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タグ : メンタルヘルス , メンタル不調・精神疾患解説 , 久野(公認心理師・臨床心理士)
2022年1月22日
最終更新日 2023年2月6日
目次
前回は“眠れない原因は考えない”と題したブログにて、『眠れない』という困りごとに関する近年のトレンドをご紹介しました。
【参考】
睡眠障害国際分類の第三版(ICSD-3)への改訂にて、『眠れない』という困りごとの原因による分類は廃止され、眠れない期間による分類(急性不眠か慢性不眠かのたった2つ!)が採用されました。眠れなくなれば急性不眠、眠れない日が3か月以上続けば慢性不眠。これだけです。不眠症についてはシンプルに考える、これがトレンドです。
『不眠症はシンプルに考える』というトレンドを理解したうえで、不眠を解消するにはどうしたらいいのか?不眠解消メソッドのカギをお伝えしておきましょう。あなたが『眠れないこと』にお困りであれば、眠ることよりも起きることの優先度を上げるべきです!解説します!
【参考】
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前回の記事で解説したPrecipitating factor(増悪因子)について解説しておきます。眠れない(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒)という困りごとは、うつ病などのメンタル疾患が原因となっていることもあり、原因疾患へのアプローチを優先した方がよいケースもあります。
眠れないことに加え、気分が落ち込んでいる、何をやっても楽しくない、やる気が出ない、集中できない、食べられない/食べ過ぎるといった変化が伴う場合は、自己流の対処をする前に専門家に相談を!特に、『一晩中眠れない』、『一睡もできない』、『眠らなくても全然元気』、そんな日が続く場合医療機関受診はマストです!
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まずは睡眠や不眠のメカニズムに関するトレンドを解説しましょう。そもそもヒトには定期的に睡眠を引き起こすシステムが2つ備わっています。1つはホメオスタシス(睡眠の恒常性)、もう1つはサーカディアンリズム(体内時計)です。この2つのシステムにエラーが生じている場合、不眠が出現し持続してしまうわけです。つまり、不眠の解消メソッドは、システムエラーを突き止め、システムを整えるメソッドだと言えます。
不眠解消メソッドを説明する前に、それぞれのシステムについて解説しておきましょう。まずはホメオスタシスです。そもそもホメオスタシスは、睡眠に限らず種々の外界刺激に対し、内部を一定に保つシステムです。シーソーに例えて説明されることが多いですね。真夏の炎天下。汗をかきますよね?あの汗は、気温の影響で体温が上がりすぎないようにする体温調節に関するホメオスタシスの働きです。
では睡眠におけるホメオスタシスとは何か?端的に言えば『眠くなるシステム』だと考えてください。睡眠の恒常性システムを支えているのがアデノシンという物質です。アデノシンは脳の疲労物質だと考えられています。起床後、脳の中で徐々に蓄積していきます。アデノシンが一定量溜まると眠気がやってくるという仕組みです。もう少し詳細に説明すると、アデノシンが溜まる⇒覚醒を司るヒスタミンの放出を抑える⇒眠くなる、という仕組みです。
※ちなみに、花粉症の薬を飲むと眠くなったりしますよね?あれがまさにヒスタミンの放出を抑える作用によるものです。
ヒトが定期的に眠くなるという恒常性はアデノシンによって維持されているわけですね。このシステムにエラーを起こしてしまう、つまりはアデノシンの働きをブロックしてしまうのがカフェインです。カフェインはアデノシンの蓄積をブロックする働きをするため、結果的にヒスタミンが抑制されず、覚醒状態を招きます。眠気覚ましのカフェインドリンクやコーヒー。理に適ってはいますが、ホメオスタシス的にはシステムエラーの原因になるわけですね。
ホメオスタシスエラー由来の不眠の解消メソッドもあわせてお伝えしておきます。これは実にシンプル。カフェインは控えましょう!これだけです。特に午後以降のカフェイン摂取はシステムエラーにつながりがちです。眠気覚ましのカフェインは午前で済ます。これがホメオスタシスエラー由来の不眠解消メソッドです。
もう一つのシステム、サーカディアンリズム(体内時計)を解説しましょう。ヒト含む動物は一日のなかでアクティブモードとスリープモードを緩やかに切り替えています。昼行性動物の場合は日中アクティブモードになり夜間はスリープモード、夜行性動物の場合は夜間がアクティブモードになるんです。ヒト含む昼行性動物の体内時計システム。何をきっかけにスイッチオンされるかと言うと光なんです。日常的な話で言えば、起床して太陽の光を浴びる。これが体内時計システム、つまりは睡眠システムを起動させるスイッチとなるんですね。
具体的には、起床後、太陽の光を浴びて14時間ほど経過すると体を睡眠モードに誘うメラトニンというホルモンが分泌されます。メラトニンは分泌後2~3時間でピークに達するので、起床後16~17時間後に眠りがやってくる、ということになりますね。
【参考】
つまり、起床後太陽の光を浴びる時間が遅めになっている場合、メラトニンが分泌されるタイミングも遅めになるわけです。体内時計が後ろにずれてしまうわけですね。こういった状態を睡眠相後退症候群と呼びます。逆に朝早めに目が覚めてしまう(早朝覚醒)と体内時計は前にずれていきます。こちらは睡眠相前進症候群と呼びます。ご高齢の方に多いお困りごとですね。
睡眠を維持する体内時計システムはメラトニンの分泌だけではなく、深部体温の調節、アクティブモードへの切り替えなどを司っています。体内時計システムのエラーによって夜眠れない状態なのであれば、起床して太陽の光を浴びるタイミングを固定し、体内時計を社会生活に最適化していくのが理想的なアプローチです。
眠ることより起床することを意識する。これって実現可能性を考えても理に適っているんです。
イメージしてみてください。
『今すぐ寝なさい!』。
眠れます?
