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タグ : メンタルヘルス , 若丸(公認心理師・臨床心理士・健康経営エキスパートアドバイザー)
2022年4月30日
2020年春以降なかなか落ち着かないコロナ禍。度重なる緊急事態宣言によって私たちの生活は激変しました。
一時は外で遊ぶ子どもたちをほとんど見かけないこともありましたが、部活動に励む学生や休日に公園で走り回る子どもの姿をまた目にする機会が増えてきました。今回はいわゆる『外遊び』について、メンタルへの効果や展望をお伝えします。
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外で思い切り身体を動かして遊ぶ『外遊び』。時代の変化により、子どもたちが屋外で遊ぶ機会は減少傾向にあります。
萩原(2022)は、子どもたちが遊ぶ空間の歴史的変化を追っており、1955年(昭和30年)から2003年(平成15年)までの間に子どもたちの遊び場だった自然スペースやオープンスペースが縮小していることを示しました。加えて、コロナ禍に入ったことで約9割の子どもたちは自宅で過ごす時間が増え、それに伴って外遊びの時間が約4割短くなったという調査があります。
【参考】
萩原建次郎(2022).「子どもの外遊び環境の劣化と再生に向けた方策-総務省による子供の視点からの公園調査をもとに-」 駒澤大学教育学研究論集, 37, 89-133.
「新型コロナウイルスによって変化した子どもの生活実態」に関する調査
遊びの種類もコロナ禍だとかなり制限されますよね…。同調査によると『PCやスマートフォンを見る時間が増えた』、『動画を見る時間が増えた』、『ゲームをする時間が増えた』といった項目について6割以上の子どもたちの生活に変化がありました。
緊急事態宣言下は長期的な休校にもなり、自由に外出できる状況ではありませんでしたね。友達にも思うように会えず、行動を制限せざるを得なかった子どもたちのストレスは計り知れません。
子どもたちだけでなく、その親世代もコロナ禍により慣れ親しんだ生活を変えていく必要があったでしょう。休校によって子どもたちが自宅にいる中、いつも通りの家事やテレワークなどをしなければならない方も多くいらっしゃったのではないでしょうか。
日常生活に多くの制限がかかり、ストレスを抱えたのは大人たちも同様です。能條ら(2021)の研究では、コロナ禍において乳幼児の保護者が困ったと感じたことを9種類提示しました。
その中でも特に外遊びに関連する困りごとが多く、能條らは『外遊びは人にとって重要なものであり、自然と切り離された生活は大人にも子どもにもストレスを与えるものだ』と示しています。
上記以外にも、集団での活動や学びの場が制限されることへの不安、運動不足を心配する声も多かったようです。子どもたちが安心して外に出られる状況に早く戻ってほしい…と願った親御さんも多かったのではないでしょうか。
【参考】
能條歩・田口夏美・田中住幸・中本貴規・陳倩倩・板垣有咲(2021). 「コロナ禍における乳幼児の保護者の『困り感』」 北海道教育大学紀要, 教育科学編, 72(1), 475-484.
