングスペースの活用が推奨されます。環境の整備にはデジタルツールの導入も必須でしょう。従来の方法では機器やデータの持ち出しがリスキーな場合もあるかもしれませんが、情報共有の方法を整備することで稼働力の向上も見込めます。
ワークライフインテグレーションを実現するためには、いつでもどこでも業務に必要な情報へとアクセスできることがポイントになります。
(2)人事評価の見直し
働き方の多様化が進むと、同じ空間で勤務しない従業員を評価する必要が出てきます。もし従来の人事評価基準が出社ありきのものであれば、出社の有無にかかわらず成果・態度を指標とするものに改める必要もあるかもしれません。
従業員にとっての重要ポイント
職場の目が行き届かない働き方をする場合、特に以下の2点について自己管理の工夫を入れる必要があります。
従来の出社スタイルであれば、同じ空間で一緒に働き、その場での情報伝達や進捗管理が可能でした。ワークライフインテグレーションに基づく働き方においては、従業員ひとりひとりが自らアクションを起こす必要があります。報連相は社会人にとって重要なスキルだと言われて久しいですが、働き方の多様性を推進するうえでは、必須スキルだと換言できるかもしれません。
参考資料
(https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/pdf/report/ber/detail/213/op-wlb.pdf)
(https://service.gakujo.ne. jp/jinji-library/soshiki/00047/)
(https://kiwi-go.jp/column/health-management-worklifebalance/#i-4)
【執筆】 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー)
【監修】 本山真(日本医師会認定産業医|精神保健指定医|医療法人ラック理事長) |