ブログ

臨床心理士が感情的になるメカニズムを解説|怒り・恐怖・嫌悪の対処法

タグ : ,

2022年12月2日

怒り・恐怖・嫌悪を例に臨床心理士が感情的になるメカニズムと対処法を解説

 

「感情的になる」と聞いて、どのような印象をもちますか?

 

広辞苑で「感情的」をひいてみたところ、『理性を失って感情に片寄るさま。興奮するさま。』とありました。多くの方が、身に覚えのある経験とともに納得する説明ではないでしょうか。それだけ、感情的になることはネガティブなことだと考える人が多いのでしょう。

 

心という視点からも切り離せない「感情」ですが、感情的になることは本当にネガティブな側面しかないのでしょうか。本ブログでは、人が感情的になるメカニズム、そして感情に翻弄されない対処方法について臨床心理士が解説します。

 

株式会社サポートメンタルヘルス公式LINE ID

専門職によるLINE友だち限定無料セミナー開催しています!

 

そもそも感情とは何か?

感情心理学という分野では、基本感情論という考え方があります。エクマンによって提唱された「基本感情は、文化圏が違っていても理解できる、人間に普遍的な表情」です。これによって、言葉を介さずとも、知らない言葉を話す外国の方が怒っているのか喜んでいるのか、くらいは察しがつくのです。

 

基本感情は「怒り」「嫌悪」「恐怖」「幸福」「悲しみ」「驚き」の6つだとされています。中でも、皆さんが感情的になることで困った経験として「怒り」「恐怖」「嫌悪」が多いのではないでしょうか。もちろん他の感情も、適切ではない状況で出してしまうと問題になってしまいますね。

 

ライバルが落ち込んでいるからといって、本人の前で笑うと大問題です。不適切な状況で、過度に感情を出しているからです。ただし「親友の結婚式で涙を流して喜んだ」からといって嫌われはしませんし、むしろ「いい友達だな」と思われるのではないでしょうか。これは、適切な状況で、適度に感情的になっているからでしょう。

 

一方で、現代では「怒っていい」「必要以上に怖がっていい」「(人を)堂々と嫌っていい」場面はほとんどないといっても過言ではありません。この三つは出すのが適切な状況自体がまれなため、「感情的になった」と後悔しやすくなります。

 

では、なぜ人間には「怒り」「恐怖」「嫌悪」が備わっていて、なぜ必要なのでしょうか。これに対する回答として、進化心理学という分野で研究がなされています。

 

進化心理学とは、「感情を含めた心の仕組みが、生物の歴史のうちでどのように進化してきたかを究明する(石川,2011)」といった考え方に基づき、人について探求する学問です。人類歴史の中で、農耕を始めたのはたった一万年ほど前で、それまではずっと集団で狩猟採集生活を送っていました。この頃生き残りをかけて進化させていった結果、今のような感情が発達したと仮定します。

 

 

つまり、人は狩猟採集時代に生き残りに有利になるために感情を備え、そのまま現代に至った、と考えます。そんな狩猟採集特化型の感情をもった動物が、現代のような複雑化した社会に生きているわけです。確かに、人類の生きる環境は大きく変わり、生死をかけて戦うことは減りました。

 

昔と比べれば、飛躍的に安全な世の中になっています。食糧を調達するために命をかけることもない、外敵におびえながら睡眠をとることもない。人間は変わらないけれど、環境は変わってきています。こうして「感情を出していい適切な状況」がなくなってきたのでしょう。

 

この前提のもと、感情的になるメカニズム、感情の持つ意味について考えてみましょう。

 

怒りによって感情的になるメカニズム

怒りは、生き抜くためには非常に重要な感情です。集団が成り立つためには、メンバーそれぞれがルールを守る必要があります。もし、チームの中にルールを破ったり自分だけ怠ける人が居たりした場合、私達は怒りを感じ表現します。

 

怒られた側が行動を改めるきっかけになり、秩序が守られてきました。つまり、怒りには「ルールを守らせる」力があります。そう考えると、「怒られたくないから」を理由に「○○しないようにしている」ということは、意外と多いのではないでしょうか。

 

例えば、遅刻しない、忘れ物をしない、いたずらをしない等…小さい決断も、怒りを避けるためにしていることがあることに気付きます。また、怒っているときは体が興奮状態になっています。興奮状態、つまり、交感神経が優位になっており「火事場の馬鹿力」が出ます。目の前で火事が起きているのに、寝起きののんびりした状態でいると危険ですから、一気に覚醒状態にもっていくことで、身を守ります。

 

