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精神科医監修|ペットロスの乗り越え方ー喪失からの回復ー

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2023年5月19日

最終更新日 2024年3月2日

ペットロスという喪失体験をいかに乗り越え回復するか?

皆さんのご家庭にペットはいらっしゃいますか?少子化の続く日本では、15歳未満の子供の数よりもペットの数の方が多くなっているそうです。近年、ペットはコンパニオンアニマル(伴侶動物)と呼ばれており、飼い主にとってかけがえのない存在となっています。

 

「ペットはどのような存在ですか?」という問いに対しては「家族のような」「子供のような」と答える人が多く、単なる動物ではなく家族の一員としてともに生きていく存在であるとの認識が広がっているようです。人間とペットの関係性が深くなることは人々にたくさんの恩恵を与えてくれる反面、ペットが大切な存在になればなるほど、「ペットロス」と呼ばれるペットを亡くした時の悲しみもより深くなることが予想されます。

 

今回はその「ペットロス」についてお話していきたいと思います。

 

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ペットロスってなに?


ペットロスとはどのようなことをいうのでしょうか。ペットロスの定義は研究により様々ですが、「飼育動物との死別体験」と「その死別体験に伴う悲嘆反応」という要素を含んでいるようです。飼育動物とは代表的な犬猫だけでなく魚や爬虫類などの動物も該当します。悲嘆反応とは家族や親しい人を失った時に生じる身体的・精神的反応のことです。

 

ペットロスを経験した人には悲嘆反応として下記のような症状が現れることがあります。

 

  • 身体的反応…消化器症状、食欲不振、頭痛、肩こり、めまい、難聴、腰痛、全身倦怠感、蕁麻疹、胸の締め付け、睡眠障害など
  • 心理的・精神的反応…悲しみ、抑うつ、怒り、落ち着かない、罪悪感を抱くなど
  • 知的・認知的反応…混乱、幻覚、集中力の低下など

 

喪失直後のこのような反応は異常ではなく「正常な悲嘆」としてほとんど6ヵ月以内に安定することが多いようです。大切な存在を亡くしているのですから、心と身体に変化が起こることはむしろ自然で当たり前のことだと思います。しかし、これらの症状が6ヵ月以上遷延すると「複雑性悲嘆」と呼ばれるようになり、大うつ病等の精神疾患の基準を満たすほどになる場合もあります。日常生活に支障をきたすほど悲嘆反応が重度になった場合は専門的な治療が必要になることもあるため、「ペットロス程度で病院にかかっていいのかな…」とためらわず必要に応じて医療機関を受診しましょう。

【参考】

 

ペットロスと人間の喪失体験に違いはあるの?


心理学の世界では愛着や依存の対象を失うことを「対象喪失」といい、対象喪失後に時間の経過に伴い変化する心理過程を「悲哀」と呼びます。一般的にペットロスは人間の死別体験より軽く扱われることも多いですが、愛着や依存の対象の中には人間だけでなくペットも含まれていることから、人間の死別体験とペットの死別体験は同じように扱われることが必要だと思われます。

 

一部の研究ではペットロスは人間の死別体験よりも対処困難であるという報告もされており、それはペットロスに特有な点として以下のことが挙げられるためです。

 

  • 人が亡くなった時に比べて周囲の人々に辛さを理解してもらえないことが多い。
  • 治療や安楽死の選択を迫られるなど飼い主がペットの生死を判断する場面がある。
  • 家から逃げ出してしまった等、生死が分からないまま曖昧な別れを経験する場合がある。

 

周囲の人々に理解してもらえないことや安否の確認が取れないことが悲嘆反応を長引かせたり、安楽死の選択をした飼い主には罪悪感が強く生じたりするそうです。人の死もペットの死もそれぞれに特有の悲しみがあります。そもそも人であれ動物であれ大切な存在を失ったことに変わりはなく、喪失の辛さを比べること自体おかしな話かもしれませんね。

 

ペットロスという喪失体験から回復する過程


人々がペットロスによる悲しみから回復する際どのようなプロセスをたどるのでしょうか。一般的な悲嘆や悲哀からの回復プロセスのモデルを紹介したいと思います。

 

 

Kubler-Rossの5段階モデル

最初に紹介するのはKubler-Rossが提唱した「5段階モデル」です。これは重要な存在を失った他者がどのような経過をたどりながら最終的に喪失を受容するのかに焦点を当てたモデルです。

 

このモデルの第1段階は「否認」という段階です。ペットが亡くなった事実を認めようとしない段階がやってきます。これはペットを亡くしたことによる精神的なショックから自分を守るために防衛機能が強く働いている状態です。

 

次に第2段階の「怒り」です。「ペットが亡くなったのは治してくれなかった医者のせいだ」とペットロスに関わる誰かを責めたり、「なんで自分は早く病院に連れて行ってやらなかったんだ」と自分に対する怒りが後悔となって表れるようになってきます。

 

