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臨床心理士執筆|自律神経を整える○○は本当に自律神経を整えるのか?

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2024年8月30日

最終更新日 2024年9月7日

自律神経を整える○○が本当に自律神経を整えるのか臨床心理士が解説します

最近、「自律神経を整える○○」というような本をよく見るようになりました。例えば、ヨガ、呼吸法など身体を動かしたりすることをテーマにしたものから、日記や塗り絵などの趣味系のもの、食べ物など生活習慣に関するものまで様々です。このうち、体を動かしたり、必要な栄養を摂ったりすることは科学的にも支持されていることですが、日記や塗り絵といった趣味活動についてはどのような効果があるのか知らない方も多いかもしれません。今回は、趣味活動と自律神経の関係性について調べていきたいと思います。

【監修】

本山真(精神保健指定医/日本医師会認定産業医)

東京大学医学部卒業後、精神科病院、精神科クリニックにおける勤務を経て、2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニックを開院。メンタルヘルスサービスのアクセシビリティを改善するために2019年株式会社サポートメンタルヘルス設立。

執筆】

ぶち(臨床心理士・公認心理師)

今回は“自律神経を整える○○”について調べてみましたが、元々筆者は折り紙が好きで、仕事の休憩中に難しめのものに挑戦したりしています。確かに仕事から意識は切り替えられるのですが、難しいゆえにできないイライラがつのったりすることもあります。

皆さんにとって集中しやすい作業や、気持ちが落ち着くこと、続けやすい習慣は異なると思うので、挑戦するときは自分に合ったものを見つけていただけたらと思います。実際にやってみた感覚も皆さんにお伝えできればと思うので、筆者が挑戦したときにはブログにしようと思います。お楽しみに!

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自律神経について


そもそも自律神経とは、内臓の働きや血液循環、代謝や体温、呼吸など、身体の調子をコントロールする役割を担っています。自律神経には交感神経と副交感神経があり、活発に動こうとするときは交感神経、リラックスモードになるために副交感神経が働きます。自律神経が乱れるとよく言いますが、これは交感神経と副交感神経のバランスが崩れることを言います。

 

 

例えば、交感神経が働く時間が長くなると、休みたいときに身体が休まず、夜眠れなくなったりします。反対に、副交感神経が働く時間が長くなると、活動するべき場面で力が出なくなってしまいます。自律神経は内臓や代謝の働きにも関係しているため、バランスが崩れると、腹痛、吐き気、多汗、頭痛、肩こり、動悸などの身体の不調が生じることがあります(参考:精神科医監修|ストレスは肩こりの原因なのか?ー肩こり対策、ストレス解消法ー)。

 

また、自律神経は気分にも影響するため、不安や緊張感の高まり、集中力ややる気の低下、気分の落ち込みといった心の不調が生じることもあります。仕事や学校などがあって、夜まで活動したり忙しく生活していると、交感神経が働く時間が長くなり自律神経が乱れてしまいます。逆に、運動などを全くしないで1日中寝ていたりすると、副交感神経が働く時間が長くなり、身体を休ませていても自律神経は乱れます。

 

一般的には、適度に運動したり、食生活に気を付けたり、全体的な生活習慣を整えることが効果的だと言われていますが、仕事など思い通りにならないことはたくさんありますよね。多くの人は仕事が忙しすぎたり、唯一のリラックスタイムである寝る前の時間にスマホを見たりして、交感神経が働く時間が長くなってしまいます。

 

自律神経の乱れを一旦リセットするために、リラックスできることをする(副交感神経を優位にする)ことが効果的だとされています(自律訓練法とは|公認心理師がリラックス法を解説!)。よく用いられるのが呼吸法やヨガなどの様々なリラックス法です。最近は、自律神経を整える効果がある塗り絵などの本が出版されていますが、どのような効果があるのでしょうか。

※正しく記載するのであれば、自律神経は不随意な神経ですから、”整える”という主体性を持った表現は相性が悪いのですが、根本から何かを覆してしまいそうなので笑、ご容赦ください

 

自律神経を整える○○の効果


塗り絵や切り絵などは、アートセラピーとして用いられることもあるため、研究も色々と行われています。塗り絵や切り絵にはどんな効果があるのか、いくつか紹介していこうと思います。