これは、特に人間関係においても同様です。

 

これを説明する、キャノンにより提唱された「闘争・逃走本能」という理論があります。危険な状況に置かれたときに『戦うか逃げるか』の方法で身を守るという本能的な機能です。人間にはもちろん、多くの動物にも備わった本能です。空き巣の例でも、戦うことの方が危険であると判断し逃げる、という選択もできるわけです。確かに、状況によっては、逃げる方が得策なこともありますね(上記、「人によっては相手に腹が立つ」と書いたのは、そのためです)。

 

 

このように、怒りという感情のメカニズムは、秩序や身を守るために備わったものともいえるのです。

 

恐怖によって感情的になるメカニズム

何かに対して不安・恐怖感を感じる限局性恐怖症という疾患があります。限局、つまり、何か「限られた」ものや場所、シチュエーションに対して強い恐怖や不安を感じることを特徴とします。高所恐怖症、閉所恐怖症、暗所恐怖症、ヘビ恐怖症…等々、様々なパターンがあります。

関連項目:【精神科医監修】怖くて不安?恐怖症性不安障害とは?

 

恐怖に取りつかれた時には、コントロールできないほどの感情が起こりますが、一体何故でしょうか。

 

実は、高所恐怖を持つ人が必ずしも高いところから落ちた経験があるとも限りません(勿論、そういった方もいらっしゃいますが、これは過去の経験に基づいて「高いところ=危険と学習した」ということ。今回は「生まれつきなぜか怖い」場合を想定します)。

 

何故高い場所が怖いのか?

 

そもそも飛ぶことのできない人間は高い場所では安全を確保できません。少なくとも、危険の多かった時代では高い場所は避けるべき状況でした。仕方なく行かなくてはならない場合も、警戒するようにとアラームを鳴らす「機能」だったのでしょう。同様に、閉所では逃げ場がないこと、暗所では外敵に気付けないかもしれないこと…等々、確かに命の保証がない場面ではあります。

 

 

しかし、生活環境が変化していく中で、人類は「そこまで危険でもない」「そもそもそんな状況におかれない」と気付くようになりました。何代も子孫を残す過程で、必須ではなくなってきたために徐々に恐怖が薄れていきました。

 

ところが、人によってはまだその機能が色濃く残っています。そのため、現代のような安全な環境でも「なぜか怖い」と感じるわけです。もちろん、そこまで怖がる必要のないことであり、訳も分からず生活に支障をきたしているという方も多くいらっしゃいます。こう言った場合、克服することで生活が送りやすくなることを期待して、心理療法を受けるのも一つの方法です。

 

その上で、恐怖のメカニズムとして、『本当に危険な状況になったとき、いち早く危険を察知するための機能だったのかもしれない』とか、『かつては、この力で生き残りやすかったのかもしれない』と捉えてみるのもよいかもしれません。

 

嫌悪によって感情的になるメカニズム

嫌悪、といえば心理学の学習理論の中で「味覚嫌悪」という考えがあります。食あたりをした後、ひどい場合はその食べ物が一生苦手になることもあるほど、なかなか消えないほどの嫌なかんじが特徴です。通常、好き嫌いについての学習は何度か繰り返されることで成立しますが、味覚嫌悪はたった一回で成立し、なかなか忘れられないことが特徴です。

 

生命維持において最重要な「食べる」という行為で、毒や腐敗したものを引いてしまうと大惨事です。すぐに吐き出さなければ、最悪の場合、死に至ります。そして、同じものは二度と口にしない方が身のためだと、その食べ物を「嫌悪」し避けるようになります。

 

上記は究極の例なのですが、嫌悪という感情のメカニズムを理解いただけたでしょうか?ところで、嫌悪が出現するメカニズム、人間関係についても似たようなことがいえるかもしれません。味覚ほど「一回で強烈に」とはならないかもしれませんが、何度も嫌な思いをさせられた相手に対して苦手意識を持つのは至極当然。相手は自分を脅かす存在なのですから、本能的に身構えるようになるのは自然なこと。

 

ところが、一族を乗っ取ろうとされているほどの根源的な危険があれば別ですが、現代社会ではそういった場面はまれです。会社や学校で嫌悪を正直にぶつけてしまうと、人間関係に亀裂が生まれかねません。嫌悪をぶつけられた相手も同じように、自分を脅かされた感覚になるでしょうから、嫌悪のぶつけ合いのループに陥ってしまうことも想像されます。

 