【産業医時事ニュース解説】「お母さん」がストレス最大 コロナ禍、ママ友にも会えず
外遊びは身体と心、どちらの発達にも有効であるという調査や研究が出ています。順番に紹介しましょう。
外遊びと身体の発達
外遊びの効果として最も想像しやすいのが“体力向上”でしょう。文部科学省の報告(2017)では、小学校入学前に外遊びをしていることがその後の体力向上に繋がると記載があります。
しかし、現代の子どもたちの体力は低下傾向。
文部科学省はその理由について…
|
と説明しています。
先にも紹介したように、環境の変化により子どもたちが遊べる空間はこの数十年の間に減少しました。
加えて、交通手段、電化製品などの発展により、私たちの生活はかなり便利なものになりました。その恩恵を受ける一方、身体を動かす機会が減っているとご自覚される方もいらっしゃるのではないでしょうか(私はそうです…ちょっと早歩きをしただけで息が上がります…)。
生活習慣に関しては、睡眠や食生活の乱れが指摘されています。寝不足、食事の偏りなどは身体の健康の維持が難しくするだけでなく、体力低下、気力や意欲の低下、集中力の低下などメンタル面に悪影響を及ぼす可能性を高めます。
遊びと生活の質(Quality of Life:以下QOL)の関連という観点の研究をご紹介しましょう。
海野遥香・三輪倖代・ 橋本成仁(2020).「子どもの遊び・学外活動とQOLの活動に関する研究」土木学会論文集, 75, 425-431. この研究は小学生を対象としており、QOLの高い子どもたちは
といった傾向があると示しました。
なるほど、アクティブなタイプの子どもたちの方が生活の満足度が高かったということですね。 |
なお、厚生労働省が行った第6回21世紀出生児縦断調査(2015)によると、約3割の子どもが『近隣に友達が住んでいない』ことを気にしているとの報告があります。遊び“場所”だけでなく遊び“相手”という資源が手の届くところにないという点も、環境の変化によるものなのでしょうね。
外遊びと心の発達
外遊びを通して、子どもたちの心も大きく成長しています。
酒井・西・山口(2021)は、幼児期に外遊びを好んでいた子どもとそうでない子どもとを比較し、それぞれの特徴を見出しました。特に、幼少期に外遊びを好んでいた子どもは他者に対して積極的に関わる傾向があると報告しています。外に出て遊ぶことが同年代・年齢の異なる人々と接する機会となり、そこでの経験が就学後の積極性に影響するという考え方ですね。
また、伊原ら(2004)は、野外活動への参加や他者との関わりによって自己効力感が生まれると示しました。自己効力感とは、“自分は目標を達成するために必要な行動をどの程度うまくこなせるか”という認知のことを指します。
遊びと自己効力感の関係については、吉村・後藤・山村(2020)が細かく分析しています。いろいろな遊びを経験している子どもや遊ぶ頻度が多い子どもについては、チャレンジ精神が高い傾向があると示しました。また、公園に行ったりコミュニティーに参加したりするなど地域の資源を活用した遊びを取り入れている子どもは、創造的な遊びを楽しんだり遊びの幅を広げたりする傾向があるとわかりました。
つまり、小さい頃から多様な外遊びを体験していることによって、子どもたちの社会性や積極性が育まれやすくなるということでしょうか。
ちなみに、自己効力感とよく似た概念として“自己肯定感”があります。自己肯定感とは、自己の尊厳や尊敬なしに、単純に自身を好ましく肯定的に捉えることを指します(非常にわかりづらいですね)。簡単に言い換えると、『自分らしさに肯定的であること』でしょうか…。
メンタルとフィジカルの関連についてはこちらのブログでも紹介しています。
【精神科医監修】筋トレで自己肯定感を高める!?メンタルとフィジカルの関係
【参考】
酒井真由子・西朋子・山口美和(2021)「幼児期における外遊びの経験が学童期の活動性に及ぼす影響」上田女子短期大学紀要,44,43-56.
伊原久美子・飯田稔・井村仁・佐藤知行(2004).「冒険教育プログラムが小中学生の一般性セルフエフィカシーに及ぼす影響」 野外教育研究,7, 13-22.
吉村佳津司・後藤春彦・山村 崇(2020).「子どもの自己効力感を醸成する『遊び』と『遊び場』に関する研究-千葉県柏市立小学校に通う高学年児童の遊びの分析を通して-」 公益社団法人日本都市計画学会都市計画論文集,55, 1365-1371.
まだ完全には収束していないコロナ禍。
感染予防の観点を重視すると同時に、大人も子どもも心身の健康を保ちたいものです。とはいえ、ここまで紹介してきた外遊びの資源は、どうしても地域や家庭による差が表面化すると推測します。その場にある資源でいかに遊びを促進できるか、資源が足りないならばどう担保していくか、という点は現代社会に託された課題と言えるでしょう。
【執筆】 若丸(公認心理師・臨床心理士) 学校や公園で元気いっぱいに走り回る子どもたちを見ると自然と穏やかな気持ちになります。 子どもたちの成長を見守りつつ、現代社会を支える私たち大人は何をするべきなのか、今一度考えてみようと思いました。
【監修】 本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医) |