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タグ : ハラスメント対策 , 中小企業 , 健康経営® , 産業精神保健 , 籔(公認心理師・臨床心理士)
2020年10月12日
最終更新日 2023年5月9日
目次
2020年6月1日の【パワハラ防止法】施行(労働施策総合推進法改正)。記憶に新しいですね。
これでセクシュアルハラスメント対策(男女雇用機会均等法)、マタハラ防止措置(育児・介護休業法)に続き、パワハラ防止も法律ベースで整備されることとなり、国をあげて包括的なハラスメント対策が強化されることになったわけです。
今回のパワハラ防止法にて抑えるべきポイント。
それは
“企業における【パワハラ対策の義務化】”
です!
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パワハラ対策の義務化について経営者、管理職の皆さんいかがお感じでしょうか?
『ハラスメント対策を早速実行してみたけれども、いまいち有効活用できていない』 『そもそも、実際にどんな効果があるのか分からない』
こんな風にお感じではありませんか?
中小企業におけるパワハラ対策義務化は2022年4月から。まだ時間の猶予があります。闇雲に対策を講じることで、『コストはかけているのに効果を実感しにくい…』。そんな事態はできるだけ避けたいですよね。
今回は、ハラスメント対策を講じる重要性、必要性について紹介していこうと思います。ハラスメント対策の重要性、必要性を理解したうえで、2022年4月の義務化に向けて計画的に準備していきましょう!
なお、法律で定められたハラスメント対策については、下記の記事にまとめてありますので、そちらもご参照ください。
【参考】
中小企業様必見|ハラスメント対策義務化前に知っておきたいこと
ハラスメント相談窓口義務化にどう対応する?【産業医解説×パワハラ対策】
『ハラスメントが発生している』、若しくは『ハラスメントが発生しやすい』職場は、従業員のメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性が高い環境であると言えます。
出典:厚生労働省あかるい職場応援団 6.パワハラの影響より
学生時代のいじめ問題のように、こういった影響って、ハラスメント加害/被害の当事者だけでなくて、該当の職場で働く他の従業員にも広がるものなんですよねえ…。結果として、組織全体の生産性に影響を及ぼすことも…。
職場環境が改善されて業績もアップ!
…なんて虫のいい話あるわけがない…
そんなことはありません!
ハラスメント対策という方略を通じて、多くの従業員が働きやすい/ストレスが少ないと感じられるように職場環境改善。職場環境改善によって業績アップ!意識すれば可能なんです。本記事では、ハラスメント対策の効果、効果的な活用方法についてお伝えします!
【こちらもどうぞ】
【2021年最新版】産業医執筆:ハラスメント対策まとめ【義務化≒罰則】
セクハラやパワハラが悪いのはわかるけど、環境への影響って何?
パフォーマンスとか言われても、目に見えるものでもないし……
『個々人が持つ能力を最大限発揮する』
聞こえはいいですが、実際のところよくわからないですよね。私はパフォーマンスがどうとか言われても、正直よくわかりません(身も蓋もないですが笑)。その人が本来持っている力や今どれくらい発揮できるかを簡単に数値化できるわけでもなし、ゲームのHPゲージのように、一見して元気度合いがわかるわけでもなし。
そんなもののために対策するのって馬鹿らしくない?