次に第3段階の「取引」です。「神様、どうかこの子を生き返らせてください。」と避けられない喪失を先延ばしにしようとする心の働きが見られます。

 

次に第4段階の「抑うつ」では、希望を失い大きな喪失感にさいなまれて憂鬱な気分が続きます。この「抑うつ」の段階を経て、第5段階である「受容」に到達し、ようやくペットの死を現実の事として受け入れていくことになります。

 

このモデルを参考にしながら今自分がどの段階にいるのかを確認してみたり、抑うつな気分が続く人は、次の段階がくればペットの死を受け入れられるときがくるかもしれないと思ってみたりするのも良いかもしれません。ただし、隣り合う段階は重なりあうこともありますし、必ず順序通り進むとは限らないそうです。様々な段階を行きつ戻りつしながら最終的にペットの死を受け入れていくことになります。

 

ペットの死を受け入れられない時は、終わりのない真っ暗なトンネルの中を歩き続けるような気持ちになるかもしれませんが、そのトンネルも実は正常なルートで出口に至る道の途中かもしれない、と思ってみるのも良いかもしれませんね。

 

Wordenの課題モデル

次に紹介するのはWordenが提唱した「課題モデル」です。このモデルは悲嘆を時間軸で説明しようとする段階モデルに対して、残された人々が重要な他者が存在しない社会に再適応し、さらなる成長・発展のために達成すべき課題に焦点を当てています。積極的に悲しみに向き合い、自分からその事態に対処することの重要性を強調するモデルです。このモデルは4つの課題で構成されています。

 

まず最初の課題は「喪失の事実を受容する」ことです。いきなりKubler-Rossの段階モデルとは対照的ですね。ペットのいない生活を送ったり、ペットの喪失に対する感情に対処するにはペットの喪失を受容しなければ始まりません。この課題は非常に時間のかかる課題と言われています。

 

第2の課題は「悲嘆の苦痛を処理する」ことです。苦痛はペットロスにおいて避けて通ることはできません。この課題では悲しみ、怒り、罪悪感、不条理などの苦痛な感情を回避せずに感じることが大切だと言われています。それらを回避してしまうと悲嘆反応が遅れ、後から身体症状となって現れてくることもあるそうです。

 

第3の課題は、「故人のいない新しい環境に適応する」ことです。以降、故人は亡くなったペットに置き換えて考えてみてください。減らないペットフードや玄関の出迎えがない事実に直面し、そのような状況に慣れていくことが求められます。

 

第4の課題は「故人を情緒的に再配置し、喪失したものを忘れることなく生活を続ける」ことです。亡きペットを心の中に新たに位置づけし「絆の継続」をすることが大切と言われています。伝統的な死別研究の領域では故人との絆を遮断することが悲嘆を解決するための必須の条件であるという認識が定着していましたが、その他に故人と形を変えながら絆を継続していくことが悲嘆の解決に役立つという知見も支持されているようです。

 

人によってペットロスの乗り越え方は様々!


上記の他にも「Freudの喪作業(MourningWork)」や「StrobeとSchutの二重過程モデル」など様々なモデルがありますが、どのモデルにも共通していることは「人はモデル通りに悲嘆・悲哀を経験し克服していくのではない」ということです。人の数だけ多様な悲嘆・悲哀の在り方や回復方法があり、自分にあった悲嘆・悲哀の乗り越え方を探求することが最も大切なことであると思われます。

 

ペットロスからの回復に役立つ方法

人によりペットロスからの回復過程は様々、とは言いましたが、ペットロスに関わる事実や感情を整理し、ペットロスからの回復を促すために役立つ手段としてはどのようなものがあるのでしょうか。

 

ペットロスに対するケアとしては、周囲が能動的に働きかけるのではなく、当事者がありのままの感情を表現できるような環境を整え、その感情を周囲の人が傾聴の姿勢をもって受け入れることが有効だと示唆されています。今回はそれらを実現させる手段として「悲嘆カウンセリング」「セルフ・ヘルプグループ」「喪の儀式」を紹介します。

 

 

悲嘆カウンセリングを受けてみる

ペットを亡くした悲しみを吐き出したり、心の整理をする方法として悲嘆カウンセリングを受ける方法があります。悲嘆カウンセリングとは喪失による悲嘆を癒すためのカウンセリングのことです。治療者や場所によって方法は様々かと思いますが、ペットロスについての知識を提供したり、ペットロスによる悲しみの表出を助けたり、問題解決や意思決定への支援を行うことを目的としています。このカウンセリングは、前に挙げたWordenの課題モデルなどの課題を進めていくのに有効であるとされています。この悲嘆カウンセリングは「複雑性悲嘆」だけでなく「正常な悲嘆」も援助対象となります。

 