一見正反対な『感情的になること』と『脳の進化』

ここまで、怒り・恐怖・嫌悪といった感情のメカニズムについて解説しました。では感情はどこから来ているかというと(あまり風情のない話ではありますが)脳の電気信号が誘発しています。やや乱暴なまとめ方をすると、脳のどの部分に電気信号が伝わるかといったメカニズムが感情の発生と関係しています。

 

脳、特に大脳には大きく分けて「古い部分」と「新しい部分」があり、それぞれ「古皮質」「新皮質」と名付けられています。その名の通り、もとよりあった古い部分に、進化の過程で新しい部分が発達していったと考えられています。

 

そして、感情は、脳の古い部分と関連が深いのです。一方で、新皮質は感覚から入って来た情報を処理したり、ものごとを推理したり、効率的に行うための計画を立てたり…知的な作業やいわゆる「理性」のような部分を司っています。

 

 

理性といえば、人間の特権のようにいわれる言葉ですね。理性で感情をコントロールできない状態である「感情的になること」がネガティブに取られるのは、こういった理由もあるのかもしれません。広辞苑の説明にも改めて納得できるのではないでしょうか(※今回は分かりやすくするために脳の機能を古い・新しいに分けましたが、これら働きが独立しているわけではないことも分かっています)。

 

『感情的になる』自分をコントロールする対処法

ここまでお読みくださったみなさんは、『感情的になること』についてどう感じられたでしょうか。悪い面だけではなく、生きる上で意味があるとご理解いただけたでしょうか?

 

生きる上で意味があるとは言っても、現代社会で感情をむき出しにすることは好ましくありません。怒りに任せて暴力を振るう、恐怖・不安で自分を苦しめてしまう、嫌悪のぶつけ合いでギスギスしてしまう等は不適切であったり、自分も周りも苦しい結果となりがちです。

 

コントロールしようと思っても簡単にできないのが感情。そこで、感情に振り回されず、否定もせずに済む対処方法をお伝えします。それは感情に巻き込まれかけている自分に気付くことです。

 

自分の考えや感情を否定するよりも「ああ、今私は怒っているな。」と感じればよいのです。この「気づく」機能は、脳の感情を司る部分とは別の部分を働かせます。こうして、感情に巻き込まれ右も左も分からなくなっていた脳をクールダウンさせるわけです。マインドフルネスや認知行動療法はこの辺りのメカニズムを狙った感情のコントロール法だと言えます。

【参考】

【精神科医監修】マインドフルネスとは②仕組みとやり方

認知行動療法とは?認知再構成法と行動活性化【精神科医監修✕公認心理師解説】

認知療法|厚生労働省

 

『怒り』の対処法としてメジャーなアンガーコントロール(アンガーマネジメントとも呼びますね)。アンガーコントロールにおいても、まず怒りに気づき、怒りに翻弄されることを回避する手立てを取るんですよね。

 

感情的になってしまった時の対処法

感情が悪者になってしまうのは、不適切な出し方をしてしまった時です。そうしないための工夫としての「気付き」をご紹介しましたが、他にも方法があります。

 

実は、上記のように、何かを知識にして理解し、納得することを「知性化」といいます。問題を知識にすることで、不安やモヤモヤしていた気持ちが腑に落ちることを指します。特に、不安や恐怖感については理由が分からないことが不安を高めることもあります。知ることで少しだけ落ち着いた、ということもあり得ます。

 

また、ものごとを別の視点、別の言い方で捉え直すのを「リフレーミング」と言ったりもします。ただ『制するべきだ』と思っていた不安が、実は生きるためのアラームだったと思うと、少し受け入れやすくなるかもしれません。しかし「感情的になっていいんだ」「怒りは必要だから怒ってもいいんだ」と正当化するのは、結果的に感情を悪者にする行為です。

 

あくまでも、感情・自分・社会とうまく付き合うための考え方として参考にしてみてくださいね。

 

 

【参考文献】

人は感情によって進化した(2011)石川 幹人 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン

だまされ上手が生き残る 入門!進化心理学(2010)石川 幹人 光文社新書

 

【解説】

maitake(臨床心理士)

今回は人が感情的になるメカニズムや対処法をご紹介しました。技術の進化に伴い生活環境は日々流動的に変化していますが、ある種普遍的な側面を持っているのが感情なのかもしれませんね。感情をコントロールする対処法に加えて、コントロールしきれないものが感情であると理解したうえでの対処法を身に着けられると良いですね。

maitake記事一覧

 

【監修】

本山真(精神科医師)

精神保健指定医、日本医師会認定産業医、医療法人ラック理事長

株式会社サポートメンタルヘルス代表

 

関連記事