せっかく色々やったのに、効果が感じられない……
有効に運用できなければ、損した気持ちで終わってしまうこともありそうです。そんな徒労感を解消して、前向きに取り組むことができるように、目に見えにくい部分をちょっとだけ可視化してみようと思います。
目に見えない職場への影響を考えるときには、目に見えるものから考えることが定石でしょう。企業でいえば、一番わかりやすいのが業績や生産性なのかな、と思います。
職場の生産性とは、その職場が効率的に稼働しているのか、また、従業員一人一人が持っている力をどれくらい発揮して仕事ができているのかに大きく左右されるものです。 「健康経営」という言葉を聞いたことありますか? 詳細はリンク先、経済産業省HPをご参照ください。 端的に健康経営をまとめると『元気に仕事ができると企業にとってもいいことだらけ!win-win!』ということです。 で、職場の生産性と健康経営を考えるときに知っておいていただきたい概念として【アブセンティズム】と【プレゼンティズム】があります。 |
まず、「アブセンティズム」とは、休職や欠勤などで現在働くことができない状態にあることをいいます。英語で「absent=欠席」という言葉からもわかるように、病気、怪我、その他の不調等で実際に仕事ができていない、つまり職場に来られていない状態です。明らかに職場にいないので、とても見えやすいですね。
アブセンティズムは目に見えます
これに対する概念として「プレゼンティズム」があります。英語で「present=出席している」という意味の言葉で、他の人と変わらずに出勤はしているけれども、業務にてその人が本来発揮できる力を出せない状態のことを指します。
*二日酔い状態での出勤、仕事もプレゼンティズムに該当します(ギクッ)。
実は、目に見えづらいプレゼンティズムが生産性に影響を与えるんです。
プレゼンティズムは目に見えづらい…
前述のとおり、アブセンティズムは、職場でも目に見えて分かる生産性の低下です。なにせ仕事を休んでいるのですから。誰にでも説明しやすく、また理解されやすい戦力の低下だと言えます。結果として、人員の補充など、現実的に「何か対処した方が良い」という決断がしやすいわけです。
その一方で、プレゼンティズムは、普段通りに出勤して、変わらずに仕事をこなしています。そう、変わらずに仕事をしているように見えるのです。
したがって、実は目に見えない潜在的な隠れた不調があって、一人一人の生産性が下がっていた、ということに気がつくのは、その人がお休みをするようになったり、状況が目に見えて悪化した後になってしまうのは仕方のないことですね…。また、このプレゼンティズムの発見が難しい要因として、本人ですら自覚が難しい場合がある、という点も押さえておきたいポイントです。
なんとなく寝不足が続いていて、頭が重かったり…
残業が多くて、疲れがとれていないなと感じたり…
なんとなく集中できない日があったり…
こういったコンディションは、日常でも比較的容易に起こり得ることだと思います。もちろん、毎日100%元気で仕事をバリバリこなせる!……なんてことはありえません。ただ、『不調だけど無理して働いている』というだけでなく、この『なんとなく元気じゃないなあ』という日が継続してしまうことで、知らない間に自分のパフォーマンスが低下していってしまうことがあるのです。
ここで、Marco Hafnerらによるプレゼンティズムと生産性に関連する研究を1つご紹介いたします。
2016年にアメリカのランド研究所で実施された調査によると、日本において睡眠不足を原因として生じている経済損失は、年間で1380億ドルに達するそうです。 ちょっと金額が大きすぎて想像できませんが、とにかく、生活の一部である睡眠ひとつでも、こんなにも生産性に影響を与えるのです。 皆さんも、寝不足であまり頭が働かないまま仕事をする日があるのではないでしょうか。 ちなみに、こちらの金額は、総額ではアメリカに及ばないものの、国内総生産(GDP)との比率でいえば、世界1位とのことです。 他の先進国でも睡眠が社会に与える影響は大きいですが、日本においても例外ではないようです。 参照: Why Sleep Matters—The Economic Costs of Insufficient Sleep |
忙しすぎて睡眠時間を削ってしまうほどに長い時間働かなければ仕事が終わらない!といった話も耳にしますが、労働時間が長くなれば生産性が上がるわけでもなく、むしろ効率が悪くなってしまっているということがお分かりいただけたと思います。
たかが睡眠、されど睡眠。
日常の生活習慣ひとつがコンディションに影響する。
そしてそれが損失として可視化できる。
そんな身近な例だと思いませんか。
睡眠に限らず、従業員の心身の健康が企業の生産性そのものに影響を与えることは、経営者、管理職の皆様に知っておいていただきたいポイントです。そして、労働者の心身への影響を考えたとき、企業や職場としてできる一番の対策は環境を整えることです。職場環境のせいで不調が起こる/起きやすくなる機会が減れば、その分元気に働ける人が増えます。
さて少し考えてみてください!