セルフ・ヘルプグループで語り合う

先ほどの悲嘆カウンセリングは専門家との対話を通して行うものですが、自分と同じ境遇の人と悲しみを共有したい、ということであればセルフ・ヘルプグループに参加するというのも一つの方法です。セルフ・ヘルプグループとは、共通の苦しみを抱えた人同士が自主的につながり、悩みを打ち明けたり、問題解決のために経験や情報を分かち合い、相談活動などを行ったりするグループの事です。苦しい胸の内を語ったり、他の人の苦しみを聞く中で、お互いに支えあい、この苦しみは自分一人ではないことを知り悲嘆から立ち直っていくことができるようになると考えられています。特にペットロスの場合、ペットを失った悲しみが社会的な理解を得られにくいため、同じ気持ちが分かる仲間と語り合う経験は悲嘆から回復するために重要だと考えられています。そのようなグループを見つけて参加するのが難しい状況であれば、セルフ・ヘルプグループでなくても同じ境遇の知人や友人と苦しみを共有するのも良い方法だと思います。

 

喪の儀式を行う

悲嘆カウンセリングやセルフ・ヘルプグループとはまた別のアプローチとして、悲嘆からの回復を助けてくれる方法の一つに「喪の儀式を行う」方法があります。喪の儀式にも様々な形があると思いますが、Randoによると治療的な喪の儀式とは「残された人々が死を認識すること、失った人々を思い起こすこと、もしくは失った人々に対するさまざまな考えや感情を探索し、明確化し、表現し、統合し、最終的にはそれらを表明する機会を提供するための構造化された方法」であると定義しています。

 

この定義に照らし合わせると「葬儀」は社会的に許容された最も治療的な儀式であるといえます。葬儀や葬儀のようなものは、残された人々が故人との関係を再認識し、心を落ち着かせ、故人を手放さなければならないことを認識するために役立つそうです。ペットが亡くなった時に、遺体を土に埋めたり、ペット葬をしたりする人が増えていることからも、多くの人々がペットに対する葬儀を行う必要性を感じていることが推測されます。

 

ペットにまつわる喪の儀式としては、埋葬、火葬の他にも、植樹、思い出の品を収納する箱を作る等があり、喪の儀式を行うことは、先ほどの課題モデルででてきた、「絆の継続(亡くなったペットを心の中に新たに位置づけすること)」に役立つそうです。弔う行為を通じて亡くなった事実を実感したり、気持ちに区切りをつける機会になったりすることもあるのかもしれません。弔い方によってペットロスの経過が変わるなんていう研究もありますが、どのように弔ったから良いというものでもなく、自分が納得した方法で弔えたかどうかが大切ではないかと思います。

 

参考文献


  • 濱野 佐代子(2021).ペットロス:コンパニオンアニマルとの別れ 心理学ワールド,(92),5-8.
  • 木村 祐哉(2009).ペットロスに伴う悲嘆反応とその支援のあり方 心身医学,49(5),357-362.
  • 二階堂 千絵・安藤 孝敏・梶原 葉月(2019)。日本におけるペットロス研究の動向と展望 横浜国立大学教育学部紀要 社会科学,2,11-22.
  • ペットフード協会(2019).令和元年全国犬猫飼育実体調査主要指標サマリー Retrieved May9,2023 from
  • 佐藤 亜樹(2017).ソーシャルワーカーの新しい機能:ペット・ロスが飼い主に与える影響とソーシャルワーク・サービスの可能性:先行業績レビューを通しての考察 松山大学論集,292),47-81.
  • 鷹田 佳典(2006).故人との絆はいかにして継続されるのか 年報社会学論集,(19),177-188.
  • 梅木 太志(2018).ペットロスにおける悲嘆反応と支援のあり方:ペットロスの実態とリーフレット作成,Human Welfare:HW,10(1),162-163.
  • 心理学用語の学習

 

【解説】

田っちゃん(公認心理師・臨床心理士

筆者も魚、亀、ハムスター、ウサギを亡くした経験があります。出会いがあれば別れもあるもの、と頭では分かっていても大切なペットとの別れはとても辛く、耐えがたいものですよね。しかし、辛い気持ちの大きさは大切に注いできた愛情の大きさの現れでもあると思います。

 

ここまで回復する方法などを例として挙げましたが、ペットの死を乗り越えられないと感じている時はまだ乗り越える時ではないのかもしれないし、個人的には無理に乗り越えようとする必要もないのではないかと思います。

 

また、心的外傷後成長という言葉があるように、トラウマになりうるペットロスの体験は、ペットに対する感謝を改めて感じたり、人として精神的に成長するきっかけを与えてくれる大切な機会でもあると思います。別れの時まで私たちにたくさんの気づきや学びを与えてくれるペットに感謝の気持ちをもって日々を過ごしていきたいですね。関連項目:PTSD|厚生労働省

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【監修】

本山真(代表取締役社長)

精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医/医療法人ラック理事長

2002年東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院で研修。川越同仁会病院、不動ヶ丘病院の勤務を経て、2008年埼玉県さいたま市に宮原メンタルクリニック開院。2016年には医療法人ラックを設立し綾瀬メンタルクリニックを開院。2019年株式会社サポートメンタルヘルス設立。

 

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