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タグ : ハラスメント対策 , フリーランス新法 , メンタルヘルス , 産業精神保健
2024年10月14日
最終更新日 2024年10月29日
目次
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フリーランスという働き方は、自由で柔軟性の高い生活を求める人たちにとって非常に魅力的に映るかもしれません。しかし、自由さや柔軟性の裏には、多くのリスクや課題が山積していることも事実です。2024年施行の「フリーランス新法」(人事担当者必見!中小企業が押さえるべきフリーランス新法のポイントと義務要件)は、数多のリスクを軽減するための法整備ですが、依然として大きな問題は残ります。本コラムでは、フリーランスというキャリア選択についてなぜ「やめたほうがいい」と言われることが多いのか、その背景を探っていきます。
フリーランスとして働く上で、最も多くの人が直面する問題は「収入の不安定さ」です。正社員であれば、毎月一定の給与が保証されていますが、フリーランスには一定収入の保証がありません。案件が続けば順調に収入を得ることができますが、仕事が途切れれば、その月の収入がゼロになることも珍しくありません。例えば、フリーランスの平均年収について、フリーランス協会の調査によると、年収が400万円を超える人は43.7%。国税庁による令和4年民間給与実態統計調査によれば給与が400万円超の割合は65.3%です。年収が400万円を超える割合について、フリーランスと給与所得者とでは、20%以上の差があることがわかります。加えて、クライアントが急な予算削減を行ったり、支払いが遅延したりするリスクも常に存在します。
【参考】フリーランス白書2024|一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会
2024年に施行される「フリーランス新法」では、フリーランスに対する契約上の権利が強化され、支払い遅延や不当な契約解除に対する保護が強化されます。新法施行により、契約条件が明確になり、急な報酬未払いに直面するリスクは減少することが期待されています。
とはいえ、全ての問題が解決されるわけではなく、クライアント企業との交渉力が弱いフリーランスにとっては、依然として安定した収入を確保するのは難しい状況だと言わざるを得ません。フリーランス新法によって、契約上の一部のリスクは軽減されるものの、根本的な収入の不安定さを完全に解決するものではありません。法律が適用されるのは、契約の適正性に限られており、案件自体の継続性や新規案件の獲得に対する支援は提供されていないため、フリーランスという働き方の不安定性が解消されたわけではありません。
フリーランスという働き方は、常に孤独と隣り合わせです。会社員であれば、日々のコミュニケーションやチームでの仕事を通じて(望むか望まないかは別として)人とのつながりを感じることができます。一方、フリーランスの場合、”有期且つ短期間の契約であること”、”在宅ワークが少なくないこと”などにより、多くの場合は、孤独に仕事をこなすことになります。自覚的な孤独感が長期間続くことは、メンタルヘルスに悪影響を及ぼします(参考:【産業医監修】フリーランスのメンタルケア|孤独感を乗り越えるための対策ガイド)。実際に、フリーランスのメンタルヘルス問題は社会問題化しつつあり、特に孤独感や不安定な収入がストレスの主な要因となっています(厚生労働省|こころの耳)。一人で問題を抱え込みがちなフリーランスは、精神的なサポートが不足しやすい環境にあります。
フリーランス新法では、ハラスメントや不当な労働環境からの保護に関して明確なガイドラインが設けられる予定です(関連項目:フリーランス新法とハラスメント対策義務化|中小企業が知っておくべき重要ポイント)。フリーランス新法によって、クライアントからの不当な要求や過剰なストレスへの対策は強化されるものの、法律がカバーするのはあくまで労働環境に関する部分であり、フリーランス自身が抱える孤独やプレッシャーに対する直接的なメンタルサポートについては言及されていません。
フリーランス新法は、フリーランスの労働環境を改善するための貴重な一歩ではありますが、フリーランス特有の孤独感や過度な自己管理からくるメンタルヘルスの問題を解決するものではありません。メンタルヘルス対策はフリーランス自身の責任に委ねられるケースが多く、適切な支援を得るためには個々人が積極的な行動を起こす必要があります。
フリーランスは、社会保障の面でもリスクを抱えています。会社員であれば、健康保険や年金、失業保険などの社会保障制度が整っているため、急な病気やケガ、万が一の失業時にもある程度のサポートが受けられます。一方、フリーランスは社会保障に完全には守られていません。例えば、急な病気やケガで働けなくなった場合、収入がゼロになるだけではなく、高額な医療費が発生するリスクもあります。
近年の法整備によって、フリーランスに対する最低限の保障が強化され、健康保険や労災保険の適用範囲が拡大する方向が示されています。特に労災保険が適用されることで、仕事中に発生した怪我や病気に対しても保険でカバーされるケースが増え、社会保障面でのリスクが多少軽減されます。フリーランス新法によって労災保険の適用が広がるとはいえ、依然として社会保障の多くが自己責任に委ねられています。将来的な年金の受給額や、長期間にわたる働けない状態に対する備えは、個人の自己管理に依存しており、これらのリスクを軽視すると大きな問題に直面する可能性があります。
フリーランスのもう一つの大きな課題は、自己管理の難しさです。多くの人が「フリーランスは自由に働ける」というメリットを求めてフリーランスを選択するわけですが、実際には「時間管理の厳しさ」に苦しむ人が多いのです。会社員であれば上司や同僚とのやり取りが日々の仕事の進捗をチェックする役割を果たしますが、フリーランスはすべての責任を自分で背負わなければなりません。
例えば、締め切りが近いプロジェクトが重なった場合、プライベートの時間を削ってでも対応しなければならないことが多々あります。このような状況が続くと、精神的な疲弊やバーンアウトのリスクが高まります(関連項目:精神科医監修|バーンアウトとは?症状とメカニズム、予防法を解説)。さらに、仕事とプライベートの境界が曖昧になり、リフレッシュする時間を確保するのが難しくなることも。
フリーランスに必要なスキルの一つとして、自己管理能力が挙げられますが、すべての人がこの能力を備えているわけではありません。自己管理がうまくできなければ、仕事が滞り、クライアントとの関係性が悪化する恐れもあります。フリーランスという働き方を選ぶ際には、自分が本当にこの自己管理能力を発揮できるかどうか、冷静に見極めることが必要です(参考:ワーカホリズムとは?働きすぎがメンタルに与える影響と予防策を臨床心理士が解説)。
『フリーランス』という働き方には多くの魅力がある一方で、数多くのリスクや課題が存在するのも事実です。収入の不安定さや自己管理の難しさ、メンタルヘルスへの影響、社会保障の不安定さなど、フリーランスとしての成功を維持するためには、各種課題へと対処する能力が求められます。2024年施行のフリーランス新法は、かねてより問題視されていたリスクを軽減します。とはいえ、まだまだ根本的な問題解決には至らないと言えます。
フリーランスを目指す前に、各種リスクを十分に理解し、自分自身が本当にこの働き方に適しているかどうかを冷静に判断することが重要です(関連項目:精神科産業医監修|ワークライフインテグレーションとは何か?)。最終的に、フリーランスという選択肢があなたにとって最善の道かどうかを見極めるのは、あなた自身です。
【監修】 本山真(医師) 2002年東京大学医学部医学科卒業。2005年日本医師会認定産業医取得。2008年精神保健指定医取得。 『働く人を応援する精神科・心療内科クリニック』2院を運営する医療法人ラック理事長。 メンタルヘルスサービス全般に対する心理的なハードルを解消するため、2019年株式会社サポートメンタルヘルス設立。 取材依頼はこちらからお願いします。 |