例えば、徹夜が続いていたり、慢性的に睡眠不足であったり、体調を崩していたり、と特定の条件下であれば今すぐ眠ることも可能かもしれませんが、多くの場合は難しいでしょう。
一方、『今すぐ起きなさい!』。
こちらはどうでしょう?
耳元で何度も声をかけられたり、体を揺さぶられたり、かけ布団を引き剝がされたり(ああ憂鬱笑)。今すぐ眠ることの難しさに比べれば、今すぐ起きることの方が実現できる可能性高いですよね(気分が良いかどうかは別として)。就寝時間を固定する難易度と比較すれば、起床時間を固定することって『何とかなる』わけです。あなたが『眠れないこと』にお困りであれば、眠ることよりも起きることの優先度を上げるべきです!
朝子どもを起こすことに手こずっている方へアドバイス!
毎朝の声かけお疲れ様です…。『起きなさい!』。何度も声をかけてやっと目を覚ましたお子さん。『一回で起きてよ!』そんなお小言も言いたくなりますよね。心理学の1ジャンルである行動分析学的に考えると、声かけをしてお子さんが起きたら、ぐっとその一言を飲み込んでおく方が望ましいんです。これは【何度も声をかけられる(不快)⇒起床する⇒声かけが無くなる】という負の強化(嫌子の消失)というメカニズムで説明できます。 ※アラームも同じメカニズムで説明できますね。
【何度も声をかけられる(不快)⇒起床する⇒お小言を言われる(不快)】。起きても起きなくても結果(不快さ)は変わらない。こんな学習をしてしまうと声かけの効果が薄くなってしまう、つまり声をかけても起きなくなるんです。結果として声かけの時間や強度を上げることになり、イライラが募り…。悪循環ですね。
これは、お子さんに限った話ではなく、家族やパートナーに対しても同様です。行動分析学的に言えば、すんなり起床できたとき、事前にどんな関わりをしたか、事後にどんな関わりをしたかを振り返り、うまくいく法則を掴みルーチン化していくことをおすすめします!
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なお、体内時計のズレが激しくて、なかなか朝起床することが難しい…。そんな方にはお薬を試す場合もあります。メラトニン受容体作動薬(大雑把に説明すればメラトニンを増やすお薬)を、眠りたい時間から逆算して服用することで、体内時計を調整していくというアプローチです。2022年現在、保険適用されているメラトニン受容体作動薬は、ラメルテオン(商品名ロゼレム)、メラトニン(商品名メラトベル)です。お薬を服用後、メラトニン分泌がピークに達する時間を逆算してお薬を服用します。
『○時間は睡眠時間を取らなくては』。ベッドに入ったもののなかなか寝つけない。どれくらい時間が経っただろうか。スマホを確認したところ、ベッドに入ってからもう1時間も経っている!『早く寝なくては…』。考えれば考えるほど目が冴えてしまう。結局悶々としたまま朝が来てしまった…。こんなご経験ありませんか?これは『眠らなくては』、『○時間眠るべき』といった考え方の癖に翻弄されている状態だと言えます。起床してからずっと『今日は眠れるだろうか』という考えにとらわれてしまうケースも…。
【参考】
【精神科医監修】認知の歪み?10パターンの考え方の癖を解説!
この『考え方の癖』にアプローチする方法、それが認知療法です。『○時間眠るべき』という考え方に『眠れない日もあるさ』、『一晩眠れないくらいじゃ死なないから大丈夫』といった柔軟性を持たせるアプローチだと言えます。『眠るべき』、『眠らなくては』という考え方が柔軟になり不安・心配が軽減することで寝つきの悪さが改善するという作用機序が想定されています。不眠への認知療法ですが、上記不眠解消メソッドとの併用が推奨されており、単独で用いる場合、エビデンスレベルが低いとされています。不安・心配の解消だけでは、不眠解消には非力ということですね。
余談ですが、実際、何時間睡眠時間を取るのがベストなのか。これは議論が分かれるテーマです。睡眠時間があまりに短かったりすると生活習慣病のリスクは高まりますし、当然日中のパフォーマンスは低下します。以前は8時間睡眠が理想と言われたりしていましたが、実際にデータを取ってみると8時間睡眠理想論に根拠はないようです。明確な基準があるわけではなく、個人差も大きく、更に言えば加齢に伴い睡眠時間は短くなるものなので、基本的にはケースバイケースだと言えます。ちなみに、最近の知見ですと、睡眠時間は短すぎても長すぎても健康を損ねるリスクを高めるとされています。
【参考】
睡眠は『ホメオスタシス』と『体内時計』、2つのシステムによって維持されます。睡眠の恒常性システムで重要な役割を担っているのが、起床後蓄積していくアデノシン。カフェインはアデノシンの蓄積を邪魔します。午後以降はカフェインを控えましょう!
体内時計システムはヒト含む動物に備わっている、日中はアクティブモードに夜間はスリープモードに切り替えるシステム。スイッチを入れるのは光。朝起きたら光を浴びてシステムオンしましょう!今すぐ寝る、よりも、今起きることの方が操作可能ですよ!
どちらのシステムも基本的にスイッチオンは『起床』です!『○時間寝なくては』という考えに翻弄されるよりも、『朝起きたら光を浴びよう』という考えでチャレンジしてみることをおすすめします!
睡眠は朝から始まっていますよ!
【監修】 本山真(精神科医師/精神保健指定医/日本医師会認定産業医)
【執筆】 久野(公認心理師・臨床心理士) |