あなたにとって『働きやすい環境』とはどんな環境でしょうか?
色々な人と言葉を交わす中で協同できる職場? 職人のように、一人静かな場所で黙々と集中できる職場? 同時並行で色々なプロジェクトを動かした方がやる気が維持されますか? 一つ一つのことをこだわって完成させていけた方が力を発揮できますか? |
皆さんそれぞれ職種や仕事内容も様々でしょうから、色々な環境が浮かんだことと思います。
まずは、【どんな環境が働きやすいのか】は個人によって大きく異なる、ということを理解していただきたいと思います。
上記方程式のように、【働きやすい環境】は、個人のタイプに左右される部分が非常に大きいんです。『誰もが最高に働きやすい環境をすべて整える!』というのはあまり現実的ではないでしょう。それでは環境を作る側がノイローゼになってしまいます。
それなら、『職場環境を整えるってどういうことよ?』と思いますよね?
【すべての個に応える】という視点より【みんなが働きやすいと感じやすい環境】という視点が現実的です。具体的にイメージしていただくためには、まったく逆の環境、【嫌だなと思う人が多い環境】をイメージしていただくとよいかもしれません。
ここで、ハラスメントのお話に戻りましょう(やっと)。
【嫌だなと思う人が多い環境】。
「ハラスメントが起こりやすい環境」、そして「ハラスメントが起こった時に対処してくれない環境」って嫌ですよね?
これは、タイプを問わず、ほとんどすべての人に当てはまるでしょう。
プレゼンティズムやアブセンティズムは、ハラスメントが起きてしまうような「嫌な環境」にて発生する確率があがります。つまり、ハラスメント対策を講じることは、それらの発生を予防し、職場の生産性がアップする、少なくとも知らない間にダウンすることを防ぐためには有効だということです。
*『逆の逆』という我ながら非常にわかりづらいロジックですねえ…申し訳ありません。
では、ハラスメント対策を講じることによって、実際にはどのような効果が見込めるのでしょうか。
ハラスメント発生の抑止・再発防止、ハラスメント発生時の速やかな対処についてはイメージがしやすいかと思います。ハラスメント対策にて期待できる3つ目の効果、それが『従業員が安心して働ける』という効果です。こいつはすごいです。特にハラスメントが起こっていない職場でも威力を発揮するので使わない手はないですね。
今回は、この「安心感」に注目していきましょう(2度目のやっと)。
厚生労働省によるパワーハラスメント対策は下記の通りです。
|
総じて言えることですが、安心感という面で考えると、どんな対策でも「周知する」という部分が従業員にとっては最も重要になってきます。社則や新しい制度を作っても、従業員が知らなければ活用されません。逆に、知っているだけで安心できる、といった事例も往々にしてあるものです。
周知するとよさそうなポイントをまとめると、このあたりになるかなと思います。
1)ハラスメントに関する正しい知識 2)ハラスメントに対する自社の方針・取り組み 3)実際に相談したいときには、どんな手続きを踏めばいいのか |
それぞれについて、安心感の観点から考えてみましょう!
1)ハラスメントに関する正しい知識を知ってもらう
これは、「何がハラスメントにあたるのか」という知識を伝えること、ハラスメントに対する社内の認識を共有することを指します。
自分がされていることって嫌がらせ?パワハラ?
考えすぎ?