塗り絵・スクラッチアート

昆野ら(2023)の研究では、悲しい気分の時に寒色系の色で塗り絵を行うと、体調が悪くなるのを抑えられることが示されています。つまり、気分に合った色で塗り絵をすることが効果的なのだそうです。

また、野末ら(2018)の研究では、自由に色塗りをして良いグループと、お手本通りに色塗りをするグループで比較しており、お手本通りに塗り絵をする方が精神的に安定することが示されています。“自由に”と言われると少しハードルが高くなりますが、お手本通りに塗る作業は誰でも取り組みやすいですよね。

ちなみに、どちらのグループでも、塗り絵を実施した後はネガティブな気分が下がったそうです。さらに、Davidら(2016)の研究では、大学生が試験前に絵を描く等のアート制作を行い、不安が軽減されることが示されています。

昆野照美・川端康弘(2023)塗り絵の着色が気分や体調に及ぼす影響 北海道心理学研究 第45巻 p.52

野末美和子・近江政雄・長尾紀久子(2018)塗り絵による脳活動および気分の変化 日本心理学会大会発表論文集 82(0),2AM-031-2AM-031

David A. Sandmire,Nancy E. Rankin,Sarah R. Gorham,Daniel T. Eggleston,Cecelia A. French,Emily E. Lodge,Gavin C. Kuns &David R. Grimm(2016)Psychological and autonomic effects of art making in college-aged students  An International Journal Volume 29(5)

 

切り絵

石川ら(2015)の研究では、切り絵には自己注目を低下させる効果があることが示されています。どういうことかというと、切り絵は集中力が必要になる作業なので、その日あった嫌な出来事や不安な事をグルグル考えてしまう状態でも気をそらすことができます。

特に抑うつ気分がある人には効果的であると言われており、ネガティブな気分を緩和する効果があるそうです。

石川遥至・越川房子(2015)切り絵作業が高反芻者の抑うつ・不安気分および注意状態に及ぼす影響 ストレス科学研究(30)125-130

 

3行日記

3行日記とは、その日にあった良かったこと・良くなかったこと・明日の目標などを3行で記録していくものです。坂井ら(2018)によると、3行日記を毎日つけることで、疲労感や循環器の不調、怒りや抑うつ感が低下することが示されています。

また、自分らしくある感覚を示す“本来感”、自分の考えによって生活しているという感覚である“本来的自己感”が向上することも示されています。毎日自分について振り返ることで、気持ちを整理して切り替えることができ、良くなかったことだけにとらわれず良かったことにも気づけるようになります。すると、自分ができたことや感じたことに気づき、忙しい生活や心身の不調に振り回されっぱなしにならずに生活していけるようになるのだと思います。

酒井久美代・河﨑俊博(2018)振り返り日記が精神的健康に及ぼす効果の検討 サイコロジスト:関西大学臨床心理専門職大学院紀要 第8号 49-59

 

自律神経を整える○○は本当に自律神経を整えるのか?


「自律神経を整える○○」でよく見るものをいくつか挙げてきました。結局自律神経にどう効果的なんだ?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、塗り絵などは、取り組むことで作業に集中し、嫌な気分から離れることができます。嫌な気分が続いていると、イライラしたり考えが止まらなかったりしてストレスがかかり続けます。

ストレスがかかり続けると交感神経の働きが長くなってしまうので、嫌な気分から一旦離れて心を落ち着かせ、副交感神経に切り替えていきます。というように、あまりハードルが高くない塗り絵などは、気分を切り替えるために効果的で、結果自律神経を切り替えることにも有効なんです。

 

一方で3行日記は、その日あったことを振り返ることで気持ちを整理できます。普段嫌なことがあったとき、その嫌なことをずっと考えてしまったり、答えがないイライラやモヤモヤを抱え続けたりすることはありませんか?そういった気持ちを言葉にして書き表すことで、嫌なことはなくならなくても気持ちは落ち着き、切り替えることができます。また、明日の目標を書き続けていると、日々の生活の中で目標を意識するようになり、嫌なことにも対処できるようになっていくかもしれません。すると嫌な気持ちになること、嫌な気持ちが続くことが減り、心身ともにバランスを保つことができるようになるのではないでしょうか。

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