こんな風に悩んでいる部下が確認するための指標になったり
指導のつもりだけど知らないうちにハラスメントしているのでは…
こんな風に不安に思う上司が振り返りをできる機会になります。
もちろん、日常の態度一つ一つに対して「これを言ったら(行ったら)絶対パワハラ」「これは絶対パワハラじゃない」と明確な線引きはできないのですが、「どうなのかわからないこと」に対して不安を抱いている従業員にとっては、安心材料になります。
2)ハラスメントに対する自社の方針・取り組みを知ってもらう
ここでいう自社の取り組みとは、起こってしまった後の対応だけでなく、ハラスメント行為者(ハラスメントした側)の処分についても含まれます。これらを知ってもらうことで「相談するとこんな対応をしてくれるのか、それならいざというときも大丈夫だ」といった安心感が得られます。就業規則に記載したうえで共有しておくと安心ですね♪
3)実際に相談したいときには、どんな手続きを踏めばいいのかを知ってもらう
パワハラ発生後に会社としてしっかりとした対応を実施することは大前提ですが、実際のところ、そこまでパワハラやセクハラなどのハラスメントは起こっていない…という職場も多いと思われます。ハラスメントが起きていない職場こそ、万が一に備えての手続きを周知しておく効果があります。
理由は、車のエアバッグと同じように、普段は必要ないけど、いざというときに「ある」と知っているから安心できる、そんな安心感が従業員のパフォーマンス維持に役立つからです。
では、なぜ具体的な相談の手順を知ってもらった方がよいのでしょうか。相談って、意外と(意外じゃないかもしれませんが)ハードルが高いものです。
などなど… |
「相談すること」にまつわる不安は枚挙にいとまがありません。「相談する場所がある」=「相談できる」ではないのです。「相談できる」という実感を持ってもらわなければ安心感には繋がりません。「いつでも相談してね!」と言ってはみても、「そんなこと言われたって…」と思われてしまうのが関の山。
では、相談に対するハードルを下げるにはどうしたらいいのでしょうか?多くの従業員にとって重要なのは、気持ちの面での安心感だけではなく、実際にどう行動したらいいのか(どこに、どんな風に言ったらいいのか)、相談したらどうなるのか(誰に情報が伝わって、最終的にどんなやりとりがあるのか)、といった現実的な部分だったりします。
多くの人にとって、見通しが立たないことやイメージしにくいことは、不安を喚起させるトリガーになりがちです。サービスへのアクセス方法を明確にして、『見通しが立たない不安』をクリアにすることが、安心感につながるわけです。
道のりが険しいと、ただでさえ辛いときに「相談しよう」なんて気分にはなれませんよねえ…。
本項の冒頭でも述べましたが、いくら素晴らしく効果的な対策をしていても、知らなければ「ないもの」と同じです。それでは宝の持ち腐れ、骨折り損のくたびれ儲けとなってしまいます。実に勿体ない。
これはサービスを「使ってもらいたい」ということとはちょっと違う意図があります。もちろん、いざというときには使ってほしいですが、相談しなければならないことなんて起こらないのが一番です。ここで狙う効果は、「いざというときに使える」という安心感を獲得してもらうことです。
さて、「効果的に周知する」ためには工夫が必要です。なるべく多くの従業員に知ってもらうようアプローチしていくことが、『いざというときのハラスメント対策』への安心感をより高めるための鍵となります。お知らせの通知(社内メール等)を出したり社内に掲示するのが手っ取り早い周知方法ですね。
見る側に能動性が求められる上記のような周知方法では、充分に届かない従業員もいるかと思います(私のメールボックス…)。【重要!】と書かれていても、自宅のポストに入っているダイレクトメールをしっかり読む人ばかりではないのと同じです。
【全ての社員に情報を周知するために効果的な方法】アイデア
メールでのお知らせや社内掲示は、上記を「後から自分で確認できるツールとして活用すると、認識の定着と安心感につながりますね!
【参考】
厚生労働省によるハラスメント対策周知のための無料リーフレット・パンフレット集です。
厚生労働省あかるい職場応援団|ハラスメント関係資料ダウンロード|パワハラ対策導入マニュアルのダウンロードもできます。
今回は、ハラスメント対策をすることで生じる安心感をご紹介しました。従業員に対してハラスメント対策を周知することの効果/重要性を理解していただけると幸いです。
せっかく始めるハラスメント対策。
「使われなければ意味がない」ものとしてしまうか「存在するだけで効果がある」ものにできるかは、活用法次第です。知ってもらう過程に一工夫加えて、従業員に安心感を、そして安心して意欲的、活動的に仕事をこなせる職場環境を目指してみませんか?
こちらもどうぞ!
【参考】事例に学ぶ【従業員理解に活かす職場ハラスメント対策】公認心理師が解説
【執筆】 籔(公認心理師・臨床心理士) |
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